唄う様に紡ぐ
「────あれ?」
「…………ぁ……」
案内された個室に入った瞬間に、彼女を見て声が出てしまった。彼女の方も同じ様に。
先程振り──と言うには三時間は経っているが。公園で出逢った灰色フードの女の子だった。
そうか、彼女が……身長が150cm程だったから中学生か、発育の良い小学生かと思っていたんだが同い年だったとはな。余計な事は言わないが。
「もしかして、公園で会った?」
「ああ。よく判ったな?」
「人見知りのスーちゃんが初対面の人に反応したら違って判るもの」
「成る程な。其方は其方で親しくなった様だな」
「私達、仲良し三姉妹~」
そう言って彼女を抱き寄せる鞠花に溜め息を吐きながらも自分から寄り添ってポーズを取る瑞穂。
その様子を見る限り、確かに仲は良さそうだ。
「良かったな」と言いながら三人の対面に座る。テーブル上の皿やカップの事には触れない。
この状態に至るまでの必要経費と思えば安い。
「立方 晶だ。二人から話は聞いているとは思うが二人の夫だ。宜しくな」
「き、如月 澄乃です……宜しく御願いします」
「何処まで話を?」
「スーちゃんが貴男との結婚を了承する所までね」
「…………は? 了承って……良いのか?」
「は、はい……その……私、普通には結婚が出来る気はしないし……一人だと無理そうだから……」
「瑞穂に私と安心出来る女性が一緒なら、結婚後も生活し易くなるでしょう?」
「一般人として一夫一妻の結婚をするよりも、一夫多妻の方が澄乃にとっては家庭環境が良いだろうと話し合った結果だ」
そう瑞穂は言うが……鞠花の説得だな?
視線で問えば瑞穂が外方を向いたので図星だな。まあ、人見知りの彼女が鞠花の口ぐ──説得を前に我を貫き、突っ張ねられるとは思わない。
しかも、ある意味では彼女にとっては逃げ道だ。具体的な話を聞き、想像した直後なら生じた不安に気持ちが揺らいでいても不思議ではない。
そして、それを見逃す鞠花ではない。
あの母にして、この娘在りだ。
「実際に会ってみて、無理そうなら断ってもいい。無理をして結婚しても辛いだけだからな」
「だ、大丈夫です!」
意外と言うか予想外の反応に俺も鞠花達も驚く。大きな声もだが、彼女から、こうもはっきりとした意思表明が聞けるとは思わなかったからだ。
──が、公園での彼女を思い出せば、真っ直ぐで自分でも変わろうとしているのが伝わってくる。
一方、彼女の方は大きな声を出した事に気付いて少し慌てている。アワアワとしている姿が可愛い。鞠花が思わず抱き締める位にな。
だが、大事な話の途中だから少し自重する様に。終わったら好きなだけモフりなさい。
「理由は判るが、結婚は将来を、人生を左右する。だから、瑞穂達との関係は勿論だが、俺との関係も真剣に考えてからの方が良いだろう?」
「…………ぁ、貴男だからです……」
そう言われて、見詰められれば──察しもする。顔を、首まで赤くしていれば尚更にだ。
だが、「そんなにチョロくていいのか?」と思う自分が居ない訳ではない。
まあ、鞠花達も一目惚れだった訳だが。鞠花達は動物的であり、強さ重視だったからなぁ……
「……わ、私の夢が……は、初恋の人と結婚して、家庭を築く事、です……だ、だからっ……」
「……本当に俺で良いんだな?」
「は、はいっ!」
「判った。これから宜しきな、澄乃」
「よ、宜しく御願いします、晶さん!」
予想していた以上に早く話が纏まった。
