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学園とは


 一休みして、22時過ぎに活動再開。

 島のダンジョン、三つ目は北東の山の山頂付近に出入口が有った。ランクはD。



「これは……また極端なダンジョンだな……」



 入っただけで、これまでのダンジョンとの違いがはっきりと判る。

 顔を、肌を焼く様な高温の熱気。身近な代表例のサウナなど比べるまでもない。

 アビリティ【環境適合】が有るから、今も冷静に状況を見て、考えられている。

 見た目には洞窟風だが、全体的に赤みを帯びる。その雰囲気からすると、ゲームでいう所のマグマ系ダンジョンだろう。その為、普通は入ったら直ぐに諦めている場面。果たして運が良いのか悪いのか。素直には喜べない辺りが悩ましい。


 ──と、気になったのは自分の服装等にも熱気の影響が及んではいない、という事。

 装備品なら耐久性が有っても不思議ではないが、普通の衣服が耐えられるとは思わない。

 ……もしかして、アビリティの効果適用範囲内に含まれているのか?

 それなら理解は出来る。

 しかし、そうなると【刻印】を施した女性()達にも効果が適用される可能性が有る。勿論、アビリティ全てが、という事ではないだろう。アビリティにも個人のみと、個人の周囲も含めて及ぶ物とが有る。その方が()を持たせられるだろうしな。


 そう思いながら、秘宝の所在で確認すると近くに反応が有り、赤い蓬の様な[ホットラ草]が四株。これは[ウォームジェル]という温暖薬に。

 ……そうか、ヒェリン草でクールジェルを作れば対応出来るのか。勉強になるな。


 隠し通路の確認をしてから下っている道を進むと見たままの[レッドスライム]が三体。Dランク。火耐性持ちで火属性攻撃と裏切らない仕様だ。

 下り切った先は煮え滾る溶岩が。多分、触れても大丈夫な気はするが、万が一の事を考えると流石に迂闊な真似はしない。


 キューブで足場を作り、進む。

 すると、天井の岩影から[レッドバット]という体長50cm程の赤蝙蝠が六体。Eランクか。


 その先で溶岩の中から飛び出して来たのは、最早御馴染みとなったアジャストカープ。だが、今回は適した配置だと言いたい。ちょっと格好良かった。体長3m程と大きかったが。


 渡り切った先に真っ暗な横穴。

 その中でルビリピアスを六つ掘り出したのだが、普通は見付けられない気がした。


 横穴を抜けると上り坂。今までとは違い大小入り混じった岩が組み合わさって出来た道は足元が悪く行く手を阻み、死角を生み易い。

 その予想通りに岩の隙間や岩影から顔を出すのはFランクの[レッドモール]が十体。足下を掘られ崩落させられない様に素早く倒す。


 その先の溶岩溜まりの前で止まり、天井を崩す。反応が有るのに、道が無かったから。崩れて出来た空洞を登り、横へ進んで行った奥で宝箱を発見。

 [炎子の秘帯]という鉢巻きの様な頭用装備品。装備者は炎や溶岩(・・)の中でも平気、と。

 ……何処かで潜る必要が有るのかぁ……。


 行きも帰りもモンスターが居ない事は不思議だが簡単には見付けられない所であり、ダンジョン環境そのものが最初で最大の難関だろうから、少し位は手を抜いてくれているのか。

 或いは、ダンジョン自体にもランクにより容量(・・)が決まっている為、配置が出来無いか、だな。

 まあ、ゲームではないし、流石に無いか。


 戻って溶岩溜まりを越えて先に進むと、上下からレッドバット五体、レッドスライム二体の挟撃を受ける。


 溶岩を挟んだ対岸に道が見える──が気になる。天井から垂れ下がっている羊歯っぽいモンスターはDランクの[レッドファーン]。2m近くは有るが植物だから威圧感は無い。残した[赤羊歯の根]が媚薬の材料なのは、どうなのか。


