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平和で普通で平凡な日々

はっと俺は気が付く。俺が目を覚ますと見知らぬ天井と蛍光灯が真っ先に目に入ってくる。


「おっ!気が付いたんか、矢井田やいだ君」


自分の名前を呼ばれたので、上半身を起こしてそちらの方向を見ると近くの椅子に座っている辻井つじいさんの姿があった。


「辻井さん、ここは一体……」


俺は自分の右手に若干違和感を覚えたのでそちらの方を見ると点滴がいくつも繋がれている。


「ここは【聖魔医療】の施設。君のけがが重症すぎたから、器具がちゃんとそろってるここまで運んできて治療したってわけや」


「けが?あれ、俺はあの後何をしていたんだっけ?」


記憶がごちゃごちゃになっている。委員長を倒して誰かに触られたことまでは覚えているのだが、そのあとの記憶がかなりあいまいだ。


「記憶が多少混乱しているみたいやな。無理して思い出そうとせんでもええで」


「……わかりました。それで、今はどういう状況なんですか?」


「状況か……まず、君は全身に重傷を負っていて集中治療室で24時間の手術を受けた。もちろんただの手術ちゃうで。【聖術】をめっちゃ用いた大手術や」


「でも、その割には針の跡とかないように見えるんですが」


俺は服の下を確認しながらそう言う。


「医療スタッフの話によると君の体の治癒能力が【龍】のおかげで大幅に上がっているからだろうとのことやった」


「へ~そうなんですか」


「逆にもしも君の驚異的な治癒能力がないほかの人間だったら死んどった可能性が格段に上がっていたとのことやで」


「そうですか」


詳しい事情を知らないので、こんな間抜けな返事しかできない。それにしても、俺の記憶が抜けている間にいろいろと大変だったようだ。


「で、手術が終わったあとに君の体力が持つように定期的に院長さんがきて【聖術】をかけてくれていたんやって。あとで来たら感謝の言葉を伝えておきや」


「わかりました。それで俺は一体何日眠ってたんですか?」


手術に24時間かかってそのあとも定期的に来てくれたと言っていたのだから、2日は経過しているだろう。


「3日やね。さすがに、3日間何も食わず眠ったままは危ないってことで、点滴とかはつながしてもろたとのことや」


「そう、ですか。村田たちはどうしていますか?」


「普通に君が眠っている間も変わらず学校行っとるで。といっても学校が全焼したから近くの公民館で集まって普及までそこで勉強しとるらしいけどな。それと、田辺たなべ君が【聖術】を使えるようにはなったわ」


