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第1話「ベローチェ」

ここから主人公登場です。

第1話「ベローチェ」


 玉座へと続く赤い絨毯を踏み締める淑女がいた。彼女の名はベローチェ、赤いスカート状のドレスを身に纏い、腰まである象牙色の髪を揺らしながら歩む様は優雅かつ上品であり、一国の姫を思わせる。

 実際、彼女は姫である。その姫は、恍惚とした表情のまま玉座に腰かけた。すると、地面に伏していた老けた男が力の限り手を伸ばし言った。

「ベローチェ……逃げなさい……!」

 彼は父王であった。しかし、彼女は不敵な笑みを浮かべ、愉快そうに返すのだ。

「逃げる……? その必要はありませんわ、お父様」



 ――だって、私は死なないのだから……!!


 

 時は昼に遡る。

 ベローチェは日夜魔法の研究に励んでいた。カビ臭い古書を読み漁り、誰に見せるか分からない論文を書き、飽きたら薬品に手を伸ばす。研究は楽しいが、同じ毎日の繰り返しに、彼女は飽き飽きとしていた。

 そして、今日も今日とてベローチェは、適当に試験管を振っているわけだが……。

(……何か面白いことでも、起きぬものか……)

 ベローチェが溜め息混じりに愚痴を溢したとき、心臓がドクリと鳴った。

「…………なんだっ!?」

 ベローチェは全身が震えるほどの凄まじい力の波動を感じ、思わず辺りを見回した。突然のことで、彼女の身体は強張っていたが、徐々に緊張は解け、最終的に恐怖より興味の方が勝った。時は金なり、力の源を探るべく、わくわくドキドキという名の好奇心を胸に抱いた彼女は、数年ぶりの外出をした。

 外は夜だった。ベローチェは露店が並ぶ大通りを歩いていたが、貼り付けたような笑みを浮かべる国民を見ながら、相変わらずつまらない国だと、彼女は独り言を溢す。

(ヒトであって、ヒトではないようだな。……っと、そんなことは置いておこう……)

 ベローチェはお忍び気分から切り替え、力の痕跡を追うことに集中する。そして、脇道に入ったとき、彼女はついに見つけた!

 力の主は、ぼろぼろのローブを纏っている為、顔は確認できないが、やや高めの背を見るに、相手は恐らく男だ。

 しかし、城の地下にまで届く力の持ち主だ。いきなり攻撃されては敵わん、と考えたベローチェは、魔法を使うことにした。ここでベローチェの名誉の為に補足しておくが、彼女は戦えないわけではない、ただ面倒な戦闘を避けたいだけなのだ!

 ベローチェは人混みに紛れ、慎重に距離を詰める。そして相手と視線を交わすことができる位置についた時、ベローチェはにたりと微笑み、淡色の瞳を輝かせた。

 ――私を奪ってみせよ、と。

 狙い通り、男は固まり、ベローチェに釘付けになった。やることを成したベローチェは、満足そうに城の地下へ転移し、荷物をまとめ出した。

 程なくして、城内が騒ぎ出した。兵士の怒号と空を切る音、松明からカーテンへ引火したのか焦げた臭いがする。

「ふふ……、思ったより早かったな?」

 ベローチェはこれから奪われることへの愉悦に浸っていた。緩む頬を押さえるのに苦労するほど、ベローチェはうっとりしている。いかんいかんと両頬を手のひらで叩き、ゆったりとしかし堂々と玉座の間へと歩み出した。

 なぜ、玉座の間なのか?

 物語で姫が攫われる場所は、玉座の間だと相場が決まっているだろう!

 そして、見事刺客と鉢合わせることなく、玉座の間へと辿り着いたベローチェは、勝利の笑みを称えながら腰かけた。

 「逃げろ」という父王の呼びかけを諸共せず、ただ扉が開かれるその瞬間を待つ。


 ――時は満ちた。


 バンッ! と勢いよく扉が開いたのと同時に、一人の男が突きの構えのまま真っ直ぐこちらへ突っ込んできた!

 ベローチェは、反射的に防御障壁を展開し、突進を受け止める。男をよく見ると、騎士のような格好をしていた。

(流れ者か?)

 他国から流れてきた退役した騎士か何かだと思ったのだ。フードの隙間から見える柔らかそうな紫色の髪や鋭いがどこか悲哀を含んだ紺色の目に、ベローチェは騎士に対して「若い」という印象を持った。

 そして、どこか胸が切なくなった。

「……と、けた……」

「なんだ?」

「やっと、貴女に近づけた……!」

「隙あり!!」

「お父様!?」

 何を思ったのか、父王が騎士に対して斬りかかった!

 これは、ベローチェの誤算だった。とっくに息絶えたと思っていた父王が最後の力を振り絞ったのだ! しかし、騎士が「邪魔だ!」と声を上げる頃には、首と胴体の繋がりは絶たれ、父王の首がベローチェの足元へ転がってきた。

 その拍子につま先が血に塗れ、ベローチェは眉を潜めた。彼女の様子を見た騎士は剣を納め、跪く。

「申し訳ありません」

「ほう? 何がだ?」

「貴女を汚してしまった」

 騎士は父王を斬ったことよりも、ベローチェを損なったことを気にしていた。ベローチェは「顔を上げろ」と言った後、騎士の顎に指を添えた。

「私を連れて行け」

 騎士は立ち上がり、ベローチェを姫抱きにすると、人形のように歩き出した。


 血だらけの道は、赤い絨毯との区別がつかなくなっている。骸の山に燃えたタペストリー、そして玉座の間に転がる王の首……城は「落ちた」と言えるだろう。

 

 刺激のために落とされた城はたまったものではない!

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