高き空へと
4月8日。今日は俺達の入学式。
夜宵ちゃん達は凜さん達が出勤時に駅まで送ってくれ、俺達は明璃さんに見送られて家を出る。
冒険者である明璃さんは基本的に自由労働だから定時の出勤等は無い。羨ましいが、その一方では急な呼び出しが有ると断れないという悩みも有る。
何方等が良いかは個々の好みだろうな。
俺達は自宅から学園までは車で通うのだが、学園の職員ではない為、駐車場から正門まで戻らなくてはならない。この辺りは学生としての線引きの為、面倒でも従う。
──で、正門から入る訳だが……視線が凄いな。
俺の左腕を取っている鞠花は超有名人。その鞠花が男と見た目にも判るイチャイチャ振り。注目されて当然か。
因みに、瑞穂と澄乃は離れた後方を歩いている。澄乃は瑞穂の後ろに隠れながら。そう簡単に人見知りは直らないという事だな。学園に来ているだけでも凄いぞー。
──等と、軽く現実逃避したくなる。
野郎共からの嫉妬が鬱陶しいのも有るが、女子達からの熱を帯びた視線が……何故だ?
「入籍したでしょう? アレで知られたのよ」
「ああ、そういう事か……」
つまり、あの鞠花が夫に選んだ男だから、と。
…………いや、それだけで向ける視線なのか?
「貴男には自覚が無いのでしょうけれど、女性から見たら
色気が凄いわよ。一目見ただけで抱かれたくなる位にね」
「…………男から見た場合に例えると?」
「そうね…………着けている意味が無い下着姿の美女?」
「それは…………何とも言えないなぁ……」
「それは単なる露出癖か痴女では?」と言いたくなるが判り易い例えではある。
そんな女性が居たら、確かに見るだろうな。
その逆、という訳か。
…………いや、それはそれで可笑しくないか?
男の場合は単なる性欲だろうが……女も同じ?
男女の違いは有っても性欲は性欲、と。
そう言われると、何も言えないな。
入学式は無事に終わった。
ただ、来賓者の代表が美咲さんだった事には驚いた。
鞠花達は全く驚いていなかったが、それは有名だから。俺は勿論、彼も疎かったからなぁ……
もう少し、世間に関心を持つ様にするか。
尚、新入生代表は首席の俺だった。これは知った時に、頭を抱えた。目立たない訳が無いから。
最初だし、穿った事や変わった事を言うのも目立つ為、無難な内容にしようとしたんだが、鞠花達からのチェックが入って修正された。
尖り過ぎていたから修正したけどな。
「近い将来、世界は俺を中心に動く事に成るだろう」と言う様な奴はヤバイと思う。
…………っ!? 言っとけば妻が増えずに済んだかっ!
くっ、真面目に振る舞うよりも、振り切った方が実際は人避けになるのか……
いやでも、それで誤解されて変なキャラ付けされるのも嫌だしなぁ……悩ましい所だ。
学園のクラス分けは成績で決まり、A~Eに分かれる。1クラス20名で、5クラス100名。此処に入った者がエリートという認識なのが一般的な常識。
その中でも俺達は最上位のAクラス。今なら、当然だと言い切れるが、入試段階の瑞穂と澄乃がどうだったのかは判らないが……まあ、高かったんだろうな。
それはいい。別のクラスになるよりは好都合だからな。
だが、何故、Aクラスに俺以外の男子生徒が居ない?
俺達を除く16人全員が女子生徒って……
鞠花、根回しとかしたのか? してない? 偶然?
……偶然なら仕方が無いか。嫌な偶然だな。
「貴女達、卒業後の進路は決めているのかしら?」
そう鞠花がクラスの女子達に話し掛ける。
既知の場合が多い為、各々に顔を見合せると、首を横に振って未定だと言う事を示す。
まあ、入学したばかりなんだから、それが普通だろう。ある程度でも、方向性が決まっている俺達が特殊なんだ。最低でも半年程は学びながら模索するものだ。
「まだ公式には決まってはいないけれど、私達の夫である晶には次代の父親としての大役が有るわ」
「おい、鞠花」
「大丈夫よ。下手に他言すれば、どうなるのか判らない程愚かな娘は此処には居ないから」
そう言って視線で「そうよね?」と問えば、まるで示し合わせたかの様に綺麗に揃った首肯を見せる。
だが、情報の漏洩は大問題だが、そういう事ではない。今、此処で、その話をする必要が有るのか、という事だ。まだ入学したばかりなんだぞ?
