アビリティとは
夜が明け、朝が来た。
まだ、この世界で生きる事に成って二日目だが、物凄く濃い初日だったと思う。
そんな訳で、今日も昨日に負けない一日にしよう──と思っていたら、携帯にメールが来ているのに気付いて確認する。
「“入学試験の御案内”? ……ああ、そう言えば確か、そんな制度だったな」
携帯を閉じ、机の上に有るノートパソコンを開き起動させている間に、机の引き出しを開けて中からB4サイズの封筒を取り出す。
其処には申請書類と書かれている。中を取り出し確認してみれば複数の種類の申請書が入っている。しかし、この全てが必要な訳ではない。この中から自分に必要な書類にだけ記入等をして申請する為、残りは返却する事に為っている。
使い回しではあるが、触れていたとしても指紋やDNAの悪用されたりする事は無い。それを許すと魔力持ちは反政府・反社会的な方向に傾くからだ。だから物凄く厳重に取り扱われている。
詳しくは知らないが、申請書類自体は使い回すが綺麗にはされているらしい。
書類を封筒に戻し、机の上に置くと起動している画面の見ながら新着のメールを確認する。携帯では通知するメールを送った事を報せるだけだった為、詳しい内容は此方等に。容量の問題だな。
軽く目を通すと試験の日時が記載されていた。
「3月15日の火曜日か……早いな」
今日は3月13日の日曜日。中学を卒業して直ぐという事になるが……仕方が無い。
先程の申請書類が物語る様に魔力持ちには複数の進路が提示され、その中なら優先的に通る。
逆に、それ以外は他の一般人と同様の条件だが、ある程度は優遇されてきた魔力持ちにとってみれば今更一般人と同じ扱いをされる事に不満を覚えたり感覚や価値観のズレを修正出来ずに馴染めない事や孤立してしまう場合が少なくない。
まあ、実際には、そういった問題が過去に生じた経験や経緯を踏まえた対策が講じられ、その結果が提示される複数の進路、という事になる。
だから、これ等を拒否すると一般人と同じ扱いに変わる事を選ぶという訳だ。
勿論、魔力持ちなのに、そんな選択はしないが。世の中には、そういった事に疲れたり、ストレスを感じる様になる人も居る。だから、そういう選択も仕方が無い事。個人的には勿体無いとは思うが。
ただまあ、優先されるだけで、確定ではない。
その為、実力や適性を見る入学試験や採用試験を受ける必要が有る。当然の事だが、魔力持ち専用。だから、会場や日時も限られる。選択肢が多い上に今月中には進路を決める必要が有る為、入学試験は真っ先に行われる様だ。
今の所、自分も進学するつもりなので入学試験を受けに行かなければならない。忘れない様に。
それはそれとして、まだ6時を回ったばかりだが服を着替えて家を出る。昨日とは違い、手ぶらでも大丈夫なのが地味に楽で助かる。
身体強化を最低限で使って、昨夜用意しておいたBLTサンドを取り出し、食べながら走る。
ベタな展開なら、ヒロインと出会い頭に衝突して印象最悪の後、再会する。そんな流れなのだろうが生憎と避難指定区域に立ち入る様な猛者は居ない。居たら居たで困るが、その時は本当に俺の妻として確定すると言っても過言ではないだろう。居れば、という話だが。
準備運動代わりの移動を経て、砂浜に到着。上のTシャツを脱げば準備完了。下に着て来ていたのはサーファー用のフルタイプのウェットスーツ。
本当はダイビング用の物が欲しかったが、流石に専門店に行かなければ取り扱ってはいない。自分の住んでいる場所がダイビングが盛んな地域であれば見付け易いのだろうが。生憎と住人が居なくなって久しい場所でも有る。探しても傷んでいるだろう。だから無駄な事はしなかった。
それと足元は水踏の寄靴。その見た目は紐無しの群青に黒・白の入ったスニーカーなので普段履きに使っても怪しまれないだろう。装備品の為、靴擦れする様な事も無い。
しっかりと海仕様だが、今から直ぐに島に向かうという訳ではない。その前に遣る事が有る。
アビリティ【呼吸不要】を試す事だ。
──が、それよりも先に確認する事が有る。
適当な小石を拾って軽く放り、その小石を中心にキューブを形成。するとキューブは落下し、小石はキューブの中央に浮いている。
そのキューブを手元に引き寄せ──解除。小石が掌の上に落ちる。
もう一度、小石を放り、今度は小石を閉じ込める様なイメージでキューブを形成。キューブは落下し──小石も落下する。
手元に引き寄せ、動かせばキューブの中を小石は彼方等此方等に移動する。透明な匣の中に有るかの様に外には出ないで。
「よし、ちゃんと出来てるな」
これは昨日の夜、思い付いた事。キューブで覆い移動が出来るのか、という事の検証を兼ねて、庭で試してみた事。いきなり自分で試すにはリスキーな事だから小石を使った訳だが。
今の遣り方で自分を覆うと、前者の場合は足元が浮いた状態なのに接地はしているという摩訶不思議。後者の場合にはキューブの面に直接触れる形なので動きとしては気にならない。ただ、キューブの面が境界なので、打付かるから要注意。
また、失念していたが、単純にキューブを作った場合には、その境界面は酸素も通さない。
【呼吸不要】が有った為、何とも無かったのだがウェットスーツの購入時に一瞬に買った酸素を計る機能の付いた時計の警告音が鳴って気付いた。
その御陰で大きな失敗をする前に気付けたので、結果オーライ。細かく試す切っ掛けにもなった。
その場で軽く跳び、数回深呼吸したら、水中用のゴーグルをして、海に向かって全力で跳躍。
上にではなく、前に向かって。
海面近くを飛びながら100m程、沖に出た所で着水──そのまま海面を走る。
ただ、見られては困るので直ぐに海へ飛び込み、深くへと潜って行く。額のヘッドライトを点ければ海中の様子も見える。まだ暗い海の中は神秘的で、海洋ゴミによる環境問題が起きていない事も有り、海の綺麗さでは比べるまでもない。
ゆっくりとダイビング擬きを楽しみたい所だが、目的は違う。真っ直ぐに海底を目指す。
その手段として、泳ぐのではなく、頭を下にして足裏で海水を踏み蹴る。
水踏の寄靴の効果対象は飽く迄も靴が直接触れる範囲のみである為、身体の他の場所が触れる水には何の効果も及ばない。その為、蹴った勢いのまま、斜め下に向かって跳ぶ事になる。
但し、水圧や水の抵抗等は無くなりはしない為、身体強化を使っていなければ、色々と大惨事な姿で海面に浮かぶ事になるか、そのまま沈む事になった可能性は高いと言える。
念入りにシミュレーションして、一通り問題点を洗い出し、対策をして置いて良かった。