まだ俺が注文した品も来ていない。本当に早い。だから、この後の話になるのは当然だと思う。
事前に相談をしているのは知っているが、瑞穂が自分達の担当官である荻野さんに電話をしている。結婚する事が決まったら彼女が澄乃の保証人になるという話になっていたからな。驚くだろうな。
澄乃は大丈夫なのかと思ったが……平気なのか。自分が使わなければ大丈夫、という事か。それなら日常生活での俺達への影響も無いか。
そう思っていたら、瑞穂が鞠花に電話を代わる。挨拶し、普通に話し始める鞠花だが、慣れている。そういった所は俺には無い部分だから助かる。
「晶、この後は澄乃が滞在しているホテルに寄って部屋に置いている荷物を回収してから帰る」
「学園に入る予定なら部屋も借りていたのか?」
「……が、学園の寮に……」
「ああ、そう言えば、寮が有ったな。俺は自宅から通う事しか考えていなかったが」
「それは私も鞠花も同じだ」
「それなら荷物は寮に送ったのか?」
「……は、はい」
「入寮のキャンセルと荷物の配達先の変更手続きをしないといけないな」
「それなら既にしてあるから大丈夫だ。荷物は全て鞠花の家に送って貰う事になった」
「……手際が良いな」
鞠花の家に、という事はだ。多少は荷物を取りに行くのが遅れても大丈夫だからだろう。
瑞穂の方だと一軒家とは言え、澄乃が住んでいたマンションから完全に引っ越す為、荷物も多いので邪魔になる事は避けられないからな。
「荻野さん、近い内に時間を取ってくれるそうよ」
「そうか。良かったな、澄乃」
「は、はい」
ある意味、澄乃と瑞穂の二人の保護者も同然だ。俺も顔を合わせるのが楽しみであり、緊張もする。まあ、結婚は当事者の合意が有るから確定だが。
鞠花・瑞穂との婚姻届けは準備済み。後は澄乃の分に荻野さんの署名・捺印を貰えば提出出来る。
因みに、結婚式は要相談となっている。
これは春休み中は俺がダンジョン探索をするし、鞠花達も能力向上に努める為だ。だから、結婚式は後日でも構わないと決まった。澄乃も了承済みだと考えてもいいだろう。手際が良いからな。
手際の良さには助けられるが、戸惑いもする。
瑞穂の時には手合わせをした昂りも有ったから、その流れで行けたが、今回は流石になぁ……
そう思ったが、意外にも澄乃の決意が固かった。そして、想像以上にエロかった。いや、物凄く淫靡だったと言うべだろうな。実はムッツリだったか。そう起きた澄乃を揶揄えば反撃され、遣り返した。まあ、それは仕方が無い事だろう。
「わ、私は対面座位が好きです……」
「あれ、密着感が良いわよね。キスしながらなのもポイントが高いと思うわ」
「私は普通に正常位が……」
「そう? 後背位の時の方が嬉しそうよ?」
「ちょっ!? 鞠花っ?!」
「……ぁ、判ります。激しくして貰っている時って求められてるって判りますから」
「うんうん、好きな人に貪られているのが判るから身体の奥からキュンキュンしてくるわよね!」
「……ま、まあ、確かにな……」
……“注意! 飽く迄も個人の感想です”と横に看板でも置いておきたい。
猥談をするのは構わないが、露骨過ぎる。内容が生々しいし、もう少しオブラートに包もうな?
あと、何気に瑞穂と澄乃のキャラポジが一時的に逆転しているな。
ムッツリからオープンに進化するのか。
そう思いながら澄乃との初夜──夜ではないが、それを思い出しながら、ふと思う。
明璃さんとの件を話したのが原因か?
