第五話 マチコちゃん、王女様に土下座される
エラちゃんはものすごく高級なチョコレートを隠し持っていました。
「んふっ。しあわせぇ~」
夢中になってもきゅもきゅと頬張っていると、エラちゃんがクスリと笑いました。
「あんたはお菓子食べてる時が一番可愛いわね」
「わたしはいつも可愛いのですが」
なんだか心外です。その言い方では、普段のわたしが可愛くないみたいじゃないですか。
「確かに顔は可愛いかもしれないけど……あのね、マチコはなんとなくヤバい気配がするのよ。ハッキリ言うと、さっきまでのあんたは怖かったわ」
「ふぇ? こんな無害で安全な幼女が怖いとか、頭大丈夫ですか? バカなんですか?」
「そういう言動よっ。マチコは敬語使ってたら何を言ってもいいと思ってるでしょ!? 口調が丁寧な分、余計に言葉が悪すぎて怖いわ」
「……な、なるほどです」
確かに、敬語使っとけば何を言ってもいいみたいな考えはありましたね。
「まぁ、これがわたしの性格なので直すつもりはありませんけど」
「腐れ幼女だわ」
「うるせーですよ。燃やしてもいいんですか?」
「ダメに決まってるでしょ!」
そんなやり取りをしながらチョコレートを食べ進めていると、すぐになくなってしまいました。
「もうないんですか?」
「もう全部食べたの!? 嘘でしょ……あたしのおやつがっ」
「ないのですか……使えねーです」
「お菓子貰っておきながら、どうして「ありがとう」が言えないのよっ。クソ幼女め」
唇を尖らせながらぶーぶーと文句を言うエラちゃん。
わたしほどではないですが、この子もなかなか口が悪い気がします。きっと友達いないんだろうなぁ……わたしみたいに。
「さて、そろそろ行きますね。お菓子美味しかったです。ありがとうございました」
最後くらいはちょっと大人しくしておこうと思い、わたしは罵倒の言葉を押さえてぺこりと一礼しました。
お菓子をもらった(正確には奪った)ことをしっかりと感謝した後、わたしは部屋を出て行こうとします。
しかし、そんなわたしをエラちゃんが引き留めました。
「……ちょ、ちょっと待って」
「なんですか? 幼女の匂いが移るので触らないでほしいのですが」
「あんたも同じ幼女でしょっ……あのね、これからどこに行くか聞いてもいい?」
はて。どうしてそんなことを聞くのでしょうか……ちょっと意味は分かりませんでしたが、別に隠したいことでもないので素直に答えることにしました。
「ひとまず孤児院に帰りますね。それからどうするかは、まだ未定です」
「孤児院……? あんたは孤児なの?」
「ええ、そうですよ。親に捨てられましたし、なんならつい先日孤児院のせんせーにも捨てられましたね」
「え、重っ」
まぁ、重いですよね。こればっかりは否定できません。
「あんたもたいへんなのね……ということは、孤児院に帰っても一人なの?」
「そういうことになりますけど」
「ふーん……じゃあ、あたしも連れて行っていいわよ」
おや? エラちゃんがなんかいきなり意味不明なことを言い始めました。
「あんたも一人で寂しいでしょ? あたしがお話相手になってあげるわっ。感謝しなさい?」
なんて高飛車な人なのでしょうか。別に来てほしいなんて一言も言ってないし、微塵も思ってすらいないので、わたしはハッキリとこう言ってやりました。
「失せろ」
「あ、待って! 行かないで……ごめんなさい、あたしも連れて行ってくださいお願いしますっ。もうおねーちゃんたちにイジメられるのはうんざりなの! お義母さんにもネチネチイジメられてるのよ!? わたしが妾の子供だからって……こんなのうんざりなのよ! だからあたしも一緒に行かせてください、お願いしますっ」
「えー。めんどくさいー」
あと、重いです。初対面でそんな話をされても困ります……まぁ、わたしも同じように重い話をしたのでなんとも言えませんが。
「そこをなんとかっ。どうか、お願いします!」
エラちゃんにはプライドがないのでしょうか。
わたしに縋りつきながら、彼女は土下座していました……これはめんどくさいことになりそうです――