それは軈て
鞠花達に戦闘面での不安が無くなれば、攻略するペースは自然と上がる。
最初は経験を積む為に使用しない様にしていたが鞠花の【探知】を使えば警戒は鞠花に任せられる。瑞穂と澄乃は戦闘と移動に注力出来るのが大きく、二人も戦闘を重ねる毎に動きが良くなる。
また、このダンジョンの特性上、モンスターとの戦闘はし易い。
森林の中だろうと鞠花の【探知】は有効であり、確実にモンスターを仕留められる。
まあ、遭遇率は高いのだが。
このダンジョンではテンションモンキー以外にも何種類かの新しいモンスターとも遭遇した。
[ツリースパイダー]は文字通り一本の木に巣を作って、其処を中心に半径10m程を縄張りとする体長50cm程の迷彩柄の蜘蛛。Fランク。番だと、縄張り内に仔蜘蛛の[ベビーツリースパイダー]が居るのだが、Gランクだが稀少種の狩らねば損。
[ウッドニュート]は木の幹に擬態して待ち構え襲い掛かってくる1m程の暗殺蜥蜴。両前足に有る毒爪で獲物を仕留める──のだが、【探知】されてしまえば遠距離からの的でしかない。Fランク。
[グリーンキャタピラー]は体長2m前後も有る緑色の芋虫。体毛が草の様で動かなければ気付かず近寄ってしまうが──以下同文。Gランク。
[スイングベア]はFランクだが、その見た目はスイッチベアにそっくり。その為、俺だけは初見で警戒し──戸惑った。
その他、既知のモンスターであるビッグモール、ウォークウィード、シーリングバットも居た。
ハイキングでもしているかの様な感覚で、森林と山の中を歩き、クリミア草を三株、パララクス草とベルルベ草を十二株ずつ採取。
ただ、先に進めそうな道が見当たらなかった為、途中で見掛けた唯一の水場の泉に戻り潜ってみると水底に直径1m程の穴が有ったので入る。
最初の岐路を進んだ先に空間が有り、番人の様に待ち構えていたスイッチベアを倒し、宝箱を発見。中には[森緑の祝福]という腕輪が。この装備者は緑地──ある程度、植物が多い場所では身体能力と魔力に一割の強化補正が有り、ゆっくりではあるが自浄作用まで備わっている。
話し合い、瑞穂が装備する事になった。
それはそれとして。彼処に一体で配置されていた事を考えると哀れに思うし、もしかしたら、俺達が来た時、想像する以上に嬉しかったのかもしれないなんて思ってしまう。
まあ、倒した後の身勝手な想像でしかないが。
水路では[ディープロータス]という淡く桃色に発光する水中蓮花を二輪採取した。どうやらこれも媚薬の材料らしい。材料が多いというのは判るが、其処までして必要な物なのか?
水路では新しいモンスターは出ず、スカルマスクゴビー、クワトロシザーズクラブ、サンゴモドキ、ソバージュケルプと戦闘。
まあ、鞠花達に水中戦闘の経験を積ませるのには丁度良い相手だった。
水路を抜けた先は倍以上の広さの有る湖。
その端に有る反応を目指せば深紫色のホウレン草みたいな[ヴェヴェナ草]を十株採取。これは使用対象に毒を与える[ポイズンドロップ]の材料。
水から上がり、休憩しながら状況を確認する。
環境が変わる度に細めに遣っておいた方が戦闘に支障が出難くなるからな。
「ねえ、あの蓮花を採取した時、一瞬、難しい顔をしていたけれど、どうかしたの?」
「あー……」
「何? 言い難い様な物だったの?」
「実はアレは媚薬の材料らしい」
「誰か狙っている女性が居るの?」
「媚薬とは言っても惚れ薬の方ではなく、興奮剤の方みたいだけどな」
「…………貴男に必要なの?」
「使うとしたら鞠花達にだ」
「……? 今直ぐにでも発情出来るわよ?」
「言い方が悪かったな。欲情し易くすると言うより感度を高める物らしい。まだ作れないから、飽く迄暫定的な情報でしかないが」
「……ちょっと興味が有るわね」
「危ない薬ではないから平気だろうが……使用後は丸二日は空けられないと使わないからな?」
「どうして?」
「腰砕け状態にはポーション等は効かないからだ」
そう言えば、興味津々といった様子の瑞穂達まで眉間に皺を寄せて本気で悩んでいた。
本気で悩む様な事ではないと思うが?
