音色を奏で
鞠花達に少し公園から離れる事をメールしてから徒歩で10分と掛からずに移動した先は近くに有る工場の様な建物。
知らなければ、そうとしか思わないだろうな。
「晶くーんっ! 此方此方ーっ!」
立ち止まって眺めて居たら自分を呼ぶ声がして、顔を向ければ手を振っている笑顔の明璃さん。
そう、先程の着信の相手は明璃さん。
「今、何処?」と訊かれたので答えたら、此処に来る様に言われた。地図まで送られたら断れない。ただ、一応は鞠花達を待っている事は伝えた。
その上で、「ちょっとでも無理?」と悲しそうな声で訊かれたらねぇ……断り切れなかった。
そんな明璃さんの服装は冒険者特有の物。身体に張り付く様に密着する全身タイツみたいなインナースーツ。その上に個人の好みの物を着るのが一般的だったりする。勿論、防具として。
明璃さんは黒のインナースーツに、レオタードの様な防刃性能の高い防具。その上に胸当て・半袖の上着に、半ズボン。グローブにブーツとフル装備。色っぽさなんて微塵も無い。せめて、私服だったら気持ちも弾んだかもしれないのだが……残念だ。
「ようこそ! “国立魔闘場”へっ!」
そう言って胸を張って出迎えてくれる明璃さん。今、彼女が言った通りで、この場所は国が建設し、運営・管理している魔力持ち──いや、冒険者用の実戦訓練が出来る施設。
大企業だと、此処と魔法ドームと合わせた施設を自社で所有していたりもするが、強度や使い勝手は両者に劣る事は言うまでも無い。
冒険者登録している事が利用条件であり、国属の冒険者に優先権が有る為、当然ながら俺は初めて。鞠花は利用経験が有ると言っていた。瑞穂は未登録だから俺と同じだろう。
──で、此処の利用──入場は冒険者が一緒なら魔力持ちは出来る。一般人は事故防止の為、一切の立ち入りが禁止されている。安全第一は大事だ。
さて、話の流れで御判りだろう。
これから此処で何をするのかが。
明璃さんに連行されて中に入る。
施設や設備の説明? そんなものは触り程度で、足早に、迷い無く、目的地に到着。
ロッカールームの様な部屋だと思ったら、正解。此処で着替えるのだと言われ、服を手渡された。
インナースーツ等を。
明璃さんの顔を見詰めたが笑顔のまま変わらず、俺の方が直ぐに諦めた。
何故、サイズがピッタリなのかは疑問に思うが、詳しい事は聞かない様にしておく。
後で個人情報に関する法律を確認しないとな。
「さあ、闘りましょうか!」
そう、楽しそうな遣る気に満ちた笑顔で気合いを入れると、剣型の魔導器を構える明璃さん。
小さく溜め息を吐きながら、俺も今日受け取ったばかりの槍型の魔導器を構える。
電話で魔導器の事を訊かれたから、ちゃんと取り出して手に持って来たからバレてはいない。
尚、俺が魔導器を受け取った情報は凜さんから。話が伝わるのが異常に早いとは思うが、女性間での情報伝達速度は男の想像以上だからな。気にしたら負けだと思った方がいい。気にしないのが一番だ。どうしようもない事だからな。
多分、凜さんの視線も熱かったから、明璃さんに興奮気味に電話したのかもしれない。それを聞いて明璃さんも確かめたくなった。直に。自分で。
その結果が、手合わせだ。
……明璃さん、陽キャの戦闘民族だったのか。
まあ、此処まで来た時点で諦めてはいるけどな。遣る以上は真面目に、真剣に、勝ちに行く。
明璃さんから開始の合図か何かが有るのだろうと思っていたら、ブザーが鳴り響いた。
それと同時に最短距離で疾駆し、目の前に。
まあ、十分に受け止められるので焦りはしない。御互いの吐息を吸い込み合いそうな程の近距離での鍔迫り合い。明璃さんの瞳に自分の姿が映る。
「合図が有るのなら一言言って欲しかったですね」
「あら? ダンジョン内のモンスターは合図なんてしてくれないわよ?」