勢いが緩んだ所で、キューブにより自分を包む。この時、頭を中心にしながら、腰までのサイズに。そして、自分の身体は通り抜ける様に設定。当然、海水は通さない様に。
キューブが形成される際、どうしても海水も中に残ってしまうが、それは収納を利用し除去。
そして、キューブを動かし、進行方向に角が向く様に調整し、前方の三面にのみ、形成後に分割した小さいキューブを張り付ける様に接合。頂点となる角から緩やかな弧を描く様に配置して準備完了。
再度、海水を蹴り──キューブを回転。
スクリュー効果で抵抗を軽減しながら加速。
其処に上乗せする様に蹴って推進力を加えると、可笑しな速度で海底に着低した。
……正直に言おう。激突して──海底を抉った。少しばかり地形が変わったが、問題は無い……筈。バレなければ責任は無い。これは不幸な事故だ。
そう自分に言い聞かせ、キューブを解除する。
当然、普通なら息苦しくなるのだが……やはり、海底でも何とも無い様だ。
地味に凄いな【呼吸不要】。しかし、それよりも個人的に驚いたのは有酸素運動を呼吸をしなくても可能にする、という事。
生物学的に、身体・生体機能的に、有り得ない。だが、実際に、それを可能としているから驚きだ。しかも、精度や威力等に支障や影響が全く出ない。反則中の反則だと言える。
呼吸の必要が無い為、切れ目が無く。
酸欠の可能性が無い為、休む必要性は極僅か。
しかも、自分は固有魔法の使い手の為、詠唱等の必要も無い為、潰しも出来無い。
少なくとも、一対一で、対人なら、敗ける要素は殆ど見当たらないと言える。
ただ、注意点も有る。
呼吸しなくても問題は無いが、水中で口を開けて声を出そうとすると体内の空気は出てしまう事と、喋ろうとしてもガボゴボ音を出すだけになる事。
昨夜、頭だけをキューブで覆い、水を入れてから試しているので判る。そして、口を開けたら自然と水が入ってしまい、吐き出さなければ飲み切れない量の水が一気に流れ込み、下手をすると自分の力で溺死するという珍事を起こす事になる。
海中では更に水圧が加わる為、迂闊に口を開ける事は自殺行為に等しいと言える為、要注意だ。
まあ、呼吸の必要が無いから窒息死等の可能性は無くなったが、意識していないと呼吸してしまう。それが普通であり、日常生活では呼吸していないと怪しまれる為、使い分けられる様にならなければ、悪目立ちする事は避けられない。
そんな事を考えながらキューブを作り、その中にコンパスを取り出し、方角を確認する。
そして、南南東に向かって水中で跳躍。
下に向かって行くのとは違い、斜め上に跳ぶと、予想通りに大して距離は出ない。此処は海中の為、水の抵抗に加え、水圧と重力の関係で上に向かって跳ぶ事は難しいのは当然だ。
まあ、筋トレをしていると思えば、大して面倒に思わないから不思議なものだ。
勿論、先程の様にキューブを使って水平に泳いで進めば速いし確実ではあるのだが。個人的には少し海中の──海に対するダンジョンの影響を知りたいという事で、歩きを選んでいる。
客観的には、月面等の軽重力下に在るかの様にも見えるかもしれないが、身体強化が無ければ疾うに押し潰されて圧死している。事実、今も感じている外圧は相当な物だ。「宇宙に行くより、深海に行く事は困難を極める」等と言われるのが判る体験だ。これだけでも以前の自分では出来無い事。改めて、異世界に来て良かったと思う。
そうは言っても、のんびりと散策する訳ではなく目的地や自分なりの予定が有る上での行動なので、ちゃんと進んではいる。
海中──河川や湖・池等も含めた水中での変化は調査はされているが、大きな変化は無い。
ダンジョン──魔素の影響を受けないから当然と言えば当然だが、世界と時代の潮流と背景が異なるからこそ、綺麗で豊かな海の状態には、それだけで感動してしまう。海洋汚染の実態を知るが故に。
──と、何事も無く試算した予定距離の三分の二まで来た所で、思わず足を止めた。
理屈の上では有り得ない事ではないが、未来でも実例は存在していなかった筈。それが今、目の前に存在しているのだから、驚くしかない。
海中ダンジョンの実在に。
これも“転ばぬ先の杖”という事だろう。
昨日の買い物の後、出掛けた序でに帰りに寄り道をして出現済みのダンジョンを鑑定してみた。
スキルに効果範囲が有るのなら、近付かなければ鑑定が出来無い様なら、仕方が無い。目立ってまで確認しようとは思わないから諦める。
だが、“視認する事で”可能であるなら。
身体強化の応用で視力を強化し、自力での望遠で見てみれば──鑑定が出来た。
そして、判った。ダンジョンのランクが。
監視下に有る三つ全てがGランクだった。
予想通りと言えば予想通りだったが、その事実に自分の実力の異常さに畏怖を覚えもする。
──が、だからと言って使わない人生を歩む事は考えられない。その為の現生なのだから。
それはそれとして。
その上で、目の前のダンジョンのランクはD。
昨日とランクは同じだが、此方等は出入口の出現しているダンジョン。小さい様で大きな違いだ。
そして、Gランクにでさえ、攻略に年月を費やす現在の社会──冒険者が、Dランクのダンジョンの存在を知っているとは考え難い。何故なら、そんな攻略不可能なダンジョンが確認されていれば、国が接触禁止指定している筈だ。
仮に、まだ冒険者としての登録申請をしていない立場では知る事が出来無い様な情報だったとしても未来の、冒険者となった彼の記憶にも無かった事は可笑しい。迂闊に近付かせない為には、その情報は世間一般への公表は禁止でも、冒険者には開示する必要性が有るのだから。
そうはなってはいない、という事から推測すると未確認か、確認されて間も無いか。
その何方等かだろうが……個人的には後者である可能性が高い様な気がする。
話を戻すが、Dランクのダンジョンというのは、そう多くは存在はしないだろう。まだ上が存在するにしても、現時点では、それは無理ゲーだ。
だが、実際にダンジョンを知った事で解った。
どんなダンジョンであろうが、攻略は可能。
そういう風に設計されている。
ただ、それが出来るだけの実力が挑む側には全く足りてはいないというだけで。
絶対に不可能な訳ではない。超高難度なだけだ。まあ、それ故に攻略が進まない訳だが。
しかし、それは言い換えればゲームではあるが、ゲームと同じではない、というだけの事。
ダンジョンはゲームの様に攻略可能な存在だが、ゲームの様に徐々に厳しく難しくなる訳ではなく、入ってみなければ判らない。
