第十六話 マチコちゃん、魔王の生まれ変わりを疑われる
現在、わたしは闇ギルドの入口で営業権を獲得しようと頑張っています。
「フゴフゴッ、フゴ!」
モヒカンさんは必死に何かを言おうとしていますが、巻物を口に突っ込まれているせいで何を伝えたいのか分かりませんでした。
「え? ちゃんとしゃべってくださいよ。何を言っているのかまったく分からないのですけど」
「ま、マチコ? それは理不尽だと思うの……誰だってそんなものを咥えたままじゃ喋れないわ」
「うるせーです。この程度のチンピラにびびってしょんべん漏らしたクソガキは黙っててください」
「も、漏らしてないもん!」
後ろで何か言ってきたへたれ幼女は一旦無視して、わたしはモヒカンさんとの交渉を続けることに。
「えっと、さっきは何て言ってましたっけ? ……そうだ、『文句があるなら金か力で解決しろ』って言いましたよね?」
わたしの問いかけに、モヒカンさんはブルブルと身を震わせます。
おや? 返事もできないのでしょうか?
「『はい』か『いいえ』か。意思表示しないと……口が滑って、呪文を唱えてしまいそうです」
「っ!?」
そう囁きながら巻物を突くと、モヒカンさんはものすごい勢いで首を縦に振りました。
「なるほど。しかし、残念ながらわたしはお金がありません。食べ物が買えなくてお腹もぺこぺこです。だからこそ、こんなゴミクズ人間の吐き捨て場みたいな場所で商売をすることにしたのです」
「マチコ! いくら事実でも、それは言いすぎよっ……みんながこっちを見てるわ」
「エラちゃん、それはフォローになってないですよ」
事実って言っちゃったらダメでは?
まぁ、別に構いません。わたしは可愛くて素敵な幼女……こんなに可愛い幼女に暴力を振るう大人なんていないに決まってます。もし暴力を振るってきたら殺せばいいだけの話です。
「と、いうわけで、わたしは力で交渉をしているわけですが……モヒカンさん? この場所での営業を許可していただけませんかね?」
そう言った直後、わたしはモヒカンさんの反応を待つことなく巻物を発動させました。
「【火炎】」
瞬間、筒状の巻物の先端に炎が灯ります。
爆発はしていませんが、炎はろうそくのようにゆっくりと燃え続けて、巻物の長さを短くしていました。
「っ!? フゴ! フゴフゴ、フゴ!!」
モヒカンさんはそれを見て慌てていました。
何度も何度も頷いてくれています。そんな彼に、わたしはニッコリと笑いかけてあげました。
「えへへ~。ありがとうございます。商売の許可をいただけて何よりです……それはそうと、わたしはあなたにとても不快な思いをしたので、とりあえず爆発させることにしました」
まぁ、許可をもらったところで、許すなんて一言も言ってないので。
とりあえずわたしは、モヒカンさんに力関係を分からせることにしたのです。
「フゴォオオオオオオオオ!?」
モヒカンさんは絶叫のような声を上げてジタバタと暴れます。しかしモヒカンが掴まれている上に、急所への攻撃によるダメージが残っていることもあってか、幼女一人の拘束さえ振り払うことができないみたいでした。
ゆっくりと、巻物が短くなっていきます。
もういつ爆発してもおかしくない状態――その瞬間に、わたしは大声で呪文を唱えました。
「ファイヤァアアアアアアアア!!」
モヒカンさんは限界だったのでしょう。
「――――」
わたしの叫び声を聞いた瞬間、白目をむいてパタッと気絶してしまいました。
やれやれ、情けない大人ですねぇ。
「……ま、冗談ですけどね。巻物は開かないと爆発しないんです。閉じたままだと爆発はしませーん」
肩をすくめて首を振ります。
その時にはもう、気絶したモヒカンさんが咥えていた巻物は焼失してしまいました。
よし、これにて交渉は終了ですね。
「エラちゃん、邪魔者もいなくなったので商売を始めましょうか。そろそろお腹が空いたので、さっさと稼いで帰りましょう」
立ち上がって振り向くと、エラちゃんがバケモノを見るみたいな目でわたしを見ていました。
「……ねぇ、マチコは悪魔か魔王の生まれ変わりなの?」
「は? わたしは可憐で素敵な幼女なのですが」
「可憐で素敵な幼女はあんなふうに人を脅迫しないけど!?」
いやいや、そんなことないですよ。
わたしはただ可愛いだけの幼女なのです。魔王だなんて、そんなわけありませんよ――