第16話 真の主
洗脳の危機は雅雄の仕掛けていた罠で回避。
そして、志郎の洗脳は桜子の魅力?で解除してしまう。
事態の悪化を懸念した啓は強攻策を取る。
そして、迎える伯父の悟朗。
館の真の主は誰なのか。
真の主
桜子が到着して4日目。
その日に悟朗が帰宅?した。
復興の仕事が忙しい。
それで、泊まり込みの仕事が続く。
館の歓迎ぶりは普段とは違う。
単なる主人の帰宅風景ではない。
救国の英雄の帰宅。
それに使用人たちの顔まで明るくなる。
そして、桜子も階段の下で主を迎えた。
もちろん横には婚約者の志郎もいる。
悟朗の車が『門を通過した』と連絡が来た。
この家で向かえる初めての将来の義理の父親の帰宅だ。
部屋に迎えに来た志郎に恥ずかしげに応じた桜子。
改めて『婚約者』ということを意識していた。
真っ直ぐ玄関から入ってきた悟朗。
迎えてくれたメンバーに笑顔で答える。
そして、息子に近づく。
2人を見つめる悟朗だ。
そして、息子より先に桜子へ挨拶をした。
驚く志郎と使用人たち。
それは、桜子が『家族より大事なお客』という証明だった。
歓迎の席は食堂に移る。
のんびりとお茶を飲む三人。
勿論、使用人もいるが単なる背景だ。
なごやかな雰囲気が場を包む。
使用人たちもその雰囲気になじんでいく。
その場に外出中だった啓が帰って来た。
(犯行の最終打ち合わせを済ませてきた)
悟朗は中座して挨拶に行こうとする。
すると啓のほうが顔を出してきた。
(そして、最後の笑い顔を見たいためわざわざ顔を出した)
一応親族会議では悟朗の方が上になる。
(明日からは俺が正真正銘の主になると考えていた)
先ほどまでのなごやかな雰囲気は消えていた。
こうして、なごやかな歓迎のお茶会はお開きになる。
使用人にも嫌われている啓だった。
志郎はその足で父親を誘う。
魔法上達の成果を見せようと道場に誘った。
しかし、桜子に見せるのは恥ずかしい。
そこで、桜子は誘わなかった。
そんなつれない態度に少し傷つく桜子だ。
まだまだ、『男のプライド』というものは理解していない桜子だった。
そして、部屋に戻った
部屋に着くと、里美が掃除をしていた。
掃除は毎日やっている。
そのため、基本的には忙しくない。
桜子の顔を見るとお茶の準備にかかった。
里美を呼び止める。
桜子には、やはり年の近い方が相談しやすい。
杏は気を利かせて替わりにお茶の準備を始める。
そこで、里美に確認したいことがあって聞く。
それは、『この館の主人は誰なのか』ということ。
里美はさすがに凄腕の刺客だ。
その辺の事情もよく調査していた。
そして、極秘のはずの親族会議の結果も知っていた。
啓が忠志の後見人でしかない。
そのことも知っている。
忠志が監禁されている場所も承知だ。
家庭教師と啓をつけたとき知った。
さらに家庭教師が行っていたこともその時知った。
家庭教師も啓も確かに香織を抱かなかった。
ただそれだけだ。
二人の行っていた行為は許せるものではない。
もちろん、桜子にそんなことは教えない。
いや、教えられない。
人間の汚さをこの無垢な主人に『教えてはいけない』と考えた。
どうせすぐに殺す主人だ。
知らなくてもいいことを教える必要は無い。
しかし、杏の後方の組織に対してはすべてを報告する義務がある。
そのため、『二人は洗脳で悲惨な体験をした』とだけ報告しておいた。
組織の方はその報告で十分だ。
組織のエースを出す準備に掛った。
そして桜子の質問だ。
どのように答えたらいいか迷っていた。
そして、あくまで「館の主は啓だ」と答える。
そして、「後見人として君臨している」と答えた。
『後見人』という言葉に桜子は疑問に思った。
「誰の後見人なのか」と当然質問する。
里美はそれを答えていいものか迷った。
そんなとき杏が現れた。
「忠志様よ」
桜子は続けて質問をする。
「誰?」
「悟朗様の兄の息子よ」
「どこにいるの」
「館の一部屋に軟禁されてるわよ」
「軟禁?」
「そうよ、あの卑劣漢は毒を盛って軟禁してるのよ」
「あなた、忠志様と面識があるの?」
「ええ、一応孤児院から引き取ってくれたのは忠志様だからね」
桜子には、杏が明らかに嘘を言っているのがわかる。
桜子が会えない人。
そんな人物がそのような指示をだすわけがない。
指示を出すぐらいなら会っているはず。
だが、『忠志』という人物に面識はあるようだ。
「それじゃ、連れて行ってくれない」
「どこへ?」
「忠志様の部屋よ」
「でも・・」
杏にとって迷うところだ。
裏組織の依頼は『様子を見ろ』という。
刺客組織は『仕事を急げ』と昨日催促してきた。
地下に案内すれば仕事のチャンスだ。
だが、英雄の悟朗がいる。
仕事をしたあとうまく逃げられるか不安なところだ。
悟朗が桜子に注目しているからだ。
「主の言うことに逆らうの!」
杏の煮え切らない態度。
桜子も、つい感情的になる。
「わかったわよ、責任はあんたが取るのよ」
「もちろん」
そう言うと人目を気にしながら目的地に向かう。
杏は『刺客組織からの依頼を遂行するチャンスだ』と考え実行に移す。
責任は桜子の命で取ってもらう。
桜子の強気の発言が迷いを断った。
忠志様を助けたら里美に預けて、『桜子を始末しよう』と考えた。
こうして、それぞれの思惑を抱えて3人は地下への道を進む。
殺し屋の二人が本気になったとき果たして桜子はどうする。
逃げる?反撃で殺す?説得する?
相手は一流の殺し屋。
桜子の対応が問われる。