だが、挑戦し、生還し続け、探索を繰り返して、情報を集めていけば、ゲームの様に見えてくる。攻略の道筋という物が。
それなのに攻略が進まないのは、ゲームとは違いモンスターを倒しても経験は積めても、簡単に強く成れるレベルアップは存在しない。
其処が、ゲームとの大きな違いだと言える。
ダンジョンが出現し、世界が変わって100年。その間に強い魔法使い、強い冒険者を生み出そうと試行錯誤はしているが、その成果は微妙な所だ。
だが、僅かずつでも確実に前進はしている。
自分の場合、その成果──未来の恩恵が有るから遣れているとも言える。
正直な話、如何に魔力の量と純度が上がった事で固有魔法の威力や使い方が変わったとは言っても、身体強化が大前提として有る事は間違い無い。
だから、そういう意味では反則だと言われても、反論する事は出来無い。
まあ、確立されていない技術なのだから、文句を言われても盗用したといった証拠は無いのだから、問題にすら為らないが。
それはさて置き、問題は、目の前のダンジョンをどうするのか、だが……まあ、考えるまでも無い。ダンジョンが有るなら挑むだけだ。
「……何の違和感も無かったな」
ダンジョンの出入口を潜り抜け、一瞬の間を置き視界を光が染めた。然程強い光量ではないのだが、直前まで真っ暗な深海に居て頼みはヘッドライトと強化した自分の視力のみ。目が眩むのは当然だ。
ただ、予測はしていた事なので瞑っていた左目を開け、右の目蓋を閉じれば問題無い。
出た先──見えた景色は今回も自然洞窟風だが、出現している場所の影響も受けるのか、海岸の側に有る様な湿り気の有る洞窟だ。ただ、此処も照明は必要無いのは助かる。
直径7m程の半球状の空間で、先に続くのだろう下りになっている道が一つ。そして、自分が使った出入口が背後の壁に有る。
右腕を入れてみると通過し、海に──海水に触れ引き抜くと濡れている。人しか通さないという事は常識であるが……自分の固有魔法に近い。
そういった風に考えてしまうと、立方 晶という存在自体に対する疑惑も生じる為、思考放棄する。余計な事は考えず、ダンジョン攻略に集中。
──が、取り敢えずは着替える。ウェットスーツでも動けるが、それなりに高いので、探索や戦闘で損傷して直ぐに買い替える様な事態は避けたいし、目立ってしまうだろうからな。
そんな訳で、建設現場等で多く見られる作業着に着替えた。これなら損傷しても補修して着れるし、傷んでいても変に目立た無い。動き易いしな。
携帯と腕時計の時間は正常。ただ、場所が場所。携帯の電波は圏外となっている為、収納する。
それから頭の中に表示する様にイメージすれば、殆ど空白のダンジョンの地図が思い浮かぶ。
迷宮刻記に刻印を施したら実体化しない状態でも記録された情報を頭の中でも知る事が出来る様に。多少の違和感は有るが、其処は慣れれば問題無い。それよりも一手間省ける方が大きい。
昨日のダンジョンとの違いは石が彼方等此方等に転がっている事だろう……収納は出来無かった為、ダンジョンの一部なのだろう。残念。
下り道の通路の中を進むと緩やかに右に曲がる。その為、右奥が死角になる──と思っていた矢先にモンスターと遭遇。その数は十。
嫌な所には、きっちりと配置されている辺りにも設計者の意地の悪さが窺える。
幅50cm、体高30cm程の[メガクラム]という四本の触手を持つ二枚貝のGランクのモンスター。その触手を脚にして移動。居座った状態だと石等を拾って投げる、か。
成る程、だから、そういった造りな訳だ。
そう思いながら、メガクラムの投石をキューブで囲って半回転し、投げ返す。
収納は出来無いが、存在している以上、囲う事は問題無く出来る。そして、対象を中心にした場合、その物理法則は有効のままにも出来る。
その為、ひっくり返せば相手に返る事に。
殻を閉じて防御するのだろうが、投石直後の為、間に合わずに直撃する。眼だろう、小さな突起に。その為、パニクっている。
その隙に触手を奪い、本体を貝殻から剥離して、最後に切り刻んで終了。
尚、さっき気付いた事だが、識眼の指環に刻印を施した為なのか、モンスターの情報が増えていた。そして、それによるとメガクラムの身は美味しいとなっている。つまり、可食という事だ。
……色々と思う事は有るが、後回しにして進む。気にしだしたら切りが無い。
切り替えて先に進む。道は変わらず右に曲がり、地図を確認すると螺旋状になっているのが判る。
丁度一回転した所で次のモンスターと遭遇。
[クワトロシザーズクラブ]という鋏を四本持つ幅1m、体高70cm程の大蟹が三体。ランクはF。それが美味いとなれば狩るしかない。血牙の短剣で丁寧に解体して。
そのまま更に半回転分を進んだ所で通路は終わり大きな空間に出た。三日月状の地面と、それ以外の範囲を満たす水。地底湖の様な景色が有った。
──が、頭上から来る敵意に感動を邪魔されては誰だって苛立つ筈。シーリングバット十体を瞬殺。一息吐くと共に、その苛立ちも吐き出す。
因みに、改めてシーリングバットを鑑定したら、追加情報は無かった。食用でもなければ、素材的な利用価値も無い様なので瞬殺し、魔石だけを回収。時間は有限なので無駄な事はしない。
気持ちを切り替えて周囲を見回す。半径20m程有るだろう半球状の空間。だが、視認出来る限りは先に進む道が見当たらない。崩して進むか、或いは水中に道が有る可能性は考えられる。何しろ海底に有るダンジョンなのだから。そう考えると全体像は球形なのかもしれない。
──が、取り敢えず、半球状の壁の、10m程の所に生えているヒーラル草十株を採取する。
それから破壊可能、或いは通り抜け可能かを地上部分を一通り確認して、準備をしたら水の中に。
作業着のままだがズボンの裾を膝まで捲り上げて留め、キューブで濡れない様にしている。だから、濡れるのは膝からしたのみ。水踏の奇靴は濡れても速乾機能が有るので問題無し。触れている足回りも乾かしてくれる親切さが嬉しい。
陸上よりかは光量は落ちるが水中でも照明は不要なのは有難い仕様だ。
そんな水中は予想通りの地形で、其処に居たのは体長4m程の巨大魚で[アジャストカープ]という名前でDランク。ただ、錦鯉の様な美しい姿からは程遠く、虎魚の様なゴツい顔と鎧の様な鱗からして個人的には“鬼武者鯉”といった感じだ。
ただ、このアジャストカープは、Fランク以上のダンジョンにのみ存在し、各々の環境に適応して姿形や能力も変わるらしい。
Dランクのダンジョンに適応したからDランク。判り易い仕様だが……姿形は何の影響だ?
