鎚を打つが如く
[スタチュー・ナイツ]という名の石像騎士団が遺跡中で動き出し、襲ってきたが、特に苦も無し。鞠花達は容易く倒していた。俺だとワンパンで倒す事が出来た位だったからな。
まあ、俺が剣等の武器や盾を奪ったのも有るが、明らかに三人の実力が鍛練の時の印象よりも高い。まだジョブも得ていないのにな。何故だ?
ただ、Eランクのダンジョンの中ボスにしては、一体ずつは弱い。Fランク位だろう。瑞穂と鞠花は当然として澄乃が一対一で戦えたからな。土属性は勿論としても苦手な筈の風属性は効き難かったが、水属性と火属性の熱割れには滅茶苦茶弱かった為、一方的に為り過ぎた。百八体も居たのにな。
だが、隠れたり、逃げたりするのも居たが全部を見付け出して全滅させた事で真の中ボスだと思しき一回り大きな[スタチュー・ハイナイト]が出現。倒したら宝箱が出現した。
中には腕輪の[月影の微笑]が。装備者が魔力を消費すると総量の1%分を回復する。微々たる量と思うだろうが地味だが、その効果は侮れはしない。澄乃が装備する事に。
洞窟を抜け、視界の前に広がる緑が眼に優しい。自然の風景というのは素晴らしい癒し効果だろう。それは「人もまた、自然の一部である」という事を示しているのだろうな。
そんな事を考えながら、一番近い反応を目指すと違和感しかない存在が目の前に現れた。
「……これ、建物よね? 穀物の貯蔵庫かしら?」
「いや、一軒家でも可笑しくはないと思うが?」
「そうなの?」
瑞穂と御嬢様な会話をする鞠花。
ただ、それも決して的外れという訳ではない。
縦横6m程の広さに高さ4m弱の煉瓦とセメントらしき素材で出来た箱型の建物が有る。
屋根が平らな事から見ても、雨等が降る事は全く考慮されてはいない。まあ、ダンジョン内で天候の心配をする事の方が非常識だろうが。
その建物には窓は見えず、ドアが一つ。
近付き、ぐるっと見て回ったが、収穫は無し。
鑑定しても無反応だった。
ただ、心当たりが無いという訳ではない。
「……コレが此処の休憩部屋なのか?」
「え? コレが?」
「……こういう物なのか?」
「いや、他のダンジョンでは通路等に出入口の扉が有るだけで、こんな風に独立してはいなかったな。ただ、此処の様な場合、こういった仕様になるのも判らない訳ではない」
「休憩部屋の位置はダンジョンの後半が多いけれど前半に無い訳でもないから、決まってはいないわ。だから、こういう形の場合も有り得るわね」
「何にしても確認すれば判る事だ」
そう言ってドアを開けて見れば、部屋の中央には見覚えの有る魔法陣。右側には流れ出ている水瓶。見慣れた休憩部屋の特徴が揃っていた。中の広さも馴染みが有る。
魔法陣には入らない様に注意をして、中に。
ドアを閉めれば安全地帯となる為、瑞穂と澄乃が大きく息を吐き、一度気を緩める。
鞠花はコップに水を汲み、二人に手渡す。
俺は部屋の壁を一通り調べる。何も無かったが、初めての事だから確認だけはしておく。
「一休みしたら試すのよね?」
「ああ。ただ、万が一、俺の考えが外れていた時の事を想定して、最初に魔法陣に入るのは瑞穂だ」
「……本当に私で良いのか?」
「以前よりは増加しているとは言え、瑞穂の場合は固有魔法の特性上、魔力量は多い程良いからな」
「私と澄乃は今直ぐに量を必要とはしていないから貴女が優先的に魔力量を増やすべきだもの」
「勿論、外れていたらの話だ。間違っていなければ全員が魔力量を増やせるから気にするな」
「……判った」
──という話をしていたが、杞憂に終わった。
【編成】と【刻印】の効果で俺達全員が魔法陣に乗るまで効果は発動せず、揃って増量・全快。
ただ、何故、この状況で欲しくなるのか。後半に備えて食事と昼寝をする所ではないのか?
