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振り子の様に


 個室に入り、メニューを開く──が、ファミレスみたいに写真付きではない。文字だけ。高級店だと珍しくもないが……初見だと何とも言えないから、俺は鞠花と同じ物にする。

 ……彼女もだった。そうなるよな。


 注文を済ませ、店員が退室したらキューブを展開させて空間を一時的に隔離する。



「それで、どうして晶に声を掛けたのかしら?」

「あの、変な意味や他意は有りません。きちんと、御礼を伝えたかったので」

「御礼?」

「一昨日、助けて頂いたので」

「「……………………──あっ!!」」



 一昨日と聞き、思い当たったのは女の子の一件。その時、確かに歳の近そうな姉が居たが──直ぐに目の前の彼女とは重ならなかった。

 しかし、同性の鞠花でさえも同じ反応なのだから仕方が無いと思う。

 そして、その原因は彼女の見た目に有る。

 一昨日、俺達が見たのはギャル系ファッションが似合う金髪(・・)の女子だった。

 だから、流石に同一人物だとは思わなかったし、彼女も自覚が有るのか、苦笑している。



「……髪はどうしたの?」

「アレは鬘です。髪を纏めて上に被っていたので、取ればいいだけです」

「へぇ~、そういった物も有るのね」

「今日と服装の趣旨が違うのは?」

「金髪の鬘も含めて一昨日の格好は全て、あの子のコーディネートだったので……」

「……そう言えば、あの子も確か……」



 思い出せば、確かにギャル系ファッションだった様に思う。ガッツリではなかったのは、飽く迄も、それっぽくしていたからなんだろうな。

 本人の趣味ではないなら気付かない訳だ。

 ……いや、寧ろ、違和感が無く仕上げた見立てとコーディネート力を誉めるべきか。



「怪我は無い様だったが、妹さんは大丈夫か?」

「はい。寧ろ、貴男の事を思い出して興奮しながら毎日話していますよ。あと、従妹になります」

「そうか……まあ、元気なら良かったが、恐怖心は唐突に呼び起こされるから気を付けた方がいい」

「……ふふっ……」

「……?」

「ああ、済まない。美衣菜──あの子が言っていた通りの人だったから、ついな……」

「それが貴女の素?」

「──っ!? いや、今のは──」

「楽に話してくれて構わないわよ?」

「……では、そうさせて貰おう」



 ふとした事だったが、彼女の素顔を知って納得。何処か、しっくりと来ない様な感じがしていたのは彼女が他所行き(・・・・)の装いだった為。

 今の素の彼女の方が、しっくりくる。


 ただ、個人的には何と言われていたのかが物凄く気になるし、あまり広めないで貰いたい。

 目立ちたくはないから姿を消したんだしな。



「貴女、何か武術とか習っているの?」

「ああ、近所に剣術の道場が有ってな。三歳位から親や兄達に付いて出入りしていて、自然とだ」

「剣術……剣道とは違うのかしら?」

「現代用のスポーツ的な要素が強いのが剣道だが、全く違うという訳でもない。通じる物は有る」

「へぇ~」

「……その、やはり、判るものなのか?」

「……ん?」

「私が剣術……武術をしている、という事がだ」

「ああ、その事ね。まあ、何と無くだけれど貴女の所作が綺麗だから」