「えっ?そうなんですか!」


俺は辻井さんがサラッといったことに驚く。なんでそんな重要なことを先に言わないんだ。


と思いつつもそれを言ったところで仕方がないと自分の気持ちに区切りをつける


「それで、ここからが重要なんやけど、聞いてくれるかな」


辻井さんが真剣な表情で俺に語りかける。


「きみも気が付いていると思うやろうけど、君の周りで【魔獣】に関する事件が立て続けに2件も発生した。これについてどう思う?」


「正直、妙だなと思います。【龍】の力を手に入れる前にはなかったのに【龍】の力を手に入れたとたん、事件が起きたというのは何か関係があるんじゃないかと思いました」


「その通りや。しかも、どちらの相手も【魔術】の規模から考えうるにA,S-ぐらいの高ランク。上層部も君と同じ考えや。それで、ここからが相談やねんけど……」


声を少し小さくして、辻井さんが下でに出るようにして俺に話を持ち出す。


「どうやろう、君も【聖術師】が通う学校に通ってくれへんかな?」






辻井さんは真剣な表情のままだ。何かの冗談ということではないらしい。


この前、初めて辻井さんと会った時に言っていた『僕と一緒にきて強くならへん?』の内容の続きとみていいだろう。


「多分やけど【魔獣】は君の【龍】の力にひかれてこれからも集まってくるやろう。そうなったときに今の君で対処できるか?」


「……」


そういわれると黙るしかない。今回だって俺は大けがを負ってしまって周りの人にも迷惑をかけただろう。


「無理やろ?だけど、【聖術師】の学校に来たら君はもっと強くなれるやろうし、周りも最大限フォローすることができる。どうや?」


「わかった、行きます」


「おお、ほんまか。ありがとうな」


少し誘導させられた気もするが、ほかに選択肢がない以上、いつまでも駄々をこねるわけにもいかないだろう。


「それで、その学校に行くのは俺だけですか?」


「いいや、違うで。さくら門政かどまさと田辺の3人も一緒に行くことになってるで」


「え、委員長も行くことになってるんですか?」


俺は思わず驚く。委員長はまだ自信に宿る【聖術】と【魔術】を使いこなせていないはずだ。(操られているときにはめっちゃ使いこなしていたけど)


