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ダンジョンとは


 発見当初、第壱号基ダンジョンであるジパングはダンジョンという認識はされていなかった。

 未知の遺跡。新発見の古代文明の痕跡。

 そう思われていたし、特に可笑しな事なども何も起きてはいなかった為に無警戒だった。


 だから、人々が、社会が、世界が、ダンジョンを認識したのは、世界各地に同時に、一斉に出現したダンジョンを目の当たりにして。

 其処で先に出現したジパングの調査が行われて、内部に新たに現れた碑文から、世界中にした存在がダンジョンという事を知る。

 以降、ジパングもダンジョンと定義される。


 そんなダンジョンは出現する時に周辺の時空間(・・・)を歪める、とされている。

 予兆の感知は不可能。地震や噴火よりも厄介だ。だが、その影響範囲は非常に局所的で狭い。現在の研究・記録としては出入口を中心に直径100mが最大だとされている。災害としては小規模。寧ろ、その後の方が厄介なのだから。


 その歪みに巻き込まれてしまうと、ダンジョンの中に落ち入って(・・・・・)しまう。

 これもダンジョン災害の一つ。

 運が良ければ出入口の近くで済むが、運が悪いと奥深くに放り出される。そうなると生還は厳しい。一般人なら絶望物──と言うか、魔素中毒によって苦しみながら死ぬ事になる。

 運が良ければ(・・・・・・)、楽に死ねる事も有るが。

 それは魔力持ちにとっても他人事ではない。


 まあ、耐性の高い自分にとっては他人事だが。

 今、気にする事は其処ではない。



「……四つ目(・・・)のダンジョンか……」



 確か、記録ではダンジョンの最大密集出現の数は五つだった筈だ。そういう意味では有り得る事だ。だが、日本(国内)では三つが最多。記録更新だな。

 そんな事を考えながら、周囲を観察する。


 土で出来た自然洞窟風の通路(・・)。その途中。まるで蟻か土竜にでも為った気分だ。

 真っ直ぐに10m程続く一本道の真ん中辺りで、幸いな事に明かり(視界)は確保されている。照明が必要な場合も有るから、運が良いのか悪いのか。

 まあ、運が良い方だろうな。


 ダンジョンでの活動は時間との勝負でもある為、取り敢えず今の時間を確認しておく事にする。



「……ん? 何だ……は? 止まってる?」



 取り出した携帯の液晶の表示──秒単位での設定にしている──が止まってた。圏外なのは当然だが今の影響で壊れたのかとも思ったが、操作は可能。しかし、アプリ等も起動は出来る──が、通信(・・)する必要が有る機能は使えない。

 ポケットに入れていた腕時計を取り出して見ると此方等も動きを止めていた。

 それとは別に百均でも売っているトレーニングに使おうと持って来ていた料理用具の簡易タイマーを動かしてみると……此方等は普通に動いた。



「……という事は時の流れ(・・・・)停止(・・)してるのか?」



 そう自分で言いながらも半信半疑。そんな事例に覚えは無い。だが、そうとしか考えられない。

 携帯も時計もダンジョン外(・・・・・・)の時間を示す物。

 タイマーはダンジョン内(・・・・・・)で動かした物。

 その違いが、そのまま出ている事になる。



「……此処は未出現(・・・)のダンジョン?」



 出現したダンジョンなら、そんな事は起きない。通話こそ難しいが、携帯も時計も動き続ける。

 それはダンジョンの内外が出入口の出現によって繋がっている為。だから、同じ時の流れを共有する状態となっている。そう考える事が出来る。

 そして、今の自分の状況こそが、その証明だ。

 まだ繋がっていないから、このダンジョン内では外の時の流れから隔絶される。そう考えるなら。

 恐らくは、今の自分の寿命という面では心配する必要は無いと思える。生きてはいるが、時が進まず停滞した状態なら、歳は取らないだろうから。


 ただ、そうなると出入口を見付ける事は不可能。ダンジョンから出る方法は唯一つ。ボスを倒す事。それ以外には無い。

 都合良く出入口が出現してくれれば良いが、出現するのを待っていたら、その間に餓死するだろう。耐性が高いとは言え、完全隔離されたダンジョンの魔素の影響なんて未知でしかない。どういう影響が有るのかも判らない以上、時間が掛かる程に危険。生きる為には戦って活路を切り開くしかない。



「やれやれ……感謝をしたばかりなんだがな」



 神様に文句を言う訳ではない。寧ろ、その逆だ。こんな面白い状況に導いてくれた事に改めて感謝。それとも、参拝した御利益(・・・)なのか。

 まあ、兎に角、自分は進むだけだ。


 さて、いきなりの選択だ。一本道だが、何方等に進むのかを決めなければならない。

 スマホなら地図も描いて作れるが、この時代ではガラケーと大差の無い携帯。違いは多機能性よりも通信機能・精度が格段に高い事だろう。この辺りは社会的に必要とされる性能の違いからだな。


 改めて見ても違いらしい違いは無い。

 何かしら判断材料(ヒント)になる様な違いが有れば楽だが実物のダンジョンは優しくはない様だ。

 まあ、ユーザー向けに調整されるゲームの中とは違うのは当然なんだが。まだ自分の感覚としては、前世の影響が残っているから仕方が無い。



「…………試してみるか」



 ふと、思い付いた事。

 ゲームでは不可能であり、現実的にも遣らない。この世界の常識的にも考える者は居ない。

 両手に正立方体の魔力塊を生み出し──投げる。悩んでいた道の両端に向けて放ち──爆発。

 衝撃・爆音・土煙と生じ、自分の方にも来るが、身体強化をしていれば問題無し。

 洞窟内っぽくても、土煙は直ぐに収まる。

 ダンジョン……なんて不思議な存在なんだ。


 そんな事を考えながら確認するが、通路が壊れた様子は見られない。爆発は起きても、爆風と衝撃が来ただけで破片が飛んで来てはいなかった。内部の破壊は不可能な仕様みたいだ。


 …………逆に怪しく思うのは捻くれ過ぎか?