「…………え?」

「…………え?」

「あー……鞠花、彼女が言いたいのはな、雰囲気や見た目からして、鋭そう(・・・)かって事だ」



 微妙に話が擦れ違っていたから思わずフォロー。二人が同時に顔を赤くし、そのタイミングでドアがノックされたのでキューブを一端解除する。

 そして、甘い物で現実逃避。

 忘れる事も時には救いだろう。


 だが、何方等も性格上、有耶無耶には出来無い。自らを傷付ける事になろうとも、前へと進む。

 その姿勢は尊敬に値するが、こういう事に対して発揮しなくてもいいのではないのだろうか。

 まあ、鞠花の方は彼女の印象や評価が下がる程度でしかないのだが。


 彼女は彼女で開き直ったのか。或いは、甘い物で思考や心まで緩んだのか。自ら語り始めた。

 彼女が剣を手にしたのは、男なら一度は経験した事が有るのではないかと思う純粋な憧憬から。

 刀剣類というのは振るう姿が格好良いからだ。

 練習し、勝ち負けを経験し、考え、努力し続け、気付けば年齢制限付きとは言え、日本一になる程の腕前にまで成っていた。

 その辺りまでは気にもしていなかった。

 寧ろ、老若男女問わず、自分の意思や考えを貫く強さや姿勢は高貴であり、厳しい物言いや口調等も彼女の個性として支持されていたそうだ。

 何とも想像のし易い典型的な優等生像だ。


 転機となったのは十二歳。固有魔法の発現。


 鞠花の様に冒険者や魔導学に関わる仕事に就いた家族が居ない家庭では、魔力持ちとは判っていても一般人と変わらない生活を送るもの。

 優遇されてはいるが、魔力持ちだからという事で人間性が捻曲がって歪んでしまう事が起きない様に社会への適合性を養う為だ。

 特別だが、その分の義務と責任を負っている事を理解させ、自制心と道徳心を培わせる。

 まあ、これも過去に勘違いした犯罪者(馬鹿)が出た為。その過ちを繰り返さず、防ぐ為の政策だ。

 因みに、それは国内の話ではない。だから、今は世界共通の国際法(・・・)も存在している。


 話を戻して。

 大体の場合が、満十二歳で初めて魔法に触れる。それから魔法に関係する修練が始まる。

 そんな中、彼女は固有魔法を発現した事が悪い方に出てしまった。

 彼女の固有魔法は【破邪剣装(ノーブルエッジ)】。

 自身が手にする武器()に魔法を纏わせる。

 平たく言えば、付与魔法(エンチャント)だ。


 俺自身も鞠花も非常に興味深い固有魔法だ。

 しかし、彼女の魔法に耐えられる媒体が無ければ宝の持ち腐れ。しかも、俺と同様に固有魔法以外の四属性魔法は使用不可能。

 これにより、彼女の評価は逆転した。


 そして、周囲から殆どの人が離れて行った。

 人の利己的さと醜さが見える瞬間だと言える。


 そんな状況で更なる悲劇が彼女を襲った。

 両親と三人の兄がダンジョン災害で行方不明に。それは事実上の死亡。

 魔力持ちの為、国からの援助は有るが、まだ子供である彼女は父方の叔母夫婦の所に身を寄せる。

 俺が助けた従妹が長子長女で下に二人弟妹が居るそうだが、関係は良好。

 叔母夫婦の人柄は勿論、経済的にも独立しているという事が御互いに負担も依存もしない為、純粋に家族──親族としての関係が築けているのだろう。経済的な負担や依存が有ると泥沼化するからな。


