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6話 家主さんも社会人

 今日は土曜日、波瀾万丈だった面接を終えた俺は来週からのバイトに備えて指南書を読み込んでいるところだ。

 最後の最後に衝撃の事実を突きつけられたが、確かに普通の青春を味わう上で屋敷住みは少しおかしいかもしれない。

 それにこっちの方が俺も教えやすいともおもう。

まあ、そんなことを思い、説得された俺は最終的にアパートの隣に住むことに同意した。


 安全上一応近くにボディガード入るらしいが、これだけでも普通の学生の生活に近づくだろう。


 うん、それはいい…それはいいんだが…


「なんでお前はうちにいるんだよ!」


「…お腹すいた」


「自由か!、そんでもってどうやってうちに入った!」


「…てってれ、てってってー。マスターキー」



 なんか青たぬきが使いそうな効果音とともに8畳しかない部屋に我が物顔で座っている彼女のポケットから本当にマスターキーらしきものが出てきた。


「…それ、誰からもらったの?」


「…家主からって、お父さん言ってた。」


「家主さん!?」


「…あとお菓子ももらった、私、可愛いからって」


「家主さん!?」


「…あと、お父さんにぺこぺこしてた。」


 うわぁ、めっちゃ媚びとる…。「うちのアパートをどうぞよろしくお願いします」とか言ってそうだなその感じ。

 うん、なんか大人の社会が垣間見えた気がするが目を瞑っておこう、…あまり思い出したくないし。


そんなことを考えているといつの間にかうちのちゃぶ台サイズの机が埋まるぐらい、お菓子が入った袋が置かれていた。

 しかも、中身も定番のものから少し高そうなものまで勢ぞろいのラインナップとなっている。


…家主さん、本当にあなたって人は


「…まあいいや、で、それどうするんだ?一人で食べるのか?結構な量あるが。」


「…?。…食べないよ?」


「いやあの、そんなきょとんとされましても…。そんな量のお菓子、なんとかしてくれないと家を圧迫するから困るんだが…」


「…交換して?」


「…は?いや何と?」


「…ご飯」


「………なぜ?」


「…お父さん言ってた。…何かしてもらうなら対価がいるって。だから、…ご飯と交換」


 そういうと、彼女は袋いっぱいに詰められているお菓子を俺にそのまま差し出してきた。


 うーん、なんかあってるようで違うような…

いやまあ、言ってることはわかるがお菓子で対価ってのも、俺ごときの料理に対価ってのも変だよな…


「…どうしたの?…これじゃ足りない?」


「…いや、そういうわけではないんだが…」


「…じゃあ交換して」


「…あのさ、俺からいうのもなんだが…。対価はないといけないのか?」


「…それがうちのルールだから」


「…そうか」


正直そこまで守るものでもないような気はするが…

彼女がそこまで気にするものなら、もらった方がいいのか…?

いや、でもたかがご飯ごときにこんなにここまでもらうのもな……あ、そうだ!こうしよう!


「…わかった、ご飯を作ればいいんだな」


「…じゃあ、はい。」


「いや、お菓子は貰わない」


「…え?でも…」


「いいから…とりあえず座って待ってろ」


「…あ、うん、」


***


「ほら、できたぞ。」


 俺はとりあえず簡単に味噌汁とご飯を作り、冷凍コロッケをさらにのせた、簡単な昼食を作った。

 まだ、買い物にも行っていないので家の在庫で作った本当に簡単なものだ。


「まあ、いつもの料理に比べたらだいぶ質素なものだろうけどちゃんと美味しいから」


「…いただきます」


 彼女は恒例の挨拶をし、箸を使ってソースのかかったコロッケを口に運ぶ。

そして一口サクッと音がして味が口に広がった瞬間彼女の目が輝いたようになった。


「…美味しい。」


「そうか、まあ、冷凍だけどそれでも美味しいよな。コロッケって。」


「…こんなに美味しいもの初めて食べた。…家ではいつもよくわからない味のものばっか出るから、新鮮。」


「あー、なるほど」


多分、フォアグラとかキャビアとかそういう話か…

食べたことないけど、確かに超美味しいとかってあんま聞いたことないかも…

なんというか…さすがお嬢様って感じ…


 彼女はそのあと一瞬でコロッケを完食し、そのまま味噌汁もご飯もすぐに平らげてしまった。


「…ご馳走様、美味しかった」


「それは良かった。あまりものだったからあんまいいやつじゃなかったけど…満足してくれたなら作った甲斐があったよ」


「…やっぱり、対価、いる」


「はあ、まあそこまでいうなら…」


「…うん、だからお菓子とあとは少しお金…」


「いや、それはもらわない。」


「…え?」


「俺がお前からもらう対価は、こういう料理を作る時に手伝ってもらうことだ」


「….手伝う?」


「そうだ、俺は今回、仕事として水野に普通の青春を体験させることになってる。だから、一人暮らしをする時にする自炊を学んでもらおうというわけだ」


 そう、俺が考えた対価というのは彼女に自炊を手伝ってもらうこと。

 自炊はやってみると意外に難しくよく失敗する、しかしできるようになると好きなものが作れてとても楽しいし、努力することの楽しさもわかると思ったのだ。


「まあ、俺普段バイトが多いからあんまり自炊できないけど…、やれる時は手伝ってくれ、そうすればだいぶ助かるしきっと楽しいぞ」


「…そんなのでいいの?」


「ああ、俺はそれがいい」


「…わかった。…じゃあそうする」


「おう、そうしてくれ。…あ、そろそろ俺バイトだから部屋戻るなら鍵閉めておいてくれ」


「…わかった。」


***


鍵が閉まる音ともに階段からドタドタと降りて行く音がする。


「…行っちゃった。」


 いきなり彼の部屋でくつろいでいたのに突っ込まれはしたものの追い出されたりはしなかった。

 それに、ご飯を作ってもらうのに対価としてお金とかものではなく、手伝ってと言われた。

 今までそんなことを言ってきた人はいなかったのに…


「…ふふ、やっぱり、変な人」





ー結局、お菓子は二人で食べれる分だけ分けたあと残りはご近所に分けた。

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