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第四十二話 マチコちゃん、悪銭身につかず



 どうしてわざわざ闇ギルドに来たのかと言えば、ここに換金所があるからです。

 ギルドにはクエストで入手したアイテムを鑑定してくれる人がいます。わたしはそこで宝石さんを売りつける予定でした。


 さて、どれくら高値で売り付けられるでしょうか?

 わたしの巧みな話術でぼったくってやろうかな――と、腹の底では考えていました。


「おじいちゃん、換金をお願いしたいのですが」


 闇ギルドのカウンターで声をかけます。

 対応してくれたのは、ひげも髪の毛も真っ白なおじいちゃんでした。

 おじいちゃんは闇ギルドにそぐわない穏やかな笑顔を浮かべながら、わたしに視線を向けます。


「おや? これはこれは、珍しく可愛いお嬢ちゃんがおるのう」


「はい、可愛いマチコちゃんがやってきましたよっ。こっちはわたしの次に可愛いエラちゃんです。どうぞよろしくお願いします」


「……どーも」


 エラちゃんは不愛想に会釈します。ちょっと、これから高値で買い取ってもらう予定なんですから、もうちょっと愛想よくしてほしいんですが。


 おじいちゃんなので、可愛い幼女にはきっと優しくしてくれるはずです。ほら、孫を見るような感じで接してくれる気がするんですよ! そういう好意を利用したいので、わたしはエラちゃんの分もニコニコと笑顔を浮かべました。


「えへへ~。おじいちゃん、これを奪ってきたので、換金したいですっ」


「ふぉっふぉ。おじいちゃんとは、面白い呼び方じゃのう。ここの連中は儂のことなんてジジイかクソジジイとしか呼ばないのじゃ」


「ここの人たちは頭の中がの筋肉なので知能が低いんですよ。普通の人間ならおじいちゃんみたいな優しそうな人をクソジジイなんて呼びません」


 お世辞は得意です。

 その上わたしはとても可愛い幼女。おじいちゃんはすっかりわたしに夢中でした。


「久しぶりに幼子を見たのう。なんだか懐かしい気分じゃ」


「お孫さんを思い出しますか?」


「うむ。今はもう何歳じゃろうな……この前会った時はよぼよぼじゃったのう。白髪も生えておってな、儂より早くくたばりそうじゃったわ」


「……おじいちゃんは何歳なんですか」


 もしかして数百年くらい生きているタイプの生物なのでしょうかね。

 まぁ、年齢なんてどうでもいいです。このままだと世間話だけで日が暮れそうだったので、さっさと本題に入ることにしました。


「それで、あの……この宝石さんなんですけど、換金してくださいっ」


 カウンターの上に、アリババおにーさんから奪った宝石さんを乗せます。

 彼はこの宝石さん――龍の宝玉は10億ほどの価値があると言っていました。わたしの交渉術で、それを倍の20億くらいに増やせればいいなと考えています。


「うむ、任せなさい。お嬢ちゃんは可愛いからのう、たっぷりと色を付けてやるのじゃ」


「えへへ~。おじいちゃん、ありがとーっ♪」


「少々待っておれ。質などを鑑定しなければならないのでな」


「はーい! マチコ、楽しみにまってるー♪」


「……うわぁ。あざとくて気持ち悪いわ」


 後ろでエラちゃんがドン引きしてますけど、お金のためならわたしは何だってできます。彼女は無視して、おじいちゃんの鑑定を待ちました。


 さて、おいくら億円の価値を付けてくれるのでしょうか!?

 もしかして30億くらいもらえたりしますかね? そうなったらどうしましょうか……お、お菓子とかいっぱい買って、豪遊しちゃいましょうかね!


 うーん、お金なんてあんまり持ったことないので発想が貧困ですね。お金で何ができるのかもよく分からないのですが、そのあたりは後々考えることにしましょう。


 さてさて、鑑定はいかに!?


「ふむふむ……なるほどのう。これはこれは――なんということじゃ!?」


「お、おじいちゃん? それで、いくらになりますか!? 10憶? 20億? それとも――30憶!?」


 期待満々で問いかけます。

 おじいちゃんは穏やかに笑いながら、こう言いました。






「0ゴールドじゃな」






 その瞬間、わたしはブチギレました。


「なんだとクソジジイぃいいいいいいいい!? これが0ゴールドとか、ありまえんよ! 龍の宝玉ですよ!? 最低でも10億はあるにきまってるじゃないですか!!」


 もし、わたしとおじいちゃんの間にカウンターが泣ければ、恐らく胸倉を掴んで恫喝していたことでしょう。それくらいわたしはブチギレています。


 そんなわたしを見て、エラちゃんはクスクスと笑っていました。


「マチコ、こんなに優しそうなじいちゃんをクソジジイって呼んだらダメよ? 脳みそが筋肉でできてる低能なのかしら?」


 さっきわたしが言ったことを彼女は復唱しています。むかつきましたが、今は彼女に構う余裕はありません。


「どういうことですかっ。きちんと説明してくださいよ!!」


 どうして宝石さんが0ゴールドなのか――理由を問いかけると、おじいちゃんは慣れた様子でこう答えました。


「それ、偽物じゃ」


「……ふぇ? にせもの?」


 その言葉に、わたしはぽかんと口を開きます。きっと、目もパッチリと大きくなっていたでしょう。傍から見たら、とても面白い顔をしていたと思います。


 その証拠に、エラちゃんはわたしを見て愉快そうに肩を震わせていました。


「あははっ……マチコ、残念だったわね。そんなに面白い顔でびっくりしちゃって、笑っちゃうわ」


 エラちゃんはわたしの肩に手をぽんと置いて、それから一言。


「ほら、悪いことして稼いだお金はすぐになくなっちゃうでしょう? これは当然の報いだわ。これからは、正しいことをして稼がないとダメよ?」


「…………んにゃぁあああああああ!!」


 その言葉には、一切の反論もできず。

 わたしはガックリと膝をついて、うなだれることしかできませんでした――




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