いや、鞠花も瑞穂も、澄乃まで肯定派だったな。寧ろ、「何故其処で押し切らないのっ!」と真顔で言った位だからな。否は無いのだろう。
澄乃とも、話す前に風呂で戯れ合ったしな。
夕食後は四人で入るが……狭いと、それはそれで有りだったりもする。
何にしても、澄乃にも【刻印】が施された。
キスだけだった明璃さんには適用されなかった。その事から考えても、当初の予想通りなのだろう。謎仕様なのは今更だが。
それはそれとして、これからの事で考えるべきは先ずは三人にスキル・アビリティを発現させるか、先送りにするか、だな。
勿論、現時点では数が足りない訳だが。
ダンジョンの探索は兎も角、攻略に同行して貰い魔法陣による魔力量の強化を行う事は確定。
ただ、明璃さん達の事も有る。もしも、俺自身が新しいアビリティを得る事で枠が増加したり、人数制限が解除されるのなら、先に遣りたいと思う。
明璃さん達の強化も出来るからな。
それを考えると……取り敢えずはEランクを1つクリアしてみるべきだろうか。
万が一にも三人に危害が及びそうなら、その後は俺一人で行う方が良いかも判断出来るからな。
そうとなれば、早速調べてみるか──と行きたい所ではあるが、羅針盤は方角だけだからな。
…………いや、待てよ。答晶は数字でなら可能。つまり、大凡でも距離は示せる筈だ。
試してみる価値は有るな。
思い立ったが吉日とばかりに、答晶を取り出し、テーブルの上に置く。
すると、照明を遮って影が落ちる。顔を向ければ側に移動してきた三人が覗き込んでいる。
まあ、気になるのは当然か。澄乃にも二人と同じ様に腰袋と装備品等を渡したから。
因みに、装備品は鞠花と同じで魔法の杖。前衛のアタッカーという訳ではないからな。
「晶、それは?」
「示数の答晶という魔道具だ。数字でのみ回答可能という縛りは有るが、大抵の事は判る」
「バストのサイズとか?」
「体重でもな」
「女の敵ね」
「それで、一体何を調べるんだ?」
「一番近いEランクのダンジョンまでの距離だ」
「……距離、ですか?」
「遠過ぎるのなら、ダンジョンの出入口を見付けるまでは俺一人で動く方が効率的だ。だが、近いなら一緒に行った方が効率が良い」
「二度手間を省く為ね」
「そういう事だ。念の為、少し離れていてくれ」
そう言うと三人は2m程下がった。
危険が有るという訳ではなくて、魔道具の近くに複数人がいた場合、誤作動したり、作動しない事も考えられるから。今までは一人だったからな。
「我、汝に問う、此処から最も近くに有るEランクのダンジョンまでの距離は四捨五入で何kmだ?」
浮かんできた数字は“188”。
「……これって、約188kmという事?」
「四捨五入条件だから語差は有るけどな」
「……条件無しだとどうなるのかしら?」
「細かく表示されると思うが……見難いからな」
「……この大きさに細かい数字は見難いわね」
「だが、距離は判るが、どう遣って探す? 地図にコンパスで円を描いて、その線上を探すのか?」
「これとは別に導きの羅針盤という魔道具が有る。それを使えば指定した対象の位置を針が指し示す」
「だから、距離さえ判れば、ピンポイントで探せるという訳ね」
「その羅針盤で最初から探せば良いのでは?」
「羅針盤は対象を指定すると、使用者が指定対象を認識するまで変更も終了も出来無い。だから迂闊に使用すると本当に必要な時に困る」
「…………使用制限かしら?」
「答晶も羅針盤も破格の性能だ。だからこそ、頼り過ぎるな、という事だろうな」
「製作者の意図としては」と。
そう口にはしないが、鞠花は察したのだろうな。答晶を見詰める視線が真剣な物になっている。
この辺りは深く見ている鞠花だから。
瑞穂と澄乃が考えていないという訳ではなくて、それは自ら踏み込まなければ見えない領域だから。俺は何だかんだで、というだけ。鞠花の様に時間を掛けて考え、調べ、試し、理解しようとしてきた訳ではないからな。其処は大きな差だと言える。
まあ、態々言う様な事ではないが。
「……ぁ、ぁの……本当にダンジョンに?……」
「ああ、行く。ただ、心配しなくてもいいからな。危うそうなら途中で切り上げる」
「だが、一度入ると戻るのも大変ではないのか?」
「ダンジョン内の何処からでも出入口の有る場所に転移して戻れる魔道具が有るから心配するな」
「それに奥まで行かなくても、危険かどうかを判断する事は出来るわ」
「……それもそうか」
「不安になるのは判るし、良い事だ。楽観視しても本当に危険な時に取り乱す事になるだけだからな。ある程度は不安を抱えている方が生き残り易い」
「最悪を想像し、備える事が出来るから、か……」
「自然界では勇猛さと臆病さ。それが強さになる」