「晶エナジーの補給は大事よ。ねぇ?」
「……は、はい、大事です!」
「……まあ、大事だな、大事だ」
そう言って押し切られた。だが、六回、九回だと縁起が悪いからと十二回もするのはどうなんだ? 一人一回の三回で良かったのでは?
……求めてくれるのは嬉しいから仕方が無いか。
結局、食事も昼寝もしてから休憩部屋を出た。
まあ、目的は果たせたから問題は無い。
事前に一気に魔力を消費する為の方法は教えて、実際に試してもいたからスムーズだった。
ただ、その遣り方を見たら鞠花が「反則技ね」と呆れていたのが印象的だったな。立場が逆なら俺も同じ様に思うだろうがな。
──とは言え、鞠花と澄乃は兎も角、瑞穂は固有魔法の関係で周囲に影響を出さずに魔力を消費するというのは意外と難しいのだが、俺のキューブなら容易く可能にする。
だからこその、鞠花の一言だった訳だが。
俺が魔力を消費している所を目の当たりにしたら三人の視線が熱を帯びるのは可笑しいと思う。
気を取り直して。
攻略ペースが早いからいいが、普通は活動時間も考えるべきなんだがな。
あんな事を休憩部屋で遣る者は居ないと思う。
ただ、一度遣ったからには今後も遣るのだろう。止めようとする者は一人も居ないだろうから。
休憩部屋から一番近い反応はヒーラル草が十株。マップを埋める様に進むと、大きな岩山が見えた。その頂上に反応が有った為、俺が単独で採取に。
岩石を集めて積み重ねて巣を作る、という設定のEランクの[パイルコンドル]の群れが居たが。
その巣に生える水晶の花[クリスタルリリー]を山頂にて三株採取。傷付いたらパイルコンドル達が回復の為に食べてしまうらしい。
その岩山の南に広がる湖の最南端の湖底から奥に延びている水中洞窟の最奥部でアジャストカープを倒し、宝箱を発見。
[餓狼の闘肢]という手脚甲で、セット物の為、瑞穂が装備。防御力よりも、敏捷性が上がる効果が俺達としては魅力的だ。当たらなければ防御力など無くてもいい訳だからな。
壁に沿いながら進み、湖の東に有った隔離された大地の北の草丘で、スタミナエイド等の材料となる蛇の様な形をした植物で蛇の舌そっくりの真っ赤な花弁を持つ[ハブラフブ草]六株を採取。
更に、その南東の地下洞窟の奥では、ミスリルを七つも採取した。
だから、アジャストカープよ、配置先は選べ。
鞠花達に袋叩きにされる姿を見ながら、心の中でそう思わずにはいられなかった。
マップも殆ど埋り、あと少し──という所で壁の一角が通り抜けた。まあ、壁の向こうに反応が有る以上は何処かから行けるのだろうとは思っていたが鞠花達が驚き、楽しそうだったので何も言わない。
人一人分程の幅の真っ暗な隠し通路を進んだ先の突き当たりの壁を壊すと[夜鋼石]が四つ出た。
有ると判っていないと採取は難しいだろうな。
澄乃、暗闇に紛れて悪戯するんじゃ有りません。ほら、振り返って逆に進んで戻る。
達成率が99%で、残すは目の前の北東の草丘。その奥まで行けばマッピングは完成する。
そう思いながら、立ち塞がるガーディアン。
木の身体に花の鬣と葉の体毛を持ったライオン。体高が4m程有るが、予想よりも動きが遅いのは、雄型だからだろうか。パワータイプの様だ。
そう観察しながら鞠花達に任せて一足先に草丘を上って達成率は100%に。
……このダンジョンがオープンフィールドなのはボスが何処かに出現する為か。
鞠花の【探知】に引っ掛かると楽なんだがな。
──と思っている内にガーディアンを倒す。
【刻印】の対象にはならないし、それらしい物も残したりはしていない。良い魔素材だったがな。
「さてと、ボスは何処に──」と話していたら、草丘の中腹に有った岩が砕け散った。
「大きな岩だな」「苔蒸した感じが良い味だ」と思っていた卵型の岩だが、オブジェクトではなく、ボスの卵だった様だ。
砕け散った破片は回収を試み──成功。
出て来たのは巨大なヘラクレスオオカブト。