それは兎も角として。
鞠花と瑞穂は問題無いにしても澄乃が意外と平気そうにしているのは嬉しい誤算だな。人見知りで、ゲーム好きという事も判り、超インドア派だから、運動不足なのも仕方が無いが……不思議だな。
朝練の様子を見た限りでは、これまでの移動等でバテていそうな所だが、まだまだ元気そうだ。
別に体力や疲労の回復はしていないのだが……
「澄乃、疲れてはいないか?」
「……? ……は、はい、大丈夫ですけど……?」
「朝練の時は辛そうだったが、それと比べたら?」
「…………い、今の方が疲れてはいないです」
「……どう思う?」
「…………実証はされてはいないのだけれど、実は魔力持ちの中にはダンジョン内でパフォーマンスが向上すると思われる冒険者が稀に居るのよ。全体で見れば一割以下でしょうけど……」
「澄乃はそうだと?」
「……瑞穂、貴女は感じないかしら? 普段よりも自分が動けていると」
「……明確に、ではないが……確かに、それらしい感じはしているな」
「私もよ。私はダンジョンに潜った経験が有るから今回との違いが判るわ。明らかに今回の方が身体の調子が良いわ」
「……【編成】の効果か?」
「それも有るでしょうけれど、私は【刻印】による効果が大きいのではないかと思うわ」
「【刻印】か……」
「貴男は自身は?」
「……正直に言って変化は感じない──と言うか、判り難いというのが正しいか」
「ああ……貴男の実力だと比較が出来る程、消耗や疲労が無いのね。それだと判り難いわね」
「まあ、【刻印】の妻と認定する効果は条件付きで対象数も限定されているから、強化補正等の恩恵が有る可能性は考えられる事だな」
「それと、さっき話したダンジョン内での活性化が合わさっているのかもしれないわ。私達と遜色無く澄乃は動けていると思うから」
そう言われながら俺達に見詰められる澄乃は少し恥ずかしそうにする。人見知りによる戸惑いや動揺というのが見られないのは夫婦──家族だからか。何にしても良い傾向だと言える。
「ダンジョンは勿論として、俺達を含め、魔力持ちという存在自体もまだまだ謎が多いな……」
「そうね。今でこそ魔力持ちという存在は一般的な認識の中に有るけれど、存在理由は未だに不明で、何故、存在するのかも謎のままだわ」
「魔力が目覚めるというのも不思議だしな」
「そうなのか?」
「考えてもみろ。潜在的に有しているから目覚める訳だから、人は元々魔力を有していた事になる」
「だけど、その様な事実は世界中の何処を探しても確認されてはいないわ。勿論、伝説や神話の類いを事実として捉えれば、それらしい力を持っていたと思える人や存在は居た事にはなるでしょうけれど、それは前提条件の上の話でしかないもの」
「実証の出来無い可能性は無いのも同じだからな」
「そういう事ね。だから、私みたいに血縁を辿れば魔力持ちが祖先に居るのなら判り易いのだけれど、血筋とは全く無縁な魔力持ちも生まれているわ」
「俺や澄乃みたいにな」
「……私は一応、母方の祖父の母が魔力持ちだから血縁──遺伝の可能性が有る訳か……」
「隔世遺伝は珍しくはないもの。その場合、魔力の保有量や魔法の適性、固有魔法の発現という部分も不安定化するみたいだから、それが今の魔法使いの下地造りの大きな要にもなっているわ」
「少しでも優秀な血筋を、か……」
「ええ。だから、晶は実力が公になれば百人以上の女性と子作りする事になるわ。他国も含めてね」
「世界を晶の血が征服する訳か」
「……す、凄いです」
「だから、私達は晶の正妻という事になるのよ?」
そう揶揄う様に鞠花が言えば、二人は今気付いたみたいに目を丸くし──動揺した。
澄乃は兎も角、瑞穂は何故だ?