そんな事を考えている内に突進してきたので迷う事無くキューブで囲い、別のキューブで中から水を取り除いたら自分のキューブを接続し、水揚げしたアジャストカープを捌く。
此奴も美味しく頂く。
水中を見回して、[ヒェリン草]を七株も採取。これは[クールジェル]という冷却薬の材料であり水草・海藻に当たる為、採取も難しい物だ。
他には見当たらないので突貫確認をしていたら、横穴を発見。行くに決まっている。
──が、一端、水から上がる。
横穴の直径が約80cm。円形だから進めはするが大人一人がギリギリのサイズ。キューブを展開したままだと引っ掛かる。
だから、作業着からウェットスーツに着替える。水中に横穴が有る事からも、そういうコンセプトの設計だとすれば、ウェットスーツの方が動き易い。直接攻撃もし易いしな。
改めて水中に入り、開けた横穴に入る。前後から攻撃されると厄介だ──が、杞憂に終わった。
水面が見えたので浮上すると、煙突の中に居ると勘違いしそうな狭い円筒状の道が頭上に20m以上伸びている。水を軽く蹴って飛び出し、着水したら今度は頭をキューブで覆ってから、本気で跳ぶ。
天井に激突する可能性を考慮しての対策だったが減速していた所で、丁度出口に来たので手を掛けて身体を持ち上げた。
直径2m程の半球状の空間には宝箱が。隠し財宝みたいで期待してしまうのは仕方が無いだろう。
だが、先ずは鑑定…………危なかった。罠が有るタイプだったな。
しかし、罠付きか……諦めるしかないか──と、前回の探索中だったら、なっていた所だが、刻印を施した万鍵の腕輪は、その効果を拡張させた。
罠その物には無効だが、扉や宝箱等の鍵錠の有る存在に罠が仕掛けられている場合、それを解除する事が出来る様になった。
……まあ、手動で遣らなければならないから多少時間は掛かるが……………………良し、解除成功。宝箱、オープン!
「……振った訳ではないんだが……壺?」
薄汚れた、使い込まれた感の凄い高さ50cm程、最大直径30cm程の、どっしりとした形の壺。
…………いや、ちゃんと鑑定しないと──
「────はあっ!?」
思わず声が出てしまうのも仕方が無い。
そういう見た目のデザインなだけで──魔道具。それも滅茶苦茶嬉しいが滅茶苦茶ヤバイ代物。
その名も[作製者の壺]。
規定上の物に限られるが、材料と必要量の魔石が揃えば自由に色々と作れる。
良くも悪くも超弩級の絶品、間違い無しだ。
説明の中で気になるのは“必要量の魔石”という点だが……ああ、成る程。そういう仕様なのか。
此処で言う魔石は材料として必要な訳ではなく、作製に必要なエネルギー源として、という意味。
魔道具の使用に魔石を用いる事は稀にだが有る。まあ、未来ではの話になるがな。
──で、その魔石だが、ランクが存在する以上、当然ながら、全てが個数──全く同じ一つという扱いではない。
魔石はGランク品で1、Fランク品で10として換算される仕様になっている。
例えば、ある物を作製するのに、魔石が42必要となるとする。
その場合、Gランクのみなら四十二個が必要で、Fランクでなら四個とGランク二個となる。
此処で気を付けるべきポイントは、その必要量。足りないのは兎も角、超過分は戻らないし、保留も出来無いが、「まあいいか」と思うだろう。
しかし、実際には超過した場合にも動かない事。つまり、誤差無しでなければならない。
低級の魔石だと数が必要になり、上級の魔石だと調整が難しい。何しろ、必要量には丁度でなければ駄目なのだから。
つまり、上も下も必要だから色んなダンジョンに潜って攻略しなければならない、という訳だ。実に巧く出来ている。正に思う壺だな。
まあ、使わない理由も無い。だから刻印を施す。万が一にも奪われたりしない為にもな。
採取や横穴の有無を確認しながら戻る。
テンションの上がった後、水の中に入らなければならないのは何とも皮肉が利いているな。
元の場所に戻り、最初から開いていた横穴に入る──前に、残りを調べる。すると、一番底の部分が崩れ落ち、下に続く大穴が出現。
砕いた岩は落下したが、水の流れは生じないのが何とも違和感だが……ダンジョンだからな。それで納得出来てしまうから困る。
それはそれとして残りも先に調べておく。
大穴に潜った先に四角い部屋の様な空間で、底に鎮座する宝箱が見える──が、それは釣り餌の様で死角となった天井側から背後を突く魚影が。
振り向き様に鑑定すると……アジャストカープ? え? コレも同種なのか?
そう思ってしまうのも仕方が無いと思う。何しろ体長7m以上有る鰻の様な身体に針千本の様な鱗を持った顔だけは髭が立派な鯉という姿なのだから。知らないなら、戸惑わない方が可笑しいと思う。
まあ、さくっと捌いて終わりだが。
さて、宝箱は……普通に開くな。中身は魔法薬の様だが……おっ、[スタミナエイド]か。其処まで必要ではないが、貴重な物だな。
まあ、これが必要な場所、とも考えられるがな。それならそれで楽しみではある。
再び戻り、横穴へ。直径が3m程有るので戦闘も特には困らないのは助かるな。
そう思いながら泳いで進んでいると進行方向には群れている魚影が。[スカルマスクゴビー]というFランクの鯊の様な姿に名前通りの白骨兜を被って突進してくる体長30cm程の美味しい御魚が七体。今日の夕食は海鮮尽くしだな。
倒すと、屯していた場所には下に続く道が有り、潜ってみる──が、一度曲がった先で行き止まり。調べても何も無かったので戻り、少し進むと今度は真上に伸びる道が有り、進む──が、直ぐに水面に出たので見回すと20m程上った突き当たりに横に続く空間が有るのが見えたので登る。
横に進むと大きく頭上が開けた。直径20m程は有るだろう円筒状の空間。天井までは100m近く有る様に見える。当然、登ってみる。ただ、結構な広さの為、全面を確認するのには時間が掛かるのは仕方が無いだろう。
──が、その前にシーリングバットの大群を処理しないとならない。弱いが五十体も居ると面倒だ。まあ、魔石の回収だけだから楽な方だが。
上まで登ると更に横に空間が有り──その瞬間に上下四方から襲撃される。
[ニードルクラブ]という長さ20cm程の鋭利な巻き貝の殻を持つ小さなヤドカリ型だがEランク。土中に潜み、群れで一斉に突攻してくるという嫌な攻め方をしてくる。食用ではないが、貝殻は使えるみたいなので剥ぎ取り回収しておく。四十体もだと面倒臭くなるが、勿体無いしな。
奥に100m程進むと宝箱。罠が有ろうとも何の問題も無い。無かったが。
これは……[示数の答晶]?
