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第十話 マチコちゃん、おててをつなぐ



 ふと空を見上げると、月が天高くに昇っていました。時間はそろそろ深夜となってきています。


「で、ここはどこなの? まさか迷子ってわけじゃないわよね?」


「迷子ですけど」


「っ!?!?!?!?!?」


「冗談です。そんなに面白いリアクション取らないでください」


 愉快にたまげてくれたエラちゃんにため息をつきながら、わたしは現状について説明してあげることにしました。


「ここは城下町の郊外……俗にいう貧民街の近くにある森です。人里離れていますが、魔物はいないのでご安心ください」


「ふーん。じゃあ、なんでここに来たのよ」


「察しが悪いですね。そんなの、わたしの『お家』があるからに決まってるじゃないですか」


 わたしは無計画で夜の空を吹き飛んでいたわけではありません。きちんと方角を計算していたのです。


「ついてきてください。すぐに到着しますから」


「あ、待って! 置いてかないでっ」


 そう言って足を動かすと、エラちゃんが慌てた様子で後ろをついてきました。


「夜の森ってこんなに暗いのね……べ、別に怖くないけど!?」


「聞いてませんが」


 何を自爆しているのでしょうか。温室育ちのお嬢様は暗闇が苦手みたいです。自分の境遇が闇そのものだから闇と仲良くすればいいのに。


「ねぇ……マチコ?」


「なんですか」


「あのね……怖いでしょ?」


「いえ、別に」


「怖いわよね! じゃあ、手とか繋いであげてもいいわっ」


「は? 別にいいですよ。というか、あんまり人に触られるのは苦手なのでやめてほしいです」


「またまた! 強がらないでいいのよ? あたしが隣にいるから、安心しなさい? ほら、手を繋いであげるわね!」


 エラちゃんはわたしに拒否権を与えてくれませんでした。強引に手を握ってきたので、わたしは思いっきり顔をしかめてみせます。


「幼女臭いですね」


「あんたも同じ幼女でしょっ」


 仕方なく手をつないだまま、歩みを勧めます。

 少し歩くと、すぐに目的に到着しました。


「ここって……」


 視線の先には、今にも壊れそうな寂れた家屋がありました。

 あれこそ、わたしが生まれ育った場所です。


「『孤児院』へようこそ。どうぞ、遠慮なくお入りください。もうわたししか住んでいませんから」


 鍵を開けて中に入ります。もちろん孤児院のせんせーは帰ってきていないので、誰もいませんでした。


「お、おじゃましまーす。うわ、ボロっ。こんなの、王族のあたしには不釣り合いな場所だわ」


「あなたの部屋と似たようなものだと思いますよ」


「……そうね。ええ、そうだわ。わたしの部屋、そういえばこんな感じだったわ。なんだ、大して生活は変わらないじゃない」


 王族のくせにこんなボロ小屋と大差ない環境で暮らしていたとは、冷静に考えなくても闇が深いですよね……まぁ、実の親と育ての親に捨てられたわたしの闇も似たようなものですけど。


「あふぅ……色々ありましたし、眠いですね」


 ともあれ、雑談を交わすには遅すぎる時間帯です。

 わたしはなんだかんだ幼女なので、夜更かしは苦手でした。ハッキリ言うと眠いのです。


「寝室で寝てきます。エラちゃんの寝床は……その辺でいいですよね?」


「い、嫌よっ。せめて寝具の上がいい!」


「贅沢な……まぁ、どこでもいいので、適当に寝てください」


 彼女に構う余裕もなかったわたしは、そのままベッドに崩れ落ちました。

 すぐに目をつぶって、睡眠の態勢に入ります。


「どこでもいいのね? じゃあ、あたしもここで寝るっ」


 何やらミルク臭い物体がベッドに入り込んできた気もするのですが、それが何かを確認する前にわたしは眠ってしまいました。


 こうして、短いようで長い一日が、ようやく終わったのです。

 明日はどうなることやら――


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