上海に来た訳
千鶴子はそのまま孤児院を飛び出し路地裏に身を潜める。追っ手の男達に見つからないように。
「これからどうしよう?」
千鶴子には行く宛がない。女学校は孤児院の先生に知られてる。さっきの男達が来るかもしれない。しかし千鶴子に友達もおらず行く宛もない。
「あっ!!」
その時持っていた鞄を地面に落としてしまう。中から少女雑誌が転がり落ちた。
「この人」
千鶴子が拾うと軍服姿の王女の頁が開かれていた。
「そうだ、この人にいる満州に行こう。」
千鶴子は女学校の制服のスカーフ、鞄に入っていた参考書等売れる物は全て売った。しかしそれだけでは大陸までの渡航費は足らず貨物入れに潜り込んで大陸に足を踏み入れたのだ。
「私の馬鹿!!」
船が港に到着するとこっそりと船を降り初めて言葉を交わしたのがまさかの雑誌に載ってた男装王女だった。しかし隣にいた身なりのいい紳士の姿と自身のみすぼらしい格好を比較しましてや密輸入国した自分が恥ずかしくなり走ってその場を立ち去ったのだ。
「もしもあの場で想いを打ち明けていたら」
しかしそんな後悔をしてももう遅いのだ。
千鶴子は再び働き手を探してそうな店をあたってみる。するとそこから日本軍の将校らしき男がチャイナドレスを着た少女が店から出てきた。見るからに夜の女だ。千鶴子は自分を孤児院まで買いに来た男達の事を思い出す。雑誌の男装王女に会いたい一心で大陸に来てしまったが学もなくつてもない、仕事もない。自分が生きていくために手段は選べないのだろうか。
再び店の入り口に目をやる背広を羽織ったいかにも金持ちそうな紳士が出てきた。
「旦那様!!」
千鶴子は紳士に越えをかける。紳士は千鶴子の顔を驚くように見つめている。
「旦那様、一晩私を買って下さい。」
「星華、こんなところにいたのか?」
紳士は千鶴子を別の誰かと勘違いしているのか、千鶴子を路地に待たせておいた馬車に乗せ出してくれという。
馬車はどれだけ走ったか一件の豪邸へとたどり着く。千鶴子は引っ張られるようにして豪邸の中へと入っていく。玄関には写真が飾ってある。
「私?!」
1枚の写真には紳士と大陸の女学生の装いをした千鶴子が映っていた。
「星華、今までどこに行っていたんだ?!」
紳士が千鶴子に問い詰める。やはり別の誰かと勘違いしているようだ。
「あのお父様、痛いです。腕離してくださるかしら?」
千鶴子は紳士の娘の振りをする。
「すまない。だが今までどこで何をしていたんだ?心配したんだぞ。」
「申し訳ありません。」
千鶴子は謝罪をするがこの先何と言おうか思い付いていなかった。その時
「あっ!!」
鞄から少女雑誌が落ちる。