第十一話 マチコちゃん、ママではない
「んにゃ……うへへ」
甘えてくるような声が聞こえて、わたしは目を開けました。
「ん……えっと、なんだこいつ」
見慣れたベッドの上には半裸の幼女がいました。金髪ツインテールの、見た目だけは上品そうな女の子です。その子はわたしの胸元に頬ずりしながらニヤニヤと笑っていました。
「……ああ、そういえば、昨日こんなのを拾ってきちゃってしまいましたね」
徐々に意識も覚醒して、昨日の出来事を思い出してきます。
この子はエラちゃん。義姉と義母のいびりに耐え切れなくてお城を飛び出した幸薄い幼女です……というか、なんでわたしのベッドに潜り込んでいるのでしょうか。床で寝ろって言ったのに。
「えへへ……ままぁ」
「わたしはあなたのママではありませんよっ」
この子はいつまで寝ているのでしょうか。だらしない寝顔になんだか腹が立ったわたしは、彼女のツインテールをぐいぐいと引っ張りました。
「ほら、起きてくださいっ。さもないとあなたのツインテールが一つなくなりますよ?」
「痛い……痛い痛い痛いっ! いきなり何するのよ、マチコ!」
エラちゃんはすぐに起きたので、彼女のツインテールは一つにならずにすみました。
「いいかげんに起きてください。そしてわたしを抱き枕にしないでください。幼女臭くてたまりません」
体に甘い匂いがこびりついています。どうしてこのくらいの年齢の子ってミルクのような匂いを発するのでしょうか。
「……本当だ。幼女臭いわ」
彼女も自分の匂いを確認して首を傾げていました。おい、それはわたしも幼女臭いって言いたいのですか?
「だから抱き着くなと……はぁ、もういいです」
お互いに幼女なのですから、どちらが幼女臭いのか言い争うのは不毛です。いったん匂いについては保留にして、わたしはベッドから下りました。
「とりあえず、お洋服を着ましょうか。二人ともボロボロですから」
昨夜に繰り広げた逃走劇のおかげで、二人とも半裸状態です。
まずはお着替えすることにして、わたしはタンスにしまってある衣服を着ました。
まぁ、衣服とはいっても、肌着の上からつぎはぎだらけの赤い外套と頭巾を着用しているだけですが。
貧乏なのでみすぼらしい恰好しかできないんですよね。
「……ねぇ、あたしの服はある?」
「ないので裸でいてください」
「ちょっ!?」
「冗談です。あなたの裸なんて貧相すぎて見ていて泣きそうになりますからね……適当に何か着ててください」
「で、でも……マチコの服、サイズが小さいからあたしには入らないわ」
それはあれでしょうか。わたしより発育が進んでいるというアピールなのでしょうか……なんかむかつきますね。
将来性に溢れている私は実質的に幼女体形ではないのですが、現状という小さなスケールで考えると確かに発育が遅れているのかもしれません。そこは残念ながら事実ですし、あまり文句は言わないでおきましょう。
「……じゃあ、せんせーが愛人に着せようとしていたフレンチメイド服があったので、それでも着たらどうですか? 結局どーてーだったので、新品と同じです」
「うぅ、なんか嫌だわ……でも、これしか着られるのはなさそうね」
わたしにはサイズが大きいメイド服です。胸元はめちゃくちゃ開いてるし、スカートの丈はとても短い、いかにも男性が好きそうなフレンチ型の衣装となっております。
「ちょっとブカブカね。でも、着れないわけじゃないし……贅沢も言ってられないわ」
腐っても王族といったところでしょうか。
少しサイズは大きいですが、エラちゃんは器用に着こなしていました……わたしでは着こなせないので、なんだか複雑ですね――