甲殻が岩石と植物でデコレーションされているが見た目としては、そのままだ。
[フォレストヘラクレス]……名前もか。
そして──何と言うか……済まなかった。いや、飛び立とうとしたから、キューブで翅を奪ったら、角から落下し──地面に突き刺さった。
翅を失ったからか、踠くが……抜けない。
哀れなので、素早く倒してやる。それしか俺達に出来る事は無かった。
まあ、取れる物は取るから、巨大な解体ショーを遣っているみたいになってしまったのは仕方が無い事なのだが。役立たせて貰うからな。
《特殊条件:石騎士を一掃せよ》
《条件達成を確認しました》
《達成者には挑天の勲章が贈られます》
《特殊条件:隅々まで調べ尽くせ》
《条件達成を確認しました》
《達成者には“蓄魔の月晶”が贈られます》
アナウンスを聞き、戸惑う鞠花達は置いておいて俺は回収する物を回収する。消えたら勿体無いでは済まないからな。
宝箱からはマナポーションと[森王虫の蛹殻]、頭部装備品の[樹花の祝冠]を獲た。
「今の勲章が、そうなの?」
「ああ、アレに触れるとアビリティを獲得出来る」
「綺麗な結晶の方は?」
「魔力を貯蓄して置いて好きな時に引き出して回復出来る魔道具だな」
「それは貴男だけなの?」
「所有者が俺になったから、【刻印】での繋がりで鞠花達も可能だ。それから、【変換】でも不要品を魔素に変えれば貯蓄出来る仕様の様だ」
「……成る程ね。貴男がパーティーでのダンジョン攻略を前提にしていると言っていた訳が判ったわ。確かに、そういう方向付けが感じられるもの」
最後のだけは瑞穂達には聞こえない様に言うのは今は考えさせたくはないからだろうな。
俺や鞠花の様に、深淵を覗こうとしているのなら兎も角として、普通は関わりもしない事だ。
色々な危険性や面倒臭さを考えれば、今は二人は知らない方がいい。自分の事に集中出来るから。
「それで、その勲章は使わないの?」
「これで今、手元に有るのは二つだ。一人に一つと考えると、もう一つ手に入れてからだな」
「貴男は? まだ四つ獲得出来るのでしょう?」
「出来れば四つ纏めてと、思っている」
「それなら、私達も数が揃ってからで構わないわ。今は純粋に魔力と魔法の技術を高めるべきだもの」
「あー……それはつまり……」
「今夜も、沢山可愛がってね?」
「…………御手柔らかに」
そう言って笑い合った後、出入口に戻り、今回のダンジョン攻略は無事に終了。
ただ、如何に実力が有っても広大なダンジョンを攻略していれば時間が掛かるのは仕方が無い。
外に出た時には丁度、綺麗な夕焼けが見えた。
夫婦……まあ、恋人でもあるからロマンチックなシチュエーションの筈だが……何故か、三人揃って夕焼けの景色よりも八丈島の方に有るダンジョンの事で盛り上がっている。
悪いが、其方には行かないからな?
多分、Gランク、良くてFランクだから。
まあ、魔法陣目当てに攻略するのなら有りだが、今は先に勲章を集めたいからな。ダンジョン攻略はDランク・Eランクが優先になる。
「違うわ。そうではなくて、私達だけでダンジョン攻略に挑むとしたら、何れ位が妥当なのか、という話をしていたのよ」
「晶の【編成】や【刻印】の効果が無く、私達だけという条件でなら、と」
「ふむ……確かに、試してみる価値は有るか」
「それで、Gランクは私も攻略しているから遣るのであればFランクに、という話をしていたの」
「そうだな。腕試しならFランクが妥当だろうな」
「それで、八丈島のダンジョンはどうなのかとな」
「……調べるだけなら直ぐだから行ってみるか」
そう言うと鞠花達は手を叩き合って喜ぶ。
…………あれ? 澄乃も意外とバトルマニア? いや、澄乃の場合はゲーム感覚でもあるのか。
……判っている、そんな訳は無い。澄乃は俺達と出逢って自信を持った事で変わった──と言うか、本来の性格や行動力が出て来たのだろう。
良い事だが……肉食系妻ばかりか。