 そう思いながら、移動しながら通路全体を一通り爆破してみる。何も無ければ、それで構わない。



「……遣ってみるものだな」



 自分が最初に居た場所。その背後に有った通路の壁が砕けて、横穴が現れた。

 警戒し慎重に覗き込むと、小さな空間が有った。半径3m程の半球形(ドーム)状。その奥──対面の壁の中に何かが埋まっているのが見える。

 誘い罠(トラップ)の可能性も有るが──踏み込む。

 歩いてみても何も起きず、あっさりと辿り着く。直に確認してみると、壁に埋まっているのは指輪。幅1cm程の酸化して黒ずんだ銀の様な色合いの物。その表面には眼の様な模様が彫刻されているだけで宝石の類いは見当たらない。壁の中に埋まっている部分は判らないが。



「これは……“装備品(アーティファクト)”か?」



 装備品。ダンジョンからのみ発見・入手が可能な魔力持ちにしか扱えない、所謂、魔法の武具(・・・・・)

 ただ、現時点では(・・・・・)発見された装備品は唯一つ。それも破損していて実用は不可能な物だけ。

 少なくとも、記憶では(・・・・)、そうなっている。

 だから、もしこれが装備品の、実用可能な物なら歴史的な大発見となる。

 まあ、公表すれば(・・・・・)、の話だが。



「いや、“魔道具(アイテム)”の可能性も有るか……」



 魔道具。装備品とは違い戦闘能力は皆無。だが、色々と便利な機能を備えている物が多く、代表格は定番でもある[収納の小袋]や[収納の鞄]。

 ただ、指輪型の魔道具は未発見。だからと言って存在しないとは言い切れないが。


 何にしても、回収してみなければ判らない。

 判らないが…………振り向き、見回し、考える。指輪は壁に(・・)埋まっている。では、それを抜く(・・)

 距離にして約6m。しかし、天井までは中央部で3mであり、端に行く程に低くなる。実際に此処に入る時には屈む必要が有った。

 罠が仕掛けられている可能性は高い。



「だからと言って諦める気は無いがな」



 身体強化を使えば、抜いた瞬間に空間全体が崩壊しても脱出は出来る筈。

 そう考え、準備し──左手で指輪を掴み、抜くと同時に一直線に、一歩で(・・・)跳び、スライディングして入って来た穴を潜り抜ける。

 崩れ落ちる様を見る余裕は有ったが、決して楽な状況ではなかった。偶々、手札が良かっただけだ。たが、その運も実力の内。勝負は勝ってこそだ。


 元の通路に戻り、崩落して塞がった横穴を見て、一息吐いてから左手に握った指輪(成果)を見る。

 装備品であれ、魔道具であれ、指に填めて見れば効果や性能は判る。親切仕様(そういう物)だから。

 しかし、状況が状況なだけに填める事を躊躇する気持ちも有るが──遣らずに後悔はしない。



「────[識眼の指環]?」



 右手の中指に指輪を通すと、大きさは自分の指にジャストフィットする様に自動調整される。同時に頭の中に浮かんできたのが、その指輪の情報。

 装備品であり、視認した対象を【鑑定】する事で情報を得る事が出来る、と。

 試しに自分を鑑定してみると──名前を始めに、年齢・性別・種族(人間)に、装備品の[識眼の指環]と。更なる詳細を知る事が出来るみたいだが……ああ、コレは公表出来無い類いの代物だな。


 ──と、此方等に近付いてくる足音が聞こえる。

 強化されている聴覚だから捉えられる事を思うと未来の知識・技術というのは、それだけでチート。ただ、一歩間違うと自分の首を絞める事になるが。現状では、有って良かったと言える。


 魔力塊を作り、少しでも見え難いに様に壁に背を付けて寄り、その姿が見えるのを待つ。

 そして、通路の端──自分から見て右側から姿を見せると、直ぐに此方等に気付いて通路に踏み込み走り出そうとした──瞬間に、魔力塊を投げ放ち、命中して爆発する。

 次に備え、自分は投げ放ったと同時に飛び退き、距離を取ったが──その必要は無かった。



「……リアルで見るとスプラッターだな……」



 一撃で終わったが、それよりも爆発して飛び散る血肉の破片や残骸の方が気になる。

 ──が、それは目の前で淡い小さな光の粒となり虚空に融ける様に消えていった。



「今のが“モンスター”を構成する魔素か……」



 モンスター。ダンジョンや異世界の定番の存在。この世界ではダンジョンの攻略に挑む人々にとって立ちはだかる障害となる。

 生きている間は勿論、死後も死骸が暫くは残るが長くは留まらず今の様に、その痕跡を一切残さずに綺麗に消えてしまうが、これは全てのモンスターが魔素によりダンジョンが生み出した存在で、死ぬと還元(・・)される為であると考えられている。

