プロローグ
プロローグ
魔法大戦レポート抜粋
その1
かつて、人類を震撼させた戦争があった。
その名前を、魔法大戦という。
それ以前にも小競り合い程度の戦いがあったのは事実だ。
しかし、最終的に世界を破滅に導く可能性のあった世界戦争だった。
その戦争は起きるべくして起きた戦争ともいえた。
それは、『魔法の性質による物』という解析結果がでてきたからだ。
魔法学の権威、鳳重蔵氏の研究でそれが実証された。
大気中の魔法の素が濃くなる。
すると、人間の体は無意識にストレスを感じた。
情緒不安定になり、わずかなきっかけで過激な行動を取る。
そんなことが確認されたからだ。
鼠1万匹で調査した結果は深刻なものだった。
解説
魔法大戦前の魔法の素の濃度。
それは飽和に近い状態だった。
魔法大戦直前に各地で魔法暴走が起きていたことからも実証されていた。
ささいな魔法干渉が思わぬ結果を出していた。
干渉というのは、魔法の重なりのことだ。
すでに魔法が掛かっている領域に別の魔法が掛けることを指す。
これを、兵器に応用することも一部では行われてた。
しかし、制御ははなはだ難しい物があった。
その原因が魔法の素ともいうべき物の飽和だ。
それは、人々に多大なストレスを与えた。
その結果は明白だ。
人類全体は一触即発の状態だった。
ささいなきっかけで、戦争を起こす状態だ。
事実、小さな暴動、犯罪の急増、家庭内暴力事件など多発状態だった。
魔法大戦のきっかけはある領地の収穫をめぐるものだ。
戦火は瞬く間に世界に広がった。
そして、泥沼のように続いた戦争。
終結までに3年を要した。
死者、行方不明者500万人とも1000万人ともいわれた。
皮肉な事に、魔法大戦で使われた大きな破壊魔法。
それが魔法の素を消費して危険状態を回避できた。
その2
大気中の魔法の素の濃度が濃くなる。
すると、魔法はわずかな集中でも暴発する。
暴発した魔法の素は飛び散る。
飛び散ったところで周りの魔法の素を励起してさらに広がっていく。
それが、連鎖的に起こる現象が暴走だ。
最終的には最初の集中した魔法の素がある程度薄くなるまでとまらない。
完全飽和中の状態で使った魔法。
それは小さな魔法でも壊滅的打撃をこうむる。
解説
魔法大戦終了間近に起きた大爆発のことだ。
世間では、『星を落とした』という噂が出たぐらいだった。
ゲームなどに出てくる『メテオ関連』の破壊魔法。
実際には天文学方面で否定されていた。
だから、新型魔法の暴発だと考えられる。
『大規模な魔力集中実験の暴発』
それが、現在の学者達の統一見解だ。
なにしろ、関係者も含めてすべて塵になった。
そのため、詳しい事情を知っている者は皆無だった。
『魔力集中』
それは同一空間に複数の者が同じ魔術を掛けることだ。
通常は息のあった魔術師が2人で重ね掛けをする。
そうすると一人のときより小さな玉で大きな効果を生む。
魔法などは『破壊力を増す』のが確認されている。
詳しいことは関係者全滅でわからない。
けれども、10人ぐらいが掛けたと考えられる。
直前に出された論文からの結論だ。
敵方も『同じ実験をやった』と判断する。
お互い探りあいをやっていた時代だ。
そのため、『情報が漏れた』とみるべきか。
そして、わずかな時間差による同時の暴発事故だ。
その破壊力は見ての通り半径20キロメートル痕跡なし。
半径40キロ暴風による被害甚大。
半径80キロ暴風による被害大
半径120キロ被害軽微。
半径300キロ雲視認。
研究施設は全滅。
それが20箇所でほぼ同時に起きた。
未発のところも多数あった。
実験進度が遅かったところだ。
『お互いの自爆』とは発表できなかった。
そのことから『大規模流星雨が原因』と発表。
そのため極秘に会談が行われた。
お互いの恥を外に出したくない。
そのためのシナリオ作りのためだ。
それが結果的に終戦に繋がる。
それが真相だった。
必要以上に大きな魔力が集中すると自爆する。
これが、生き残った学者の統一見解だ。
もし大きな魔力を使うならより小さな空間に集約しないといけない。
または、同じ意思を持つ物による管理された魔力だ。
それが、魔法を強力な破壊兵器にするための手段だった。
魔王出現前後背景
魔法大戦後の最大の危機。
それが、魔王出現だった。
魔法大戦後、独立した国家は七つ。
地方色が濃く七つの国に分かれる。
七国は魔法大戦終戦からの復興を最優先に動いた。
まず壊滅した自然の回復を優先する。
それでも地上に緑が戻るまでに50年を要した。
人口もある程度回復して、かつての賑わいを取り戻す。
ようやく人類に未来が見えた頃だった。
戦争で大量に消費した魔法の素。
その濃度が再び濃くなっていた。
戦争勃発当時と同じ現象が多発。
人間は一触即発のストレスに刈られていた。
しかし、人々は魔法大戦の教訓を得ている。
今度大戦を起こせば、世界が滅びることを承知していた。
そのときに、黄国で魔王出現だ。
魔王の正体は最後まで不明だ。
ただ、当初の噂では『世界から生命を奪う』という内容だった。
未来を悲観した人々。
彼等は自分だけ生き延びようとする。
その結果、物資の獲得に奔走。
これも、魔法大戦と同じ状態だ。
人々は、『攻撃的なストレス状態だった』と判明。
急速に落ち着いた背景。
それは魔王自体が吸い出した魔法の素。
それが大きい。
世界から魔法の素の濃度が下がったためだ。
それと、救世主の出現だった。
人類そのものが未来に希望を持った。
それが、暴動を終結させた要因だ。
扇 崇行の処遇
魔王を結果的に呼び出した男。
扇崇行については功罪合わせて不問となる。
『魔王の出現は時間の問題』という報告があった。
詳しいレポートが白野桜という者から提出される。
彼女は、魔王を倒した六英雄の一人、狼 悟朗氏の妹だ。
結婚して、苗字変えていた。
彼女のレポートの完成度の高さは『完璧』の一言だった。
多くの学者がそれを追認した。
簡単に言うなら『どんな丈夫な栓もいつか劣化して壊れる』ということだ。
扇崇行氏はそれを早めただけだった。
扇崇行氏は、あの混乱のとき事態収束に協力する。
魔法省の肩書き一つで全放送局を乗っ取ったぐらいだ。
本来は許されることではない。
けれども、その処置は非常事態として黙認された。
結局、その処置が功を奏したことは万民が認めたことだ。
彼の英断が無ければ、世間の暴動は収束出来なかっただろう。
結局、マッチポンプということになる。
彼の功績は認めないかわりに罪も問わない。
実際にはその功績は見かけ以上に大きかった。
それは、関係者なら認めることだった。
一、魔法の素が飽和状態を解消した。
二、世界の秩序を『報道』という武器で収束させた。
三、六英雄に話を通じて最高能力者を集めたことだ。
特に、三番目は地味なことだが大きかった。
確かに、発起人は狼悟朗氏だ。
しかし、彼は知名度が低かった。
扇崇行氏が辞を低くして六英雄に頼んだことが大きかった。
結局、魔法省の職場は彼を追放扱いとする。
これは、魔法省が『一連の事件に対する責任』として取った処置の一つだ。
世間では『トカゲの尻尾』という話だった。