 ──と、対岸に渡った先で道が別れる。右の方は溶岩が見えているが下り、左は岩だらけの上りと。取り敢えず、目印(・・)を置いておく。

 島で適当に拾った20cm程の石に刻印を施す事でダンジョン内でも位置を把握する事は出来ると既に試してみて判っている。位置が判れば転移も可能。まあ、まだ実際には遣った事は無いが。

 今回は出番が有りそうだからな。

 因みに、回収しないとダンジョンに吸収される。ダンジョンが消失する際にも一緒に消失するので、大事な物では目印には出来無い。勿体無い。


 先ずは岩だらけの坂を上って行く。暫く進んだら岩影から体長30cm程の[レッドビッグラット]が七体襲って──来ずに逃げたので即座に仕留める。Fランクだが素早かった。魔素材[火鼠の毛皮]を残したが……小さいな。装備品を作るとなると数が必要になりそうだ。


 少し進むと上りは終わって下りに。その先に広い空間が有って天井にはレッドファーン。その中にはレッドバットが潜んでいた。自然なら、そういった共生関係も有り得るのかもしれないな。


 その先に進む道は無く、崩れる所も、隠し通路も見付からない──が、気付く。「さあ、潜れ!」と言われている様で嫌だが。

 ……潜ったら横穴が有り、先に進めた。

 やはり、衣服等にも影響は無い。助かるが。


 溶岩プールから上がって、岩の道を下って行く。先程から反応が有る為、探っていると崩れる所が。しかし、その先には小さな溶岩溜まりだけ。進むが思い通りに誘導されている気分になる。

 その先にも溶岩が有るが、対岸の奥に反応有り。ささっと回収しよう──と思った瞬間に、溶岩から何かが飛び出した。[ブレイジングバード]という体長は1m程だが、翼を広げれば5m近い大きさ。Dランク……ただ単に炎の中に住んでいるだけと。見た目は格好良いのに。残念。

 残した魔素材が[燃鳥の火羽]……焼鳥(・・)ではないだけいいのか。


 奥の壁を壊して採れたのは熱されている鉄の様に真っ赤な[バーンメタル]という魔素材。火属性の装備品の材料になる……ルビリピアスとは違って、此方は指定材料なのか。面白いな。


 戻って先に進むと狭い下り道の、段差が大きくて局所的に孤立する場所でレッドモールの団体さん。本当、嫌らしい配置だな。


 反応が有るので探りながら進むと天井が崩れて、上って行った先でレッドスライムの団体。

 下に溶岩が見える崖の様になっている対面の壁に生えている赤橙色の花を咲かせる[ボルメリー]が七株。火属性耐性を上げる[ファイアエイド]()の材料になる、か。

 初めて複数の用途が有る魔素材を見たな。


 ──で、崖下に降りれば、死角に横穴が。これは普通は先ず見逃すな。おおっ、ミスリルが三つも。有難う、秘宝の所在。


 戻って進んだら大きな溶岩湖に出た。対岸と左に道が見えている。マップで確認した感じだと対岸の道は目印を置いた場所と繋がっていそうだ。

 それなら、左の道に別の目印を置いてから行けば転移で此処に戻って来られるな。


 ──と考えながら、溶岩の上に足場を作って踏み出したら、溶岩湖の中央が盛り上がった。

 現れたのはDランクの[ラバーワーム]で体長は6m近く、胴は直径1m強。見た目は巨大な長虫。手足は無いが、鰭の様な物が身体の三方に見える。多分、背と、腹の左右にだろう。

 だが、何よりも初めての竜種(ドラゴン)

