因果とは連なり
俺の事を鞠花に話し、砂浜で身体強化の鍛練後、温泉風呂で汗を流してから昼食。その後、リビングで休みながら今後の事を話す。
「──つまり、晶は上位のダンジョンを探し出して攻略していくつもりなのよね?」
「出来れば、入学式までにはスキル・アビリティを得られる勲章は集め切りたいと思っている」
「……率直に私の実力の評価は?」
「単独でなら、Fランク相当だろうな」
「それじゃあ、同行は厳しいわね……」
「いや、俺の傍に居るなら大丈夫だ」
「本当っ!?」
「ああ。それに魔法陣の効果も有るからな。鞠花を連れて行かない理由は無い」
「……それだと尚更、後二人も欲しくなるわね」
「まあ、そういう意味ではな」
「貴男の選考基準って実力・潜在能力を重視?」
「容姿も含むけどな」
「其処は誰でも大体同じでしょう。だけど、自分で言うのも変だけれど、私クラスの女性よね?」
「そうだな」
「容姿は兎も角、同世代に居たかしら……」
研究者──いや、実業家や御令嬢的な感覚だな。効率的であり、無駄の無い可能性が有ると判ると、それを実現する為の方法を模索する辺りは。
悪い事ではないし、俺にも理解は出来る事だ。
だが、その二人の人生を確定する事になる以上、単純な選考という訳にはいかない。
──が、鞠花の言う事も判る。
上位のダンジョンが有限である以上は、出来れば先に妻となる残り二人を決めてから遣りたい。
「……明璃さんと凜さんは駄目なの?」
「駄目ではないが、出来れば同い年が望ましいな。最短でも一年間は俺達は学生生活が有るんだ」
「一緒の方が動き易いものね」
学年──年齢が違うと日常生活のリズムに違いが生まれてしまう事は必然。だが、それ故に御互いの都合や予定というものが障害に為り易い。
鞠花は研究者としては現時点ではアマチュアだ。身体強化の技術を公表すれば、一気に世界最高峰の研究者として認定されるだろうが、俺との関係性を鞠花は重視する。断言出来る。
だから、二人での生活に支障は出難い。
明璃さん達の場合、既に自分達の立場や実績から俺達に全てを合わせる事は難しい。
まあ、鞠花は勿論、俺が実力を示せば、最優先が俺との関係になるだろうから大丈夫だとは思うが。同時に面倒事が増えるから今は避けたい。
そういった諸々の事情から考えても、残る二枠は同級生が望ましいと言える。
「……候補者を絞るのなら固有魔法の発現者だな」
「どうして?」
「現時点での実力が高くても、それが頭打ちである可能性が考えられる。だが、固有魔法には本人さえ考えてもいなかった可能性が有る。何しろ俺自身、切っ掛け一つで大きく変わったからな」
「……それは私にも言える事よね?」
「そうだな」
鞠花も固有魔法【蒼穹白花】の発現者。
氷属性の魔法を扱う事が出来る。
──とは言え、俺とは違い、鞠花は四属性魔法も問題無く使える稀有なタイプ。普通は、固有魔法の発現者には大なり小なり影響が有るが、極めて稀に鞠花の様に全くデメリットの無い者も存在する。
ただ、その殆どは大成せず、固有魔法もショボいというのが、過去の統計。
そんな中で、既に世界屈指の実力者である鞠花は前代未聞とも言える存在だと言える。
因みに、高槻 弥生も御義母さんも非発現者だ。実力は高いが、固有魔法は発現していない。
そんな事を考えていたら、鞠花が携帯──最新の夏に発売予定だった筈の新型モデル──を取り出し指で画面をスクロールさせる。
慣れているが、現在は懐かしくも思う動作。
それを見ながら世界の在り方の違いを感じる。
「私達の同級生で固有魔法の発現者は二十七人ね」
「流石と言うべきなのか?」
「一応、私も研究者だから」
言外に「この位の資料は大丈夫よ」と語る。
まあ、それを悪用すれば直ぐに判るだろうしな。そう考えれば、その程度の閲覧許可は出るか。
