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第三十話 マチコちゃん、清々しく外道



 わたしは貧乏が嫌いです。

 わたしは空腹がとても苦手です。

 わたしは我慢するのが苦痛です。


 だって、わたしはか弱い幼女。

 幸せじゃないのはそもそもがおかしいのです。

 わたしくらいの幼女は、もっと幸せであるべきなのです。


 だけどわたしは不幸です。それでも健気に生きています。

 だから、10億円をもらう権利くらい、あってもおかしくないですよねっ♪


「い、いやいや……マチコ君? 冗談はよしてくれよ。アハハ、そうか。君は昨日、酔っぱらていたから、作戦を聞いていなかったんだね。まだ爆破するには早いよ……中に仲間がいるからね。でも、まぁいい。僕たちがなんとか助け出す。それよりも、その宝石を返してくれないかい?」


 アリババおにーさんはひきつった笑みを浮かべながら、わたしに手を伸ばします。


「それは、僕たち組織を大きくするための資金なんだ。君には後で正当な報酬をきちんと支払うよ。だから、それを返してくれよ」


 宝石を取り戻そうとする手を、わたしはニッコリと笑いながら払い落としました。


「いやでーす♪ わたし、じゅーおくがほしくなりましたので」


「……ふ、ふざけるな! 君には情というものがないのか!? 昨日、僕たちは仲間として将来を誓い合ったじゃないか!! それなのに、裏切るなんてありえないっ」


 アリババおにーさんは怖い顔で怒鳴り散らします。うんうん、いつもの薄っぺらい笑顔より感情が分かりやすくていいですね。


 それだけ、アリババおにーさんは心を乱されているようです。

 そんな彼に、もちろんわたしは手加減しません。


 情? 将来? 誓い?

 そんなもの、どうだっていいのです。


「わたしには、座右の銘があります」


 いつも心に秘めている言葉。

 わたしの信条を、聞いていただきましょうか。




「『悪には何をしてもいい』。つまり、裏切っても大丈夫ですよ。あなたたちは悪で、悪いことをしているんですから、わたしに悪いことされても文句なんて言えるわけないじゃないですかー(笑)」




 アリババおにーさんはバカなのでしょうか。

 目には目を。歯には歯を。つまり、そういうことなのです。


「ま、マチコ……いくらなんでも、ドン引きだわ」


 おや? 隣ではエラちゃんが『うわぁ』と言いたげな顔をしていました。

 そんな彼女にニッコリと笑いかけてあげます。


「え? でも、エラちゃんも盗賊になるの嫌そうだったじゃないですか。これで盗賊にならなくてすみますよ?」


「で、でも、昨日まで笑い合ってたじゃない。そんなに簡単に裏切るなんて、びっくりよ……あと、ちょっと怖いわ」


「そうですか? あ、もしかしてエラちゃんも裏切られると思って心配してるんですか? 大丈夫です、わたしは飼ったペットはきちんと面倒を見る立派な人間ですから。それに、エラちゃんは悪い人間じゃないので、悪いことなんてしませんよ」


「……それなら、いいんだけど」


 わたしが悪いことをするのは、悪いことをする人間だけです。

 あ、いや、例外はあります。わたしが生き延びるためなら、ちょっと善良な人にも手を出すかもしれません。城壁の壁を間違って燃やした時みたいに。もちろんその時はきちんと手加減するので、実質悪いことではありませんね。はい。


 つまり、わたしは基本的にいい子なので、めったに悪いことなんてしないのです。

 だから、エラちゃんは安心しても大丈夫ですよ。


 安心したらダメなのは、いつも悪いことをしている彼らなのですから。


「この……クソガキがぁあああああああああああ!!」


 そして、アリババおにーさんは激高します。

 我を忘れるくらいに叫び、わたしに殺さんばかりに睨んできました。


 よし、やるか。

 アリババ盗賊団をぶっ潰して、10億をいただくとしましょう――


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