「だからこそよ。はっきり言って、彼女達の中に短期間で最上位の冒険者へと成れると思える者は一人も居ないわ。勿論、時間を費やせば判らないけれど、それは少なくとも十年以上は先の話になるわ」
「それはそうかもしれないが……」
「それなら、命懸けの危険な冒険者より、確実に未来へと役立った方が彼女達にとっても意義が有ると私は思うわ。勿論、無理強いはしないわよ」
数秒間、鞠花と見詰め合い──溜め息を吐いて諦める。何を言っても無駄だと察したから。
俺は大人しく席に着き、窓の外を見詰める。
「それじゃあ、話を続けるわね。当然の事だけれど次代を成す為には母親役も必要となるのは判るわよね? 私達は妻だから勿論出来る限りは産むつもりだけれど、それでも人数は足りないわ。一人でも多く優秀な次代を成す事が、世界の未来を切り開く事になるのよ。其処で考えたのが、晶との子供を産み育てる事を仕事とする、というものよ」
「……それはつまり、結婚するという事ですか?」
「血縁関係を保証するという意味では入籍は必要だけれど一緒に暮らす必要は無いわ。判り易く言えば、同じ仕事の女性だけの家で共同生活をして貰って、晶が子作りの為に通い、女性達は妊娠・出産・育児が仕事。生活は政府から支援・保証されるから心配は要らないわ」
そう鞠花が言えば、騒付く。
だが、それは「何それ、キモッ……」等の否定的な意味でではなく、「嘘っ、何その好条件っ!」という意味で。そう、殆んどが興味津々になっている。
「当然だけれど、晶との子供を産んだ後、仕事を離れたら子供の親権は晶になって、生活の支援・保証も終わりよ。遣る以上は生涯を賭けて貰わなくては困るわ。国家の政策という事になるのだから」
子供さえ成せば楽に生きられる、という訳ではない事を鞠花は忘れずに突き付ける。
まあ、普通なら、この時点で嫌煙する筈なんだけどな。何故か、全員が覚悟を決めた顔をしている。可笑しい。
「因みにだけれど、育児は政府の専門機関、或いは、他の女性に任せて兎に角、自分は人数を産む、というのも私は有りだと思っているわ」
気付けば女子達は真剣に鞠花の話を聞いている。
今日明日にでも、という事は無いだろうとは思うのだが確定路線という事は俺にも判った。
多分、この件の根回しは既に遣られているんだろうな。美咲さんも絡んでいる事だろうから。
鞠花達は兎も角、子作りが目的──使命となると、別に在学中でも構わない。しかも、ある程度の人数が固まった方が管理も遣り易い。
試験的に実行して、失敗しても、俺の妻が十六人増えるというだけだから政府も許可し易いか。
……考えれば考える程に詰んでいる状況だな。
この状況を羨ましいと思う男なんて世の中に多々居る事だろうが、俺は中心には居ても主導権は無いという事実を声を大にして言って遣りたい。
それでも嫉妬するのなら代わって遣る。但し、死ぬまで搾り取られる覚悟だけは持つ事だ。
俺だから平気なだけで、他の男なら、枯れ果てている。何しろ、サキュバスの群れを相手にする訳だからな。
まあ、現実的な事を言えば其処までの価値が他の男には無いから、有り得ない事だが。
初日という事で授業は無く、クラス担任から1時間程の説明を受けたら解散。帰宅も学園内の見学も自由。
一応は頭に入っているが、実際に確認はしておきたい。そんな訳で学園内を見学する事にしたが……
鞠花達だけではなく、クラスの女子達も一緒だ。
いや、何故、という事は無い。既に全員が、その気だと察しは付くが。認めたくはないな。
まあ、鞠花達とも仲は良い感じなので何か問題が起きる様な事は心配はしていないが。
学園内を見て回りながら思うのは、自分達が通う時間は何れ位になるのだろうか、という事。
自慢ではないが、既に俺達の実力と実績は世界一の為、学園で学ぶ事というのは限られている。常識的な事ならば学園に通わなくても身に付けられるし、学術的な面でなら鞠花に凜さん、美咲さんから学べる。
……不味い。本気で通う理由が無いな。
さて、どうするかな。このままだとクラスメイト達と子作りしに通う事に成りそうだ。
家に帰り、皆が揃ってから、その話になった。
明璃さんが「皆、通う理由無いでしょ?」と言った事で誰も何も言えなかった。
正直、もう卒業認定されても可笑しくはないしな。
勿論、そんな悪目立ちはしたくはないが……手遅れか。
