自己紹介
うわ~やっぱりひかれてしまった。まあ、こうなることは決まっていたけど…隣では村田が笑いをこらえているのが分かる。
そして、田辺は自信満々だ。つまりおふざけであの内容を言ったわけではないということだ。田辺が全力で頭を使って導き出した結論がこれだからだ。ちなみにあの時に言われた内容は……
「キャラは、中二病+陰キャ+帰宅部+少しあたおか+偽善だ。」
改めて思うとキャラがいくら何でも多すぎないかと思う。ちらっと横を見ると、田辺の自己紹介に移っていた。
「どうも、田辺誠です。趣味はゲームをやることです。あと、こいつら二人とはこの学校以前から親友で、特に矢井田は昔からこういうやつなんですが、根はいいやつなんで分かってくれると助かります」
そういうと、さりげなく昔からこのきゃらで俺がいっているというような設定まで追加されてしまった。ひょっとして、これって自分の株を上げるために俺にこのキャラをやらせているって可能性も……
つまり俺たちの自己紹介が入った順になると確信して、自分の位置をコントロールしていたということか!?いや、まだわからない本人に聞いてみないことには、ね。
「え~と、もう自由に席に座ってもらってるからな、お前ら3人は後ろに空いているところに座ってくれ」
先生はそう言う。そして俺たちは横一列に空いている3人の席のところに座りに行く。
「じゃあ、これで全員揃ったので改めて説明していきたいと思います」
そういって、学校生活がいかに大事か、大学受験とはなにか、みたいなよくある無駄に長い話が始まった。俺はその先生の話の間に田辺になんで俺のキャラをあの設定にしたのかを訪ねる。
「なあ、なんでの設定なんだ?まさか自分の株を上げたいからか?」
それを聞いた田辺は驚いたような表情をする。続けてこういう。
「いや、いやいや全然違うよ。あれは実に合理的なんだ。なぜかというと……」
そういって説明が始まった。先生にばれないように声を小さくして。
「まず中二病キャラ、これは間違いなく必須。これがないと魔力関連の話題をこういったところでするのが非常に困難になり、限られた場所でしか話せない」
「まてよ、そもそもこんな一般人がいるところでその会話をしたらだめだって言われてただろ?」
俺はさっきまでの一条さんとのことを思い出してそういう。
「もちろん、でもここで問題がおこったら話すしかない。そうでなくても、何らかの緊急連絡事項があるときには、いやでも話すしかない。特に【龍】を持っているお前ならそういうケースも多いだろう?」
「確かにそういうケースもあるのかもしれないけど、それなら手紙とかで話せばいいだろ?」
俺はそう反論する。だが、それを一瞬で否定される。
「いいや、手紙で話すのは物が残る、という点で普通に話すよりもデメリットが多い。おそらく辻井さんとかもそっちの方を嫌がるだろう。」
「なるほど」
「その点中二病キャラということでお前がそういった話をしていても不思議ではない。仮に俺達は話している事が聞かれてもごまかせるだろう」
「うん?いや、ちょっと待てよ。確かに俺だけならごまかせるかもしれないけど、お前らは中二病キャラという設定はないんだから俺の話に乗っていたらおかしくないか?」
そういうと、ニヤリと悪い笑みを田辺は口もとに浮かべて説明する。
「そこでさっきの俺の自己紹介がいきてくる。さっき俺たちはこの学校に入る前から親友といっただろ?」
「うん…あ!そうか。それによってお前らは俺のノリに付き合わされているという設定になって、違和感がなくなるのか!」
「そうだ。そして、お前、いや俺たちは陰キャだ。この習性は取り繕うことはできても真に変わることはできない。だから、お前本来の要素も入れる必要があったんだ」
「そこはまだわかるよ。だから、自己紹介の時も最初にいいよどんでいただろ?あれによって俺と同じレベルの陰キャたちは親近感を感じたはずだ」
「そうだ、そこはマジでよくやった。そして、おそらく【聖術】とか【魔術】とかのかかわりはこれからさらに深くなるだろう。そうなったときに、部活に入って時間がとられるのは得策じゃない」
「それに、帰宅しないとアニメとかをゆっくりくつろいでみれないもんな」
実に俺のことをよくわかっているプランだ。正直どこかの部活に入ってその一つに打ち込む、なんていう根性が俺にはない。特に部活に興味があるわけでもないし、だがこれだと……
「ああ、だがここまでの内容だけだったらお前はおそらく新しく友達を作ることは限りなく0にちかいだろう。だがそれだと、お前の要件とは合わない」
その通りだ。このままでは俺は以前の友達に無理やり突き合わせている、ただの痛い奴になる。
「だから、少しあたおかだ。」
「それをやったらさらに悪化する気が……」
「いいや、大丈夫だ。なぜなら、このクラスにいる奴はほとんどの奴らが初対面だろう。もちろん、すでに知り合いがいるという可能性もあるが…ほとんどは初対面なはずだ」