 それだけで興奮してしまう。


 魔石と魔素材[溶竜蟲の鰭鱗]に──[竜珠]。この竜珠は竜種(ドラゴン)からのみ得られる特殊な物らしく、


 ……戦い? ゲームバランスは大事だと思った。個人的には温ゲー(・・・)は頂けないな。


 左の道に目印を置き、対岸の道へ。

 下り坂を進むと溶岩が有って、レッドファーンが四体。他が居ないと楽だ。

 岩場に上がると直ぐに反対側にも溶岩が。天井に待機しているレッドバットの群れが見える。

 ──と、頭上の岩に違和感を覚えて調べてみると小さな突起が見えたので砕いたら、像が出て来た。左右の腕を上下に直角に曲げ、胴体は筍の様な形。筍の上側には目と口らしい丸い穴が三つ。鑑定では何も判らない。つまり、仕掛け(ギミック)関連という事だ。


 像を収納し先へ。レッドバットを掃討して進み、長い溶岩の流れる川を遡って行くと──予想通りに目印を置いた場所に。目印を回収し、ダンジョンに唯一の反応の場所へと転移。無事に成功した。

 そのまま進むと、暫くは岩場が続く。キューブや身体強化の有る自分にとっては問題の無い道だが、普通なら移動だけでも体力を大きく消耗している。道は上り下りもしているしな。


 改めて思う。ダンジョンというのは人を高みへと押し上げる為の極端で特殊な環境(シチュエーション)

 しかし、だからこそ。可能性(・・・)が拓かれる。


 そう思っている前に現れるレッドビッグラットとレッドモールの大群が。しかも、直ぐに逃げていたレッドビッグラットが攻撃的に。新たに追加された(・・・・・)情報によると他の種類のモンスターと一緒に居ると気が大きくなるらしい。人間みたいだな。


 倒して岩場の道を抜けた先には広い溶岩湖。

 姿を現すのはアジャストカープ。しかも三体も。生き生きとして見える。涙が出そうだ。


 ちょっと手元が狂った一撃が壁を崩し、その先に進んで行ったら、ブレイジングバードが二体。更に壁からは二つ目の像を発見した。


 戻って下り道を進む途中でレッドビッグラットが出て来たが──即座に散開逃亡された。面倒な。


 その先では反応が有るから壁を調べたが、結局は潜る事になった。判り辛くしてあるな。

 そして、アジャストカープと水中──溶岩中戦。しかも二体居た。視界が悪い。

 抜けた先の壁から[消炎石]が三つ。火を吸収し蓄えるという性質を持ち、それを利用して色々な物が作れる様だ。


 潜って戻ったら、浮き上がった所を攻撃された。ブレイジングバードに待ち伏せされていたが防御し返り討ちに。無意識に油断していたか。反省。


 気を引き締めて先に進むとレッドファーンが居て一緒にEランクの[レッドモンキー]が六体。体長50cm程だが器用にレッドファーンを利用しながら移動と攻撃をしてきた。

 次はラバーワームが居て、その空間の壁の一部が通り抜けに。出た先に溶岩が有ったのには悪意しか感じられない。

 バーンメタルを四つ採取して戻る。


 先に進んでいると前後からレッドビッグラットとレッドモールの混成群に挟撃される。

 反応を辿り壁を探ると隠し通路が有り、その先で宝箱を発見。[烈火の怒鎚]という大鎚で装備品と魔道具の両方の性能を持っている様だ。


 戻って進んだ先には最大の溶岩湖が。此処までで一番大きかった物の三倍は有るだろう。

 何か有りそうな予感がする通り、中央を盛り上げ姿を現したのは[ジャイアントラバーワーム]。

 胴は直径3m強、全長は判らない。蟻の牙の様に口の両端の真っ黒な顎牙は爪切りの刃を思わせる。噛まれれば容易く真っ二つになるだろう。

 ランクが判らない為、恐らくは隠しボス。出現の条件は判らないが問題ではない。重要なのは如何に手応えの有る相手かだ。


 ワームは再生能力の高さで有名だが、その通りにバラしても、くっ付けば直ぐに再生する。しかし、キューブでの隔離は出来ても回収は出来無かった。結果、ただただ千切り削っていく事に。