「いや、流石に私はそんな大それた立場になるとは考えてはいなかったからな……勿論、晶との子供は沢山産みたいとは思うが……って私は何をっ!?」
「正直に言えば良いでしょう? 私は可能な限りは晶の子供を産むつもりよ?」
「…………確か、魔力持ちは一般の女性よりも長く妊娠・出産が可能という話だが……」
「男性の問題が有るから、これまでは、それ程まで沢山の子供を成した魔力持ちの女性は居ないけれど晶という存在が常識と歴史を塗り替えるわ」
「晶の子供達が魔法使い全体の底上げをする訳か」
「だから、母親と成れる優秀な女性が必要なのよ」
「私達の他にも同世代から?」
「私は一定の基準を設けて、それを満たしていれば冒険者・研究者には成らずとも、子供を産み育てるという方向での、国家・社会への貢献制度を新しく設けるべきだと思うのよ」
「それは確かに必要かもしれないな」
「男性は今は晶に限定されるけれど──」
そんな熱い議論を始めた鞠花と瑞穂は放置する。関わると火傷や飛び火では済まないからな。
──と言うか、何故、俺が……いや、理屈として理解は出来るし、他人事なら言うとは思うが。
鞠花達は勿論だが、御義母さんが確定していて、明璃さんにも手を出したからな。繋がりで凜さんも半ば内定している様なもの。現時点で六人。
この内、御義母さんとは色々と考えずに子作りを行う可能性が高い。独立されているから。
鞠花達は学生で、明璃さん達も現役だから妊娠と出産と育児の環境を整えてから、という事なる。
…………駄目だ。思考が完全に受け入れている。いや、もう逃げられはしないのだが。
少し長引いた休憩を終え、新しいエリアを進む。まあ、大差は無いが。
秘宝の所在を頼りに進んで行き魔鉄鉱石を五つ、キューリア草を二株し、反応の有る岩山を登る。
遭遇するモンスターは略同じで、スイッチベアが加わっただけ。俺にとっては既知の存在ばかりだ。
──と思ったのがフラグだったのか、俺も初対面となるEランクの[ロックバード]が現れた。名前通りの岩で出来た鳥の為、飛べない。その見た目は岩石彫刻のダチョウに近い。頭は大きく、翼も硬い事を活かして攻防一体。体長は2m前後だが見た目以上に素早く、五体前後で群れ、連携してくる。
鞠花達には丁度良い対戦相手と言えた。
山を登り、内側の花畑でクリミア草を十株採取。花畑の花が採取対象外な事を鞠花達が愚痴っていたけれど仕方が無い。そういう仕様なのだから。
エリアを踏破し、先へと続く洞窟に入る。
俺が攻略してきたダンジョンと比べると、長いが殆ど一本道なので楽だと言える。
ただ、直径3mも無い限られた空間での戦闘には瑞穂が苦労していた。
スリッピースネーク、スリッピーコックローチ、ビッグモール、ビッグコックローチが群れていた。だが、鞠花達は悲鳴一つ上げない。逞しいな。
そう呟いた態と悲鳴を上げて抱き付いてきたが。照れる瑞穂が可愛かったので遣り返してみた。
鞠花は勿論だが、澄乃も意外とあざといらしく、上手かった。人見知りなのが不思議な位にだ。
採取した物は魔鉄鉱石が五つ、装備品の製作時に混ぜると土属性が付く[オーアパスール]が二つ、対象を一時的に石化させる[ストーンドロップ]の材質となる[石化骨]を五つ。
また、宝箱が有り腕輪の[大地の鼓動]を入手。此方等は大地──自然の地面が有る場所でならば、一割の強化補正を得られ、僅かだが体力・疲労の回復効果も持っている。これは鞠花が装備する。
そうして進んだ先に開けた空間が有った。
“忘れ去られた地下都市”という感じの大遺跡。だが、深奥ではない。
正面奥の壁に描かれた壁画には巨大な何かと戦う人の姿が有る。パッと見はボス戦の様に思えるが、まだ休憩部屋を見付けてはいない。
無い可能性や隠されている可能性も有り得るが、Gランクでも必ず存在するのだから無い訳が無い。だから、まだ先が有る。