「明璃さんはモンスターだと?」
「超肉食かもよ?」
「だとしたら、喰らい合いですね」
「ふふっ、晶くんも言うわね」
「事実、肉食ですから」
「もう婚約者──奥さんが二人も居る余裕?」
「経験者の余裕ですよ」
「言ってくれるわ──ねっ!」
挑発に挑発で返せば、琴線に触れたのか、笑顔に怒気が混ざったのが判る。
その怒りを打付ける様に右膝での金的狙い。
瑞穂も同じ事を遣っていたが……明璃さんの方が動きとしては洗練されている。
……かなりの犠牲者が居るのだろうな。
そんな風に思いながら、槍の角度をズラし、柄で受け止めながら一回転。明璃さんの右側へと入れ替わる様にして移動。その勢いのまま左膝を出す。
しかし、あっさりと距離を取る明璃さん。
防がれたり、最小限の回避なら膝下を振り抜いて蹴りに行くつもりだったが……読まれた様だ。
瑞穂とは違うのは実戦経験の差だな。
「晶くん、綾崎さんよりも強いでしょ?」
「もしかして、瑞穂とは顔見知りですか?」
「御互いに知ってはいる、という程度よ。私も剣を扱うから、その繋がりでね。大会で彼女の姿を見た事なら何度も有るけど、話した事は無いわ。私とは出場していた部門が違っていたから」
「あー……明璃さんは冒険者部門ですか」
「そういう事」
武道の大会や各スポーツの大会で魔力持ちという事で線引きはされないが、冒険者となると話が別。実戦経験が有る事が考慮され、分けられる。
明璃さんの本格的な冒険者としての活動は学園を卒業してからだが、冒険者登録自体は確か十五歳でしているという話だった。
それに瑞穂とは違い、剣を習い始めたのは中学に入ってからだった筈。
大会への出場が冒険者登録後からだったのなら、瑞穂と当たる事は無かったと推測が出来る。
まあ、瑞穂の方は有名人の明璃さんの事は流石に知ってはいたけどな。
「今度、時間が有る時に紹介しますね」
「ええ、楽しみにしているわ。でも、今は晶くんが私を楽しませて頂戴っ!」
そう叫んで踏み込む明璃さん。
それに合わせて今度は俺も前に出る。
御互いに突っ込めば、リーチで勝る槍の方が先に相手を間合いの中に捉える。
勿論、その程度で怯む様な相手ではない。
軌道を見切り、槍先が肩口を掠める様に躱すと、そのまま間合いの内側に。長物の弱点だからな。
だが、まだ俺は槍を突き出し切ってはいない。
右前で構えている為、右手を離せば、末端近くを左手で握っている為、リーチは最長に。
その状態から左腕を内側に入れる。
当然、柄が明璃さんの進路上に割り込んでくる。それを更に身体を沈めて下に潜り込む様に躱す。
筋肉の質的に男には難しい反射的な柔軟性。
靭やかでありながらも力強い野性的な天賦。
そんなつもりは無いのだが。思わず、明璃さんを襲いたくなってしまう。俺の子を孕ませたくて。
そんな思考をしながらも身体は動き続ける。
更に左手が柄を手離す。
すると、槍は空中で横に回転。
明璃さんの突進からの突きを躱したと同時に右で柄を掴み取れば槍先は無防備な明璃さんの背後に。そのまま突き出せば決まり──とは行かない。
前転をする様に更に頭を下げて床に飛び込む様に回転して躱しながら右足の足裏で槍を跳ね上げる。着地と同時に身体を捻って、腰よりも低い高さでの横凪ぎの一閃。
それを弾かれた勢いに逆らわず槍を背面を通して左手に受け渡して剣を受け止める。
「……驚いたわ。今のにも反応するのね」
「それは御互い様です」
「晶くん、まだ未登録なのよね?」
「ええ。まあ、もしかしたら、近い内に登録だけは行うかもしれませんけど」
「所属は?」
「鞠花と同じになると思います」
「鞠花さんと……それなら私達と同じという訳ね」
「そうなりますね。その時は宜しく御願いします。優しくして下さいね、明璃先輩?」
「…………晶くんって女誑しでしょ?」