 まあ、顎牙と眼だけは回収が出来たが。

 宝箱には[裂炎の魔套]という真っ赤なマントと首飾りの[炎乙女の涙]が四つ入っていた。


 他に敵も居ない為、調べていたら湖の底に横穴を発見し、抜けた先の壁を壊して三つ目の像を回収。この像は隠しボスとは無関係だった様だ。


 戻って進んだ先でレッドスライムの大群に遭い、その先の溶岩湖ではブレイジングバード二体に加えラバーワームという怪獣映画の様な光景に。

 尤も、ダンジョン自体が怪獣(モンスター)の巣窟だが。


 その先の岩場を上って行くと──出口が見えた。抜けた先は遺跡型の作りに。

 ──と、周囲を見ていると上から降ってきたのは大きな丸い岩。ロックゴーレムだった。御前は金盥と同じなのか。

 倒してから改めて見ていると天井近くに固まって生えたキューリア草を発見、七株採取した。


 洞窟側とは反対の壁にも崩れた出来た穴が有り、その奥には階段が見える。

 それを上って行くと大きな扉が。だが、ボス部屋とは違うと一目見て判る。伊達にDランクを二基も攻略はしていない。

 ……違っていたら恥ずかしいがな。


 扉には鍵も掛かっておらず押したら開いた。

 その先には正面と左右に扉が一つずつ。

 入って来た扉は消え、壁になっていた。洞窟には戻れないか……いや、まだエスケープクリスタルを使えば戻れるか。使う気は無いが。


 取り敢えず、左の扉を開けて進んでみる。

 小部屋が有り、中央に鎮座する台座。鑑定しても何も判らないが……扉の先が全て同じだとすれば、あの像は此処で使うのか。

 取り出し、台座に置くと像の目と口が光る。

 …………それだけ? …………それだけの様だ。戻って、二つ目、三つ目と同じ様に像を置いたら、ダンジョンが小さく揺れた。

 戻ると、部屋の中央には[ギアゴーレム]というDランク以上のダンジョンの仕掛け(ギミック)専用モンスターが出現していた。

 金属製の装甲に歯車といった判り易いデザインは個人的には嫌いではない。


 残した魔素材[機兵の歯車]は……用途が不明。説明では“古の文明の残滓”と有るが……今は先に進むとしよう。


 三つ有った扉は消え、部屋の角に出現した通路を進んで行くと扉が。鍵は不要だったが、中に入ると勝手に閉じて消失。エリートコボルトとコボルトの混成部隊が部屋中に唐突に出現した。

 こういう出現パターンも有るのか。


 倒すと宝箱と扉が現れる。指輪[火の雫]を回収したら扉を開けて、その先へ。


 次の部屋も同じ仕様で、スイッチベアの大群が。宝箱から[魔熊の手袋]を回収、部屋の壁を壊すとダークストーンが三つ出て来た。

 扉の先に進めば、次の部屋ではハイゴブリンが。宝箱からは[蹂躙の血鬼]という脚甲が。装備してモンスターを倒す程に防御力と敏捷性が上昇する。但し、ダンジョンから一度でも出るとリセットか。キューブでの転移は、どう判定されるのか。


 その先の部屋は中央に宝箱が。罠にしか見えない仕様だったが、近付いたら四隅にハイスライムが。宝箱からは[雀の涙]という指輪が。ダンジョン内限定だが、装備しているだけで本の僅かにずつだが魔力を回復してくれる様だ。


 扉を開け、通路を進むと休憩部屋が。一方通行のタイプなので軽く食事も取る。久し振りに腕時計を見れば、午前4時を回っていた。広大だから時間が掛かるのは仕方が無いな。


 休憩部屋を出て通路を進むと角を曲がった途端に背後からロックゴーレムが。御約束だな。

 その先の部屋では、スイッチキングベアが二体。宝箱には[王威の熊衣]という熊耳付きパーカー。可愛い見た目に反してゴリゴリの近接強化装備。


 その先は部屋は無く通路が続き、ハイゴブリン、パドゥルハンズ、ロックゴーレム、ハイスライムと戦った後、ロックゴーレムが三体。止めたら中央のロックゴーレムが挟まれて砕けたのには驚いた。


