第十三話 マチコちゃん、物乞いのおっちゃんに説教をする
さてさて、わたしたちは闇ギルドに向かっています。
しかしながら、闇ギルドの場所を正確に把握しているわけではないので、もちろん迷っていました。
「えっと……確かこのあたりと、せんせーは言っていたような」
わたしよりも郊外での暮らしが長かったせんせーは、たまに闇ギルドに赴いていたように記憶しています。ただ、せんせーの話はつまらなかったので、ほとんど聞き流していたせいもあり、場所の詳細が分かりませんでした。
「ね、ねぇ、本当に大丈夫? 路地裏に出てから、なんだか怖い人間が増えた気がするわ……」
エラちゃんがわたしの後ろをびくびくしながらついてきます。
先ほどまでは郊外の住宅地を歩いていたので、質素ながらに普通の人間しかいませんでしたが……路地裏に入ると、人の属性がガラリと変わりました。
まず、衣服が汚いです。そして顔に生気がありません。目も虚ろで、どこを見ているのかよく分からない状態でした。
「ここからはスラムですね。エラちゃん、気を付けないと多分誘拐されるので頑張ってください」
「っ!? ま、マチコ、手を繋いであげるわ……絶対に離さないからねっ」
「幼女臭いです」
彼女は涙目になりながら手をギュッと握っています。煩わしいですが、振り払ってもしつこくされそうなので、好きなようにさせておくことにしました。
「うーん、道が入り組んでますね……このまま進むと、本格的に迷ってしまいそうです」
「じゃあ、どうするの? やっぱり帰る?」
「帰ってもご飯はありませんよ。まったく……仕方ないので、誰かに聞いてみましょうか」
スラムの住人なら、闇ギルドの場所も知っているでしょう。
そう思ったのですが、エラちゃんはわたしの話を聞いて物凄くびびってました。
「だ、だだだ大丈夫よね? いきなり襲われたりしないよねっ?」
「さぁ? 大丈夫じゃないでしょうか」
「……さっきから気になってたんだけど、マチコはなんで怖くないの? あんた、幼女のくせに度胸が据わりすぎでしょ」
「そうでもないと思いますが……わたしはふつーですよ」
エラちゃんがびびりすぎなだけだと思います。
と、いうわけで、わたしはスラムの中でも比較的まともそうな人間に話しかけてみました。
「すいません、そこのおっちゃん。闇ギルドの場所を教えてほしいのですが」
「……あー、うー」
壁によりかかっていたおっちゃんは、話しかけると唸るような声を発します。まるで正常ではない様子に、エラちゃんはすっかり怖がっていました。
「だ、だだダメよっ。マチコ、帰りましょう! この人は絶対に危ないわっ」
「大丈夫ですよ」
「うー……あー! あぁあああ!!」
今度は威嚇するように大きめの唸り声を上げます。
「ひぃいいいいい! ……うぇーん」
エラちゃんは怖さのあまり泣いていました。どうか、おもらしだけはしていないことを願いましょう。
「あの、いいかげんにしてもらえますか? おっちゃん、質問に答えてください」
わたしはため息をついてしまいました。
いつまでこんな茶番を続ければよいのでしょうかね。
「うああああああ!!」
「狂人の振りをされても困ります。人間の言葉でしゃべってください」
「……うー、あー」
「『うー』と『あー』しか言えないという設定ですか? そんなことして意味があるのか不思議ですが、とりあえず早く質問に答えてくださいよ」
「……な、なんかごめん」
坦々と言葉を続けると、おっちゃんはようやく茶番をやめてくれました。
「あれ? なんでおっちゃんが正常だと分かったのかな……」
「なんとなく。それよりも、どうしてこのようなことを?」
「おっちゃん、お金がないからね。ああやって狂人の振りをしてお金や食べ物を恵んでもらってるのさ」
なるほど。スラムの住民らしいナマケモノの思想ですね。
「おっちゃん、そんなことするよりも働いた方が早いですよ」
「お、おう……嬢ちゃん、正論はやめてくれよ。おっちゃん、働くくらいなら死んだ方がマシだと思ってるタイプだからね」
「甘えんな。ほら、こんなに幼い子供でも働いてるんですよ? いい年したおっちゃんが物乞いなんて恥ずかしいとは思わないのですか?」
「わ、分かったよ! 説教しないでくれよぉ……おっちゃんが悪かったから! や、闇ギルドの場所だろう? 案内してあげるから、これ以上おっちゃんに働けって言わないでくれっ」
そう言って、物乞いのおっちゃんはわたしたちを闇ギルドまで案内してくれました。
最初から素直にそうしてくれればいいのに。余計な手間をかけさせないでほしいものですね。これだから怠惰な人間はダメなんですよ……まぁ、わたしもめんどくさがり屋なので人のことは言えませんけどね。
まったく、やれやれですよ――