そう思いながら、差し出された携帯を受け取る。其処には鞠花と俺の名前も有る。
──が、他は知らない名前ばかりだな。
まあ、彼の記憶にも無い事からも、この中に大成した者は居ないのだろう。
ただ、それはそれ。俺が関わる事で変化する者は存在しているかもしれない。そういう意味では無駄という事にはならないだろう。
「…………これ、進路が記載されているが?」
「それは確定情報よ。今年度は全員進学希望だから私達と同じ弥生学園の生徒を見て」
俺の「セキュリティは?」という言外の疑問には反応しないで画面を操作する鞠花。
まあ、進路が判ったからと言って何をされる事も何が出来るという事も無いか。
画面を見ると、俺達を含めた弥生学園に入学する固有魔法の女性発現者の一覧が出ていた。
男には用は無いからな。
尚、弥生学園に入学する人数のは全部で十四人。男子六人、女子八人となっている。
「短縮卒業の有資格者が良いわよね?」
「……それまで見られるのか?」
「凄いでしょう?」
「俺の奥さんで良かったよ」
「因みに私達は有資格者。貴男が主席、私は次席」
「アレでも抑えていたつもりなんだがな……」
「精度面での評価が過去最高だから当然ね」
「もう少し自重しないとな……」
「手遅れだと思うわよ。それはそれとして、他には有資格者は居ないみたいね……」
「他の七人の固有魔法は判るか?」
「ええ、魔法名と簡単な説明になるけれど」
「見せてくれ」
自分で操作をしてもいいが、どんな機能なのかが判らない為、鞠花に任せる。あまり慣れた手付きで操作して疑問を持たれても困るからな。
ささっと表示された女子生徒の名前と固有魔法に関する簡易情報の一覧。
それを見て──二人に注目する。
「この二人?」
「この中ではな。一応、他に入学する女子の情報も確認してみよう」
判ってはいたが、鞠花の行動力は凄い。俺自身も実験等では直ぐに試したりする方だが、限定的だ。それに対して鞠花は全てにおいて。
まあ、だからこその実績と実力と名声だろう。
「此処か?」
「ええ、女子の場合、各々に細かい直しを希望する人も少なくはないから」
「即応する為と考えれば、こうなるか……」
地下駐車場に車を止め、エレベーターで上がる。着いた先は何処のファッションショーの会場裏かと思ってしまう程、人で溢れている。
そして、その全てが女性。男性の姿は無い。
……俺は外で待って…………駄目? 判った。
周囲の視線は無視だ。気にしたら殺られる。
鞠花に付いて行き、先ずは彼女の制服を受け取る事にする。
俺達が今居る場所は魔力持ちの女性専用の制服を扱っている特別な店舗で、ビルのフロアを丸々一つ使用している為、顧客は学生に限らない。
まあ、時期的に学生の方が多いが……ああ、俺の通っていた中学校の制服を着た女子も居るな。
普通の男には生涯、関わりの無い場所だろう。
「どうかしら?」
「……何故、スカートを持ち上げる?」
「見えそうで見えないギリギリが想像力を掻き立て興奮させるから?」
「訊かれても困るが……確かに魅力的だな」
「もう少し短い方が良いかしら?」
「他の男に見せる気は無いから長くて大丈夫だ」
「ふふっ、そうするわ」
試着室の前で待たされ、そんな遣り取りをする。満足そうな笑顔でカーテンを閉め、着替える鞠花は平気だろうがスタッフや他の客の熱い視線が嫌だ。気にしないにしても限度は有るからな。
弥生学園の女子の制服はセーラー服。昔ながらの代表的で伝統的な形が今も残されている。
ただ、春夏は白地で、秋冬は黒地。気候の変化に対応する為に、使用する生地や縫製技術が異なる。基調色やデザインは大差が無い。
尚、男子はブレザーのみだ。別に構わないが。
試着し、修正が無ければ、そのまま受け取る。
ある程度は事前に要望は出しているらしいので、鞠花は特に直しは要らなかった様だ。