 そして、ガーディアン。燃えるロックゴーレム。そんな姿をしていた。


 ボス部屋の扉を開け、入る。

 壊れた遺跡の中に溶岩の滝が流れ落ち、中央には溶岩の滝壺が有る為、見た目にも足場が少ないな。特に問題は無いが。

 その滝壺から姿を現した[パイルダーラバー]は流動する溶岩の塊に目と口、両手が有る。あの像と重なるのは偶然ではないのだろう。

 ただ、これと言った仕掛け(ギミック)は見当たらない。

 仕方無く戦っているとダメージを蓄積したのか、滝壺に沈んでしまった。

 そして、滝壺が、滝が、急速に冷えて固まった。意外な展開に身構えていると、冷え固まった滝壺が罅割れ、爆発する様に砕け散る。

 飛散する溶岩石の欠片は散弾の如く。ダメージは受けないが、瞬間的に視界を潰される。


 そんな警戒を他所に、滝壺から飛び出した何かが樹の幹の様に成った滝だった岩肌に掴まった。


 [ボルカニッククレイジーゴリラ]。体長3m程ではあるが見た目以上の威圧感が有る。筋骨隆々の武器も防具も無い見るからに肉弾戦型。

 魔法や武器を使えば容易い。だが、その姿を見て殴り合い(ステゴロ)をしたくなるのは馬鹿なんだろうな。



《特殊条件:三奉を以て帰せ》

《条件達成を確認しました》

《達成者には挑天の勲章が贈られます》


《特殊条件:巨影を討て》

《条件達成を確認しました》

《達成者には“手造之棲処”が贈られます》



 出現した二つを回収、宝箱を開け、エリクサー、闘者の勲章、[如意棒]を入手。

 魔法陣で出入口まで転移し、ダンジョンを出る。島の、それも山の上の為、外は既に空は明るくなり始めている。特に物を置いてもいないので、自宅に転移して戻り、風呂に入り、寝た。




 昼過ぎに起き、軽く食べたら島に転移する。

 取り出すのは、魔道具[手造之棲処]。見た目は直径20cm程の水晶に台座を付けた高さ30cm程の置物の様な形をしている。

 これは屋敷を自由に構築する事が出来る魔道具。魔石・魔玉と、建材となる魔素材が必要なのだが、指定は無い。正確に言えば、何であろうとも魔素に還元してから使用するので問題無い、という事。

 回収したはいいが、非食材で使い道も無い在庫を一気に処分し、構築用の魔素に還元する。

 使用可能な構築魔素値(BMP)が表示される。

 ……街等を作るゲームみたいだな。


 手造之棲処を操作し、研究所跡を整地した場所を指定し、細かく決めていく。

 先ずは大枠となる家の敷地や階数。再構築や増築というのも可能みたいなので取り敢えずは平屋で。ああ、でも地下室は作っておく。

 次は敷地に合わせて間取り等を決める。家具等は含まれないが、台所や風呂やトイレには基本設備は付属しているみたいだ。

 結構な量の規格定形(プレート)が存在し、パズルみたいに、その組み合わせで作るから面白い。

 …………温泉? え? 風呂を温泉に出来る? 必要なBMPが多いが構わない。遣ろう。

 他は寝室にトイレ、1LDKにして……地下室は自由に使うとして……これで一応は十分か。

 改めて考えると広い家というのは無駄が多いな。広いから要らない物も増えるし、片付けないから。まあ、家族が居れば考え方も違うのだろう。


 ──と、外観の設定も有ったか。窓は大きくして数は少なく、出入口は玄関だけで十分。屋根や壁は日本家屋でいいか。

 設定は以上か? ……よし、完了。


 警告の音声に従い離れると、起動する旨を告げ、光る靄の様な物が噴出され──次の瞬間には家に。どんな仕組みなのかは解らないが……凄いな。

 早速、中に入って確認してみる。温泉は無限か。汲んで売れば絶対に黒字だな。

 取り敢えず、最低限の家具だけは揃えないとな。魔道具の作製者の壺が有るから、必要な魔素材さえ集まれば大体の物は作れるが……木材系が無いな。導きの羅針盤で得られるダンジョンを探すか。

