第20話 影の組織
「杏の里」の危険性について悟朗は桜子と話をする。
杏の裏にいる組織になにも知らない桜子。
ただ、杏の人柄だけを頼りに信用する。
影の組織は信用できるのか。
影の組織
杏は運命の不思議さに驚いていた。
ここへは殺し屋としてきたはず。
仕事に掛かる寸前仲間から狙われて重傷。
そして、目標の人間に助けられた。
仲間は全滅。
過去の仕事の証拠も消してもらった。
過去を清算して、普通の人生に戻してもらえたのだ。
桜子には感謝していた。
その上、家庭教師と遊び相手として雇ってもらえる。
もう言葉も出なかった。
二人とも泣き崩れるだけだ。
悟朗は、帰ってきてからの一日のめまぐるしさに驚く。
桜から手紙が来たときには家庭内は大いにもめていた。
これから志郎の立場は微妙になる。
どうなるかと心配していた。
そして、桜に会って出た話。
それは『志郎の嫁に桜子を』という話だった。
先の見えない息子。
そんな環境で、『大事な娘をあずかっていいものか』と思った。
だが、刺客に襲われたとき助けてくれた桜の願いだ。
断るわけにはいかなくなる。
志郎も乗り気だった。
そして、桜子が来た。
残していた密偵の話では、『いきなり下剤を仕込まれた』という。
あわてて残務をいい加減にして、帰ってきたところだ。
そして、刺客に襲われて絶体絶命のところを助けられた。
刺客の筋から叔父を追い込もうと考える。
しかし、刺客の隠れ家は炎上。
『叔父を追い込むのは無理だ』と失望して帰ってきた。
帰ってくると、奇跡がおきていた。
使用人の話では「忠志様が起きてきた」という。
その結果、叔父の啓は引退。
排除したかった叔父はいつの間にか除かれていた。
そのうえ、忠志の過去の婚約者が見つかる。
そして、「忠志は家督を私に譲る」という。
それが、『たったの一月の間に起きたこと』とは信じられなかった。
あれほどの大問題と思ったもの。
それが一気に解決してしまった。
これで次の親族会議で承認を受ければ、狼家は磐石の態勢に固まる。
悟朗は運命の不思議さに驚いていた。
別室で桜子を呼び出して事情をきく。
やはり警察で言われたことが気になる。
「杏の里」という殺し屋のことだ。
勿論、表立っての証拠は一切ない。
裏稼業の殺し屋のことだ。
杏と里美というのは符号としては一致しすぎる。
しかし、その二人が確実に『殺した』という証拠もない。
そして、依頼の証拠は今頃灰になっている。
近所の聞き込みでは確認されている者がいた。
勿論、放火の犯人と限定できない。
使用人の服を来た娘。
それと十歳ぐらいの女の子だ。
『二人の目の前で炎が爆発的に燃え上がった』という。
一人の人間以外それを見ている者はいない。
『幻を見た』としか言いようが無い状況だ。
周辺でその二人を見たものがいなかった。
説明を受けた桜子。
悟朗を相手に一歩もひかない。
「伯父様、伯父様がここを出た時間知ってます?」
「もちろんだ」
「そして、火事があったという現場はどこか知りませんが子供の足でいけます
か。そんなに短時間で」
「無理だろな、車を使えば出来るが」
「それなら単なる偶然ですわ」
「しかし」
「伯父様、狼家の歴史は母から聞いています」
「なにを言うんだ」
「奇麗事だけではないということを聞きました」
「桜の奴、そんなことまで教えたのか」
「過去を悔い改めている人をこれ以上追い詰めても得るものはありませんわ」
「どうやら、君の言うのが正しいようだね」
目の前の子供は子供とは思えなかった。
考え方、雰囲気、魔法の使い方どれをとっても悟朗より上だ。
気圧されている自分が情けなく感じる。
「そうですわ。子供の足では現場まで行くのは不可能です」
「わかった。この件は以後不問にする。ただし、二人の管理は任せた」
「もちろん、家庭教師の先生と遊び友達ですから。そして将来の・・・」
「恐ろしい娘だよ、志郎には荷が重そうだ」
「心配しなくても、今から鍛えれば間に合いますから」
もう悟朗には笑うしかない。
現時点で悟朗と互角以上に渡り合う桜子だ。
いくら鍛えても志郎がかなうわけはなかった。
だが狼家には必要な娘だ。
それを痛感した悟朗だった。
事件が解決した次の日。
雅雄が桜子の様子を見に来た。
あいにく悟朗は仕事の呼び出しに不在だ。
放り出してきた仕事の後始末に追われていた。
元気そうな桜子に安心する雅雄。
軽く手を添えるだけで桜子の疲労は消える。
そして、桜子に志郎を呼びに行かせた。
そのわずかな間に部屋を抜け出す。
杏と里美は組織の符牒を言われて焦る。
それに、逆らうことは許されない。
上位符牒を言われたからだ。
その者の命令は命と尊厳に関する限り逆らえない。
まさか、桜子の父親からその符牒を言われるとは思っていなかった。
そして、案内させられる忠志と香織の部屋。
使用人がいたはずだが、雰囲気に負けて逃げ出していた。
暗い雰囲気の二人だ。
犯人は消えてもおぞましい記憶は残っている。
それが雰囲気を醸し出していた。
そこに雅雄が入っていく。
そして、あの家庭教師など比較にならない力が記憶を捻じ曲げていく。
そこにいた四人からおぞましい記憶は拭い去られた。
組織から送られた切り札のエース。
それは、雅雄のことだった。
里美の連絡を受けた組織のリーダーからの依頼だ。
「杏の里」として活躍した二人だ。
人を殺めた証拠は消されていた。
二人から記憶を消せば、すべては無かったことになる。
だから、二人にとって看板だけ背負って実行は別の人がやった。
そういう偽の記憶だ。
ただ印象が濃い。
その場には立ち会ったとなっていた。
『人を殺す』というのはそれほどのことだった。
そして、雅雄は二人と雑談して元の部屋に戻った。
後には健康な忠志の体と、それを喜ぶ明るい香織の二人がいた。
そして、殺し屋の杏と里美がこの世から消えたときだった。
雅雄は桜子に「うろうろするな」と怒られていた。
そんな様子を見る杏と里美には複雑な心境。
庇ってあげたくても極秘の指示だ。
言うわけにはいかなかった。
化け物のような娘の親は『もっと化け物』と思うだけだ。
二人には雅雄が忠志と香織にしたことしか覚えてない。
自分達の『過去まで書き換えられている』とは気づかないままだった。
次回、狼家を探っていた組織。
それを依頼していた蠍家。
蠍家はなにを探ろうとしていたのか。