一見、スムーズに終わった様に見えるが、それは鞠花が特別待遇だからで、他の御客は大変そうだ。しかも学生が集中する時期。もう少しズラした方が落ち着いて出来るのだが、学生としては制服関連は早く済ませて置かないと後々修正が必要になったり他の事に時間を取られる場合も有る為、今日辺りに集中してしまう。これも一種の風物詩だろう。
──で、そんな態々人の多い時に遣って来たのは今なら目を付けた候補者に会い易いから。
その二人も今日、此処に来ている可能性が高い。そう鞠花から言われた為だ。
その辺りの事情は男女で違うからな。
「──あ、あのっ!」
この人の多い中、どう遣って目的の人物を見付け出そうかと考えていた所、声を掛けられた。
振り返ってみると、綺麗な黒髪のポニーテールと切れ長の目が印象的な美少女が立っていた。
その第一印象はスポーツ──いや、武道が似合うクールビューティー。だが、緊張しているのだと、詰まった声から察する。指摘はしないがな。
身長は170……は無いか。スラリとしているが身体の動きは靭やかさを感じさせる。今は緊張から硬くなっているが。ピッチリとしたジーパンだから見れば判る下半身の筋肉の良質さ。後ろから見れば芸術的な形の様な気がする。
その一方で、緩いニットのパーカーでありながらラインは隠しつつも、その存在感は無視出来無い。鞠花や御義母さんも凄いが……此処にも天山が。
勿論、注視する様な事はしない。然り気無く見ただけだが、【並列考動】を活かせば十分だ。
決して能力の無駄遣いなどではない。
その御陰で自然な反応のまま、訊き返せる。
「俺達に何か?」
「──え? あっ!?」
俺か、鞠花か。何方等に声を掛けたのか判らず、敢えて複数人である事を強調すれば、其処で鞠花の存在に気付いた様で慌てる。
その様子から俺に声を掛けたのだと判る。
……が、目の前の美少女に見覚えが無い。誰だ?
「こんにちは。初めましてよね?」
「──っ!? え、ええ……初めまして」
堂々としている鞠花が挨拶すれば、相手は一目で鞠花の事に気付いた様で菫色の瞳が驚きに染まる。まあ、気付かない方が可笑しい様な人物だからな。その反応も当然と言えば当然か。
俺が何か言うよりも鞠花に任せた方が確実だから黙って見ている事にしよう。
「私は清乃宮 鞠花。貴女も弥生学園よね?」
「ええ、そうです。私は綾崎 瑞穂です」
「彼は私の夫で、同じく弥生学園に入る──」
「立方 晶だ。学園でも宜しくな」
そう挨拶をするが、直前の鞠花の言葉に判り易く動揺したのが判った。
──が、それよりも彼女の名前の方が重要だ。
何しろ、妻の候補者に上げた一人が彼女の言った名前だったのだから。偶然とは恐ろしいな。
閲覧出来た情報では名前等は判ったが、顔までは判らなかった。だから、どう遣って探し出すのかを考えていた訳だが……向こうから来てくれるとは。予想外だが、有難い。この好機を逃しはしない。
鞠花も判っているから、彼女を御茶に誘う。俺は余計な事は言わない様にするだけだ。
同じビルの上階にある品格の漂う高級店。
当然、庶民の俺は来た事は無い。誘われた彼女も付いて来たが、「……え? 此処?」という表情。他の者には判り難いだろうが、倍以上の人生経験が有るから俺には読み取れる。
戸惑う彼女に肩に触れ、「俺も同じだからな」と言って遣りたくなる。
改めて、鞠花の御嬢様さを再認識する。
まあ、金なら有るから俺が払うけど。
そして、然り気無く個室を取る鞠花の内助の功。個室なら、俺のキューブを使えば完全密室に出来て万が一にも会話や情報が漏洩する心配が無い。
実際には鞠花の部屋で使用しただけだが、効果は確かだろう。あれだけ鞠花が声を出しても誰からも何も言われなかったらしい。
ただまあ、雰囲気等から気付いたかもしれないが向こうもプロ。其処は迂闊には触れはしない。