 まあ、それも明後日以降の話。今日は感覚的にも社会用に戻さなければならない。

 何しろ、殆どが常人離れした行動だったからな。このままだと悪目立ち確定。それは避けたい。




 翌日、3月15日の火曜日。

 特に服装の指定等は無いので無難な格好で行く。ジャージでもよかったが、仲間が居ないと目立つ。だから、無難な方が安心出来る。

 向かう先は冒険者を始め、魔力持ちが魔法練習に使用している専用施設。通称“魔法ドーム”。

 一般人──魔力を持たない者は入る事も出来無い特別な場所の為、出入りするだけでも人目が集まる場所だったりする。


 自宅から一番近い駅まではバギータイプの車で。魔力持ちは十三歳以上で運転免許証の取得が可能。これは一般人が入れない場所に出入りする為、移動手段・物資運搬手段として必要不可欠だからだ。

 また、バスやタクシー、電車等の交通費も全てが無料だったりする。

 何しろ、魔力持ちに頼らなければ、この世界では人類は滅亡するしかないのだから優遇されて当然。勿論、無法ではない。犯罪行為等は論外だ。



「……こうして見ると、当然でも違和感が有るな」



 街の中に居れば、魔力の有無に関わらず同じ様に生活をしている訳だが、その人々の居る景色を見て違和感を覚えるのは、別の世界を知る為だろう。

 視界の中の人々。その中に高齢者の姿は少ない。偶々ではない。この世界では、これが普通の事。


 この国の平均寿命は約六十六歳と成っているが、決して医療技術が未発達な訳ではない。ただ単純に高齢者を生かす事をしていないだけだ。

 この国の医療は魔力持ちは言うまでもない事だが一般人でも十五歳未満は基本無料。但し、風邪薬等日常的に起こり得る症状等に対する処方薬等は全額負担しなくてはならない。その為、若い者だろうと健康意識は高い。

 また、国としては労働力の確保を第一とする為、六十歳未満は国民保険が適用されて負担は三割に。逆に六十歳以上は全額負担。この辺りには働けず、人の手助けが必要な高齢者は社会負担になるだけ。だから健康で、能力の有る、働ける者以外は不要。ある意味、自然の摂理に則った社会性だ。

 その為、安楽死制度が存在し、適用されている。安楽死では保険金は出ない為、殺人事件も起きず、家庭的・社会的にも負担が大幅に軽減される。

 介護福祉という分野が不要な分、別の所に多くの人材や労働力を供給し、社会を安定させられる。

 そう考えると、以前の世界の制度が如何に矛盾し自分達の首を絞める為のものだったかが判る。

 生きているだけで害。その事実を人権という盾に隠れて避けていただけなのだと。

 本来なら、人も自然界の摂理に従うべきであり、抗うなら、相応の体格を支払うべきだろう。

 健康だからこそ、長生きが許される。

 きっと、人も、そう在るべきなのだろう。

 そんな風に考えさせられる。


 因みに、制度という意味では以前の世界と大きく違う事も多々見られる。

 例えば、学費。魔力持ちは基本的に学費は無料。しかし、病気等の正当な理由・要因以外で留年した場合には以降は全額負担となる為、努力は不可欠。一般人でも、この世界の日本では中学までは無料で高校・大学は専門学科のみで普通科は存在しない。専門技術や知識を必要としない労働者は中学までの基礎学力で十分だからだ。だから専門職は門が狭く競争率が高い。その分、確かな人材を育成する。


 例えば、農業。大規模な国営農場や水田が有り、基本的には地産地消。余剰分を国が備蓄に回したり農業用の土地面積の少ない都市部へと回したりして農業に力を入れている。

 同時に、飲食業の営業許可が厳正で簡単に始める事は出来ず、弁当や惣菜、パン等の生産・販売にも厳しい制度が設けられている。その為、この国ではフードロスの問題は考え難い。

