縁絲とは絡み合い
朝から励み、シャワーを浴び、朝食を取ってから鞠花を御姫様抱っこしてランニングで海岸へ。
驚くのも感心するのも全然構わないが、抱き付きながら悪戯をするのは勘弁して欲しい。首筋にキスする程度なら平気だが、吸い付いたり、舐めたり、甘噛みしたりはなぁ……俺に刻印する意味は?
……何と無くか。そうか。
一旦足を止め、遣り返した俺は悪くない。
「────っ、ふぅ~…………成る程ねぇ……」
「何と無くでも判ったか?」
「何と無く所か、これで十分に完成形よ。これ以上何処を弄ればいいのかを探す方が難しいわ。ねえ、本当に貴男の名前は出さなくていいの?」
「言っただろ。俺は無闇に注目はされたくないし、身体強化が使えているとは言え、独学独自の代物。それを汎用可能な技術として確立しようと思えば、言語化する必要が有る。鞠花に限っては体感面での共通性、或いは共有性が有るから伝えられただけで他の者には伝わるかも判らない。まあ、技術として確立しても向き不向きは有るだろうし、修得までの個人差も否めないだろうけどな」
「それはそうだけれど……」
「鞠花が知ってくれてさえいれば、俺には十分だ。それに、こう言っては何だが、この技術を公表し、広めるのなら相応しい人物の方が説得力が有る」
「……はぁ~……判ったわ。其処まで言われたら、私も無理強いはしないわ」
「理解の有る妻で助かるよ」
御世辞等ではなく、本当にな。
因みに、それは身体強化を感覚的な表現で伝え、こうして翌朝には実際に使えている、という意味も含めての賛辞だ。
「晶、貴男も弥生学園に入学するのよね?」
「ああ、家から通えるからな。でも、話していないのに、よく判ったな?」
「机の上に申請書類の控えが置いて有ったもの」
「あー……でも、アレは希望で、だろ?」
「幾ら目立ちたくはないとは言っても自分の進路に関わる以上、手抜きはしないと思ったからよ」
「違っていたかしら?」と揶揄う様な視線で問う鞠花に小さく笑って「正解」と示す。
俺は鞠花を、鞠花は俺を。
僅か一晩だが、その一晩で性格的な部分に限れば御互いに、かなり理解していると言える。
まあ、それだけ御互いに相手を知ろうとしたし、求め合った結果だろうな。
本能的になる分、その者の本質も露にある。
性癖も、ある意味では本質だが、経験や欲望次第では歪む可能性も有る。だから、必ずしも直結するとは言い切れない。
「そういう訳で、私も一緒に住むから」
「……冗談抜きで来年には子供が生まれそうだな」
「孫の顔が早く見られて喜んでくれるわ」
「その前に挨拶とか色々と有るけどな」
「大丈夫、私が選んだ相手なら何も言わないわよ。結婚とかに関しては両親は「自由にしなさい」って言ってくれているから。寧ろ、私の方が責任感有り過ぎる考えをしている位だもの」
「御両親は恋愛結婚か?」
「ええ、今でも熱々よ」
「成る程な、その辺りは遺伝という訳か」
「……ふふっ。ええ、そうみたいね」
一瞬だけ、目を丸くしていたが、直ぐに理解して目を細めて微笑み、俺の腕の中に飛び込んでくる。紡いだ思い出、積み重ねた時間、綴り束ねる歩みは比較するまでもないが──心身を焼き焦がす勢いと熱さでは俺達も負けてはいない。
──が、若気の至りによる失敗は避けたい。
まあ、昨日今日の事を考えれば今更では有るが。せめて、夏休みに入るまでは妊娠は避けたい。
夏休みに入れば“短縮卒業”を考えてもいい。
短縮卒業とは文字通り修学期間を特別に短縮し、卒業する事が出来るという制度。勿論、それ相応の成績や実績が必要となる。
第一有権者は入学時の上位九名。それは入学時に公表される為、今は判らない。また、当然の事だが基準が定められている為、それ以下の場合は上位に入っていても該当者からは外される。
第二有権者は在学中に特筆すべき成果を上げて、認められた者。此方等には制限は無い。俺の中では此方の可能性が高いのだが……どうなるのか。
