千鶴子の仕事
「君は日本人でその雑誌の男装王女を追って大陸まで来たという訳か?」
千鶴子を屋敷に連れてきた紳士は鳳明駿といい大陸で美術館を経営している。仕事の関係で大陸内だけでなくヨーロッパ租界で暮らす西洋人も訪れる。妻は早くになくなり娘が1人いたが2週間前女子校に行ったきり帰って来なくなった。警察に疾走届は出したがまだ見つかってはいない。
「ところで君は私に買ってほしいと言ったね?」
千鶴子は我に返る。
「はっはい。」
千鶴子は震えた声で答える。
「いくら欲しい?」
「あの、私。」
怖くなって逃げようする。
「君が僕の娘の振りをしてくれるなら君の望むだけの金をやる。」
千鶴子は明駿に部屋へと案内される。壁は赤く天蓋付きのベッドがあり、チャイナ服姿の人形が置かれていた。ドレッサーに白い机、レースと赤い薔薇のカーテン。少女小説の挿し絵で見るような部屋だ。
「ここは私の娘、星華の部屋だ。この部屋は自由に使っていいよ。それから君が追って来たという男装王女は今は日本軍と手を組んでいる。私の顧客にも日本軍の幹部はいるから彼女とも出会えるかめめしれない。悪い話じゃないだろう?」
「はい、私でよければやらせて頂きます。」
千鶴子は即答し首を縦に振る。
「決まりだ、君の名前は今日から鳳星華だ。宜しく頼むよ。」
「はい、お父様。」
翌朝千鶴子は召使に起こされる。
姿見の前で寝間着を脱がされクローゼットから召使いが取り出した白いチャイナドレスに着替えさせてもらう。星華が通ってる女学校の制服だ。髪は夜会巻きにしてもらい口紅を塗ってもらう。
「これが私?!」
姿見にはみすぼらしい姿の千鶴子ではなく洗練された衣装の淑女が映っていた。
「貴女ですよ、星華お嬢様。」
今の自分は孤児の千鶴子ではない。中国の令嬢星華なのだ。
「おはようございます。お父様。」
支度が住むと千鶴子はメイドと共にダイニングに向かう。
「おはよう、千鶴子ちゃん。」
「お父様、ご自分の娘の名前をお忘れになって?」
「そうだったな。星華。」
千鶴子は目の前に出されたフレンチトースト。素手で掴んで食べようとする。
「お嬢様。」
メイドがフォークとナイフを用意してくれる。
「こちらをお使い下さい。」
「これは何ですの?」
千鶴子は初めて見る食器に目を丸くする。
「これはフォークとナイフでこざいます。このようにして使うのですよ。」
メイドがフォークとナイフを使って見せる。千鶴子もやってみようとするが
「テーブルマナーは追々覚えていけばよい。それよりも女学校に遅れてしまう。」
「そうでしたわ。」
千鶴子が席を立つとメイドが白いマントをかけてくれる。