第四十話 マチコちゃん、おっぱいでマウントがとりたい
そんなこんなで、わたしは盗賊をやめました。
お仲間さんたちとの別れは、辛くて悲しいです。でも、わたしはお腹いっぱいご飯が食べたかったので、裏切りましたけどまぁ彼らも許してくれるでしょう。
後で聞いて話なのですが、アリババ盗賊団の皆さんは騎士様のアーサーさんに捕まったそうですし? 牢獄の中できっとわたしのことを恋しく思っているでしょうが、わたしは別になんとも思わないので彼らと関わることは二度とないでしょう。
わたしのために、いろいろとありがとうございました!
と、いうわけで、わたしは100万ゴールドの現金と10億ゴールドほど価値がある宝石さんを手に入れたわけで。
「これで貧乏ともおさらばだー!」
わたしはとても喜んでいました。
これで一生豪遊できるでしょう。わたし、お肉さんを毎日食べるのが夢だったのです……孤児院のせんせーと二人暮らしだた頃は、毎日パンとスープだけとかいう成長期にあるまじき食事ばかりでしたが、これからはもっとお菓子とお肉さんを食べる生活をしたいものですね。
そうしたらおっぱいも大きくなるでしょう。なんなら、わたしが幼児体型なのはわたしのせいじゃなくてせんせーのせいだったのかもしれませんし? 捨ててくれたおかげでボインボインになれると考えたら、まぁそれもなかなか悪くありませんね!
「よし、あと一息ですよエラちゃん! 頑張りましょうっ」
今、わたしたちはてくてく歩いています。お家に帰ろうとしているのです。
もう日は高く昇っていました。12歳なので、徹夜は結構辛いですね。ちょっとおねむでございます。
貴族さんの屋敷から脱出したのは良かったんですけど、ここまでの道のりが結構たいへんでした。来るときはアリババおにーさんの転移魔法があったので苦労しなかったんですけどね……。
とはいえ、屋敷は王城からさほど離れていない場所にあったので、徒歩でもなんとかできそうなのは幸いでした。道筋も分かりませんでしたけど、王城が見えるのでそこを目印できるので、迷うこともなさそうです。
「はぁ、はぁ……なんであんたは元気なのよ、マチコっ」
一方、エラちゃんはとても疲れているようでした。
それも無理はありません。わたしたち、昨夜からずっと歩きっぱなしなのです。
しかもエラちゃんの体はもう大人のように大きくありません。すっかり元の子供体型に戻っていたので、疲労もかなりあるようです。
「ずっと大人のままだったら良かったのにっ」
「そんなの許しませんよ。わたしより早く大人にならないでください」
「……ふーん? マチコって、あたしに大人になってほしくないんだ。友達が遠くに行っちゃうみたいで寂しいのね? うふふ、マチコにも可愛いところがあるわ」
「いえ、違いますけど。わたしが先に大人になっておっぱいの大きさでマウント取りたいだけですけど」
「訂正。やっぱりマチコって可愛くないわ」
「は? わたしより可愛い生物なんてこの世に存在しませんよ。何言ってるんですか?」
「マチコは気付いてないだろうから言ってあげるけど、あんたってクソナマイキなメスガキでしかないわよ? 世が世なら、誘拐されて腹パンされてもおかしくないレベルね」
「上等ですよ。誘拐されたら誘拐犯をぶっ殺してやりますから。その頭蓋骨をコップにして甘いミルクでも飲んでやりましょうかね」
「……怖いわ。見た目はお人形さんみたいなのに、どうして中身は真っ黒なのかしら」
「闇まみれのクソザコ王女様に言われたくないです」
売り言葉に買い言葉。
疲労も多少はあったのでしょう。わたしたちはいつの間にか口論がヒートアップして、お互いに睨んでいました。
ちょっと前から、思っていたのです。
そろそろ、この子に上下関係を教えてあげなければいけないって!
「「……ムキー!」」
そしてわたしたちは喧嘩しました。
ポコポコ叩き、時には取っ組み合い、お互いの幼女臭さをこすりつけながら、罵倒しあいました。
「うんこ、うんこ、うんこ!」
「ばーか、ばーか、ばーか!」
あまりにもブチギレていたのでしょう。魔法も何も使わずに、わたしたちは子供らしい喧嘩を繰り広げてしまいました。
「幼女! ちび! ロリコンさんに買われていっぱい甘やかされてぶくぶく太っちゃえ!」
「ロリ! 貧乳! ロリコンに誘拐されて飴玉でももらってればいいわっ」
しかし、ふと気づきました。
わたしたち、お互いに幼女なので――言い争っても無駄なのだと。
どっちがクソ幼女かなんて、優劣をつけても意味がないのです。
だってわたしたちは、二人ともクソ幼女なのですから。
「……そ、そろそろ、勘弁してやりましょうか。わたしたちの罵倒は、あれです。自分にもグサグサ刺さっちゃうので」
「……ふ、ふんっ。これくらいにしてあげるわっ。自分で言ってなんだけど、ちょっと落ち込んじゃうわね」
そうやって停戦協定を結びつつ、わたしたちは同時にため息をつきました。
「疲れてるのでしょうね。さっさと帰ってカレー食べましょう」
「そうね。でも、その前に買い物にも行かないとダメよ……ほら、手を繋いであげるから、ちゃんと歩いて?」
「……今日だけですよ?」
仕方なく手をつないで、わたしたちはトボトボと歩きます。
てのひらに感じる生温かさは、幼女臭くもあり……同時に、少し心地良くもありました――




