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第五十三話 マチコちゃん、魔剣と親友になれそう


 魔剣【ムラマサ】さんの柄を握った瞬間、頭の中で声が響きました。


 ――コノ魔力……魔王ジャナイナ?


「ええ、わたしはマチコちゃん。どこにでもいる、ちょっと可愛いだけの幼女ですよ」


 ――マチコ様トイウ名前ナノカ。


「むふっ。様付けで呼ぶとか、なかなか礼儀正しいじゃないですか。気に入りました」


 ――有リ難キ幸セ。


 おや? 他の魔剣と違って、ムラマサさんの声には理性があるように感じます。

 なんというか、さっきまでは言語が通じているのに意思疎通がまったくできなかったんですよね……ムラマサさんとは会話がしっかり成り立っています。


「殺したいメスガキがいるのです」


 魔剣の柄を握りしめながら、わたしはムラマサさんに訴えかけました。


「だから、力を貸してください」


 ――我ハ長年、コノ時ヲ待ッテイタ。


 わたしの声に呼応するように、ムラマサさんは刀身を震わせます。まるで歓喜しているように見えました。


 ――前ノ持チ主デアル魔王ハ、マチコ様ニハ到底オヨバナイ雑魚ダッタ。我ハ強イ……ダカラ、モット強キ者と出会ウコトガ、夢ダッタ。今日、ツイニソノ夢ガ叶ッタヨウダ。


「えへへ。わたしが最強だって、やっぱりわかっちゃうんですねっ」


 ――当然ダ。我トマチコ様ガ組メバ、更ニ最強トナリ、無敵トナルデアロウ。


 ムラマサさんはゆっくりと語ります。

 わたしに敬意を払うその態度がとても気に入りました。この魔剣となら、今後も上手くやれそうです。


 辛い時も苦しい時も、ムラマサさんとならなんだって一緒に乗り越えられそうな気がしました。


「わたしたち、親友になれそうですね」


 ――親友ト、呼ンデクレルノカ……マチコ様は、心ガ広イ。


「ええ。一緒に、殺しまくりましょう」


 ――ソウダ、殺ソウ。我ト一緒ニ、殺ソウ。


「約束ですよ? 屍の上で、一緒に嗤い合いましょうね」


 ふと、わたしは未来を想像します。

 ムラマサさんと一緒に、世界中の悪を虐殺する未来です。

 魔族とか、魔物とか、闇ギルドの皆さんとか、これでもかというくらいにぶっ殺しまくる未来は、わたしにとって甘美でもありました。


 そういう未来も、悪くありません。

 ゆくゆくは世界中の人間に跪づいてもらうのもいいかもなぁ。


 なんとなく、ムラマサさんと一緒なら、そういう未来も容易に叶えられそうな気がしました。

 それくらい、相性がいいと感じたのです。


「これから、よろしくお願いしますね……ムラマサさん」


 そう呼びかけると、同時でした。




『ピキッ』





 嫌な音が響きます。ハッとしてムラマサさんの刀身を見ると、微かに亀裂が入ってました。


「ムラマサさん!?」


 ――ヤハリ、カ。


 突然の崩壊に、しかしムラマサさんは驚いていません。むしろ、予想していたかのように、穏やかな声を発していました。


「ど、どうしてっ」


 ――我ハ少シ、眠リスギテイタヨウダ。封印ノセイデ、力ガ弱クナッテイル……マチコ様ノ邪悪サニ、ヤハリ耐エ切レナカッタ。


「そんな……死ぬんですか? ムラマサさんも、いなくなっちゃうんですか!?」


 ――無念ダ。マチコ様、スマナイ……クソッ。モット早クニ、会イタカッタ。


 亀裂が、少しずつ広がっていきます。

 しかし、ムラマサさんは耐えています。崩壊しないように、踏ん張っているように見えました。


 ――ダガ、セメテ……我ノ体ダケデモ、使ッテクレ。心ハ死ンデモ、ズット共ニ在ルコトヲ、忘レナイデクレ。


「嫌ですよっ。約束したじゃないですか……親友になるって! 世界中のクソ共を、殺しまくるって! こんなに早いお別れは嫌ですよっ」


 ――マチコ様、泣カナイデクレ。少シノ時間ダッタガ、マチコ様ニ出会エテ良カッタ。


「そんな、寂しいこと言わないでくださいよっ。せめて、あのエラちゃんとかいうむかつくメスガキを殺しましょう? 一緒に殺戮しましょうよ!!」


 ――アリガトウ。ソシテ、スマナイ。


 それが、ムラマサさんの最後の言葉でした。


「ムラマサさん……? ムラマサさーん!!」


 魔剣【ムラマサ】さんは、死にました。

 でも、彼はやはり最凶最悪の魔剣なのでしょう。他の魔剣のように、全てが砕け散ることはありませんでした。

 彼は刀身を残して、心だけ死んでいったのです。

 しかし、刀身には亀裂が入っていて、今にも壊れそうに感じました。それくらいギリギリの状態だったのでしょう……それでも、わたしのために体を残してくれたのです。


「うぅ……あなたの意思は、引き継ぎましたっ」


 もう喋らなくなってしまったムラマサさんを握って、わたしは切っ先をエラちゃんに向けます。


「え? マチコ? なんで泣いてるの?」


 きょとんとするエラちゃんに向けて、わたしは思いっきりムラマサさんを振り下ろしました。


「死ねぇえええええええ!! ムラマサさんの恨みぃぃいいい!!」


「何よそれ!? ちょっ、危ないからそんなもの振り回さないで!」


「うわーん(泣)」


 初めて、親友ができたと思ったのに!

 残念ながら、ムラマサさんはもうこの世から消えていってしまいました。


 せめてもの手向けです。

 エラちゃんも一緒に、あの世に送ってやりましょうかね!!



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