第23話 桜子教室
ついに始まる桜子の勉強会。
桜子教室
事件解決後、桜子は杏と里美に勉強を教える。
杏と里美は使用人とは違う。
正式に忠志の婚約者として扱われた。
そのため、屋敷に二人専用の部屋が与えられる。
杏は桜子の勉強時間以外は忠志とすごした。
里美は今ではほとんど桜子の専属だ。
姉のいない桜子にとって里美は姉のようなものだった。
そして、里美も桜子を妹のように思っていた。
そして、一日に数時間過ごす。
杏は桜子に勉強を教えてもらう。
本来、家庭教師のはずの杏だ。
杏は恐縮していた。
桜子は杏の知っているよりはるかに多くのことを知っている。
そのことに驚く杏だった。
ただ、世間的常識が欠落していた。
しかし、杏の持つ常識と言う知識。
それは桜子にすぐに吸収されてしまう。
そして、逆に質問されてしまった。
常識というのは『安全という檻に入れられた制限だ』と知らされた。
桜子は悟朗に許可をお願いした。
使用人に教育することだ。
驚く悟朗。
八歳の娘の教育レベルなど『知れている』と考えていた。
だが、話をするうちに考えが変わる。
自分の配下のものより優れてるのではないか感じた。
そして、興味を持った。
息子には専門の家庭教師をつけている。
桜子も一緒にやらせようとして帰ってきて説明しようとした。
その場で逆に『使用人を教育したい』というのだ。
そこで、『試してみればいい』と許可を出した。
専門の家庭教師と桜子の教育。
どちらが優れているか。
そして、そのことに関して『使用人をどのように使ってもいい』と許可をだし
た。
うれしそうに悟朗に抱きつく桜子。
やはり、志郎では器が違うと心配になる。
それとともに抱きつかれてどきどきする自分がいた。
悟朗は決して『変態ではない』と自分に言い聞かせる。
そんなところが無頓着な桜子だった。
許可をもらった桜子。
さっそく、杏と里美に指示を出す。
『明日10時に学習室にて文字を教える』といいふらすように伝えた。
どれだけ、人が集まるか楽しみだった。
そして、当日
学習室に来たのは、杏と里美の二人だけ。
がっかりする桜子。
『なにがいけなかったのか』と考える。
でも、思い当たるものはなかった。
杏には思い当たるものはたくさんあった。
でもそれを教えれば桜子が傷つくと考えていた。
まず、桜子の年齢だ。
次に使用人達は暇じゃない。
そして、使用人には上司がいる。
上司よりうまく出来るようになる訳にはいかない。
それは、そこから追い出されることにつながる。
そして、新しいところでまた苦労しなくてはいけない。
楽するためには勉強は邪魔だった。
言われたことをやるのは楽だからだ。
桜子は『なぜ、みんなが勉強しないのか』を考えている。
発想を変えなくてはいけない。
『どうしたら、勉強するのか』だ。
それを伝えるかどうか悩む杏だった。
桜子は実はそれはすでに考えていたことだ。
褒美・罰を与えれば誰でも一時は勉強する。
そういうのは弟や妹で経験していた。
それでは、一時的にやっても長続きしない。
勉強を続けるには『意欲がなくては駄目だ』と知っていた。
次に考えたのは学習室の前に黒板を置いた。
そして、文字を書き込んだ。
そのまま引き上げる。
そして、杏に「後であの文字を読んで笑って」と頼んだ。
杏はその通りのことをした。
ただ笑うのは、自然に出来た。
そこに書かれていたのはギャグだった。
その笑った杏を見て使用人の一人が声をかけた。
その使用人、文字が読めない。
そのため、一字づつ杏が教える。
ようやく意味が判って笑う。
その流れはしばらく続いた。
次の日、言葉を変えた。
今度はすぐに人が集まってきた。
桜子が一字づつ教えていく。
意味が通じて笑いが起こる。
それを七日続けた。
毎日違う笑いをとった。
次の週からもう少し長い話を書く。
読めるものはその面白さにくすくす笑う。
読めないものは興味がある。
それで読めるものに聞く。
そして、同じように笑う。
それが、一月にわたった。
今では、使用人全員一通りの文字が読めるようになっていた。
杏は桜子がそれだけ興味のある話を出し続ける。
そのことに興味があった。
いったい、桜子の知識はどれほどなのかという興味だ。
かつて、桜子と話をしたときを思い出す。
『家庭教師と同じぐらい知識がある』と言っていた。
いま杏の目からみれば、それは比較にならない差だった。
桜子の知識に匹敵するものはいない。
そう感じたぐらいだ。
しかし、それは杏の誤解だった。
雅雄は人心掌握術の一つを教え込んだ。
ギャグ・小話など人の興味をひく話などを教えておいた。
桜子はそこから選び出していただけだ。
そして、その話の中には文字の知識、言葉の知識などが盛り込まれていた。
勉強というものではない。
興味のある話で知識を詰め込んでいくという手法だ。
そして、桜子はその手法を真似していた。
そして、書かれた文字
「勉強して、もっと楽をして楽しもう」
「明日10時:勉強会開催場所学習室」
「参加中は仕事免除」
この3つの言葉を書いた。
読める者か、興味のある者しか来ないかもしれない。
前回の失敗は桜子が当然と思っていたこと。
それを伝え忘れていた。
勉強中も仕事だと言うことだ。
そして、勉強は楽をする手段。
勉強は苦しむものではない。
『楽しむための道具だ』ということ。
これを伝えそこなったから誰も来なかった。
桜子はもし、これで来なかったら『やり方を褒賞か罰にするしかない』と考え
ていた。
次の日、学習室に集まったものは使用人全員だった。
スタートにもたついた桜子教室。
しかし、意欲を持った生徒は強い。