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山狩り


「ん?アンタもしかして英人さんかぁ!?」

 英人は眩しい光に照らされながら、懐中電灯片手に大声を上げる男の影を見た。

 男は後方に手を振ると、英人の方を再度確認し、懐中電灯を下げてゆっくりと二人に歩み寄った。

「本家の英人さんでええよな?……って、何でそんなにボロボロで背負われてるんだ!?」

 安堵した表情で話しかけてきた中年の男性は、英人の状況を確認すると驚きの声を上げた後、ギロリと蛍を睨んだ。

「いやいやいや、彼女、ケイさんは俺を助けてくれたんだよ!」

 慌てて庇う英人に中年はさらに胡散臭げな目で螢を見る。

「助けてくれた?」

 不穏な気配に英人がそう言うと、中年の男性は値踏みするように蛍をジロジロと見た。

「ああ、動物・・に驚いて斜面を転がり落ちて動けなくなってた所を助けてもらったんですよ」

 言葉は足りないが嘘は言っていない。

 英人の説明に男は疑いの目を蛍に向けた。

「……本当か?」

「ああ本当さ。怪我は大した事は無かったがね。よほど驚いたようで腰を抜かしてしまっていてね。仕方ないから此処までおぶって来たのさ」

 二人が示し合わせた作り話に男はまだ何処か違和感を拭いきれないでいるようだった。

「まぁええ、集落はすぐそこだれ付いてきんしゃい」

 そう言って二人に背を向ける男の背を追いながら蛍と英人はなんとか上手くいきそうだと顔を見合わせた。

「お~い。皆~。若が見つかったぞぉ~」

 集落も近くなり男が懐中電灯片手に集まっていた人々に手を振るとあれよあれよという間に人だかりが出来た。

 十代後半から六十代後半くらいの人々が、懐中電灯を片手に集まり、英人の無事を喜び、またその怪我を心配する。

 そんな英人に対する親身な対応とは裏腹に蛍に対しては警戒半分、敵意半分といったような明らかな余所者に排他的な態度をとる。

 その落差に英人は愛想笑いを浮かべるしかなく、蛍は表情を変えずサングラス下の眼で冷静に村人を観察していた。

「英人さん!」

「英人!」

 そんな時、女性の声が英人の耳に届いた。

 声の方を振り向くと人を掻き分け二人の女性が駆け寄ってきた。

 ドンッ!

「ぐっ!?」

 駆け寄ってきた影の小さい方、明日香は近寄るやいなや蛍に背負われたままの英人の側面にに抱きつきうめきを上げさせた。

「ちょっと明日香!」

 僅かに遅れてやってきた百合佳はその行為をたしなめるもその様子に逡巡した後、明日香とは反対側に回ると胸を押し付けるように英人へと抱きつこうとした。

 が、明日香が英人を抱きしめる直前、蛍は明日香を振り払って一歩身を引いた。

 英人から引き離され、二人は不服そうに蛍を睨んだ。

 しかし、彼女は表情をサングラスの内側に隠し、口の端で笑みを作り言った。

「感動の再開は結構だけど、その前に治療と着替えくらいさせてあげるべきじゃあないかな?彼を大事にするならね」

 もっともな主張に二人は表情を歪める。

 いや、周りの島民皆が、見ず知らずの余所者を敵意を持って睨んだ。

 正論は正しいが、それ故に受け取る人間は自身が攻撃を受けたかのように感じ反感を持つ。

 特にそれが、元からマイナス方面の感情を持つ相手であればなおさらである。

 つまり、余所者への反感、排他性の強いこの島民にとって、蛍の言葉は彼等の自尊心を酷く傷つけるものであった。

 蛍の幼く小さな身体に殺意にも近しい敵意が四方八方から突き刺さる。

 しかし、彼女はそれを歯牙にもかげず煽る。

「なんだい?この島ではこの程度の治療も出来ないのかい?」

 正に一触即発。

「──っ!」

 誰かが声を上げようとした瞬間、別の落ち着いた声が響いた。

「そのくらいの傷なら我が家で十分治療できる。明日香、百合佳、案内してあげなさい」

 視線の先に哲将がいた。

 彼は回りを抑えるように英人捜索に借り出された人々に感謝の意を示し、その間に百合佳達は蛍を家路に案内した。

「こっちよ」

 二人に先導され、蛍は英人を背負ったまま島民の間を堂々と歩いて鈴藤家へと向かった。


読んでいただきありがとうございました。


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