 未だにダンジョンの事は解明されてはいないが、こうして目の当たりにすれば納得するしかない。

 モンスターが消える時の魔素の輝きが綺麗なのは人々に対する皮肉にも思えるのは……考え過ぎか。まあ、捻くれてるから仕方が無いか。


 ただ、自分達の扱う魔素とモンスターの魔素とは名称こそ同じだが、厳密には違う物だとされる。

 まあ、同じだとすると、人々にとって希望である魔力持ちとモンスターが同じ(・・)という事になるから。それでは社会的・政治的にも都合が悪い。だから、似て非なる物とされている。研究・学術的にだけは魔素という括りで扱われている。

 人の魔素は視認不可能だが、モンスターの魔素は今の様に視認が可能。その違いが理由なのに、誰も気にしないのは、そんな事情から。

 実際には詳しくは解っていない。未来でも。


 それはそれとして。

 その倒したモンスターは身長1m前後の人型で、緑色の膚に鷲鼻・ギョロ目、額に二本の小角という見た目の予想通りに鑑定(・・)で[ゴブリン]と出た。

 記憶でもダンジョンに多く見られるモンスターで最弱とされる一種だ。

 全裸だが、生殖器は無い。当然だ。モンスターは人を殺すだけで、食らったり、繁殖に利用したするといった事は無いのだから。

 モンスターという存在が自然の一部であるなら、その辺も違っていたのかもしれないが。この世界のモンスターには、そういった行動や習性は無い。


 ただ、「……こんなに弱かったか?」とも思う。一般人は勿論、魔力持ちでも初心者を一方的に殺す程度には強い存在であり、()も痛い目を見た。

 まあ、それだけ彼より今の自分の方が強いんだと言われれば、それまでだが。

 直に比較出来無い為、否定もし難いしな。


 そのゴブリンが消えた場所に小さな紫色の結晶が残っている。原石といった感じの不規則な表面で、縦2cm程、幅1cm程のラグビーボール形の物。



「これが魔石(・・)か……」



 摘まみ上げ、鑑定したので間違い無い。

 モンスターを倒す事でのみ獲られる資源(・・)

 このサイズが一番小さい物だが、これ一つでさえ売れば1万円になる。それだけの価値が有るから。だから、魔力持ちにとってダンジョンは比較的楽な一攫千金のチャンスが転がった場所だとも言える。賭け金は自分の命になるがな。


 この魔石の他にも、モンスターが稀に残す物質やダンジョンで稀に発見・採取される植物や鉱物等を纏めて魔素材(マテリアル)と総称されている。

 魔素材の中では魔石は数が多い為、安値になるが実力者にとっては確実且つ楽に稼げると事も有り、日々ダンジョンに挑みモンスターを狩る者は多く、その者を“冒険者”と呼ぶ。

 冒険者は国家資格職であり、所属等も明確にする義務が有るが、その性質上一切の税金が免除され、医療も全て無料。当然、現役時のみ(・・・・・)でだが。

 ダンジョンという場所の特性、モンスターという脅威の存在、魔素材という特殊な物を扱える企業が限られている事から違法者というのは先ず居ない。同様に国内外への密輸も不可能。

 その為、魔力持ちは殆どが必然的に冒険者となる事を目指すと言える。

 少ないが、中には冒険者と兼業する猛者も居る。自分としても、そういう形も有りだと思う。


 魔力をポケットに入れ、ゴブリンが来た方に進む事にする。モンスターが警備要員(・・・・)なら、内から外へ(・・・・・)向かうのが必然的な動きだから。


 ──が、その前に衣服のポケットを探り──飴の包み紙を見付けたので、その場に残す。

 ダンジョンは息絶えた人──生物の死骸は分解し髪の毛一つも残さずに吸収するが、人工物は吸収に時間が掛かるらしく、遺品が発見・回収される事は珍しくはない。勿論、永久に残り続けはしないし、機械や金属類の吸収は早い。モンスターが壊す姿も目撃されている為、そう遣って吸収し易くしているのかもしれない。消化(・・)機能の様に。

 飴の包み紙だど、丸一日程度は残っているという実験結果が有った筈なので、目印(・・)にはなる。

 記憶力・空間認知能力には自信が有るが、それは普段で前の話であり、ダンジョンで通用するのかは判らない。だから、遣れる事は遣っておく。

 描く物が無いから、有る物で工夫するしかないが無事に脱出出来たら、直ぐに手帳を買おうと思う。百均に有るポケットサイズのノートタイプで十分。それとビー玉も。目印に使えるので。


 ダンジョンにモンスターが居る事は当然として、どんなモンスターが居るのかは、入ってみなければ判らないというのが共通。出現頻度や数も様々で、人気の有るダンジョンはボスを倒さずに狩り場(・・・)化する事も。