「じゃあ、初対面からそんなキャラで行けばますますやばいじゃん」
「いいや、みんな気になっているものの話す共通の話題がないはずだ。ずけずけといきなり他人の話題に行けるほどの関係を構築できていないはずだしな。となると、話すのは自分のことぐらいだ」
「あ!もしかして、そこであたおかということで、お前やばすぎる、とか言って話題を膨らませることができるってこと?」
「そうだ、若干いじられキャラに走るが……それでも友達はできるだろう。それである程度相手と親しくなったら。お前お得意のアニメの領域に入らせろ」
「なるほど、領域を展開するわけね。」
「そうだ。そうしたらあとは泥沼だろ?で、最後に偽善。これを入れることによってお前の性格が若干マイルドになっている」
「マイルド?」
「ああ、ここまではすべてが頭のおかしいキャラだが、ここで根はやさしい奴なんだと思わせることによってお前への印象もよくなるだろう」
「友達を作るための布石になりうるということだな?」
「ああ、だがあまりにも善意が溢れすぎているという設定になると、お前も苦労を強いられるだろう。それに、お前はもともとものすごい善人ってわけじゃないだろ?」
まぁ、多少はげすな部分もあるけど……それは人間だれしも同じことのはずだ。
「だから、ささやかな善意でいいんだ。それとこれによって多少のトラブルが起きてもお前が善意から助けたいと思って突っ込んでいったってことが成り立つからな」
「おまえ、そこまで考えていたのか、やっぱ天才だな!」
「ど~も。まぁ、お前の即席の自己紹介も大したもんだったけどな」
「ど~も」
アニメの主人公でも優しいキャラは多いからな……ますますこの世界の主人公になっていっている気がするよ。それに主人公にトラブルはつきものだから、ね。
丁度俺たちのキャラの説明が終わった時ぐらいに、先生のどうでもいい話も終わったみたいだ。今後使うであろう教材をどんどん配っている。
それらを俺たちは受け取って、それらに名前を書いていく。そして、このクラスの学級委員長と副学級委員長を決めることになった。
「それじゃ委員会のメンバーを決めてくぞ。学級委員長と副学級委員長それぞれ一人ずつな~、やりたい奴は手を上げろ」
すると、1人手が上がる。その子は眼鏡をかけており、真面目そうないかにもというような子だった。賢そうな雰囲気をまとっておりいかにもな才女というような雰囲気だ。
「おお、川島さんか?学級委員長をやってくれるのか?」
先生が尋ねると、こくりとその子は顔色一つ変えずにうなずいた。どうやら引き受けてくれるらしい。
「じゃあ、ほかに副学級委員長を引き受けてくれる奴はいるか?」
先生が尋ねると誰も手が上がらない。周りを見渡すと、みんな下を向いていて、前にいる先生と目を合わせようとしない。
みんなまだ初対面ということもあり、緊張しているのだろうか?それとも面倒くさいからやりたくないだけだろうか?そう聞かれたら間違いなく後者だ。俺も後者が理由なのだから。
「そんなに時間は取らないから大丈夫だぞ。せいぜい学期の後半にある学級委員会に顔をのぞかせてくれたらいい。ほかに特にすることもないんだし、いいぞ」
先生はそう言うが、一向に手が上がらない。先生はその状態を見てどうにかしようと思ったのか更に言う。
「まあ、こんな体験ができるのも今ぐらいで、高2高3になったら、大学受験とかでそれどころじゃなくなるから、だから、まぁやっといた方がいいと思うぞ」
だが、みんなそれを聞いているはずだが、だれも手を上げない。教室の中の空気は徐々に息苦しいものになっていく。
「お、このクラスは恥ずかしがり屋さんが多いのか?なかなか手を上げてくれないな。これはこの後仲良くしていけるか先生不安だな~。これは決まるまで帰れないぞ」
そんな雰囲気に耐えられなくなったのか、はたまたこの場を早く終わらせたかったのか一つの手が上がる。それを見て、先生は満足そうな顔をして言う。
「お、村田、やってくれるのか~助かる。このクラスで君とはなかよくできそうだ。先生も安心したぞ」
そういうと、教室全体の空気が緊張が一気に解けてほっとしたものに変わる。これで今日学校でやることは終了して、終礼に移る。終礼では特に何も言わずに終わる。
終礼が終わり、先生が教室から出ていくと村田の周りに人が集まる。
「マジで、ありがとう。お前のおかげで助かったわ~」「ガチで気まずかったからな」
「あんなのがうちらの担任とか、マジでいやになりそうなんですけど」「それな」
「村田君あの空気何とかしてくれるのたすかる~」「何が『不安だな~』だ。キモイ」
大体が村田への感謝と先生に対する文句のようだ。村田はそれに対して笑いながらこういう。
「そうだ、この後仲を深めるためにもどっかにいかない?LOUND1とかさ?」
「であいつがムカつ、え、LOUND1?いいよ。いくいく。」「あ、いいな俺も行く」
「ま、元陸上部の俺が本気の力ってものを見せてやるよ」「え~本当に?」「おお、マジだぜ」
