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第3話「おかえりー!」

第3話「おかえりー!」


 ベローチェとスカビオサは黙々と平原を歩き、ほんの少しの丘を越え、暖かな風に迎えられながら、ボロボロの家屋の前に辿り着いた。

「師匠! いるのかー!? 可愛い弟子だぞー!」

 口元に手を添え、ボロ屋の前で叫び出したベローチェに、スカビオサは少しばかり驚いていた。しかし、次の瞬間にはその驚きの矛先は別のものへと変わった。

 ボロ屋があった空間は歪み、瞬く間に玉ねぎのような形をした家屋へ姿を変えたのだ!

 ここで副題を差し込もうと思う。

第3話「おかえりー!! ベローチェよ! 元気にしてるか〜? ちゃんと食べてるか? その男は誰だ、彼氏か!? ついに大人になっちゃうのか〜!?」

「やかましい!!」

 ベローチェは自分に抱き着いてきた女を放り投げ、工房の中へ足を踏み入れた。


 …………ふぅ。一呼吸置いたので説明しよう。今、副題を遮ったのは、ベローチェの魔法の師匠「カルミア」だ。

 カルミアは、ベローチェと瓜二つの容姿をしており、違いはベローチェと比べて纏まりのない毛髪と溌剌な性格くらいだろうか。

 とにかく、ベローチェのことを溺愛しており、彼女に会うたびカルミアは抱き着き、そして投げ飛ばされている。

 地面にめり込んでいた顔を引っこ抜き、即座にベローチェのもとへ走り寄ったカルミアは、少し声色を低くして言った。

「で、お前何した?」

「……っ」

 カルミアはベローチェの帰還をただの里帰りではないと見抜き、敢えて聞いたのだ。

 ベローチェは溜めていた息を吐くと、観念したように自白した。

「私は国を捨てた。そこの騎士に私を奪わせたんだよ」

 カルミアは騎士を一瞥し、狐のように目を細めて、ベローチェへ言った。

「そこそこ簡単な説明をありがとう。しかし、思い切ったな、あの国に残された民は、お前の気まぐれでいい迷惑を被ったわけだ」

「分かっている。だが、あの国はつまらん、騒がしいが心が躍らん……皆、人間なのかと疑いたくなるくらいだ」

「感受性の欠如を疑ったことは?」

「ないな」

 カルミアは食虫植物に水をやりながらベローチェへ聞き、ベローチェは本を読みながらカルミアの質問に答えている。そして、スカビオサは入口で立ち止まっていた。二人の会話に入るつもりもなかったが、入る余地もない為、動けずにいたのだ。

「それで、これからどうするんだ?」

 カルミアが聞いた時、ベローチェのページを捲る手が止まった。

「少し、考えさせてくれ」

「いいよ、存分に考えな」

 ベローチェをそのままにカルミアは入口へと向かい、スカビオサにだけ聞こえるように声を送った。鋭い声をすぐさま感知し、スカビオサの身体は硬直した。

「そこの騎士よ、お前に『魔眼』の痕跡が見受けられる。人を使うとは……ベローチェも悪い子だなあ?」

 挑発的なカルミアにもスカビオサは動じず、静かに答えた。

「……構わない」

 固い意志さえ感じ取れる彼の回答に、カルミアは目を見張った後、口元で弧を描くと「その誓い、(たが)えるなよ」と言い残し、雑草を抜きに行った。

 妙な胸騒ぎを覚えたスカビオサは、やっと工房へ入ると、読書中のベローチェへ尋ねた。

「ベローチェ様、あなた様の師について聞いてもよろしいでしょうか?」

「そんな畏まる必要はない。そうだな……()()は阿呆だが、私の師だ、(あなど)れん」

 ベローチェは続ける。

「師匠は回復魔法が得意でな、サンプルを見つけては、趣味で生き物をどうこうしている」

 すると、ベローチェは棚に置いてあったガラス製の円柱を指差した。円柱の中には、カエルやトカゲ、毛の生えた小動物などが液体漬けになっており、スカビオサは吐き気に等しい不快感を覚え、思わず唇を強く結んだ。

「この辺りの動物は皆、師匠の趣味の餌食になっているだろうな。まあ、その『サンプル』たちのおかげで師匠の回復魔法は、ただ人を治療する魔法ではなくなったが」

 ベローチェは平気そうに話しているが、聞き手のスカビオサは違った。彼の中でカルミアはいわゆる「潜在的脅威」と言えるのではないかと、疑惑が上がったのだ。

 ――彼は無意識に剣の柄に手を添えた。

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