 それでは本末転倒な気もするが、需要と供給は、時として大義や正論にも勝る。大人の事情(そういう事)だ。

 ただ、ゲームとは違う為、現実ではダンジョンのモンスターは無限出現(・・・・)はしない。

 広義では、ダンジョンが存在する限りは、新たに出現はするのだが、倒したら直ぐに新しく出現するという事ではない。

 そういう意味では早い者勝ち(・・・・・)でも有るが。

 基本的には、攻略中のダンジョンは国の管理下に置かれている為、無断で入る事は不可能だ。


 少し進むと、真っ直ぐに行って左に曲がる道と、右に曲がって真っ直ぐに進む道との選択に。

 違いも無いし、モンスターの姿も無い。

 自分の感覚──直感を信じて左に曲がる道へ。

 すると、曲がった先は下に向かって緩やかに下っていた。滑る感じはしないが、気は抜かない。

 何度か曲がるが一本道。迷いはしないが──再び分かれ道に来て左に。

 進んだ先には──屯するゴブリンの群れが居た。少し多目の魔力を込めた魔力塊を投げ放つと一撃で一掃出来てしまった。調子に乗らない様にしようと改めて自分に言い聞かせる。


 因みに、モンスターはゲームでのグラフィックの使い回しとは違い、各々に個体差が有る為、見れば一体一体が異なる事が判る。

 ゲームではなく現実だから当然と言えば当然だと思わなくもないが、「無駄に凝ってるな」とも思う自分が居る事も否めない。


 ゴブリン達は倒したが、道は突き当たりだった。残った六つの魔石を回収し、念の為に、通路の壁を爆破してみるが──何も無く、戻る。


 分かれ道を逆へと進むと、通路の真ん中に居座る新たなモンスターが。半透明で、薄く水色掛かった弾力が有りそうなプルプルとした動きを見せるので何と無く予想は付くが、鑑定すると[スライム]と予想通りだった。一撃で終わるが。


 この世界でのスライムはゴブリンよりも格上で、厄介なモンスターとされている。

 ゴブリンの様な生物は脳や心臓が有り、生物的な倒し方──首の骨を折ったり、失血死でも倒す事が可能だったりする。

 だが、スライムの様な所謂、魔法生物的な存在は体内に有る“魔核(コア)”を破壊するか、一撃で消し去る必要がある為、倒し難い。

 スライムは物理攻撃が効き難く、魔核まで攻撃が届き辛い為、魔法による攻撃が基本となるのだが、高威力の魔法でなければ倒し切れない事が多い為、冒険者の間では忌避されていたりする。


 寧ろ、そのスライムを一撃で軽く倒せる魔力塊を放てる自分の方が可笑しい。

 何しろ、経験も実力も実績も有る有名な冒険者も苦戦する様な相手なのだから。


 そんなスライムが消えた後に残ったのは魔石とは違って綺麗な球状の紫色の結晶──“魔玉”だ。

 直径1cm程の大きさ。魔石と同様に魔素材だが、これ一つで100万円。ゴブリンの魔石の百倍だ。それだけスライムが強く、実は稀少種(レア)なのだが。

 その差には魔玉の方が魔石よりも利用価値が高いという理由も有る。

 そして魔玉はスライムの様な魔法生物系からしか獲られない為、文字通りに一攫千金となる。

 魔法生物系は強い上に数が少ないので。


 スライムを倒して進んだ先は──行き止まり。

 八つ当たりではないが、魔力塊を投げ付けたら、壁が崩れて見覚えの有る空間が。

 奥の壁には腕輪が埋まっているのが見えたので、鑑定してみる──が無反応。部屋に入るか、近くに行かないと駄目なのか、或いは入手してからでしか出来無いのかは判らないが──諦める事は無い為、後回しでも問題は無い。



「……これ、絶対に嵌める気だったな……」



 腕輪を手に戻った所で、通路の壁に寄り掛かって一息吐く。油断していたら終わっていた。

 また天井が崩れると思っていたら──今度は床が崩れ落ちて抜けた。反応するのが一瞬遅れていたら落下するだけでなく、後追いで崩れた天井に挟まれ生き埋めで死んでいた所だった。

 悪意しか感じないが……その分、期待したい。


 見た目には鎖の様だが、実際には銀と黒の棒状の二つを縒る様にして造られているが継ぎ目は無い。地味なデザインだが、よく見れば普通ではない為、気を付ける必要は有るだろう。

 早速、鑑定してみると……[万鍵の腕輪]?

 あらゆる鍵を開ける事が出来る【開錠】の効果。ゲームだと扉や宝箱が対象か。確かダンジョンには扉も宝箱も有った筈だから役立つな。



「…………いや、待てよ。もし、この効果が外でも有効だとしたら…………駄目だ。これも秘匿だな」



 念の為、家に帰ったら確認してみるが。出来たら世界中から狙われる物になるし、悪用される事しか想像出来無いから絶対に手放せないな。

 知られたり、奪われる様な事には為らない様には気を付けるが、絶対に、というのは難しい。故に、万が一の時には処分(・・)も考えておく。


 来た道を戻り、下った坂を上ったら、もう片方の分かれ道を先に進む。

 真っ直ぐ行った先を右に曲がると下り坂が有り、新たなモンスターの[コボルト]と遭遇(エンカウント)

 身長150cm程の二足歩行の犬。耳や尾、模様に個体差は有るが、狼ではなく犬だ。レトリバー系の丸角っぽい鼻が特徴──ああいや、潰れ鼻も居た。だが、狼顔は居ない。

 そして、二足歩行だが、手足は犬のままだ。特に手は人型ではない為、物を握る事は出来無いから、武器等も持ってはいない。あと、毛が有る為、全裸というのは仕方が無い事だ。

