鳳氏の目的
「鳳氏、どういうつもり?!」
女学校から帰宅すると千鶴子は雇い主である鳳に詰め寄る。
「星華、お父様だろ?間違えるな。」
「お父様、今日女学校で美蘭さんから聞いたのです。」
今日の昼休みに美蘭から聞いた話をする。星華には鈴木浩一という日本人の婚約者がいるそうだ。彼は日本人の大学教授の息子で大陸で画家をしているそうだ。かつて星華をモデルに絵を描いた事もある。
「私の美術館は彼の作品が見たくて訪れるお客様ばかりで彼のおかげで成り立ってるようなものだ。それで今度君の結婚相手を選ぶためのパーティがある。名の知れた男性もたくさん呼んである。」
「そこで彼を選べとおっしゃるのですか?」
「そうだ。星華は彼との婚約の後突然姿を消したんだ。」
「つまり貴方はいなくなった星華の代わりに私をその日本人と結婚させるために仕事を?」
「ああ、そういう事だ。嫌とは言わせないぞ。それとも屋敷から出ていくか?」
千鶴子は黙ってリビングを後にする。自室に戻ると机や本棚を漁る。そこには星華が書いたと思われる日記や星華に宛てた手紙もあった。
「そういう事ね。あの娘も私と一緒ね。」
小さな鞄にお財布とハンケチだけ持って外に出る。
「お嬢様、どちらに行かれるのですか?」
メイドの1人が千鶴子を止める。
「どこだって宜しいじゃない。貴女には関係のない事ですわ。」
「星華お嬢様、」
今度は執事が呼び止める。
「お出かけなら馬車を出します。」
「結構ですわ。1人で行けますわ。」
千鶴子は使用人の静止を振り切り1人屋敷の外を出る。
「えっと劇場はどちらかしらか?」
外に出たはいいものの目的地は見つからない。建物はどれも皆同じで地図は持ってきたものの中国語で書いてあるため良く分からない。その時
「おい、鳳家のお嬢様じゃねえか?」
振り返るると身なりの良くない男が3人いた。
「お嬢様が1人でどちらに?」
彼らは日本語で千鶴子に絡んでくる。日本人なのだろうか?
「貴方方には関係のない事ですわ。通して下さる?」
「お嬢さん、俺達が送りますよ。」
男の1人が千鶴子の腕を掴む。
「結構です!!」
千鶴子が振り払おうとするが3人掛かりで千鶴子を押さえ付ける。
「何なさるの?!!」
「お嬢さん、我々は日本から来たんですよ。」
彼らは上海の私立の小学校で働く日本人教師だ。いや、日本人教師だった。
「貴女の父親が我々の働く小学校を買収して美術館なんて作ったせいで仕事がなくなってしまってね。」
「おまけに帰国する金もなくて。」
「これも全部お前の父親のせいだ!!」
「この女売り飛ばせば金になるんじゃねぇ?」
「そうか、こっちに来い!!」
「いや!離して!!」
男3人掛かりで千鶴子を車に乗せようとした時
「やめないか!!」