第18話 熟練者
桜子に迫る危機。
それをしのいでいく手腕は子供ではない。
すでに熟練の域に達していた。
熟練者
桜子達は部屋に侵入する。
部屋の奥の隠し部屋の様子を見ていた。
すると、背後で扉がゆっくりと開く。
桜子たちは暗いところにいる。
だから、入口の杏がよく見えた。
そのため、安心して部屋の奥を探る。
逆に、杏は良く見えない。
そのため、入り口で中をうかがいながら目が慣れるのを待っていた。
すると、火の玉が近づいてくる。
その気配に気付いたのは、桜子の方が早かった。
振り向いて杏を見る。
すると、三発の火の玉が当たるところだ。
とっさに顔を庇っていたので背中に当たる。
杏は倒れても服は燃えているのが見えた。
まず、『消火をしないといけない』と桜子は考える。
いつものように水の玉をまともに当てればよりひどい被害になる。
そんな時、母が見せた中身の薄い水玉を思い出した。
作った水玉を一気に1メートルまで拡張する。
そして、誘導して杏の上からゆっくりと降ろした。
杏の鎮火を確認する。
杏を助ける前に敵の排除をしなければならない。
三発の火の玉だった。
それで、敵は三人いる。
そこで、見えない敵に魔力追尾を掛けて雷を放った。
前回の失敗にこりている。
それで余分は撃たない。
そして、杏のところに駆け寄った
走り寄る桜子と里美。
里美の目には致命傷に見える背中の火傷だ。
魔法のダメージは当たった所だけではない。
表面を這うように広がっていく。
見た目は背中でも広範囲が火傷に覆われていた。
火の魔法を使うだけにどれぐらいが致命傷かはよく知っている。
かろうじて意識を保っている杏。
止めを刺そうとした仲間に対して恨みしかのこっていない。
里美に『組織を抜けるように』と言ったところで意識を喪った。
里美はいつも一緒の杏が『死んだ』と思い呆然とする。
その横で桜子は必死に治療をしていた。
けれども、気づいていなかった。
ひとしきり泣いた里美。
ようやく桜子がやっていることに気づいた。
杏の息は先ほどと違い安定した寝息に変っている。
背中の傷はほとんど消えて綺麗な肌をしていた。
残った傷もみるみる治っていく。
奇蹟を見ているようだった。
そして、治療が終わって桜子が離れた。
そのあと里美は杏を起こしにかかる。
桜子は杏の治療を終えると倒した三人に近づいていく。
襲撃が『屋敷の中』ということ。
それは、他にいる可能性があるからだ。
すると、背後から「仲間は全部で九人よ」と声がかかった。
杏の声だ。
仲間の仕打ちに裏切られ形。
その仕返しだった。
桜子には、助けられた恩もある。
その言葉に頷くと桜子は残り六人を片付けるため動き出した。
悟朗は館の道場で襲撃を受ける。
不意打ちもあって、苦戦していた。
師範代の男はやられる。
最初の襲撃のとき志郎を庇って意識不明となった。
相手は火で攻撃してきている。
そして、時々雷もある。
師範代はそれにやられた。
志郎も攻撃したい。
しかし、持っている魔力の強いものは火しかない。
下手すれば屋敷が燃えてしまう。
だから、危なくて使えない。
火は屋内における戦闘向きではなかった。
それに対して、相手は遠慮なく撃ってくる。
三人の周りは、すでに火の海に近い。
このまま火に焼かれるか。
飛び出して的になるか。
そのどちらかだ。
悟朗も『今度ばかりは助からない』と覚悟を決めた。
前回は『桜が居てくれたから助かった』と思っている。
今回、助けになるような仲間はいなかった。
賊がここまで侵入しているのだから主の啓が共犯なのは確実だ。
そして、いよいよ火が近づいてきた。
もう飛び出すしかない。
足を踏ん張り一人飛び出そうとした。
そのとき、相手からの攻撃が突然止まる。
なにか始まるのかと顔を出す。
そのとき、数え切れないほどの水の玉が向かってきた。
弾幕に近い量だ。
それも、大きな玉。
とっさに物陰に隠れる。
半端な数ではない。
40センチの水玉が脇を通り抜けていく。
敵の『新たなる援軍か』と思っていた。
その大きさと数だけでもすごい威力だ。
まともなら、道場は跡形もなく破壊される。
だが水玉は燃え盛る火を次々と消していく。