 強さとしてはゴブリン以上、スライム以下。


 そんなコボルトが三体。今回は身体強化で倒す。殴り・蹴り、掴んで首の骨を折る。

 これでも問題無く倒せる為、魔力塊を使わずとも戦えるのは爆発の余波を考えなくて済む分、楽。

 勿論、相手や状況により使い分けるが、一先ず、確認は出来たので良しとする。


 ゴブリンよりも一回り大きい魔石を回収した後、右に進み、その先を左に上り、右に曲がって進んだ先は左右に分かれており、右は更に分かれているのが見える。


 行って戻る可能性を考えたら……左か。そう決め左の道に入り直進。右に下って左に曲がった──



「────っ!?」



 ──瞬間に、視角になっていた天井から滑空する様に向かってきた何かを躱し──追従する群れ(・・)へと魔力塊を投げ放ち、直撃は避けても衝撃で落下して動きが鈍っている所を踏み潰す。



「これが[シーリングバット]か……厄介だな」



 別名を“飛来する暗殺者”。体長は30cm程だが片翼でけでも50cmにもなる大型の真っ黒な蝙蝠。ぶら下がらず天井に張り付いて(・・・・・)待ち伏せをする為、接近するまで気付き難い上に複数の群れで居るから不意打ちされると反撃も難しくなる。

 自分の場合は、滑空するだけの距離が有った事で気付き、反応し、反撃も出来たが……身体強化無しだったら危なかったかもしれない。

 負傷すれば、治療手段が無いので。

 一応、身体強化で自己治癒力は高まるが、それは万能ではないし、必ずしも有効とも限らない。


 コボルトと同じサイズの魔石五つを回収し先に。左に上って右に曲がると、分かれ道に。左は下り、右は上っている。

 下って嫌な目に遭ったばかりなので右に上って、左に曲がって進んで、右に曲がったら、コボルトの群れが。十体を倒し魔石を回収して先に進み、右に曲がると──行き止まり。何も無く、壊れもせず。途中でも壊れなかった為、引き返すと──角を二つ曲がった所でシーリングバットに襲われた。

 さっきは居なかったので、そういう仕様(・・・・・・)だろう。そう十三個の魔石を拾いながら思う。


 戻って下っている道に。右・左右と曲がった先の分かれ道の中央にスライムが二体。さくっと倒して直進して右・左と曲がった突き当たりでゴブリンの群れに魔力塊で一発。何も無く、魔石十二個を回収したら戻って逆の道を進み、右・左と曲がった突き当たりで再びゴブリンの群れ。少し苛っとしたので威力が上がっていたのは仕方が無い。何も無いので魔石十三個を回収したら戻る。


 普通なら行き止まりが多いと辛いし苦しくなる所ではあるが、自分の場合は戦闘が楽なので其処まで疲労も不安感・焦燥感も感じない。

 勿論、問題が無い訳ではない。

 ダンジョン探索の為の用意などしてはいない為、色々と不足している。飲食物は勿論だが、直ぐ戻るつもりだったから、荷物は砂浜に置いて来ている。その中で今一番欲しいのがリュック。コンビニの袋でも構わない。兎に角、ポケットから溢れそうな量の魔石等を入れる物が欲しい。



「…………いや、待てよ……もしかしたら……」



 ふと、思い付き、足を止める。

 自分を鑑定し、詳細情報から固有魔法を見るが、名前以外は解らない。万能ではない様だ。

 だが、重要なのは其処ではない。

 固有魔法の名は【掌之匣庭(キューブ)】。

 だから、正立方体の形に縛られるのは判る。

 気になったのは()の部分。この字は()をする箱の意味してもいる。もし、箱庭の意味と隔離する(蓋をする)との意味が重なっているのだとすれば。可能(・・)な筈。

 失敗してもゴブリンの魔石一つ分なら構わない。試してみる価値は有る。


 ゴブリンの魔石を一つ右手に持ち、左手には匣を強くイメージした正立方体(キューブ)を作り出す。

 見た目には魔力塊と同じ。使った魔力も。

 念の為に身体強化をしながら左腕を前に伸ばし、其処に右手に持った魔石を入れる(・・・)様に落とす。

 すると、その中に浮く様に魔石は入った(・・・)

 心の中で、小さくガッツポーズをしながら、気を抜かずに、続けて亜空間(・・・)収納(・・)する様にイメージをすれば──魔石がキューブと共に消えた(・・・)