本来、魔力持ちの進学──高等部での修学期間は二年間と定められている。
はっきりと言ってしまえば、魔力持ちの価値とは戦力に成るか否かで決まる。よって、優秀な者なら半分の一年間の修学で卒業が可能だ。
明璃さんと凜さんも短縮卒業者。その為、二人は俺達の三つ歳上。誕生日次第では四つになるが。
短縮卒業者自体、毎年居る訳ではない。有権者も卒業するに足る学力と実力を求められる為だ。
そして、直近の五年間の短縮卒業者は二人だけ。如何に困難か。その倍率から凄さが判るだろう。
俺達なら問題無く狙えるとは思うが。目立つ事は避けられない為、鞠花が妊娠したら、と考える。
…………しない方が不自然だろうな。
まあ、だから夏休み中に条件を満たす。鞠花には身体強化の魔術の確立という功績が確定している。だから、後は俺が実績を残すだけ。
…………あー……適当にGランクのダンジョンを攻略すれば条件は満たせるか。
これはもうアレだな。俺の実力は鞠花には秘密に出来無いから絶対に欲しがるな。
鞠花が魔力切れギリギリまで身体強化の遣り方を繰り返し試してから帰宅。
魔力切れが近いと倦怠感が凄い為、鞠花が超甘えモードに入っていて可愛い。
美人の気怠そうな姿というのは、妙に艶かしいと思うのは俺だけだろうか?
「……ねぇ、晶……ちょっと訊きたいのだけれど、私の魔力量が増えているの。心当たりは無い?」
「魔力量が? 具体的には何れ位?」
「昨日までの魔力量の一割増し位ね」
「……結構な増加だな」
「こんな話、聞いた事も無いわぁ……」
ソファーで仰向けになっている鞠花は砕けた口調というだけで可愛さが三割増しだがな。
それはそれとして。
直ぐに思い浮かぶのは【刻印】の影響なんだが、その増加量が引っ掛かる。
生物──人に対しての【刻印】に条件が有るなら増加量が僅か一割というのは微妙。せめて、五割は増加しても可笑しくはないと思う。それだけの条件設定ではあるだろうからな。
そう考えると、【刻印】が直接影響した可能性は低くなる。しかし、それに代わる心当たりは無い。ダンジョンの休憩部屋を利用した訳でも…………
「……晶?」
「あー……その、何だ…………」
「どうしたの? 歯切れが悪いわね……」
「確証が有る訳じゃない。だから、飽く迄も可能性でしかないが……昨日から今までの間に有った事で大きな変化となると一つしか思い浮かばない」
「それはな…………え? そういう事なの?」
「他には思い当たらないしな」
俺が何を言いたいのかを察した鞠花が無意識かは判らないが自分の御腹──下腹部を撫でる。
生々しいから止めて欲しいが……それが、原因の可能性は考えられる。
“房中術”や“陰陽思想”という概念も有る様に命を生み成すという事は究極の神秘でもある。
──とは言え、やはり意味不明だ。「何故?」と言いたくなるのは仕方が無いだろう。
それらしい可能性が他には思い当たらないだけで別の要因が無いとも限らないが…………二人して、他には思い浮かばないから仕方が無い。
ただ、可能性の域は出ないし、最初だけなのか。或いは、増加量は減少するにしても、継続する事で確実に増加するのか。
その辺りを検証したいが、比較対象が居なければ何とも言えない。
妻としては鞠花だけで十分なんだがな。
「……貴男、歳上だと何れ位までなら守備範囲?」
「……は? いきなり何を…………おい、まさか、自分の母親で検証しようと思ってるのか?」
「情報が漏れず、しかも、余計な柵が無いとなると直ぐに思い浮かぶのはね。母娘丼は嫌い?」
「普通に答え難いな……まあ、嫌ではないが、不倫する気は無いからな?」
「夫が公認でも?」
「…………それはそれで判断が難しいな……」
「因みに、私は御母様からの遺伝よ」
「…………」
仰向けのままで、両手で自分の物を押して寄せる鞠花が視線で「御母様は更に上よ」と語る。
…………くっ、心が揺れてしまう。
だが、今朝は今も熱々だと言っていなかったか?
