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第九話 マチコちゃん、ハイテイナイ



 わたしとエラちゃんは凄まじい勢いで夜の空を吹き飛んでいました。


「嫌だぁあああああああ!! まだ死にたくないのぉおおおおおお! マチコ、助けてぇえええええ!」


「うるさいですよ、まったく……そんなにひっつかないでください。幼女臭いですね」


 やけに温かいツルペタボディにわたしは顔をしかめます。なんて貧相なボディなのでしょうか……柔らかくはあるんですが、おっぱいという概念が彼女の体にはありません。触っていてとても滑稽です。


「ひんにゅーすぎて涙が出てきます」


「あんたもひんにゅーでしょ! あたしと大差ないわよっ」


「わたしは将来の可能性が無限大なのでセーフですが? 一年後には肩こりするくらいきょにゅーになりますので、一緒にしないでください」


「なんで自分のことは棚上げなの!? ってか、そんなのどうでもいいから、早くなんとかしてっ」


 どうでもよいわけないのですが、ひんにゅーと会話してても埒が明かないので一旦保留にしておきましょうか。

 とにかく、このままだと地面に落下してわたしとエラちゃんはグチャグチャになってしまうでしょう。ええ、それはもう無残な姿になってしまうかもしれません。


「わたしはまだ死ねないのっ。あのクソゴミみたいなおねーちゃんとお義母さんたちより幸せになってやるまで、死にたくないわっ」


 エラちゃんにはエラちゃんなりの目標があるようです。

 いや、別にここで殺すつもりはないので、そんな必死で懇願されても困るのですが。


「大丈夫ですよ、心配しないでください」


 そう言って、彼女をあやすために仕方なく頭を撫でてやります。

 それからタイミングを見計らって、わたしは再び巻物スクロールを取り出しました。


「落ちるぅうううううう!?」


 もうすぐ地面に激突する――というタイミングで、わたしは魔法を発動しました。


「【火炎ファイヤ】」


 瞬間、巻物スクロールから大量の炎が出現します。

 その火炎は地面に向かって勢いよく噴出し、落下の衝撃を大きく軽減してくれました。


「ふぎゅっ」


 結果、わたしとエラちゃんは怪我なく着地することに成功します。

 ただし、地面は火炎によって熱せられていたので、無傷というわけにはいかず。


「熱っ!? も、燃えてる……服が燃えてる!」


「ほら、こっちに来てください。そこにいると熱で肌が焼けますよ?」


 エラちゃんのボロ布と、わたしの衣服が熱によって焼けています。

 このままだと肌まで焼けてしまいそうだったので、わたしたちはすぐにその場から離れました。


 少し距離を取って安全な位置に到着。わたしたちはようやく一息つくことができました。


「うぅ、服がボロボロだわ……あ、あんまりこっち見ないでねっ」


「その貧相な体を見るとでも? 自意識過剰すぎてお腹が痛いです」


「ねぇ、なんでマチコはあたしに辛辣なの? 自分だって似たような体つきのくせにっ」


「一緒にしないでくださいっ……というか、見られたくないのならわたしのことも見ないでくれませんか? こっちも衣服がボロボロなので」


「だ、だって……って、あれ? ねぇ、あんた下着は? ねぇ、なんで肌色が多いの!?」


「貧乏を舐めんな。まぁ、エラちゃんのようなおこちゃまパンツを着用するくらいなら、別に下着なんてなくてもいいと思いますが」


「おこちゃまじゃないもん! 可愛いから別にいいでしょ!?」


 とかなんとか。わたしたちは貶し合いながら、とりあえずお互いの無事を確認するのでした――




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