第六十一話 マチコちゃん、人の心は持っていない
ドラゴンさんを発見した冒険者さんによると、ドラゴンさんはとある山の頂上にいたらしいです。
その山の名前は、ドラゴンマウンテン。ドラゴンさんが封印されていたから、安直にそう名付けられたらしいです。恐らく、ドラゴンさんは封印が解けて出現したのだろうと彼は言っていました。
それから、クソジジイさんから得た情報によると、封印から目覚めたばかりのドラゴンさんは空腹状態で、とても狂暴なようです。二百年前に別のドラゴンが目覚めた時は、街が襲われてとてもたいへんな事態になったとのこと。
それを体験談のように話していたクソジジイさんはいったい何歳なのか。気になりましたけど、聞いてもまともな答えは帰ってこないと思ったので、やめておきました。
「よりにもよって、なんでドラゴンの出現場所が近いのよ……」
歩きながら、エラちゃんはぶつぶつと文句を言っています。彼女は未だに乗り気ではないのです。
どうもこの子は臆病なところがあるんですよね。まったく、ドラゴンさんごときで怖がるなんて、度胸がなさすぎますよ。
「移動手段がないわたしたちにとっては都合がいいじゃないですか。サクッと行って、サクッと殺して、サクッと帰るだけです。そんなにたいへんなことではありませんよ」
「マチコはどうして色々なことを舐めてるの? 逆にすごいわ」
「別に舐めているわけではないのですが……まぁ、わたしはハイスペックなので、できないことがあまりないだけですね」
苦手なのは運動と色仕掛けくらいですかね。それ以外にできないことなんてありませんから。
わたし、天才なので。
「色仕掛けも、ロリコンさんという特定の人間に限定するなら余裕ですよ? すごいですか?」
「ロリコンに限定したら、マチコはエッチだと思うけど……それを自覚してるのが、ちょっと怖いわ。えんこーなんてしたらダメよ?」
「わたしの体はお金で買えるほど安くありませんよ。えんこーなんて、自分の価値を下げる最悪の商売方法だと思っていますから。やるわけありません」
「……そうだといいけど。マチコはお腹が空いたら無意識にえんこーしてそうだわ」
「わたしはそんなにバカじゃないんですけど?」
エラちゃんのわたしに対する認識が酷いです。
この子、わたしのことを何だと思っているのでしょうか……ものすごく可愛くて、人より境遇がちょっと重いですけど、どこにでもる普通の幼女でしかないんですけどね。
「ばーかばーか」
「うんこうんこ」
「ひんにゅークソよーじょ……って、この山が目的地かしら?」
二人で雑談(という名前の口喧嘩)をしながら歩いていると、目的地のドラゴンマウンテンに到着しました。
「たぶんここですね。頂上付近にドラゴンさんがいると思います」
見上げると、結構な高さのある山です。頂上まで登るのはなかなかたいへんでしょう。
わたしたちは幼女なので、登山の過酷さは大人よりも上です。一番上まで登ると考えたらうんざりするのですが、その必要はないので本当に良かったです。
なぜなら、ドラゴンさんは縄張り意識が強いからです。
テリトリーであるドラゴンマウンテンに足を踏み入れたら、ドラゴンさんの方から顔を出してくれるでしょう。
顔を出してきたら、わたしがいつも通りファイヤーしてぶっ殺そうかなと考えています。
とはいえ、いつもと同じようにファイヤーしても、ドラゴンさんは耐久力がすごいらしいので、耐えられてしまうでしょう。
だから、いつもより火力が出せるように、罠を設置しようと考えていました。
罠にかけることさえできれば、間違いなくぶっ殺すことができるはずです。
問題は、都合よくその罠におびき寄せることができるか、ということなんですよね。
「うーん……どうしましょうか……」
おびきよせる手段について考えていると、隣にいたエラちゃんがわたしの袖をくいくいっと引っ張りました。
「ねぇ、大丈夫なの? あたし、やっぱり帰りたいわ」
ここまで来て彼女は帰りたがっていました。
うーん、どうしよっかなぁ……そうだ! いいこと思いつきました!
「エラちゃんを囮にしちゃいましょうか」
そう。わたしは名案を思い付いたのです。
エラちゃんを餌にして、ドラゴンさんをおびきだそうかなって!
「…………え?」
わたしの言葉に、エラちゃんはぽかんとしています。
何を言っているのか分からないと言わんばかりの顔ですけど、彼女の意思なんて関係ありません。
帰りたい? 怖い? 甘えんな。
わたしはドラゴンさんのお肉が食べたいんです。だから絶対に、ドラゴンさんをぶっ殺しますよ!!