「それはそれ、これはこれよ。今でこそ、御母様は違う分野で活躍しているけれど、基本的には研究者気質だから、其処は御父様の理解が有れば気にせず行動すると思うわ。それこそ、貴男の子供なら一人産んでもいいと思う気がするわ」
「それはどうなんだ? 男としては誉め言葉だが」
「私個人としては弟妹が出来る事は素直に嬉しいし同じ男の子供を母娘で産むのは有りね」
「……何と言うか凄い価値観だな」
「でも、私自身は貴男以外に抱かれる気は無いし、子供を成すつもりも無いわよ」
「……それはそれで酷い話だな」
「其処は個人の価値観の違いよ。私は政略結婚等は手段の一つと考えられるけど、貞操観念と研究欲を秤に掛けたら貞操観念が勝つわ。御母様は逆ね」
「あー……そういう事か……」
「御父様も同類よ。勿論、誰とでも、とは思わないでしょうけれど、貴男なら大丈夫よ」
「その根拠は?」
「御父様は実績も有るし優秀だけれど、魔力面では平凡な人なの。私は母方の血筋が色濃く出たから、才器に恵まれたけれど……運が良かっただけね」
「それを言い切るか」
「事実だもの。だから、私は一人娘なのよ。二人目以降が才器に恵まれなければ可哀想でしょう?」
「まあ、苦労は想像出来るな」
「家族関係も悪くなるでしょうね。そういう状況が想像出来るから私一人だけなのだけれど、御母様も出来れば三人は産みたかったみたいなのよ」
「……想像以上に隠し事の無い家族関係だな」
「御陰で生き易いわ。まあ、両親にしても自分達の仕事を優先し易い環境だから御互い様ね」
「成る程な……勉強になるな」
「そういう訳だから、貴男との子供なら、その辺の心配は要らないから御母様も大歓迎するわ」
「社会的な倫理観は?」
「魔導学関係の研究者に有ると思う?」
「有るべきだろ?」
「冗談よ。でも、優秀な血筋を遺す事が未来に対し私達が成すべき事でも有るでしょう?」
「それは……まあ、否定は出来無いな」
「私も御母様も弥生様の直系だから、その辺りの事に対する使命感は強いのよ。だけど、自分の恋愛と両立する事は難しいわ。私は運が良かったけれど」
「そう言われると嬉しいな。まあ、御義父さんには少し悪い気もするが」
「御父様も自覚しているから大丈夫よ。寧ろ、その部分では御母様とも考えは一致しているから」
「…………だからか」
「ええ。御母様が貴男を認めさえすれば問題無し。寧ろ、私は御母様の方から相談されると思うもの」
「相談?」
「貴男の子供を産みたいって」
「あー……」
「それだけ貴男は特別なのよ。だから、私も貴男を独占はしないわ。勿論、独占欲は有るけれど、別に四六時中・恒久的に、という訳ではないから」
「一夫多妻は気にしないと?」
「基本的にはね。流石に手当たり次第に、となると怒るでしょうけれど……その心配は無いから」
「……俺も男だが?」
「そういう人なら倫理観云々なんて言わないわよ」
「御尤も」
「百人位なら許容範囲内かしら」
「それは俺の方が許容範囲外だな」
「ふふっ、そうでしょうね。貴男は誠実だから一人一人との関係を大事にするタイプだから、三十人も出来れば十分だと思うわ」
「十分過ぎる人数だけどな」
「そう? 貴男なら大丈夫だと思うわよ?」
そう言って両手を広げる鞠花の要求を察したので傍に行ってキスをする。難しい体勢だが……って、何故ズボンに手を掛ける?
「そういう話をしていたから欲しくなったの」
そう一言だけ言って、当たり前の様に自分の顔に俺の下半身を引き寄せる。
……抵抗? 愛し合う若い二人に必要か?
遣る気スイッチの入った鞠花に合わせ、俺の方もスイッチを入れ、鞠花に覆い被さる様に身体を曲げ顔を彼女の下半身に近付ける。
考えなければいけない事は色々有るが、考えても仕方が無い事が大半。成る様にしか成らない。