 本番は、此処から。


 今度は亜空間に収納した魔石を取り出す(・・・・)イメージをしながら、キューブを作り出す。



「──っ! マジかっ……」



 新しいキューブの中には魔石が浮いている。

 つまり、自分の固有魔法とは無属性の攻撃魔法に限った物ではなく、正立方体に(・・・・・)限った物。

 その範疇であれば、空間にでさえも干渉が可能。その事実を理解してしまうと、笑うしかない。

 ()が気付かなかったのは、魔力量不足か、純度の低さが原因かもしれないが……既に終わった事だ。今は自分が、この力を手にしているのだから。


 再度、亜空間に収納する。その状態で鑑定して、固有魔法の所を見ると──予想通り、追加項目が。それを意識すれば、[魔石(())]と出る。



「……G? ゴブリンの?」



 まあ、それなら判るが……気になるから試す。

 大きいキューブを作り、他の魔石も纏めて収納。それから鑑定してみると──[魔石(())]が新たに追加。

 Gが三十二個、Fが三十一個。

 Gはゴブリンだけだが、Fはシーリングバットとコボルトを合わせた数と一致する。

 そうすると、それは魔石の品質(ランク)という事に。

 魔玉を収納すれば、[魔玉(())]と出た。



「もしかして、魔石や魔玉の品質(ランク)は、モンスターの強さ(ランク)同じ(・・)なのか?」



 確かに、可笑しな事ではない。ただ、それよりも気にするべきは、モンスターのランク付けの方だ。今までは名前しか確認していなかったが、じっくり鑑定してみれば色々と判るのかもしれない──が、そうなると益々、何も書く物が無いのが……いや、携帯が有る。携帯で頑張る? 出来無くはないが、久し振り過ぎるからな……遣るしかないか。

 取り敢えず、次からは直ぐに倒さない様にして、情報も集める事にしよう。

 荷物問題も解決して身軽になった事だしな。


 テンションが上がり、足取りも軽くなる。

 ──で、上り・下りの分かれ道まで戻った所で、その二つと戻る道、三ヶ所からモンスターが来る。ゴブリンに、コボルトに、シーリングバットと。

 各々十体ずつ。苦も無く倒し、一体ずつ生かして鑑定して得た情報を携帯のメールに書き込み保存。今は送信は出来無いから。

 結果から言えば、予想通り各々にランクが有り、魔石の物と同じだった。

 序でにダンジョンの方も判るかと思って試したが無反応だった。やはり、万能ではない様だ。


 モンスターは現れず、分かれ道まで戻る。

 次は、手前の横道を残し、正面に見える上り坂を進み右に曲がる。その先で左右に分かれているので右を選ぶ──が直ぐに左右に分かれていた。再度、右を選んだら──行き止まりだった。

 爆発して振り返ったらスライムが居た。鑑定してランクはEだと判った。以上。


 戻って反対に進んで、右・左・右と曲がると行き止まり、爆発し振り返える──が何も無し。

 戻ろうと角を曲がった所で、前後からスライムに挟撃された。二体ずつ、計四体に。

 別の誰かだったら死んでいた所だな。


 戻って戻って、また反対側へ。右左左左右右左と何かのコマンドの様に進んだ先はまた行き止まり。しかし、その壁に植物が生えていた。見覚えが有る気がして鑑定してみると[ヒーラル草]と判った。

 ヒーラル草は“魔法薬(ポーション)”の原料。高く売れるし、自分が使う用に作っても良い。

 そのヒーラル草が十株も。材料として必要なのは一株でいいので半々でもいい。

 まあ、今の自分の立場だと面倒でしかないから、暫くは亜空間の中で寝かせる事になるか。

 ……劣化しないといいが。その辺りも実験をして確かめておかないとな。


 そんな事を考えながら戻っていると突然、背後で大きな落下音(・・・)がした。

 身構えながら振り向くと──



「──御約束過ぎるだろっ!」



 通路と差が無い大きさの巨岩玉が転がってくる。身体強化をしているので直ぐに逃げ出せる。

 ──が、数歩で止まり、巨岩玉に半身で対峙。

 回転速度が低い今なら。そして、身体強化を使う自分ならば。逃げ切るよりも止めるか、砕いた方が安全を確保出来る。そう考えたから。

 ……ああいや、巨岩玉の破壊は不可能みたいだ。そう鑑定で出たので。

 だが、止めれば問題は無い。

 万が一を考え、靴を履いている分、直接触れない足で蹴り止める。

 身体強化を使っていても、重さや衝撃は感じる。モンスターの方が可愛く思える。まあ、止まれば、只の邪魔な障害物……亜空間に収納出来るか?

 ──と思っていると、巨岩玉が動いた(・・・)

 飛び退きながら鑑定すると[ロックゴーレム]と出たので驚く。さっきまでとは情報が変わった事も有るが、破壊可能(・・・・)に為った事に。

 どういう仕組みかは判らないが、その巨体さ故に窮屈そうにしている。その間に情報を収集し終え、身体強化で破壊を試みる。蹴りの一撃でした。

 ()ランクと出ていたんだが……まあいいか。


 スライムの物よりも一回り大きな魔玉が残る。

 ──だけではなく、黒い革製っぽい手袋も有る。鑑定すると[破岩の黒手]という装備品で、岩石の破壊に対して非常に高い補助効果を持つ、との事。見ればナックルガード付き。親切設計だ。

 早速着けてみて──ああ良かった。識眼の指環の上からでも大丈夫みたいだ。ピッタリになるから、違和感や阻害感も無し。

 ……あれ? コレでなら、魔力塊を使わなくても壁が破壊可能かを確かめられる? 地味に凄い! そして魔力の節約にも為るから助かる。


 だから嬉しくはなるが、実際に役立つかは別で。来た道を戻り、後回しにした道を進み、右に回ると最長となる一直線。その壁を地道に叩きながら進み左、右と曲がった先は、右手は下り、正面は上り。そのまま進み、坂を上り右、右で分かれ道を右に。左右左左右と曲がったらコボルトの群れがヤンキー座りで屯していた。

