3話 きっかけ
放課後、俺はトボトボをと凹みながら帰る準備をしていた。
あの後、俺は自己紹介が失敗したなら……とすぐに周りの人に話しかけようとした。
しかし、クラスメイトはみんな一目散に水野さんのもとへ向かい質問責めをしていた。
彼女は話すのが苦手そうだったのにそれもお構なしにやっており、少しかわいそうだった。
一応注意はしたのだが、誰も聞く耳を持ってもらえず、彼女に心の中で謝りつつ、俺には無理とギブアップした。
「くそ〜、こういうのは初日が大事というのに…」
実際、クラスではすでにいくつかのグループができており、完全に出遅れてしまった。
そうして俺は落ち込む気分を持ちつつ、昔はよく見ていなかった、後者をみることにした。
前は本当に勉強とバイトしかやっていなかったため、この校舎の構造など全く覚えていなかったのだ。
今日は学校初日のため、少し早く帰れるのでいい機会だと思い学校を見て回ることにした。
「…こんな感じたっだんだ」
見て回ること数十分、もちろん見覚えのあるところもたくさんあったが、思っていたよりも、新鮮なところがあって思っていたより面白い体験となった。
じっくり見ると新たな発見があるというのは本当に世の中の心理なのかもしれない。
「最後は…あそこかな?」
最後に訪れたのは実は登校した時から一番気になっていた、「バイト募集項目」の掲示板である。
お金を送ってくれる人が俺にはいない以上、バイトをして教育費、食費、家賃、など全てを自分で稼がなくてはならない。
そのため、俺はバイトを毎日2つ以上掛け持ちしており、なんとか生活している。
だからこそ、学生でも受けれるバイトでなるべく、家賃の高いバイトを常日頃から探している。
そのため、学生用のバイトが貼られている掲示板ならいいバイトが見つかるのではないかと少し期待しているのだ。
「えーと、なんのバイトがあるかな?」
上から順番に見ていくと、喫茶店やコンビニ、工事など様々な種類のアルバイトがありお小遣い用くらいの賃金のもの、また、家賃を払えるぐらいの賃金のものなど様々な種類があった。
期待していた通り学生用のバイトがたくさんあるのだ。
しかし…
「目ぼしいやつほぼ、今受けているやつだ…」
残念ながら今すでに面接を受けてバイトをしているものばかりだった。
もちろんいくつかはやっていないものはあったが、どれも今やっているバイトより賃金が安くお目当てのものは見当たらなかった。
ダメだったかと、諦めかけたその時、一番下に貼られていたチラシが目に入った。
ー水野財閥のお手伝い募集ー
時間:5000円 年齢制限なし、募集人数一人
参加条件:条件を満たせば誰でも
面接で受かれば誰でもなれます、ぜひ応募してください。
こ、これは神のバイトだ…
全国のバイトの平均は1400円、そして世界で一番高いバイトの時間ですら3500円。
そして俺のバイトの平均の時給は1000円から
1500円だ、つまりこのバイト一つで俺の今受けているバイトの3つ分に相当するということになる。
もし、このバイトに受かったらバイトを減らして夢の部活ができるかもしれない…
「…やめといた方がいいと思うで」
「!?」
「あら、驚かせてしもうたかな?」
俺が一心の決意を固めいざゆかんとしたその時、後ろからそれを止める声がした。
びっくりして、少し下がり気味に振り返るとそこには俺より少し身長が小さい親しみやすような見た目をしている少年がいた。
「…どちら様で?」
「ワイか?ワイは加藤瑛二ちゅうもんや、よろしくな」
「お、おう、俺は新井佑樹、よろしく。…それで?やめとけっていうのはどういうことだ?」
「ああ、それな。簡単な話、誰も受からんからや」
「誰一人もか?」
「そう、誰一人もや。大体、水野財閥なんてしかも時給5000円のバイトなんて開けない理由がないんや。それなのにそのチラシ、ワイがこの高校見学しに行った時からあるんやで、つまり、ここ1年近く
誰一人受かってないってことや」
なるほど、確かにこんな好条件のバイト面接に行かない理由がない。
それなのに一年も残っているとなるとそれだけ面接が難しいということになる。
「わかってもらえたか?つまり、言いたいのはこんな無理に近いバイトの面接受ける時間が勿体無いということや。それに、ここだけの話、面接で落ちたやつが次の日から明らかに元気がないというのもあるんやで」
「…なるほど、貴重な情報ありがとう。参考にさせてもらうよ」
「ええってことよ、同じクラス、仲良くしような」
「…えっ同じクラスなの?」
「あら?聞いてなかったんか、ワイおまさんの次に自己紹介したんやが。….まああのお嬢様に持っていかれたんやな」
「…すまん」
「ええって、印象持ってかれたんは全員やからな。」
「…そうだな」
「ほいじゃ、ワイこれから用事あるで、またな」
「ああ、また」
思ったよりも面白いやつだったな。関西弁喋ってたし関西出身なのかな?
まあ、そこら辺は明日聞くとして…
この後は…うーん、せっかくの忠告を破ることになるけど、水野財閥に面接しに行こうかな。
次の日から元気がなくなるという話は少し怖いが時給5000円は逃しがたい。
人生2週目、前ならやらなかったことも挑戦していくべきだし、社会人だった俺のメンタルならいけるはずだ。
そうと決まれば…と俺は覚悟を決め、その掲示板を後に水野財閥があるところはスマホを頼りに進むのだった。
―いざ、水野財閥へ行かんとす。―
***
あれ、今更ながら思ったけど、俺加藤と友達に慣れたのでは……?