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第十八話 マチコちゃん、100万ゴールドが分からない



 さて、おいくらほどいただけるのでしょうか?


「これくらいあれば足りるかね?」


 胡散臭いおにーさんは懐からすっと札束を出してきます。


「ほぇ?」


 反射的に受け取ると、確かな重さを感じました。


「100万ゴールドある。ひとまずこれを即金で渡しておくよ」


 な、ななななんてことでしょうか!

 ひゃくまんごーるど!? そんな途方もない額聞いたこともありませんよ!


「エラちゃん、エラちゃん、100万ゴールドもらいましたよ!? ひゃ、100万ゴールドっておいくらですか!?」


「落ち着いて、マチコ。100万ゴールドは、100万ゴールドよ。1万ゴールド札が100枚あるの」


「1万ゴールド札が100枚……そんな、ありえません。孤児院のせんせーは1万ゴール札すら持ってなかったんですよ?」


「……マチコは悲しい生活をしてたのね。貧乏で辛かった? もう大丈夫だからね、よしよし」


 おや? エラちゃんは同情するような目でわたしを見ています。慰めるように頭を撫でてきて、なんかむかつきました。


 ……って、そうか。エラちゃんは腐っても王族です。継母と義理のお姉さんにいじめられていたとはいえ、王族の端くれだったのです。お金を目にする機会はたくさんあったでしょうから、わたしのように驚いてませんでした。


「ご満足いただけたようで何よりだよ。それじゃあ、立ち話もなんだし……ギルドの中で軽く商談でもしないかい?」


 わたしのリアクションを見て詐欺師のおにーさんはより一層明るく笑いました。嘘くさくて鼻がもげそうなのですが、お金をもらったのでわたしは上機嫌です。


「はい! 喜んで!」


 素直に頷いて、詐欺師のおにーさんについていきました。


「マチコ、もっと警戒しないとダメよっ。この人、ロリコンの匂いがするわ……」


「大丈夫です。わたしは可愛いので、相手がロリコンじゃなくてもロリコンになって惚れられてしまいますから」


「あのね、君たち……僕は正常だよ。胡散臭いし、詐欺師みたいとは思ってくれて構わないんだけど、ロリコンって言われるのは心外だね」


 おっとわたしとエラちゃんの内緒話も聞こえていたようです。困ったように笑う詐欺師のおにーさんに、わたしはえへえへと愛想笑いを返して、はぐらかしておきました。


「さて、商談の前に飲み物などいかがかな? この場は僕がお金を出すので、好きに注文してくれていいよ」


 ギルドの中に入って、向かった先はお食事をする場所でした。お酒も飲めるようで、周囲ではガラの悪い人たちが樽ごとお酒を飲んでいます。


「ん? 珍しく可愛い小動物がいるじゃねーか! ここは森の中じゃねーぞ!」


「怖い目に合いたくなけりゃおうちでママのおっぱいでもしゃぶってな!」


 あの人たちが酔っぱらっているせいなのか、あるいは可愛すぎるわたしが目立つだけか。

 早速絡んできたので、わたしは仕方なく相手してやることにしました。


「ふぁっきゅー」


「マチコ!? 中指なんて立てたらダメよっ。なんでそうやってすぐに挑発しちゃうの!?」


「うるせーです。売られた喧嘩は買う主義なのです。さぁ、喧嘩でもしますか? わたしは罵倒だけで孤児院のせんせーを号泣させた経験がありますよ?」


 くいくいっと中指を折ってかかってくるように促します。よし、ぶっ殺してやる。

 しかし彼らはわたしの挑発には乗らずに、豪快に笑い飛ばしました。


「威勢のいい小動物じゃねーか! 気に入ったぜ!」


「ママのおっぱいは卒業してんのか!? 同士よ、そんなにカリカリしてんじゃねーよ!」


 ……なんだか拍子抜けでした。喧嘩を売ってきたというよりは、ただ絡んできただけのようです。こっちをバカにするつもりもないみたいですし、わたしは優しいのでぶっ殺すのをやめることにしました。


「命びろいしましたね。わたしは今、とても機嫌がいいので見逃してあげましょう。寛大なわたしに感謝してください」


「おう! ありがとよ、小動物! その肝っ玉があるなら、そこにいる詐欺師に騙される心配もなさそうじゃねーか」


「肉食動物に食われるんじゃねーぞ! 特に、そこのハイエナみたいな男には注意しておくといーぜ!」


 ……おや? 彼ら、もしかしてわたしたちを心配してたのでしょうか。

 ウザがらみしていたようにしか見えなかったのですが、一緒にいるスーツ姿の詐欺師おにーさんは、やっぱりなんだか胡散臭いようです。酔っ払いさんたちは、もしかしたら詐欺師のおにーさんを警戒するようにアドバイスしてくれたのかもしれませんね。


「まったく、酔っ払いの戯言は聞き流しましょう。ほら、カウンターの方は静かですし、そちらで商談を始めましょうか」


 詐欺師のおにーさんは表情を変えることなく歩みを進めます。

 ……まぁ、最初からこの人を信頼しているわけではありません。ただ、お金がもらえるので、ついていかないという選択肢もないのです。


「お腹も空いてますから、行きましょうか。ほら、エラちゃん。おしっこ漏らしてないで行きますよ?」


「もらしてないわよ! ばかっ」


 ぷんぷんと怒るエラちゃんと一緒に、わたしもカウンターの方に向かいます。

 さてさて、商談とはいったい何なのでしょうか――


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