第三話 マチコちゃん、王女様を人質にする
「ぎにゃぁああああああ!!」
炎を噴射して宙を舞っていたわたしは、王城の頂上あたりまで吹き飛ばされました。
そのままお城の壁に激突したら危なかったのですが、奇跡的にも窓から部屋の中に入ることができました。しかも、窓から飛び込んだ部屋にはちょうどベッドがあって、怪我は一切ありませんでした。
「ふぅ、危うく死ぬところでしたよ……」
息をつきながら、周囲を見渡します。
さて、ここはどこのお部屋なのでしょうか? 状況を把握するためにも、周囲を見渡してみます。
……なんというか、物が異常に少ない部屋でした。しかも置かれている家具は藁のベッド、傷だらけのタンス、ひび割れた机だけです。城の一室とは思えない程に質素な……悪く言えばボロイ部屋でした。
そんな部屋の隅っこには、ポカンと口を開けた裸の幼女がいました。
「にゃ……にゃにゃにゃにゃ、にゃんだあんたはー!」
窓から飛び込んできたわたしを見て彼女は目を白黒とさせています。
まぁ、ここは部屋なのですから、誰かがいることは予想していました。なのでわたしは然程慌てることなく、冷静に言葉を返すことができました。
「裸ですよ。その見苦しいツルペタボディを早く隠してください。あまりにも貧相すぎてみるに堪えません」
「そ、そっちも貧層なツルペタだと思うのっ。なんで自分のこと棚上げにしてるの!?」
出会って早々、やかましい人です。
とはいえ、なかなか整った顔立ちをしています。
長く伸びた金髪のツインテール。透き通るような碧い瞳。ヒカリを淡く反射する純白の肌……年齢はわたしと同じくらいでしょうか。将来はさぞかし美人さんになること間違いなしの美少女でした。
わたしの次に可愛いかもしれませんね。まぁ、わたしはこの世で一番可愛いですけど。
「なんで裸だったんですか? 変態さんですか?」
「違うもん! お着替えしようとしてただけだもん! あたしは変態さんじゃないもんっ」
顔を真っ赤にしてツルペタ幼女は怒ってます。
急いでボロ布のようなドレスを着た彼女は、警戒するように唸りながらわたしを睨みました。
「それで、いったいあんたは誰かしら?」
「まず他人に名前を尋ねる時は、自分から名乗るものではないでしょうか?」
「……一理あるわ。じゃあ、あたしから自己紹介してあげるわ。次はちゃんとそっちがしてね?」
何やらおどおどしながら、ツルペタ幼女は自己紹介を始めてくれました。
「わたしはエラ・シンデレラ。一応、このシンデレラ王国の第三王女なの……い、一応ね? 一応、王族になるわ」
ほーん。
この方は王女様だったのですか。
「なるほど……」
どうやらわたしはかなり運が良かったようです。
吹き飛ばされた先には部屋があって、しかもそこが王女様の私室だったとは……なんて幸運なのでしょうかっ。
「それで、あんたは誰なの?」
と、王女様ことエラちゃんが聞いてきた時でした。
「エラ様! 緊急事態です、放火魔が城内に進入しておりますっ。現在、要人の安否を確認しているところなので、至急ご返事願います!
扉の外から、騎士さんらしき声が聞こえてきました。
その報告を聞いて、エラちゃんは顔を真っ青にします。
「え? 放火魔が、侵入……? それって、もしかしてっ」
恐る恐るこちらを見てきた彼女に、わたしはニッコリと微笑みかけながら頭を下げました。
「どーも。放火魔のマチコちゃんですよ~」
すると、エラちゃんは面白いくらいに飛び上がって叫びました。
「ぴにゃぁああああああああ!?」
おっと。下手なことを言われたらまずいですね。
「た、たすけ……むぐっ!?」
わたしはすぐにエラちゃんに歩み寄り、助けを求めようと大声を出しかけた彼女の口を塞ぎました。
「おっと。大人しくしててください……ぐへへ。じゃないと、どうなるか分かりませんからねぇ」
わたしは現在、追われる身です。
なので、逃げるためにも、わたしは王女様を人質にすることにしました――




