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第二十八話 マチコちゃん、宝石に目がくらむ



 なんだかんだ、あたしにはちゃんと食べられるものがあった。ドレスも着てたし、寝る場所もあった。ただ、義理の姉と母があれだっただけで、生まれ自体は悪くなかったもの。


 マチコはなんていうか、闇そのものを凝縮したみたいな存在だわ。それなのにどうしてこの子はこんなに明るいのか、とっても不思議。

 でも、マチコだって無理をしているのだと思う。だからあたしは、この子のそばで見守ってあげたいと、思ってしまったのかもしれないなぁ。


「……何見てるんですか。その同情たっぷりなおめめで見るのやめてくださいよっ。あなただってわたしと大して変わらない生い立ちですからね!?」


「……うぅ、マチコは今まで辛い人生を送ってたのよね。よしよし」


「んにゃぁああ! なでなでしないでくださいっ。スカートめくりますよ!?」


「もうめくってるじゃない! いや、ダメ! ロリコン野郎、こっち見ないで!!」


「僕は何も見てないし、ロリコンでもないんだけど……あのね、もうちょっと静かにしてくれないと、ばれちゃうよ。お願いだから、頑張ってくれっ。全部終わったら、たくさんお金をあげるから」


 お金。その一言で、マチコはピタリと動きを止めた。


「……な、なるほど! べ、別にお金に目がくらんでいるわけじゃないんですけどね? はい、まぁたくさんくれると言うのであれば、言うことを聞いてあげるのもやぶさかではありませんけどね? はい、別にお金のためじゃないんですけどっ」


 マチコはお金が大好きなの。

 信じられないくらい強欲だわ。盗賊団に入ったのも、100割くらいお金のためだものね。


「いいかい? とにかくマチコ君は、僕の合図で巻物スクロールを発動して爆破してくれ。屋敷が倒壊する混乱に乗じて仲間を脱出させるんだ……きちんと、覚えていたかな?」


「……も、もちろん! マチコちゃんはとても頭がいいので、忘れるわけないじゃないですかー」


 嘘だわ。この子、お酒のせいで昨日の記憶ほとんど残ってないと思うの。そもそも、結構おバカだし、作戦を覚えていなくても仕方ないと思うわ。


「お、お願いだから、頼むよ?」


 犯罪者野郎のアリババも、マチコのおバカさには薄々感づいているみたい。

 懇願するようにそう言って、その後はしばらく静かに待機していた。


 マチコは隣で鼻歌を歌いながら地面にお絵かきしている。こういうところは子供らしくて微笑ましいんだけど、書いている絵がうんちだからまったく可愛くないわ。むしろ下品かしら。


「うんこぶりぶりー」


「……マチコ、はしたないわ」


 流石に注意して、うんちの絵を消そうとした――その瞬間だった。


「お頭! ただいま戻ったぜ!」


「目的の宝玉、手に入れてきたよっ」


 シーフとトリックって犯罪野郎二人が戻ってきた。

 たしか、この二人は屋敷に潜入していたはず。どうやら盗難は成功したみたい。


「どれどれ……よし、いい仕事だ。よくやってくれた」


 二人が持ってきたのは、片手で持ち上げられる程度の小箱だけ。

 その中身を覗いてみると、とても綺麗な宝石がギッシリと詰まっていた。


「ほぇ~。なんか高そうですね」


 マチコも目を輝かせてみている。

 アリババも満足そうに微笑みながら、宝石について説明してくれた。


「これは『ドラゴンの宝玉』。宝石の一種なんだけど、その価値は一つで最低でも一億はくだらない……もしかしたら、この小箱だけで10億ゴールドくらいはあるかもしれないね」


 なんだ、10億だけなんだ。

 と、お金がいっぱいあった王城で暮らしていたあたしは思うけど、マチコは信じられないような顔でびっくりしていた。


「――――!? あぅ、えぁ……んぁ!」


 最早言葉が出てきていない。貧乏だったマチコにとっては、途方のない額だったのね……口をあんぐりと開けて、宝玉をジッと眺めていた。


「よし、後はバトルとアサシン、ツインクが脱出してくれたら成功だ。マチコ君も、三人が外に出たと同時に屋敷を壊すから、準備をしていてくれ」


「…………」


 マチコはもう、アリババの言葉なんて聞いていない。


 マチコの綺麗な赤い瞳は、宝玉の光を反射して妖しく輝いている。


「……ま、マチコ?」


 その目を見ていると、不意に寒気がした。

 絶対に何かやらかす――そう直感した時にはもう、マチコはやらかしていた。


「【火炎魔法ファイヤ】」


 不意に、マチコは魔王名を唱える。

 それは、屋敷内に設置された巻物スクロールが発動する合図。


 本来なら、残りの三人が脱出してから発動させるはずだった魔法を、マチコは今発動した。


「…………え?」


 アリババは、突然のできごとに何が起きているか分からないような顔で呆然とする。

 その隙に、マチコは宝玉を奪い取った。


 そしてこの子は、最低なことを宣言する。


「フハハハハハ! 気が変わりました、この宝石さんたちはわたしが独り占めします!」


 ……あたしは今まで、マチコのことを不思議な女の子と思っていた。

 でも、今分かった。この子、不思議って枠に収まらない。


 マチコはとっても『変』な子だわ。

 昨日、あんなに盗賊団の犯罪者たちと仲良くなったくせに、こんなに簡単に裏切るなんて……普通の人間には、絶対にできないもの――




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