直径15cm程の占い師の使う水晶玉そっくりな物と言うか、そのまま。使用者の問いに対して数字で答えてくれる魔道具。数字では示せない様な問いは不可能──と言うか無反応、という事らしい。
限定的だが、使い方次第だな。
来た道を戻り、大縦穴の逆側を調べながら下りる──と、壁が崩れて横穴が出現。
「……微妙に狭いな」
横幅は1m程だが、高さは40cm有るか無いか。進むなら這う事になる。ウェットスーツのままだと傷む可能性が有る為、上から作業着を着る。厚手で丈夫な実用的な服だからこそ出来る事だ。
狭い所を100m以上は進んだ先は行き止まり。勿論、終わりとは思わないので叩けば、壁が崩れ、直径3m程の半球状の空間に出た。先ず身体を軽く伸ばしてから、調べる。
見た目には何も無いが、そんな筈は無いだろう。可能性としては壁からの採取物か、モンスター。
そう思っていたら、壁から宝箱が出て来た。
「こういうのも有りか……」と思わず呟きながら調べて開けると、[エスケープクリスタル]という直径10cm程のサッカーボールの丸みを取った様な多面体の水晶で、中心には小さく輝く光が揺らめく不思議な代物。効果は……ダンジョン内に限定だがボス部屋以外なら何処からでも出入口の有る空間に転移出来る。一方通行だが、嬉し過ぎる魔道具だ。
だから、また狭い来た道を這って戻る事も苦には為らなかった。人とは現金な生き物だ。
作業着を脱ぎ、水路に戻って進むと真下に続く。水中という事も有り、底は見えない。
慎重に進んでいると、急に目の前の壁が動いた。反射的に殴り、鑑定して[ロッキーソール]というEランクだと判明。体長2m程の岩肌にそっくりな鱗を持つ巨大鮃で、岩──土属性も持っている様で破岩の黒掌が効果覿面。勿体無い事をした。
まあ、残り四体はきっちりと捌いて回収したが。土属性の魔法【ロックボール】を使ってくるのには少しだけ驚いた。無意識に魔法を使うモンスターはDランク以上だと勝手に思い込んでいた様で反省。鑑定も小まめに遣る事にしよう。
気を取り直して更に下に向かっていると壁が崩れ横穴が。入って進むと上に曲がり──行き止まり。叩こうとすると通り抜けたので警戒しながら進むと頭が抜けた瞬間に、目の前に開いた大顎が。上下にキューブを展開して防御、無防備な喉奥に分割して威力を落とした小型キューブで攻撃し、弾き飛ばす。
鑑定すると、アジャストカープだった。頭だけで1m超えなのに胴体は1mも無い。どう適応したらそうなるのか不思議過ぎる。
ささっと捌いて回収し、確認すると半径4m程の球形空間。通り抜けた場所は一方通行。
だが、採取出来る物が二種類有った。
一つは[ドゥルル藻]という海蘊みたいな海藻で加工すると…………あー……まあ、そういう材料も少なからず有るのも仕方が無いか。他の材料も必要になるが[媚薬]が作れる様だ。それが九株。
もう一つは[真珠珊瑚]という赤い珊瑚の枝先に真珠が実っている様に見える事から、そういう名が付けられている様だが、鉱物扱い。それが五つ。
他には無く、通り抜けられる箇所が有ったので、潜り抜けた先は地図で確認すれば行き止まりだった下に潜った横穴の突き当たり。
一回りする形になったので、壁が崩れた場所まで戻ると──壁が塞がっていて、崩れる様子は無し。一度しか行けない仕様の様だ。
更に下に下りると横穴が。下を見れば、漸く底が見える様になり、横に曲がっている様子。
取り敢えず、手前の横穴に入る。
進んでいくとメガクラムの群れが。二十体居ても楽勝だろうと思っていたら──泳いだ。そして殻を
閉じて突進してくる。水を吹き出して推進力にし、器用に触手で舵を切り方向転換。更に触手の先から強い光を発生させ、目眩ましをしてきた。名は体を表すか。目が眩むだけに。
別種かと思って鑑定してみるとFランクだった。どうやら、水中だと強化される様だ。そして、更に光属性の魔法【フラッシュ】を使うと。
まあ、だからと言って問題は無いが。
先に進むと下に下り、更に進むと右に曲がった。その直後に屯するクワトロシザーズクラブが七体。鑑定すると、此方等もEランクに上がっているし、脚を器用に動かして泳ぐ。魔法は使わなかったが、明らかに鋏のパワーと硬度は上がっていた。
その先の途中には上に伸びる縦穴。しかし、奥に見えているのは扉。見た目からもボス部屋ではない事から迷わず向かい、開ける。
入った先は四角い部屋になっていて、10m近い太刀魚の様な姿のアジャストカープが居た。本当に訳の判らない適応だ。
倒したが、何も無く、扉も開かず。探していると天井の中央が通り抜けられた。そのまま上に進み、横に曲がって突き当たりを探ると真下に通り抜け、倍は有る四角い部屋に出る。待ち受けていたのは、幅10mは有るマンタの様な姿に、10m近い尾を持ったアジャストカープ。もう鯉なんて居ないな。
倒したても特に無し。道を探すと底の中央に通り抜ける道が有り、進んで行くと──扉の前に出た。地図で確認すると、一回りしている。
扉が開くか確認するが──ビクともしない事から一度きりの様だ。
水路を戻り、縦穴を進む。天井──突き当たりで左右に分かれていたので取り敢えず左に行く事に。すると、進路を塞ぐ様に生い茂る海藻の森が──と思ったら鑑定した所、[ソバージュケルプ]というEランクのモンスターの群れで、立派な昆布の様に見えるのは髪であり、触手。本体は体長20cm程の岩肌に同化している根元。
綺麗に剪定して、本体を倒す。
可食部は昆布な方だけらしいので。
ただ、一体で三十~四十有り、それが十五体分。結構な量になった。
その先は結構長く泳ぐ事になり、真っ直ぐ進み、右に曲がり、上に行って突き当たりを曲がった所で待ち構えていた様に[ハンマークラブ]との遭遇。その名の通り、鋏の代わりに巨大な鎚脚を二本持つ胴体の体高が3mは有るDランクの巨蟹が四体。
このダンジョン初のDランク。警戒しながらも、楽しみになる。
……単なる重量級だったか。[巨蟹の鎚]という魔素材を一つ残したので良しとしよう。
