ロック・アンド・ロード
「いたぞっ!追えっっ!!」
満月が照らす道を走る二人の人影、その後を数え切れないほどの人影が追いかけた。
「チっ」
螢は面倒くさそうに舌打ちをすると、懐からトリガーの前に弾倉がついた独特の形の大型拳銃を取り出した。
「ちょ、それは──」
バラララララッッ!!
英人の声を遮り、銃口が閃光と共に連続した炸裂音を轟かす。
それは二秒と持たず弾倉を打ち尽くすが、螢は旅行鞄を脇に挟むと器用に手元も見ず弾倉を入れ替え、再度後方のゾンビに向かって掃射した。
「ーーーっっ!?」
そのたびに倒れるゾンビと村人、吹き飛ぶ常識と理性、襲い来る恐怖と非常識が英人に声にならない悲鳴を上げる。
追いかけてくる人影の殆どは見るもおぞましく醜い不死者、ゾンビであったが、その中にはつい先日知り合った村人も幾人か混じっており、螢の放つ弾丸はその両者を分け隔てなく薙ぎ払う。
あえて違いを上げるならば、ただの村人は弾丸を受ければ一撃で倒れるが、ゾンビは頭でも吹き飛ばさない限り打たれた部位を欠損させたまま追いかけてくる事くらいだ。
「さすがにゾンビ相手じゃ、焼け石に水だな」
螢はそう言いながらも器用に弾倉を交換しては迫りくる群れに銃弾をぶち込む。
バラララララッッ!!
「ギャッ!!」
珍しく生きた人間に当たり、倒れて後ろを走っていたゾンビを何人か巻き添えに闇へ消えたが、問題が好転するには程遠い。
むしろ、騒ぎを聞きつけ追いかけるゾンビの数は時間を追う毎に加速度的に増えている。
そのおぞましいゾンビの群れに疲れとは別の汗が英人の頬を伝う。
港まではもうそう遠くない。
螢一人ならば既に着いているであろう距離。
否。
それ以前にゾンビ達に見つかる事すらなかったであろうという思いが、元来小心者、小市民的感性と自覚している英人の心を痛める。
あと少し、あと少しだというのにゾンビ達の包囲網は絶望的なまでに二人に迫っていた。
バラバラバラバラ──
その時、遠くより僅かにプロペラ音が鳴り響く。
「螢さんっ!」
英人は横を振り向いて声を上げた。
が、螢はそこにはいなかった。
「けいs──」
「──君は先に逃げるんだ」
螢は歩みを止め、ゾンビ達に向き直っていた。
「そんなっ!?」
「いいから行けっ!」
振り返り足を止めそうになった英人をゾンビ達に銃弾を撃ち込みながら叫んだ。
「螢さん……」
止めそうになった足をゆっくりを前に進ませる英人に螢は少しだけ振り向いた。
「なに。すべて倒して追いかけるさ」
螢の顔は夜の中、満月に白く照らされながらも性格が悪そうに笑っていた。
「っっ!」
英人は螢の笑顔を背にプロペラ音の方、港に向かって走り出した。
「さてっ……」
螢はゾンビを大きく跳躍して避けながら愛銃を一掃射すると、片膝を折り曲げ着地した姿勢のまま小脇に抱えた旅行鞄を肩に担いだ。
距離は十数メートル。
「ロック・アンド・ロード!」
螢は楽しげに叫びながら旅行鞄の隠しボタンを押し込んだ。
同時に旅行鞄から小型のロケット弾が発射されゾンビの群れを吹き飛ばした。
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