 利に走る需要を厳しく取り締まる事で、供給とのバランスを整えている。よく考えられている。


 まあ、それもこれもダンジョンという存在による影響が有るからなのは言うまでもない。

 如何に生存率を上げ、国を保ち、安定させるか。それを考え、害悪となる要因を取り除くか。それが本来の政治の在るべき役割だと言える。


 豊かな世界、平和な社会というのは良いものだが人を腐らせ、狂わせ、陥らせ易いものでもある。

 今日明日を生きるので精一杯。

 人間という種にとっては、その位に過酷な環境の方が良いのかもしれないな。

 余計な事を考えたり、遣る余裕を生まない。

 そうなれば短絡的な犯罪行為は減らせるだろう。まあ、過酷過ぎれば奪い合い等に発展してしまう。だから、その丁度良い(・・・・)環境状態というのが無理難題ではあるのだが。

 理想を言えば、という話だ。


 そんな事を考えている内に目的地に到着。

 特設されている受付で入学──進学用申請書類と不要な返却分を渡し、受験票も兼ねた専用通行証を受け取ったら中へと入る。


 “入学試験会場”と書かれた案内の立て札の矢印に従って進んで行く。

 同じ方向に歩く者は見知った顔も少なくはない。中学までは魔力持ちも一般人と同じ学校に通う事は多いからだ。

 だから、顔見知りの魔力持ちが声を掛けてくる。そういう事も無い訳ではないが……幸いにも()には親しい友人は居なかったので楽だ。

 まあ、此方等を見て、ニヤニヤと馬鹿にしている連中が少なからず見えるが……仕方が無いか。


 魔力持ちは国から優遇される為、嫌でも目立つ。それでも、小学校や初等部を卒業するまでは全国に散らばっている事が多い。だが、中学に上がる際に余程の事情が無ければ、集められる。

 具体的に言えば、魔力持ちが通う中学校・中等部というのは国から指定されている。

 その為、一般人と一緒でも顔と名前が判る位には知り合う事になる。面倒臭い制度だが、魔力持ちは魔力持ちと関わり続ける事になる。そういった意味では「仕方が無い事だから慣れろ」という事。

 人間関係は魔法でも、どうにも為らないからな。


 ──で、そんな訳だから、固有魔法の発現者で、しかも四属性魔法に適性が無いという事は同世代の間となると知られていても可笑しくはない。

 つまり、馬鹿にされているという事だ。


 まあ、別に気にもしないがな。

 幸いなのが、魔力量の測定や感知は出来無い事。その御陰で簡単には実力はバレはしない筈だ。


 控え室で呼ばれるのを待ち、試験場に入る。

 入学の、という意味では無く、魔法の試し撃ちが許可される施設、という意味でだ。

 魔法ドーム自体が魔力持ち用の複合施設なので、試験場以外にも色々と存在する。今は無関係だが、孰れは利用する事も有るだろう。



《受験番号53番の方、どうぞ》


「MNC‐S581022、立方 晶です」



 “MNC”というのはMagic Number Codeの略で、下は生年月日。自分の場合だと正和(・・)58年10月22日を示す。

 誕生日が同じ場合は、生まれ順にAから付随するという事になっている。

 そして、このMNCは魔力持ちとしては一生物。だから忘れる事は無い。使用頻度も多いしな。



《……確認しました。それでは、これより実技試験を開始します》


「御願いします」



 管理室からモニター越しとは言え、見られている事には変わらないので気を付ける。

 室内射撃場の様な造りの中、10m程離れた所に的が立ち上がる。その的を魔法で攻撃する。

 実技試験はそれだけ。

 ただ、的の位置は様々だし、一定時間しか立っておらず、当て続けると的の大きさも小さくなるし、距離も離れていく。

 三回失敗するまで継続されるのだが、この成績の上位者から希望する入学先への優先権を得られる。だから、手を抜き過ぎると自分の首を絞める事に。その為、此処では好成績を残して置く。