先に進むと左右に分かれているので左へ。進んで右に曲がると行き止まり。だが、壁には真珠珊瑚が──と思ったら[サンゴモドキ]というEランクのモンスターだった。そっくりだが磯巾着だそうで、真珠に見える部分の中に目が混ざっているらしく、よく見ると動いているのが判る。
可食部も無い為、八体を瞬殺。他には何も無し。戻って反対側に進む。突き当たりが左右に分かれ、何と無く左に。意地を張っている訳ではない。
突き当たりを左に曲がって進んだ先に突き当たりだったが、殴ると砕けた。
崩れ落ちる破片の向こうから【アクアボール】を撃って来たのは、尾鰭が異常に大きな鯖っぽい姿の体長1m程のアジャストカープ。
捌いた後、その先に有った球形の空間に入ると、底に宝箱を発見。入っていたのは雫型の青い宝石の様な物が付いている首飾り[水乙女の涙]が四つ。装備者は水中での呼吸や会話が可能、と。
【呼吸不要】と何方等が良いのかは難しい所だが有って困る物ではないな。同一品とは言え、複数の装備品が入っているのも珍しいが……深く考えても答えは出ないだろうな。
切り替えて、戻って反対側へ。左に曲がった所でハンマークラブが三体。頂きますとも。
行き止まりの壁を調べると通り抜けられ、進むと下に向かい、横に曲がって……長い一本道を進む。地図で確認すると回って何処かに出る様に思える。
そんな事を考えていると、目の前に体長3m程の蝶鮫に似た姿のDランクの[オールドディープ]が二体居たので狩ると、魔素材の[古鮫の深海胆]と魔石を二つずつ残すが……前者が媚薬の材料なのは偶然とは思えなかった。
尚、可食なので残さず捌いて回収した。どうやらコラーゲンが豊富で美容と健康にも良いそうだ。
更に進んで曲がって上って曲がると突き当たりを通り抜けたら、扉の有った通路から上に上がる道の途中に出たので、そのまま上に行って後回しにした右に進むと球形の空間に出る。
何も無い──と思っていたら、後方の斜め上からカーペットの様に薄っぺらなアジャストカープが。もう何も言うまい。
天井を殴ると崩れ、赤い[マグネタイト]という掌サイズの鉱石が五つ。それを回収し、更に確認していると正面の壁に横穴を発見したので進んでみる。
すると、突き当たりには体長30cm程の黒い雲丹みたいな[ポイズンブラック]が10体。Dランクであり毒針持ちなので丁寧に処理する。
其処から上に伸びる道を上って行った先は左右に分かれているので左に。
突き当たりを上に進むと久し振りに水面が有り、半球状の空間に出た。壁にはハイポーションの材料である[キューリア草]が群生していた。採取する為に上がろう──として悪寒がしたので周囲を確認してみると──草陰に体長10cm程の海星の姿が。Dランクの[ボムスター]という自爆海星だった。キューブで隔離すると大爆発。悪意しか感じない。だが、無事に二十株も採取出来たので構わない。
戻って反対側に進み、右左左と曲がり、上に進み水面から顔を出した──瞬間にキューブで防御。
直ぐ横──3m程の所にハンマークラブが二体。陸上だからかEランクだったが、明らかに上がった瞬間を狙っていたのには驚いたが、納得もする。
此処は敵地。遊園地ではない。
悪意は常に側に在るのだから。
突き当たりを殴ると崩れ、半球状の空間が有り、中央には宝箱。問題無く開いた中には……巻物? いや、生地か。[海蜘蛛の織り布]という魔素材で耐水性・水中適応性に特化した装備品が作れると。まあ、次に備えると思う事にしよう。
戻る前に調べていたら奥の壁が通り抜けられた。一方通行なので進むしかないが、先に有った水面に入り、そのまま下に潜り横に曲がって進んで行くと崩した横穴が塞がった縦穴に出た。
地図を確認すると、都市部の下水道の様に見えて少しだけ複雑な気分になる。水は綺麗だが。
後回しにしていた縦穴の底から伸びる横路に入り直ぐにロッキーソール六体に遭遇。やはり水路だと壁等に擬態されると気付き難いな。
その先は分かれ道で、右へ。左に拘り続けていた訳ではない。
その先は直ぐに分かれ道。ただ、左は行き止まりなのが見えたので先に確認。何も無く、右へ進み、左左と曲がった所でポイズンブラックが四方八方に待機しての大歓迎。四十体も居たとは。
先に進み、右左左右と曲がったら行き止まりに。壁を調べて通り抜け──体長1m程の鮪の様な姿の超高速型のアジャストカープが御出迎え。半径4m程の球形の空間内では一番厄介なタイプだろう。
倒したら、遠くの方で何かが開く様な音がした。ボス部屋関連のギミックかもしれないな。
そう思いながら隠れた道を探し、壁を通り抜けた先を左に曲がると、行き止まりだった場所に。
地図を確認して戻り、分かれ道を反対側に──と其処で下りてきた縦穴の角──底に、積み重なった岩の欠片を発見。戻って収納出来るかを試すが無理だったのでオブジェクトと判る。そして先程の音と関係が有ると考え、確かめに行く。
すると、縦穴の上の方に新しい横穴が有ったので進んで行くと水面に。上がって確かめるが何も無く少し進むと別の水面が有り、潜って行った先の底を通り抜けると半径10mは有る球形の大空間に。
目に付く物は特に無い──と思っていた時、水に違和感を覚えてキューブで自分を囲った──直後にキューブごと弾き飛ばされ、壁に激突。自分中心の展開だった為、ダメージは無く軽い衝撃で済んだ。ただ、視界に敵の姿は見えない。
恐らくは、透明化。
まあ、水中だから遣り様は有る。
空間内に作れる最大サイズのキューブを作り出し内部の水だけを別のキューブで収納。
水中に居る相手にだから出来る力業だが、狙いは成功し、その姿が露になる。
透明だった身体が黒く変わり、魔女の尖り帽子を思わせる姿に。[ウィッチハット]という3m程の魔法を使うDランクの大海月。帽子の中から伸びる触手を使い魔法を撃ってくるが、無駄だ。包囲して返却する。四属性全ての[ボール]魔法を使うとは生意気な。触手の数が多かろうが負けはしない。
そう思いながら捌き終わると宝箱が出現。
中には[魔女の月冠]という尖り帽子の装備品と水晶で出来た様な透明な[空隠の指環]の二つが。まさか隠しボス的な存在だったのか?