まるで消火のための魔法だ。
しかも40センチの玉なのにその威力は皆無に近い。
道場を壊さず火のみを消していく。
次々と消えていく炎。
ようやくそれだけのことが出来る人物に思い当たる。
思い当たるのは一人だけだ。
『桜が応援に来てくれた』と思った。
だが、倒れている賊の背後に現れたのは桜子だ。
まだ八歳の女の子が油断しているとはいえ賊を倒したのだ。
そして、あれだけの水を一気に放つ実力。
それも力を調整して放った。
魔法の実力は完全に負けていた。
あらためて魔法に関しては『桜子のほうが熟練者』と気付かされた。
襲撃者を尋問して隠れ家を突き止めた悟朗。
警察に協力を要請しに向かう。
この刺客の後ろに啓がかかわっているのは当たり前だ。
証拠を押さえて弾劾するつもりだった。
あれから着替えに部屋に戻った杏。
杏は目の前の娘が信じられないものに感じた。
道場の賊を片付けて帰ってきて言った言葉だ。
その頃には里美から1メートルの水玉を撃ったと聞いている。
信じられない魔法の使い方だ。
燃えてる人間にダメージを与えず消火するのは聞いたことがない。
その上、奇蹟のような治療法。
そして覚悟を決めた杏に言った言葉だ。
「杏と里美の仕事の証拠は隠れ家に残っているの?」
と尋ねたのだ。
もう目の前の女の子がただの小娘ではないの承知していた。
遠目に見た燃え盛る道場を一瞬で消してしまった。
賊を倒した手際もあざやかな物だ。
自分達が『とんでもないものを相手にした』と思った。
これで過去の罪で裁かれるのは覚悟をしている。
それなのにその過去さえも消そうとしてくれるのだ。
素直に場所を教えるしかなかった。
でも子供の足だ。
自動車でも使えば間に合う。
けれども、今からでは手配できない。
警察が踏み込む前には『間に合わない』と思った。
すると、桜子は杏に魔法を掛けた。
話に聞いた事がある。
身体強化の魔法だ。
「それでは行くわよ」と声を掛けられて隠れ家に向かう。
体が軽い。
羽が生えたように動ける。
人間がこんなに早く動けるとは知らなかった。
そして、不思議なのはすれ違う人が2人を見ていないことだ。
桜子が穏行をかけていたからだ。
まさに旋風が吹きぬけるようなものだった。
たちまち隠れ家についた。
まだ誰も来ていない。
そして、全員捕まったせいで誰もいない。
今なら証拠を探す時間がありそうなので入ろうとする。
桜子に、服を引っ張られて止められた。
何事かと振り返る。
目の前に朱色の2センチの火の玉。
そして、その火の玉を窓から打ち込んだ。
『本当に子供のやることか』と杏は感じた。
隠れ家は一瞬で火にまみれた。
爆発のような勢いで燃える。
そして、高温で焼かれた部屋は何もかもが灰になっていく。
結果的には正解だった。
2人が離れるのと入れ違いに警察が到着する。
呆然と見守る警察の者と悟朗。
証拠が目の前で灰になっていった。
隠れ家は紅蓮の炎に焼かれていく。
それを見届けると、桜子は屋敷に向かう。
帰りはゆっくりだ。
魔法を撃つため解かれていた穏行を再び掛ける。
動き出して初めてわかった。
ここまでの疲労が一気に出てきた感じだ。
桜子は、崩れるように座り込む。
いきなり座り込んだ桜子。
それに気づいた杏。
後は杏が背負って歩く。
やはり、子供の体力では限界だったようだ。
ここまで、訓練した杏でもきつかった。
目的があったから桜子も持ったのだろう。
今なら、仕事は簡単だ。
けれども、もう殺す気は失せていた。
依頼主もいない。
契約書は燃えてしまったからだ。
背中でぐったりしている桜子をみてちょっぴり安心する杏。
地下室からここまで無敵に近い物を見せられた。
だが、背中に乗ってる者はやっぱり子供だった。
途中、興味深げに街のあちこちを見ながら杏に聞いてくる。
突然子供に戻って杏に甘えるのだ。
その代わり身の早さに驚く杏だった。
杏が殺し屋と知っている。
それで、なお甘えてくる桜子にあきれるだけだ。
私達は『この主人から一生は離れられない』と感じた時だった。
この恩を返すにはそれしかないと思っていた。
ピンチを脱した杏。
残りの人生は桜子に捧げようと考えていた。
しかし、そんな思いを軽々と砕く展開。