お嬢様達が通う女学校。
「星華お嬢様、着きましたよ。」
馬車が到着すると御者が扉を開ける。千鶴子は御者の手を取り馬車を降りる。
「ありがとう」
馬車が着いたのは女学校の校門の前だ。千鶴子と同じ白いチャイナドレスに白いマントを羽織った少女達が登校してくる。彼女達は一斉に千鶴子の方を見る。
「ごきげんよう、星華様。」
女学生達は千鶴子の元にやってきて挨拶する。
「ごきげんよう」
千鶴子もニコッとして挨拶を返す。
「ご覧になって?星華様がわたくしに微笑まれたわ。」
「いえ、わたくしよ!!」
「ところで星華様、ずっと学校を休んでいたようですが?」
星華はずっと女学校を休んでいた事になってるようだ。
「ええ、少し体調が優れなかったものですから。」
千鶴子は咄嗟に嘘をつく。
「あら、星華さん。今日も朝から随分な人気ですわね。」
背後から千鶴子は声をかけられる。そこには千鶴子と同じ制服に赤いリボンで三つ編みをした少女が立っていた。
「ごきげんよう」
千鶴子は彼女にも挨拶をする。
「ごきげんよう、行きましょう。」
千鶴子は彼女に着いて行き校舎に入る。彼女は星華と同じ教室の娘のようだ。彼女の隣の席に座る。
「ちょっと鳳さん?」
背後から再び声をかけられる。長い髪を巻いた少女が立っていた。
「そこ、わたくしの席よ。貴女、ずっと休んでいてご自身の席もお忘れになったの?」
「星華さんの席はこちらよ。」
今朝校門の前で出会った少女が千鶴子を席へと案内してくれる。
「ありがとう、えっと」
千鶴子はお礼を言おうとするが彼女の名前が分からない。
「まあ、私の名前まで忘れてしまったの?美蘭、真美蘭よ。」
「美蘭さん、そうでしたわ。」
美蘭は星華の親友で幼馴染で鳳家と真家は長年交流があるそうだ。美蘭の兄は美大に通っていて鳳氏とも面識があるそうだ。
星華という令嬢の事は美蘭から多少は聞き出す事ができた。授業は当然全て中国語だったが英語と日本語の辞書を使いながらなんとか理解する事ができた。
「星華さん、」
昼休み千鶴子は美蘭と中庭へ向かう。白蘭や雛菊の咲く庭園でお昼休みにはここで昼食を取る生徒も多い。美蘭が敷いてくれたシートに千鶴子も座る。
「ガーデンパーティのようだわ。」
千鶴子は少女雑誌で観た西洋の少女達のピクニックの挿絵を連想させる。
「あら、星華さんたら。ガーデンパーティならもっとお客様もいるしお料理も豪華じゃない。昨年貴女の御屋敷の庭でやったみたいに。」
「うふふ、そうだったわね。」
千鶴子は上手く話を合わせる。
「ところで星華さん、」
美蘭は周りを見渡すと千鶴子の耳元に口を近づける。
「結婚相手にはやっぱり幸一さんを選ばれるのかしら?」