少し悪い事をしたかと思いながら出口を探して、底を通り抜け、進んで行き突き当たりを通り抜けて入った横穴より下の場所に出た。
ただ、入った横穴は塞がっていた。
アジャストカープが鍵なら、直ぐ側の横路に再び入れれば周回も可能だが……無理な様だ。
素直に先に進む事にする。
縦穴を下り、分かれ道を左に進み、突き当たりを上に向かって横に進むとボムスターの群れが居た。念の為、一体ずつ隔離したが二十体も居ると面倒。だが、安全第一が爆破の基本だ。
先に行って右に曲がり、突き当たりを上に行く。行き止まりだったが、軽く叩けば破岩の黒掌により容易く崩れ落ちる。
触れても通り抜けられなかったが、破岩の黒掌の御陰で一度で両方確かめられるのは大きいな。
開いた道を真っ直ぐに上って行くと、輝く水面が視界の先に。水路を抜けると半球形の湖底に出た。その瞬間に背後から襲って来たのは、体長2m程の鼻先から全面の上下に鋭利な刃鰭を持つDランクの[スラッシュボニート]。このダンジョン内でなら最速だろう。一体だから問題は無いが。
魔石と共に[凶鰹の刃鰭]を残した。稀にだが、両方残すモンスターも居るが、初見では鑑定しても判らない。一度倒して入手すれば追加されるが。
水中を調べてから浮上。見回すと壁の天井付近に生えている[ナイトブルーム]という青い蕾の花を発見し、三株採取。満月の光を浴びると開花するとなっているが用途は不明だな。いや、それよりも、栽培が可能なのか? だとしたら常識が覆るな。
水から上がり、改めて周回を確認する。
形状は兎も角、これまでの自然洞窟風だったのが一転して人工的な遺跡風の造りに。
まだ水中に入る可能性も有る為、そのまま進むと通路を塞ぐ様に張られた蜘蛛の巣が。
嫌な振りだと思っていたら、激怒していると一目見て判る曲がった状態の脚で2mは有る巨大な蜘蛛[ディープテイラー]三体が居た。
倒すと[海蜘蛛の糸玉]を三つ残した。魔石無しというのは珍しい。これから織り布が出来る様だが流石に数が足りない様だ。
巣の糸は倒し前に回収しているので先に進む。
突き当たりを左に曲がると、少し先の右手の壁に見覚えの有る扉が。鑑定で休憩部屋だと判る。
中に入り、ウェットスーツを脱ぎ、バスタオルを取り出して身体を拭く。ダンジョンの水が海水ではなかったのは優しさだろうか。
作業着に着替えたら、前回同様に魔力を使い切り許容量の増加を行う。強制的な一休みを経てから、用意していた軽食を取る。
何だかんだで時間が掛かっているが、朝早く家を出ていた分、まだ余裕は有る。腕時計を見てみれば11時過ぎだからな。
ただ、今回は普通に時間が経つから、ゆっくりはしていられない。
休憩部屋を出て先に進むと突き当たりは分かれ、左は上り、右は下りの階段が有る。
……ダンジョンに階段が有るというだけで何故か新鮮に思えるな。
取り敢えず、左に行ってみる。階段を上って進み右に曲がると扉が有り、鍵を開け中に入ると宝箱。中には[退魔のローブ]。魔法耐性が非常に優れる反面、物理攻撃には弱いと。後衛向きだな。
来た道を戻り、下りの階段を下りて左に曲がると宙に浮かんだ──否、泳ぐ、体長30~50cm程の魚影が。鑑定して[ヴィジョンフィッシュ]というGランクのモンスターだと判る。
取り敢えず、一体捌いてみようかと血牙の短剣で攻撃したら──通り抜けた。驚きながらも反撃するヴィジョンフィッシュから距離を取り、キューブで攻撃すると簡単に消滅した。
魔石も魔素材も残らなかった為、情報を再確認。すると、“広大なる海で死んでいった魚達の無念が彷徨う影となった”との設定が。
ただ、だから物理攻撃は無効で、魔法のみ有効。何のドロップも無し、というのには納得。
だが、此方の邪魔はしてくるから倒すしかなく、魔力を消耗させられる。物理攻撃が通じないから、血牙の短剣の魔力回復効果も機能しないとなると、単なる嫌がらせでしかないな。鬱陶しい。
弱いのが唯一の救いだろうか。
それはそれとして、ダンジョンの方は曲がる事は有っても一本道。地図を確認すると、大きく回って宝箱の有った部屋に近い地下に居る事が判る。
ゲームとは違い、立体的に入り組んでいるから、迷宮刻記が有って良かったと思う。
辿り着いた扉の鍵を開ける。専用の鍵が無かった事を考えると万鍵の腕輪が有って良かった。
部屋の中央には船の舵輪を模した石像が有った。一通り調べるが他に目立つ物は無し。鑑定が無反応な事からギミックなのだろう。
そう思いながら舵輪に触れると小さく動いた。
恐らくは舵輪を回すのだろうが……どう回すか。そう考えて──地図を確認する。舵輪を握った時を正面とすると、丁度、休憩部屋から出て来た向きと重なっている。其処から、階段を下って行った様に同じ方向に回せば──舵輪が噛む手応え。
金庫のダイヤルを回して合わせる様に通った道に沿って回し続けると──音を立てて舵輪が固定され動かなくなった。多分、成功した……と思う。
部屋の中に変化は無いので戻りながら確かめていると三分の一程持った所で新しい道が開いていた。其処を進んで行くと上に上がる階段が。階を上がり更に進むと扉が有り、部屋の中には舵輪の石像が。同じ様に舵輪を回し、ギミックを動かす。
それを繰り返し、北西・北東・南東・南西と順に四つ角に配置されており、中央を避ける様に通路が有る事から、其処がボス部屋だろうと予想。
四つ目の部屋を出て戻っていると途中に扉が出現していたので中に入る。中には魔法陣が有るのみ。警戒をしながら乗ると、魔法陣は光り──収まって見えた景色に変わりはなかった……が、地図を確認すれば転移した事が判る。
魔法陣は消えているので、一方通行。扉を開け、先へと進む。ボス部屋に近付いているからなのか、ヴィジョンフィッシュの数が異常に多いな。だが、売られた喧嘩だ。きっちり殲滅して遣ろう。