 立ち上がる前に先手必勝でボコりましたけどね。久し振りにモンスターを見たので嬉しくなったのは仕方が無いと言いたい。

 魔石を十五個回収し──行き止まりの壁を殴る。すると、壁が崩れ、出て来たのは青味を帯びた銀の原石っぽい金属塊。もう少し青が強ければガンメタみたいで良いのに。そう思いながら鑑定してみると出たのは[ミスリル]という結果。

 今は深くは考えず、亜空間に収納する。念の為、他には無いかを確認するが、それ一つだけ。いや、一つでも凄いんだけどな。


 戻って分かれ道を反対側へ。右左左右と曲がった所でシーリングバットの群れに。ささっと倒して、魔石十個を回収。

 そして、右手奥には()を発見。

 ボスが居る場所には扉が有るらしいので、期待が膨らみます。……あれ? 開かない? ボス部屋は鍵とか掛かっていない筈……此処は違うのか。

 少しガッカリしながら、万鍵の腕輪で開錠。扉を開けてみると──鎮座する宝箱(・・)が有った。


 焦らず慌てず急がずに鑑定……良し、罠は無い。近付いて手を掛けると……開く!



「…………鍵?」



 入っていたのは[ハイポーション]と鍵が一本。鍵は鑑定しても[鍵]としか出ない。その事から、ダンジョン内で使用する物だろうと判断し、収納。

 引き返していると、目の前の横壁が崩れ──ずに手足となり、ロックゴーレムが出現。振り向いたら後ろにも。まあ、ロック()だから、楽勝だったがな。今回は魔玉だけ。ただ、あの手の罠を無力化すればモンスターに変わり、貴重な逸品を入手出来る事が判ったのは大きな成果だと言える。


 特にモンスターも出ずに分かれ道に戻り、左手の坂を下り、左右と曲がり、その先の右の曲がり角の手前で初見のモンスターに遭遇。

 [スイッチベア]という名らしく、温厚・獰猛の二面性を持ち、攻撃を受ける事で切り替わる特性でスライムと同じEランク。ただ、彼が知る限りでは未発見の可能性が有る為、好奇心が疼く。

 その獰猛さも気にはなるが、先ずは身体強化した一撃で倒せるのかを確認する。一撃だった。

 シーリングバットの倍は有る魔石を回収しながら思うのは、G<F<Eとサイズが大きくなり、その比率が1:2:4という感じな事。もしDランクの魔石がGランクの八倍相当なら、そういう規則性が有る事になるのだが……彼の知る未来では、そんな話は無かった筈だ。勿論、彼が知らないだけだった可能性は否定出来無いが。



「……未出現だから、か」



 その可能性も考えられる。だから、現状で結論を出す事は難しい。

 だから、切り替えて前に進む。

 角を曲がり、右左右左右と曲がりながら進むと、突き当たりに再びスイッチベアが居た──が今度は獰猛な状態だった様で、此方を認識した瞬間に涎を滴ながら飢えた獣の如く突進して来る。三体が。

 まあ、何処ぞの三連星の様な連携などは出来ず、御互いが邪魔し合う有り様。今回は魔力塊を試す。おおっ! 初めて一撃では倒れなかった──いや、それは二体の後ろに居た一体だけだった。やはり、無属性が故に相性での威力変動が無いから強いな。今の魔力量と純度が有ってこそだが。

 魔石を回収し、左右に分かれた突き当たりは左に行ってみる。左右と曲がると扉を発見──するが、開かない。此処も違ったか。

 そう思いながら開錠して入ると此処にも宝箱が。鑑定すると鍵が掛かっており──そのまま開こうとすると爆発する罠が。危なっ!

 開錠し、更に鑑定で安全か否かを確認してから、開くと[身代わりの勾玉]と鍵が一本。鍵は同様の物。

 翡翠色のオーソドックスな勾玉に紐を通した形の身代わりの勾玉は、その名の通りに装備者が受ける一定以上の負傷(ダメージ)を肩代わりしてくれる。

 その代償として砕けてしまうが。

 一度限りの物だが、その有無が生死を分ける事は言うまでもない。だから、滅茶苦茶高価だ。只し、ダンジョン内でしか効果が無いので要注意。過去に勘違いした者が死を以て実証済みである。


 戻って反対に真っ直ぐに進んだ角を右に上った。扉が有り──開いた。

 緊張しながらも、昂る興奮を覚えながら開けると其処は小部屋だった。

 縦横5m程、高さ3m程の広さで、中央には光る魔法陣が有る。



「これが“休憩部屋(セーフ・ルーム)”か」



 ある程度の規模以上のダンジョン内には必ず一つ以上は存在している御助けシステム。

 一度切りだが、疲労や負傷、消耗した魔力までも完全回復してくれる。しかもモンスターは入れない仕様なので、魔法陣が無くなっても“安地”として冒険者には利用される場所だ。

