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桜子伝  作者: いかすみ
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第13話 杏の里

桜子の動向を伺う謎の組織。

使用人として働く杏の里の二人。

その二人に組織から新たなる指令が出た。


杏の里


次の日には使用人はみんな桜子に好意的になっていた。

初日の余所余所しい態度は消えている。

杏の不調に早々に医者を呼んだこと。

それが、評価されていた。

使用人の病気に医者は簡単には呼んでくれない。

それなのに桜子の頼みで啓が医者を呼んだ。

そして、志郎のところのお茶会の話が広まる。

使用人にとって優しい主人はありがたいもの。

さらに、主さえ手玉にとる手腕。

ただ騒ぐだけではない。

主に対して堂々と渡りあっていた。

使用人たちはそんな桜子を尊敬する。

その気持ちが仕える態度に表れた。

桜子は『今までの主人達と違う』という評価をもらった。

そんな、結果に一番不服なのは杏の里の二人と主のはじめだ。

自分が仕掛けたことが原因。

それで桜子を助ける結果になる。

恨みはより深くなった。


昨夜の騒ぎをなかったこととしたい主。

再び主導権を握ろうと画策する。

そして、その一つとして教育を取り上げた。

田舎育ちの八歳だ。

『ろくに教育を受けていない』と判断した。

そこで、先生を介して言うことを聞かせようと考える。

そして、家庭教師の先生を呼びつけた。



その頃、桜子は杏と話をしていた。

「あなた達、その若さで使用人をやってるけど勉強はやってるの?」

「いえ、私達は孤児院出身ですので最低の教育しか受けていません」

「最低の教育?どこまでなの」

その質問に恥ずかしそうに答える杏。

魔法のことは内緒だ。

これはまだ若い頃教えてくれた人がいる。

だが、それ以外は孤児院で教えられた内容だ。

「算数と国語と魔法を少し」

「算数というのはどこまで?」

「足し算と引き算、掛け算、割り算までです」

「それだけ?」

「はい、こういう職業ではそれ以上必要ないので」

「そうなの?では国語は?」

「読むことは一通り出来ます」

「読むだけなの?」

「多少は書けます。自分の名前ぐらい」


補足

この当時、10年前の影響は大きく学校などの教育システムは発展段階で壊さ

れた。

一般の人は家庭教師でそれを補っていたのだ。

だから、孤児院というのは、ある意味先進的なシステムで進んでいた。

杏が読めると言うのもそのせいだ。

普通は親が教えるが、余裕の無い親が多い。

そのため、大半は読めない。

書くことはさらに難しい。

道具が無いからだ。

かろうじて、白墨と黒板がある程度だ。

それ以外は地面で練習する。

契約書に使うインクは高価なもの。

植物が少ないから、作り出す技術がない。

紙などは貴重品だった。

衣服などに使う布を書類にするものもいたぐらいだ。


学校という概念が定着するにはあと数年を要した。

子供を一人で通学させるには世の中が安定していなかったからだ。

現に警戒していても月に数人が誘拐されていた。

誘拐された子供は金持ちの家で下働きに買われる。

その場合は完全な奴隷だ。

杏と里美以外の使用人の大半はそれに似た立場だった。

誘拐されて売られたのではない。

親に売られたというだけだ。

だから、やさしい主人に憧れる。

普通の主人は奴隷を扱うようにこき使う。




「それでは、契約書など読めるの?」

「そこまで深い内容は読めません。だから説明を受けて了解したらサインをし

 ます」

「説明が正しければいいけど騙されたら悲惨ね」

「・・・・・・・・」

「この屋敷でどれぐらい人が働いているの」

「まだ、全員を見たわけじゃないけど30人ぐらいです」

「30人!、それであなたと同じぐらいの知識の人はどれぐらい?」

「全員だと思います」

「!そんな状態なの」

「はい、坊ちゃんの家庭教師以外はみんな似たものです」

「そうか、なんとかしないといけないわね」

「桜子様、なにを考えているんですか?」

「決まっているでしょう。みんなに教えるのよ」

「でも桜子さま、桜子様も一緒でしょう」

「私は三歳の時から教えられてるのよ。読めない本は無いわ。植物にも詳しい

 からおそらく家庭教師と同じぐらいだと思うわ」

「まさか」

その疑問に対する答えはすぐに証明された。




一方、主の啓は家庭教師を呼び出す。

そして、顔を出すのを待っていた。

扉が叩かれる。

子飼いの使用人が扉を開ける。

「おう、先生、待ってた」

「啓様、御用と聞きましたので」

「例の計画は進行してると思うけど、もう一つ頼まれてほしい」

「今度は誰です」

「小僧の婚約者だ。うまくやれば好きにしていいぞ」

「すると、例の女の子ですか」

「もちろんだ。ただその後はこちらに渡してくれればいい」

「おやおや、主も好き者ですね。好みですか」

「黙れ、お前は洗脳さえうまくやってくれればいい」

「お坊ちゃんと同様ですね」

「そうだ、うまくやってくれよ」

「わかりました。ただし報酬は弾んでくださいよ」

「ああ、わかっている」

「ところで、あの忠志と香織の2人の暗示をし直すころですが」

「判った。連絡しておく。昼からでもやってくれ」

「了解」

「くれぐれも言っておくが香織には手を出すなよ」

「はい、わかってますよ」

「あれには、これから道具として働いてもらわないといけないからな」

「わかってますよ。だから念入りに仕掛けてますから」

「それじゃ、先生たのみますよ」

男は頷くと部屋を後にした。


そう、この家庭教師は裏の世界の洗脳屋だった。

使用人が反抗しないよう洗脳を生業としていた。

時にはもっと過激なことも行う。

そして、いま頼まれているのは志郎の教育担当だった。

それと、館本来の主、忠志の洗脳と妹、香織の結婚後の行動教育だ。

狼家に忠誠を誓わせてすべてを乗っ取る計画だった。

今のところ邪魔者、悟朗がいる。

そこで、計画は停止させていた。

悟朗が死んだところですべて進行させる計画だ。

そのため、高額で雇われた男だった。

そして、その毒牙は桜子に向かうところだ。


だが、2人の会話を扉の背後でこっそり聞く者がいた。

里美だ。

杏に頼まれ忠志の行方を追っていた。

忠志は杏と里美の知り合いだ。

この屋敷に来たのもそれが理由の一つだった。

世話になっていた殺し屋組織の長に頼まれたのもある。

また「杏の里」といわれる殺し屋の背後。

そこにはもう一つの組織があった。

今回の仕事に当面は関係ない。

その予定だ。

すでに用事は済んだからだ。

しかし、二人はそちらからも新たに依頼される事になった。


今日の朝早く背後の組織の方から連絡が来た。

緊急の連絡だ。

『桜子の暗殺は遅らせるように』という異例の指示。

それは、『中止にしろ』とかではない。

『張り付いて観察しろ』という意味だ。

目の前の桜子。

彼女は『組織の情報網に引っかかるほどの大物』ということになる。

暗殺を実行すれば成功しても失敗してもそこで終わりだ。

だから、仕掛けずに様子を見ることになった。

桜子の住み込みに伴っていろいろな絡みが同時に進行していく。



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