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第三十一話 マチコちゃん、口だけじゃない



 さてさて、わたしはお金に目がくらんで清々しく裏切ったわけですが。


「殺してやる……クソガキが、アリババ盗賊団の恐怖を、教えてやる!!」


 アリババおにーさんはものすごい剣幕で怒っていました。

 血走った目でわたしを睨んでいます。こわいこわーい。


「お頭、落ち着け。殺すよりも、捕まえて売っちまった方が金になるだろ……ちっ。こんなクズを一瞬でも仲間と思っちまって恥ずかしい」


 シーフさんも憎悪に満ちた目でわたしを見ていました。いやん、そんなに見られたら恥ずかしいですね。


「……まぁ、所詮は爆弾を生み出せる程度の子供。我らに敵うわけもないのに、哀れだね」


 トリックさんは、わたしを憐れむように見ています。

 ふむふむ、なるほど。どうやらお三方は、わたしの能力は優秀だと認めているみたいですが、わたし本体は弱いと思っているようでした。


「ふぅ……そうだね。確かに、取り乱すほどのことでもなかった。この二人を処理して、すぐにバトルたちを助けに行かないとね」


 アリババおにーさんも、少しは冷静さを取り乱したのか。

 眼鏡の位置を直しながら、いつものように薄っぺらい笑顔を顔に貼り付けました。


「……ほーん」


 そんな彼らを眺めながら、わたしは息をつきます。

 やれやれ、このわたしを『弱い』と認識するなんて……ありえません。彼らの目はどうやら節穴のようですね。


「いいんですか? わたし、かなり強いですよ? 自分で言うのもなんですけど、なかなかに肝が据わっていますからね。孤児院のせんせーなんて、『お前は人間じゃなくて魔族なのか?』って本気で疑ってたくらいですから」


 一応、警告はしてあげましょうか。

 わたしは優しいので、彼らが覚悟を決める時間を与えてあげるつもりでした。

 しかし、アリババおにーさんたちはわたしの言葉を鼻で笑います。


「どうせ口だけだろう? バカにするのもいいかげんにしてくれ」


 ……なるほど。

 根本的に、わたしを舐めているようです。その間違いを、正してあげないといけませんね。


「それでは、後悔しないでくださいね?」


 注意はしました。後はもう、彼らの自己責任ということで


「どうせ虚言だろう? 所詮は、爆発する巻物スクロールを召喚できるだけの力で、何ができるんだい?」


「色々できますよ。たとえば……この辺一帯を、消滅させることとか」


「どうやって? その、バスケットに入っているだけの巻物スクロールで、このあたりを吹き飛ばすことなんてできないよ?」


 わたしはいつも、手に巻物の入ったバスケットをぶら下げています。

 バスケットはファッション感覚で持っているのですが、そのせいでアリババおにーさんたちは勘違いしているらしいです。


「それは当然じゃないですか。何を言ってるんですか? もしかして……わたしが召喚できる巻物スクロールは、これだけだとでも思ってるんですか?」


 そう言いながら、わたしは手を掲げます。


「【召喚サモン】」


 そして、呪文を唱えると同意に、視界を覆いつくすほどの巻物が、その場に出現しました。


「――――え?」


 アリババおにーさんたちは、地面にばらまかれた巻物を見て呆然としてします。

 地面の色が見えないくらいに溢れた巻物は、数にして恐らくは千を超えるでしょう。もちろん、わたしの足元だけではなく、アリババおにーさんたちの周囲にも、巻物は流されています。


 そう、マチコちゃんの巻物スクロールは、際限がないのです。

 必要であれば、必要な分だけ、火炎魔法ファイヤが込められた巻物スクロールを召喚できるのです。


 一個だけでは、壁を壊す程度の威力しかありませんけど。

 それが千個もあったら、どうなるでしょうか?


「……二人とも、逃げろぉおおおおおおおお!!」


 トリックさんが叫んだ時には、もう手遅れでした。


「【火炎魔法ファイヤ】」


 わたしが呪文を唱えると、地面に転がっていた巻物が一斉には魔法を発動させました。


 本来であれば、炎を灯す程度の魔法――ファイヤ。

 しかし、わたしのファイヤは、何故か知りませんけど爆発します。

 それが何百にも重なると、当然ですけどすさまじい威力を発揮しました。




 ――ドォオオオオオオオン!!




 わーお。

 すごいです。爆風の煽りでこっちの身体が吹き飛びそうなほどの威力に、わたしは思わず頬を緩めてしまいました。


「あはっ。やっぱり、破壊は楽しいです」


「ま、マチコ!? 危ないわよ、あたしたちまで巻き込まれるところだったじゃない!」


 おっと、隣にいたエラちゃんはものすごく慌てた様子でわたしに詰め寄ってきました。


「大丈夫ですよ。起動する巻物くらい制御できますから。ほら、わたしたちの周囲の巻物だけ、爆発してないでしょう?」


 かたをすくめて、わたしは息をつきます。

 自分の力くらい制御できなくてどうするんですか?

 わたしは、ただ可愛いだけの可憐な幼女ではないのです。


 きちんと実力を兼ね備えるパーフェクト幼女なのですから、口だけだなんて勘違いはやめていただきたいものですね。


 まったく、やれやれですよ――


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