 それまでの人間関係が崩れてしまっても、彼女の人間性が大きく歪んではいない事には、叔母家族の存在が大きな事は言うまでもない。


 そう遣って落ち着いていた所で、再び転機。

 それが魔導器の実用化である。

 彼女の固有魔法に耐えられる媒体は普通には存在しなかったが、魔導器の登場で話は変わる。

 勿論、完全に耐えられるという訳ではない。

 固有魔法の分、魔力を直接用いて強化するのとは対象への負荷が異なり、損耗度合いは軽微。だが、普通に使用する事を思えば損耗は激しい。

 それでも、魔導器の耐久性の向上という研究では彼女が使用するだけで判り易くデータが取れる為、彼女は逆指名で初期メンバーのモニターに。


 鞠花は、その前の実験段階からのモニターなのでモニター歴で言えば、彼女よりも長い。

 今は関係の無い話だな。


 魔導器の登場で近寄ってくる者が増えたのだが、一度、人の身勝手さと残酷性を身を以て知っている彼女は一種の人間不信になっているらしい。

 その為、元々の性格や話し方等が一層鋭くなり、他者との距離感やコミュニケーションに悩んでいるという事らしい。

 「そんな連中の事は気にするな」と言うだけなら簡単だが、それは無責任な事でもある。

 その一言の所為で彼女の将来や人生等に悪影響が出てしまっても責任は負えない。

 狡い言い方をすれば、「結局は自分次第だ」と。それで片付けられてしまうのだから。


 それ故に、真剣に悩む彼女の事を考えるのなら、あまり無責任な事は言えない。

 言えるとすれば、個人的な感想や意見だけだ。

 俺も近い境遇ではあるからな。その辺りの事から話していけば、切っ掛けにはなるかもしれない。



「だから、俺の場合は鞠花と出逢えた事が大きい。その切っ掛けが、一昨日の件なのは奇妙な縁だが」

「そうなのか?」

「ええ、あの時の晶を見て一目惚れしたの」



 話せない部分は上手く省きながら嘘は吐かない。下手な嘘や誤魔化し、隠し事は気付かれるだろう。疑り深くなっている今の彼女なら尚更にだ。



「そうか、だからか。何故、一昨日の私の姿の事を知っているのかと不思議に思っていたのだ」

「私は現場──道路の周囲に居た訳ではないから、見掛けたのは偶々だったわ。正直、間に合わないと上から見ていて思ったもの」

「私も気付いた時には既に……だから、立方さん。貴男には本当に感謝している」

「偶々居合わせただけだがな」

「では、その偶々にもだ」



 そう言う彼女の笑顔を見て、俺も笑顔で返す。

 不器用な感じだが、従妹の趣味に付き合えるのは優しく面倒見が良く柔軟さが有れば。真っ直ぐで、正義感は強いのだろうが、妄信的ではない。

 負けず嫌いではあるだろうが、それも自分自身に負けはしないという意味合いの方が強い様に思う。俺や鞠花にも有るからこそ判る。

 御互いに良い関係が築けそうだと思える。



「貴女、恋人や婚約者は居るの?」

「──っ!?」



 そんな空気の中、鞠花の唐突過ぎる質問に彼女が思わず噎せた。吹き出さなかったのは凄い。

 鞠花の意図は判る為、視線で意志疎通。

 ……どうやら遣る気らしい。それなら任せるか。出番が来るまでは大人しくしていよう。



「い、いきなりな質問だな。何故、そんな事を?」

「率直に言うわね。貴女も晶の妻に成らない?」

「……本当に率直だな」

「回りくどい言い方をしても仕方が無いもの」

「……確かにな」

「それで?」

「正直な気持ちを言えば、とても嬉しい。あの時、私も貴男に一目惚れした。だから私の気持ち的には即断即決したいと思う」

「御家族の事が気になる?」

「違う。何故、貴方達が私を選んでくれるのかが、私自身にも判らない。納得が出来無い」

「……私達が貴女に興味を持った切っ掛けは貴女の固有魔法になるわね。だけど、私達は面識が無い。だから先ずは本人に一度会ってみる事にしたのよ。今日なら会えると思っていたから。ただ、名前しか判らないから、どう遣って探そうかと考えていたら貴女の方から声を掛けてくれたの。そして、話して貴女の人柄等を知って、決めたの。貴女だと」

「……貴女は驚く位に真っ直ぐだな」

「そう?」

「ああ……正直、羨ましくなる」

「私から見れば貴女も真っ直ぐだと思うわよ?」

「いや、私は……」

「それは人各々、別人だから当然の違いだ」



 彼女が懐くネガティブな思考や感情に意識が傾く兆候が見えた為、迷わず声を出した。

 鞠花は陽キャだが、能天気ではなく、天然寄り。しかも才能も実力も確かな御嬢様。そんな鞠花にはネガティブさは殆ど見られない。


 一方で、彼女の事は我が事に近い。だから判る。歪みこそ無いが、内なる陰キャの気配。表に出難く親い者でも気付き辛いもの。そして、心の奥底にて澱の様に沈殿し、僅かな様で底無し沼の様に深い。そういう類いの感情(もの)を抱えている。

 それに囚われると厄介。脱け出すのが困難になる事が判るから、その前に手を伸ばして掴まえる。

 「其方には行くな」と。


 彼女は驚いた様に俺を見る。

 その菫色の瞳を真っ直ぐに見詰めながら話す。



「二つ以上の存在が有れば比較(・・)は避けられない事。それは気にしても仕方が無い事だし、実際に一つの目安や基準でもある以上、無くなりはしない事だ。だから、本当に大事なのは、自分自身の在り方だ。御前は、どう在りたい?」

「……私は強く成りたい。二度と失わない為に」

「御前に覚悟が有るのなら、この手を取れ。俺達が必ず更なる高みに導いてやる」





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