 実技試験の内容が魔法による攻撃の威力よりも、攻撃可能な距離と命中精度の方が重要視されている事は好都合。まあ、威力は見ていれば判るしな。


 固有魔法の事は既に知られているから、威力さえバレなければ問題無し。その為に魔戒の呪械を装備して力を抑えているのだから。

 元は魔法の威力等を十分の一に強制的に抑え込む仕様だったが、回収した事で装備品化し、その上に刻印を施した事で機能が変化し任意に設定可能に。赤い珠一つ毎に半分に。そして、今は最大の状態。こうした方が制御・調節がし易くて丁度良いしな。威力が高過ぎるのも困りものだ。


 ──と考えていたら、ブザーが鳴った。どうやら試験場の最長射程まで行ったみたいだ。見た感じ、大体100mといった所か。制御するのは無理でも当てるだけなら余裕だな。

 普段は発射したり遠隔操作や遠距離生成、分裂と色々遣っているが、今日は掌に生成してから投擲。元々のスタイルに忠実に。それでも命中させられる程度には器用な自信は有る。カーブも掛けられる。遣り過ぎない範囲で、だけどな。


 未来では兎も角、現時点では魔力量の測定技術は確立されていない為、これで終わり。

 学科試験は無い。その程度の成績だと優遇措置は解除される為、申請書類自体を貰えないからだ。

 だから、後は他の受験者の終わりを待つだけ。

 その後、試験成績上位者から個人面談が行われて進路──入学先が確定する。


 尚、この試験を受けずに進路が確定する者も僅かではあるが存在する。

 冒険者の登録申請は満十三歳から。しかし、既に冒険者としての実績が有る人物の推薦状・保証状が有れば満十二歳での登録申請が可能。

 その為、既に冒険者としての実績が有る場合には最優先で入学希望先が確定される。

 ただ、その実績も実力が伴うものであればこそ。まあ、不正等をしても弱ければ死ぬだけだからな。そんな愚か者は今は(・・)存在しない。何事にも前例とは有るものだ。


 さて、その入学先だが魔力持ち専用なのは当然。寮完備で、国内には三ヶ所。その内の一つが近くに有り、自宅から通える。其処を希望している。

 ただ、その学校、“国立弥生学校”は三校の中で最も古く、世界最古の魔力持ちの為の学校であり、初代学園長[原初の魔女]高槻 弥生の名を冠する事も有り、希望者最多の入学先。

 だから、確実に入る為にも好成績を目指したが。結果は出てみないと判らない。

 ──とは言え、周囲の話し声に耳を傾けてみれば最後までクリア出来た者は居ない様子。全員という訳ではないにしても、可能性は高そうだ。






「それでは弥生学園への入学と成ります」

「はい、宜しく御願いします」



 試験はトップ通過となり、無事に入学が決定。

 入学案内等を受け取り、健康診断と制服の採寸を行う為に指定された場所へ。

 仕方が無いとは言え、目立ち過ぎたかとは思う。まあ、終わった事だ。気にしない様にしよう。


 制服は場所と日付の指定が有り、受け取るだけ。学費やら何やらは全て無料。いい身分だ。



「……冒険者の登録申請か……」



 トップ通過という事で、そして、歴代最高精度(・・・・・・)を記録した事で、期待されてしまった。

 登録申請自体は構わない。しかし、登録をしたら一定期間内に活動する義務が発生する。

 実力的には問題無いが……夏期休暇までは自由に動ける状態で居たいとは思う。

 その為にも動機(アリバイ)作りが必要だな。


 「実は、これが遣りたくて」と言えるのが最善。それも魔力持ちとしての意義を伴うなら最高だ。



「そうなると……コレしかないか……」



 通路の掲示板に張られた一枚のポスター。

 街中では見る事の無い魔力持ち向け専用の広告に記されている場所。その住所を頭に入れる。



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