そして、扉の前に到着。だが、ボス部屋の扉とは違うと判る。地図でも中央までは距離が有る。
…………ああ、ガーディアンか。納得。
扉を開けて入ると、中央に直径10m程の水面。それを見て「また水中に潜るのか?」と思った所で水面を突き破る様に飛び出してきたのは1mは有る立派な牙を持っている体長6m程の海象。
ガーディアンでDランク。しかし、生物タイプも居るとは思わなかったな。思い込みは怖いな。
そんな呑気に思うのも、空中でキューブによって固定されて身動きが取れない為。牙を始め、残らず剥ぎ取って殺るからな。
ガーディアンを倒すと奥の扉の鍵が外れる音が。さあ、いよいよ、ボス戦だ。
──と思ったら、もう一枚同じデザインの扉が。気分が下がるから止めて欲しいな……いや、これも狙いなのかもしれないな。
そんな事を考えながらボス部屋へ。
扉の先は“忘れ去られた海底神殿”という設計のテーマが窺える。砕け、崩れ、朽ちながらも美しい白亜の神殿と、頭上の水面から降り注ぐ青い陽光と白光の乱反射の水玉模様が幻想的な景色を生み出し神秘的で神聖な雰囲気を醸し出している。
正直、此処で戦うのは躊躇われる。崇め奉る者は居ないだろうにしてもだ。
まあ、向こうは気にしない様だ。
生を光とするならば、死は闇となるだろう。
そう言わんばかりに、禍々しい気配を放ちながら神殿跡の奥から這い出して来たのは漆黒の巨蛸。
見た目には、黒くて大きいだけの蛸。ただ、鑑定すればボス表示と共に[ナイトメアヴィジョン]の名が示される。
取り敢えず、先制攻撃として邪魔な脚を一本奪う──つもりだったが、血牙の短剣が通り抜ける──だけでなく、自分の身体も。体勢を崩し掛けた所に別の脚が【アクアボール】を撃ってきた為、それを防ぎながら大きく飛び退き、キューブを放つ──が通り抜けて行った。これには流石に驚くしかない。
「此奴にも何かしらのギミックが有るのか?」
そう呟きながら素早く周囲を観察する。そして、目に付いたのは八本の大柱と、部屋の中央──床が一段低くなっている場所が円形な事。
大柱を伝い流れ、円の中に水が注がれている。
満ちる事がタイムリミットなら、長くは無い。
八本の大柱を破壊し少しでも流れ込む量を抑える──いや、違う。そうじゃない。
伝い流れているという事は大柱は言わば巨大な栓という事。それを破壊すれば、一気に流れ込む筈。だが、ボスは攻撃する様子も無い。此方等に向けて魔法を撃ってくるだけだ。
……ギミックではない?
そう考えて改めてボスを観察すると、八本の脚の内側──吸盤に隠れる様にして輝く宝玉の様な物が見えた。一脚に一玉。それが弱点か?
キューブで、短剣で攻撃するが無駄だった。
他には……四色な事…………まさか、四属性?
赤・青・緑・橙は、火・水・風・土の象徴色だ。もし、この考えが正しいのなら、宝玉の色の属性、或いは対属性での攻撃が有効の筈。
固有魔法の使い手である自分には無理ゲーだった──以前のままだったらな。
アビリティ【魔素操作】は魔素を操作する技能を飛躍的に高め、深く理解する事も出来る。しかし、それでも既存の属性魔法は扱えなかった。
だが、先のウィッチハットとの戦闘で、四属性の魔素というのを理解出来た。
だから、今なら出来る。
キューブを作り、その中に火属性の魔素を生成。理解した【ファイアボール】の形成を再現する。
すると、キューブの中に燃える火球が生じる。
思わず口角が上がるが、感動している暇は無い。赤い宝玉を狙って撃ち放ち──命中。だが、無傷。再度、火属性のキューブを作り、青い宝玉を狙う。今度は宝玉が砕け散った。
ネタが判れば遣る事は単純。一気に残りの七つの宝玉も砕き切った。
──と、大柱が次々と砕け、中央の円も罅割れ、抜け落ちてしまう。其処に滝の様に水が流れ込む。気付いた時にはボスの姿は消えていた。そして、雲が掛かるかの様に空間全体が暗くなる。
警戒していると、中央の水面が揺らいだ。
次の瞬間、突き出して来たのは巨大な三叉鎗。
キューブで受け逸らし、後方に飛び退きながら、手元を狙って撃つが巨大な盾によって防がれた。
着地するのと同時に水を山の様に押し上げながら姿を現したのは巨大なアンモナイト……ああいや、ソレっぽい殻を頭に被った巨大な烏賊だった。
[バイキングスクイード]は立派な髭を生やし、殻にも立派な角を二本ずつ生やしている。
海王と海賊が掛かっているのかも知れないな。
──と、槍と盾を持つ長い腕足以外の足は魔法を撃ってくるのか。移動は……ああ、半分水中だから結構機敏に動くな。まあ、移動中は魔法を撃つ足が減るみたいだが。その程度なら問題無い。
取り敢えず、トライデントと片方の腕足を貰う。難無く出来ると、それはそれで戸惑うな。
そう思っていたら、ボスは盾を構え──殻の中に引っ込み、盾を蓋にして車輪の様になる。
そして予想通り、猛スピードで回転し、突進。
まあ、その手の攻撃は逸らし慣れているから特に焦りもせず、ハムスターの様に回して遣る。
その間に周囲を一通り調べ、何も無い事を確認。ボスを発車し、突っ込ませて止める。
顔を出した所で真っ先に盾と腕足を奪い、続いて他の足を、髭を剃り、両眼を──おっと、額に有る宝玉っぽいのも抉り取って、身体を固定したら殻を弾いて脱がして回収する。
剥き出しになった残りを解体し──戦闘終了。
そして、ダンジョンの攻略達成を告げる祝音が、大きく響き渡る。
《前人未踏の現在ダンジョンを初挑戦で一度も出ず一日以内での単独攻略の初達成を確認しました》
《達成者には“修羅の道紋”が贈られます》
《特殊条件:巨影を討て》
《条件達成を確認しました》
《達成者には“挑天の勲章”》
《特殊条件:余す事無く満たせ》
《条件達成を確認しました》
《達成者には“導きの羅針盤”が贈られます》
《Dランクダンジョン二つの攻略を確認しました》
《攻略達成者には“天職の勲章”が贈られます》