鞠花達を妻にしている時点で目立つからな。
「必要なら私の方からも話を通すわよ?」
「止めて下さい」
「だけど、実際に私達が学園に通うのは体裁よね?」
「ぐっ……」
美咲さんの助力を即座に断るが、鞠花が切り返す。
この話題に関しては俺は劣勢でしかない。
ただ、反論が出来無い以上、そうなる可能性は高いか。まあ、その方が個人的にも自由に動けていいが。
注目される事を避けようとすれば、強い影響力や権力を頼る事になり、必然的に首輪が着く流れに。
……いや、それは仕方が無いか。
この社会の中で生きていく以上は。
億劫な現実から逃避する様に思考を逸らす。美咲さんが居るのは今日から月曜の朝まで励むから。
入学祝いではない……事もないか。
料理とかは用意してくれているのだから。あと、色々とプレゼントをくれた。
エログッズやコスプレ衣装が多かったが。
「ああ、そうそう。此処の周囲の所有権は全て放棄されて国が管理しているから、いつでも手に入るから」
それはつまり、鞠花が言っていた寮かマンションの様な専用施設を用意しよう、という事で。
俺の意思とは関係無く、俺の種付け生活の話が進むのは如何なものなのか。
まあ、美咲さんに手を出している時点で今更だが。
「だが、鞠花。それなら一般区域の方が良くないか?」
「将来的にはね。妊娠したら清乃宮家の関連物件を使えば済む話だから、それまでが重要になるわ。少しでも秘密を守る為には此処の方が都合が良いのよ」
「成る程な……では、周囲の家を?」
「数人ずつに分けてもいいけど……」
そう言って俺を見る鞠花。他の皆も俺を見る。
鞠花が何を言いたいのか。判ってしまうから、溜め息を吐く事しか俺には出来無かった。
「まあ、効率的にも近い方がいいか」
「──という訳だから、隣近所を買い取って、別棟として専用の家を建てたいわ」
そういう建前で、実際には俺の能力の隠蔽の為だ。
強さではなく、【掌之匣庭】のだ。
転移が出来るというのは常識を覆し、警戒を生む。
犯罪には使用しないし、真似も出来無いが、出来る事が判れば要らぬ疑いを抱かせる。
少なくとも、現時点では秘匿するべき事だ。
だから、子作り政策の試験的な相手でも、余計な情報は与えない。与えるべきではない。
そう鞠花も考えての一括管理態勢にする、という事だ。隣家の敷地に用意すれば通い易いしな。
そして、俺が半ば同意した様なものなので具体的な場所決めや建物の話を鞠花と凜さんと美咲さんが始めた。
他の面子は適材適所という事で雑談に切り替える。
「中学の方はどうだったんだ?」
そう夜宵ちゃん達に訊くと、微妙な顔をされた。
まさか、イジメられたとか?
……いや、それは無いよな。有り得ない。
「まだ私達は妻に成ってから日は浅いけど……」
「違いが判る様には成りましたから……」
「あー…………」
それは微妙な顔をする訳だ。
元々、同世代の中では国内屈指の二人だが、俺達の元で急成長しているから、更に実力の差が開く。
「クラスメイトは男の子ね」とかの意味ではなく。
今の二人にとっては全国から選ばれたクラスメイトでも中学レベルという程度になる。
実力的に離れ過ぎているし、実戦経験の有無も大きい。だから、同学年は勿論の事、上級生でさえも格下に思えるというのも仕方が無い事だろうな。
そう考えると俺達よりも深刻な状況かもしれないな。
現状──現行の規程だと飛び級って出来無いよね?
「鞠花ちゃんが出来ていない位だからね」
「有望な若手を守る為には必要な事か……」
「特例を作るにしても、その条件付けが難しいもの」
飛び級の可否を明璃さんに訊ねれば、予想通り。
鞠花でさえ、中学には3年通ったのだから飛び級自体が承認はされていないとは思ってはいた。
去年──つい、この間、卒業したばかりで規程が変わるという事は無いだろうからな。
寧ろ、鞠花の在学中に変わらなかった位だ。前の二人の実力では議論にすら成らないだろう。
「……思い切って、俺達が指導する方が良いのか?」
──と、考えながら呟いたのが失敗だった。
かなり詰まった話し合いをしていた筈の三人が、それを放置してまで俺の呟きに食い付いた。
「いや、今のは……」という言い訳も不可能。
押し切られる形で、具体的な話し合いをする事に。
本当……“口は禍の元”だな。




