第二十二話 マチコちゃん、褒められると結構チョロい
と、いうわけで、わたしは盗賊になりました。
放火魔となり、誘拐犯にもなって、更に盗賊になるとか、すごい悪人みたいです。でもわたしはただ可愛いだけの幼女なのでセーフですね。
可愛ければ全てが許されます。つまり可愛いわたしは何をしてもどんなことがあっても許されるので、無敵でした。
「じゃあ、早速で悪いけど、僕たちのアジトに来てくれ。メンバーと顔合わせしてもらいたいし、今日の夜の作戦もしておきたい」
「今日の夜とは、また急ですね」
「前々から狙っていた屋敷があってね……かなり大きな貴族の家で、警備も厳重なんだ。僕たちだけじゃ侵入するのも難しかったけど、君の力があれば問題ない」
「むふふ♪ まぁ、わたしがいれば、失敗なんて概念がなくなりますからね? 仕方ないです、手を貸してあげましょうかっ」
褒められるとめちゃくちゃ気分がよくなります。
全ての生物がわたしにひれ伏してくれれば、どれほど気持ち良いのでしょうか。いずれ、世界征服をやってみるのもありかもしれませんね。
そうやって会話しながら、わたしたちは闇ギルドを出ます。とりあえず、アリババ盗賊団さんのアジトに行くようなので、アリババおにーさんの後ろをちょこちょことついていきました。
「ところで、マチコ君の隣のお嬢さん……エラ君だったかな? 君は、何かできるのかな?」
歩いていると、アリババおにーさんが探るようにそんなことを聞いてきます。
エラちゃんについて知りたがっているようでした。
「あたし? あたしは、料理ができるわ。あと、お洗濯とお掃除にも自信があるの」
隣で何故かわたしの手を握っている幼女は、えへんと言わんばかりにない胸を張って自慢げです。恐らく、アリババおにーさんは戦闘面の力を期待していたはずですが、回答が斜め上でした。
「そ、そうかい。それは、何よりだね」
「でも、勘違いしないでね? あたしはマチコのお世話ならするけど、あんたたちのお世話なんてしないわ」
「ああ、うん。別にしてほしいとは言ってないけど……分かった。エラ君はとりあえずマチコ君と一緒にいてくれ。他には何もしなくていいからね」
アリババおにーさんはエラちゃんを役立たずと認識したようです。
途端に興味が失せたように視線を逸らしました。やっぱりこの人は悪人ですね……他人の評価を利用価値の有無のみで考えています。
わたしも善人ではないのでとやかく言える立場ではありませんけど。
ともあれ、彼女はわたしよりも純粋な人間なので、歪んでいるアリババおにーさんたちと深い交友を持たないのはいいことかもしれませんね。常にわたしが隣にいてあげて、カバーしてあげましょう。
最初から人間性が歪んでいるわたしなら、アリババおにーさんたちに悪影響を受けることもありませんし。
「おっと……お喋りしていると、いつの間にかアジトについたみたいだね」
歩き始めてから、恐らく数分くらいでしょうか。
わたしたちはついさっきまで人気のない道を歩いていたはずです。しかし今は、どこかの洞穴のような場所に来ていました。
「え!?」
びっくりしてあたりをきょろきょろと見渡します。右を見ても洞窟、左を見ても洞窟、上を見ても洞窟、下を見ても洞窟……どこをどう見ても、ここは洞窟でした。
とはいっても、ここはアリババ盗賊団さんのアジト。生活できるようところどころに手が加わっています。壁際にはランプが灯っていますし、地面も歩きやすいように均されていました。
「こ、ここはどこなのかしら? マチコ、あんまり遠くに行ったらダメよ? 迷子にならないように、手をしっかり握っててあげるわねっ」
「幼女くせーので離したいんですけど」
さっきから、わたしの手はエラちゃんのぷにぷになおててと繋がっています。なんでこの子はわたしに触れるのでしょうか……まったく、幼女だから人肌が恋しいのでしょう。大人でセクシーなわたしなので寛大になってあげました。
それよりも、今はこの場所に来た手段ついて気になります。
「何かしたんですか?」
アリババおにーさんに声をかけると、彼はニコニコと笑いながら肩をすくめました。
「僕の魔法だよ。【転移魔法】っていう難しい魔法だけどね……特定の空間に一瞬で移動できるんだ」
「ほぇ~。それ、すっごい便利そうです」
「便利だけど、色々と制約もあって不便もある。一日に二回しか行使できないし、行ったことのある場所にしか行くこともできないんだ」
万能、というわけではないようです。
しかしながら、すごい魔法であることは間違いありません。特に、盗賊として侵入したり逃走したりする際、この転移魔法はかなりの効果を発揮するでしょう。
アリババ盗賊団さんが国に指名手配されながらも、未だに捕まっていないのはアリババおにーさんの転移魔法があるからかもしれませんね。
「僕の力については、また後でゆっくりと説明するとしよう。奥の方にメンバーはいるはずだから、ついてきてくれ」
雑談交じりに歩みを進めます。
洞窟の中は空気がひんやりとしていて気持ち良いです。お腹も満たされていますし、とてもいい気分でした。
アリババおにーさんも、うさん臭くて詐欺師っぽいですけど、あからさまにこちらに危害を加えるような人間ではないので、安心していいでしょう。
他のメンバーについては分かりませんが、まぁ喧嘩を売られたら買えばいい話です。力で上下関係を教えてあげれば、何も問題ないです。
盗賊生活も、なかなか悪くなさそうでした――