 まあ、今回の場合は次は無い為、気にせず使う事にする。またまだ戦えるが、油断はしない。

 位置的にもボス部屋を見付けてから戻って来て、というのは難しそうでもある。


 ──と思いながら、足を止める。

 別に罠を疑った、という訳ではない。

 この魔法陣は完全回復(・・・・)してくれる。

 その特性を利用すれば、色々と試せる絶好機だ。何も考えず安易に使ってしまうのは勿体無い。

 ただ、万が一が有る。未出現のダンジョンの為、一度外に出てしまうと中に入れない場合や魔法陣が消えている可能性も考えられる。

 その為、部屋の中で行う事にする。


 先ず試してみるのは、キューブの応用。

 攻撃でもなく、収納でもない。その場に固定(・・・・・・)する事が出来るか否か。

 腰の高さに一辺30cmのキューブを作る。成功。その状態で、そっと指先で触れてみる……大丈夫。爆発もしないし、しっかりと固い(・・)。そのままにして少し下がり──飛び乗る。



「……これは凄いな……」



 自分が乗っても全く動かないキューブ。その場に完全に固定されている様だ。

 少し離れ、高さを上げた位置に新しいキューブを作り出しても足下のキューブは消えず、新しい方に乗り移る事も出来た。

 其処で最初のキューブを解除(消す)と──成功。

 キューブの空間固定は可能で、自在。同時作成の限界数は有るかもしれないが、それは後回し。


 キューブから降り、そのままにして。次の実験。魔力塊のキューブを作り、遠隔操作が可能か試す。散策から戻ったら遣るつもりで、ダンジョン内では今の今まで忘れていた。もっと早く試していれば、戦闘の幅も拡がっていたのだが……まあいい。

 最小限のキューブを作り、魔法陣には近付かない様に意識しながら壁沿いに対面の位置にまで誘導。問題無く出来たら速度を上げ、数周回。

 確認したら手元に戻し、残していた空間固定したキューブの内側に立つ。そして魔力塊のキューブを壁側から回り込ませて──当てる。当然、爆発。

 だが、空間固定したキューブが相殺(・・)した事により自分に爆発の衝撃は届かなかった。

 今度は倍の魔力量で空間固定のキューブを作り、最小限の魔力塊のキューブを当てると──残存。

 これで防御(・・)手段も確立出来た。


 本当は、魔力塊の威力上昇も試したいが、流石に密室で遣る事ではない。今は自重する。


 次に試すのは、属性の付与(・・・・・)

 キューブの中(・・・・・・)になら、【ファイア】等を発現する事が出来るのではないか?

 そう考えたが──現実は甘くはなかった。まあ、よくよく考えてみれば、自分自身が使う以上、その根本的な部分は変わりはしないのだから当然か。


 気を取り直して次を試す。

 キューブを分割する事は出来る。サイズの変更も可能だ。では、圧縮(・・)は、どうなのか。

 最小限の魔力で空間固定のキューブを二つ作り、同じ魔力量で30cmのキューブを作る。それを掌の中に握り込む様なイメージで20cmに圧縮すると、一回り縮小。更に一回り縮小して通常サイズに。

 もう一つ30cmのキューブを作って、その二つを空間固定のキューブに当てると相殺する。

 今度は、三倍の魔力量で通常サイズの空間固定のキューブを作り、更に自分との間に五倍の魔力量で30cmのキューブを作り壁の様に並べる。

 それから四倍の魔力量の通常サイズのキューブを作って、回り込ませて三倍のキューブに当てると、予想通りに貫通(・・)し、キューブの壁に届く。


 今度は三倍の30cmのキューブを設置し、三倍の通常サイズのキューブを作って投げると──貫通。つまり、同じ魔力量でもサイズによっては強度等は変わるという事だ。


 圧縮という事で、もう一つ。

 最小限の魔力で20cmのキューブを作り、固定。それを内包する形で同量の30cmのキューブを作り一気に10cmまで圧縮する──が途中で相殺した。同じ事を外側の魔力量を倍にして遣ると──内側のキューブが砕けて、外側のキューブは圧縮に成功。圧縮するキューブの方が強ければ、圧縮は出来る。つまり、圧壊(・・)圧殺(・・)は可能と。


 次にモンスターと遭遇したら一通り試そう。


 さて、実験としては取り敢えず次が最後になる。現状、自分の魔力が尽きる気がしない。だがそれは魔力量を純度が補っているから。だから少ない量でキューブも身体強化も高い効果を発揮している。

 ただ、魔力量は調節が出来ても、純度に関しては調節は出来る気がしない──と言うか、把握ですら不可能だと言える。鑑定でも解らないしな。


 だから、自分の魔力量は知っておきたい。

 その為に、キューブの消去(・・)を利用する。

 魔力を込めたキューブは消去すれば、何の影響も出す事無く、消耗だけ(・・・・)する事が出来る。

 実用面的には無意味だが、それも使い方次第だ。アイデアにより役立てられる事も有る。


 暴発の可能は無いとは思うが……念の為、十重のキューブを作って固定する。一番内側のキューブで通常の十倍の魔力を込めて、外に向かって二倍ずつ上げてある。その最内に、通常サイズのキューブを魔力を込めに込めて作り出す。


 深呼吸し、魔力量を注ぎながら集中させてゆく。通常の十倍を基本値として、何れ位を注げるか。

 地味だが、魔力切れの兆候が出るまででいい。

 大体、七割を消耗した辺りから、倦怠感を覚えるという話だから、それで大凡の計算は出来る。

 折角、魔法陣という便利な物が有るのだからな。多少の無茶が出来るのも大きいと言える。



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