「明璃さんも誑し込まれました?」
「むぅ~……その余裕が可愛くないわね~」
「男なんで可愛いとは言われたくは有りません」
「男の子でも可愛くていいと思うわよ?」
「他人事であればね。俺自身は嫌です」
「男らしく見られたい?」
「雄としてですね」
「晶くんのエッチ」
「今から襲ってもいいですか?」
「ちゃんと責任取ってくれる?」
「死ぬまで愛しますよ」
「……御姉さん、そういう冗談は大嫌いよ?」
「それなら、貴女を倒してでものにします」
「出来たら、何でもしてあげるわ」
「言質は取りましたからね?」
「勿論よ。まあ、出来たらだけど──ねっ!!」
「…………晶くんのエッチ……」
「約束は約束ですからね」
手合わせ──と言うか、ガチでの勝負を終えて、今は汗を流す為、シャワールームに。
明璃さんも一緒で。
御互いに一糸纏わず、隠さずに、同じシャワーを共有している。他にもシャワーは有るのに。
まあ、ああは言ったものの、流石に手を出す様な真似はしません。場所が場所ですから。
「…………私って魅力が無い?」
「この状態を見ても?」
「──っ、そ、それは……そうかもしれないけど。男の人って、心と身体は別なんでしょ?」
「否定はしませんけど、直接刺激を受けてはいないですから、こうなる理由は視覚情報です」
「視覚情報って……」
「明璃さんが、こうさせている、という事です」
「ぅぅ~……」
「明璃さん、長々と入ってはいられませんよ?」
「わ、判ってるわよ!」
意を決した明璃さんが、ボディーソープを右手で取って泡立てると自分の身体に塗りたくる様にして広げながら洗ってゆく。
その光景は見ているだけでも十分。何しろ美女が目の前で羞恥心に耐えながら、だ。卑猥と言う以外適当な言葉が思い浮かばない。
当然だが物凄く興奮する。
ただ、それは俺だけではない事を、目の前に有る小さな蕾の膨らみが物語っている。
……実は露出癖や視姦願望が有るとか?
そんな思考を察したのか、睨まれた。睨むけど、この状況では可愛いとしか思えない。
気合いで抑え込むが……正直、流されたいな。
全身を泡で纏った明璃さん。しかし、それは準備でしかない。その状態で、俺に抱き付く。そのまま身体を動かし、擦り付ける。
鞠花達とは戯れ合いながらしているが、こうして一線を越えない様にしながらだと逆に興奮するな。背徳感や罪悪感さえも刺激的だ。
「…………晶くん、私……我慢出来無い……」
「俺は独占欲が強いですよ?」
「うん、晶くんだけのものになるから……」
瞳を潤ませながら、顔を、肌を赤らめ明璃さんが目蓋を閉じたので唇を重ねる。
それに合わせて手探りでシャワーコックを捻る。頭上から降り注ぐ強めのシャワーの音がカーテンの様に俺達を隔離する。
同時に温めのシャワーが身体の火照りを冷ます。流されてしまいたい所だが、此処では無理だ。
だから、これは明璃さんとの約束であり予約。
「続きは改めて」と視線で語り合う。
ただ、だからと言って簡単には収まらないのも、人の情であり、欲というもの。
「もう少しだけ……」と俺の首に両腕を回して、更に身体を密着させながらキスを求める明璃さんに俺も負けじと応える。
シャワーにしては長いが……仕方が無いな。
着替え終わった所で、我に返った明璃さんが顔を赤くして俯かせ、距離を取った。可愛いなぁ……
「それじゃあ、私は此処で……」と言ったので、左手で頬に触れて顔を上げてキスをする。ちゃんとマーキングをしておく様に長めに。
明璃さんと別れ、公園に向かって歩いていると、鞠花から着信が有った。
彼女の制服の受け取りが終わり、一通りの説明を済ませた上で、俺と会う事を了承してくれたので、昨日も行った上階の店で待ち合わせる事に。
明璃さんとの事は後で話す事にする。
今は先ず、彼女に会う事が最優先なのだから。