「お前行くなら俺も行こうかな~」「この後行く人ってどれぐらいいる?」
そう聞くと、流れが一気に変わって、今まで先生に対する悪口を言っていたやつも、LOUND1の話を楽しそうにし始める。そして、どうやら10人ぐらいてがあがったようだ。「ようだ」というのは俺は終礼が終わってすぐに教室を後にして外にいて中の詳しいことがわからないからだ。
なので自分の教室のある2階から聞こえている音を校舎の外から拾っている。隣には田辺がいる。そして、田辺が俺に聞いてくる。
「なぁ、中の音とか本当に聞こえんのか?」
「ああ、聞こえる聞こえる。手を上げるときに風を切る音とかはさすがに聞こえないけど、普通の話声の音ぐらいなら問題なく聞こえる。」
どうやら、これも【龍】のことが原因で起こっているようだ。ただ身体能力上がっただけではなくて、5感ももれなく上がっている。
「で、どうなんだよ。村田は?」
「ものすごい陽キャ陽キャしてる。なんか友達みたいなのは新しく10人ぐらいできているみたいだし、この後遊びに行くとか言ってる」
「うわ、さすが村田。あいつ陽キャオーラが全く隠せてないな。いや隠す必要がないのか」
「あっちは日の当たる教室のところにいて、こっちは校舎の陰の部分。どうやら、周りの景色まで俺たちが陽キャと陰キャどっちかわかってるみたいだなぁ。ふふふ」
「ははは」
俺と田辺はそんな乾いた笑いを浮かべる。
「もう、帰ろう」「そうだな、こんなところにいたって、仕方ないし」「それに、ゲームとかの技術なら俺の方が上だから」「ま、まぁ俺もアニメに関しての知識では負けるつもりはないし」
そう言いながら、俺と田辺、そしてほかの陰キャは学校を背にして各々の家に帰っていく。その背中には何とも言えない哀愁が漂っていた。
俺はふと50代とかのおっさんになってもこうやって帰るのではないかと思った。否、そんな未来が見えた。
「ただいま~」
そう言って俺は自分の家に帰宅する。中からは母の「おかえり~」という声がする。母は専業主婦だ。そして、手を洗い2階の自分の部屋に荷物を持って上がる。
そして、お待ちかねのアニメ鑑賞だ。これが今日を生きる理由になっているのだ。今日見るのはVRMMOもののアニメだ。これは今期の中でも覇権を狙う可能性があると俺が踏んでいるものだ。
VRMMOものはゲームの中の世界観が緻密に作りこまれていればいるほどよい。そして、現実世界では絶対にありえないバトルなどが見どころだ。また、このアニメの設定が少し先の未来という設定なのでもしかしたら俺が大人になるころにはこんなのが発売されて……という妄想ができるのも魅力的なところだ。ここまででも十分すぎるほどの要素が詰まっていることが分かるが、このアニメはさらに切れ切れのギャグまで入れられている。これが覇権候補の理由だ。
俺はそのアニメを存分に楽しんだ後に他のアニメを見る。そんな感じで3つ目ぐらいのアニメを見ようとしたときに下の階にいた母から買い物を頼まれる。
「どうせ、暇なんでしょ?早く買い物行ってきて。買うものは明日食べるパンと牛乳。1000円わたしとくから近くのコンビニで買ってきて」
俺はめんどくさいなと思いつつも、ここで反抗したら余計アニメを見る時間がなくなることはわかっているので素直に従っておく。
「あ、ちゃんと袋は持っていきなさいよ。今は袋もお金がかかるんだから」
そういわれておれはMYBAGを持ってコンビニへ向かう。さっき見たアニメの余韻に浸りながら、ボーとしながらコンビニへ向かう。
そして、頼まれた食パンと牛乳を買い物かごの中に入れていく。ついでに俺が好きなアップルパイニッシュも入れておく。
そのままレジのところへ向かう。そして、レジの人が買ったものの値段を言う。
「982円です。現金でお支払いになりますか?」
俺はその質問に頷き、1000円札を出す。そして、お釣りの8?いや、18円を受け取る。
いかん、こんな計算すらわからくなるなんてやばい。何か考えねば、本当にボーとしすぎて頭が回らなくなっている。
そう思い俺は次に見ようとしていたアニメの展開を考察し始める。すると、コンビニから先に出ようとしていたであろう前の人にドンとぶつかってしまった。
「あ、すいま……」
その瞬間、ゾクッという嫌な感覚がする。今までに経験したことがない、普通の日常にいたらこんな感覚を経験することがない、そんな感覚がする。思わずバッとその人の顔の方を見る。それは俺が今日見かけた人だ。
「あ、こ、こちらこそです。す、すみません。」
その人は教室にいた時と違って眼鏡をかけていなかったが、顔を見間違えるわけがない。何より、まとっている賢そうな雰囲気を隠すことはできない。
「か、川島さん?」
俺が言った時には彼女はもう、コンビニから遠ざかっていた。俺は彼女に対して少しばかり興味を覚えた。
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