「ああ。まぁな。実は、ほら覚えとるかな。桜が【人間であるかどうか議論】」


「そんな名前かは知りませんけど、委員長の体は人間以外の要素も混じって構成されている。だから、人間なのかどうかが怪しいってことでしたよね?」


「そうそう。それの結論が出たんや」


そう言えば、委員長が人間であることを認めさせるために、辻井さんはしばらく帰ってこないみたいなこと委員長が言ってたっけな。


その辻井さんがこうして帰ってきたということは委員長が人であるのかどうかの結論が出たのだろう。


「結論から言うと、桜は条件付きで人間として認められたんや」


「条件っていうのは?」


「条件は人間の味方であること。そして、戦うこと」


「大雑把すぎて逆によくわかんないですね。まず、人間っていうのは誰のことを指しているんですか?」


人間なんて言うが、その立場などは人によって大きく変わる。


「十中八九【聖魔連盟】の上層部やろうな」


「それで戦うことっていうのは?」


「【魔獣】と戦うことや。要はその力を人類のために役立てるのであれば、あなたを人間として保証するってことやな」


「ようは上層部の傀儡かいらいってことですか?」


「言い方悪いけど、そういうことやな。その代わり、学生としての時間や行政のサービスはちゃんとしてあげますってことや」


「……そうですか」


不満がないわけじゃないが、割と妥当なところだろう。


上層部からしてみたら人間の味方かどうかが怪しい女子学生が強大な力を手にしたというだけでもたまったものではないはずだ。


「話がそれたな。それで、上層部の意向で桜を【聖術師】の学校に入学させることに決まったんや。一応、目の届くところにおいておきたいんやろ」


そういうことならば、委員長が来るのも仕方ないだろう。俺は納得する。


「それでいつごろになったら、その新しい高校に行くんですか?」


「君もちょっとは休みたいやろうから明日出発にしたで」


「あ、明日出発!?早くないですか?」


俺はこの人正気か?と思い辻井さんの方を見ながら言う。


「早ない、早ない。それに、君たちにいろいろな技術教えるためにも早ければ早いほどいいんや」


「そういうものなんですか?」


「そういうもん、そういうもん。それより君も早く帰るべきやと思うで。家族と一緒にいられるのは今日が最後・・かも知らへんねんから」


「?どういうことですか?」


辻井さんの言い方に引っ掛かりを覚えた俺は辻井さんに質問する。


「今から行く高校は寮制なんや。だから、しばらくは帰ってこられへんねん」


「それはわかります。それで、なんで最後になるんですか?たまには実家に帰省できるんじゃないんですか?」


「それはそうやで。でも次に帰る時までに死んでまうかも知らんやろ?実際今回もやばかったし……」


なるほど。そういうことか。NOと否定できないのがこの業界の怖いところだ。


「それで、明日どこに集合すればいいんですか?」


「明日、7時に君たちが通っている高校の前集合や。全員場所がわかるやろ?」


「わかりました。結構、朝が早いんですね」


「まあな。じゃあ、玄関前に車を用意しとるから乗ったら君の家まで送ってくれると思うで」


「わかりました。点滴ってもう外していいんですかね?」


「ええやろ。もう、大丈夫そうやし」


俺の体をちらっと一目みて俺に言う。


「じゃあ、外させてもらいますか」


そう言ってぶちッと外す。少し痛むものの我慢できない痛みではない。


「玄関まで案内するで」


そう言って、辻井さんが歩いていく後を俺もついて行く。エレベーターに乗り、チンという音がして扉が締まり、少ししてチンという音ともに一階につき扉が開く


玄関前には辻井さんの言っていた通り黒くて大きい、いかにも高級そうな車が止まっている。


「え、あれに乗るんですか?」


そんな高そうな車に今まで乗ったことがないので俺は少し躊躇ちゅうちょする。


「ああ、そうやで。あと、車の窓は黒く覆われてるやろうけど、この場所を把握されないようにするためやから我慢してや」


「了解です」


そう言って俺はその車の中に乗り込む。車の中には眼鏡をかけた人が運転席に乗り込んでいる。


「どうも、私の名前は斉藤健さいとうたけるといいます。今日は君を家まで送り届けます」


「あ、ありがとうございます」


「斎藤さん、田辺君の家の住所はもう知ってるね?」


「はい」


「じゃあ、後は頼むで」


「もちろんです」


そう言って車は発車する。俺はここからどれぐらいの時間がかかるのかわからないのと起きていても話すことがなくて気まずいので、寝ることにする。


目をつぶると自然と今までの疲労が押し寄せてきて、眠りにつく事ができる。


「や……やいだ……矢井田君」


しばらくして、俺の名前を呼ぶ声がする。俺は眠いが目を開ける。


「起きてください、君の家の近くにつきましたよ」


「はぁぃ」


あくびをしながら俺は答える。そして、車のドアを開けてもらって、出る。


そこは俺がよく慣れ親しんだ場所だ。すぐそこに、俺の家がある。


「それでは、私はこれで」


そう言って、車の扉を閉めて走り去っていく。






俺は家のドアの前に立ち、この後のことを考える。


絶対急に高校を変えたことをいろいろ言われたりするんだろうな。そんなことを考えると、少し憂鬱だが、ためらっていても仕方ない。


俺はインターホンを押す。ピーンポーンという音がして、母が扉を開ける。


「ただいま」


「お帰り、しん


そういえば、今回はどんな言い訳を作って3日間も外に過ごしたことにしたのだろうか。


向こうから触れてこないのならば、わざわざ言ってぼろを出す必要もないが。俺はひとまず手を洗う。


手を洗い終わると、母が俺に尋ねてくる。


「ねぇ、新なんでわざわざ高校を変えたの?せっかく、入ったのにもったいないじゃない」


ほら、来た。


「別にいいんだって。今の高校だって別に愛着持って入ったわけじゃなくて、通いやすいから入っただけだし」


「でも、もうお友達とかもできたんじゃ……」


「そんなわけないだろ。まだ、入学して1週間ぐらいしかたっていないんだ。そんな急に友達はできないって」


「まぁ、新が自分からそれを望んだんなら私達はそれでいいんだけどね」


「母さん、むこう寮制だからさ、今のうちに着替えとかいろいろな荷物を積める手伝ってくれない?」


「はいはい、手伝ってあげますよっと」


ぶつくさと言いながらも手を動かして手伝ってくれるいい親である。


俺も生活必需品をいろいろと入れる。歯ブラシ、枕、いくつかの食器、花粉症対策の薬……


俺は大体入れ終わったところで、フーとため息をつき、手を止め床にごろんと寝転がるすると、自然と俺の家が目の中に映ってくる。


「思えば、この家ももう15年間一緒にいるのか……」


15年間一緒にいた場所を離れるとなると、やはり寂しくなる。いや、家だけではない。


15年間にいた家族とも離れるのだ。そう考えるとさらに寂しくなる。


「アニメでも見るか」


俺は寂しさを紛らわすためにいつものようにアニメを見始める。


そして、「ご飯よー」という声が下から聞こえたので、いつも通り下に行きご飯を食べ、風呂に入る。


その後も、今まで通りにアニメを見て、少し勉強をして就寝する。




ピピピピというスマホのアラームの音がする。俺は目を覚まして、アラームを止める。時間を見ると、時間通りの5時半になっている。


いつもよりも早いということもあって体がまだだるいが、洗面所に行き、顔を洗い、口をゆすいで食卓に行く。


父と母はすでに起きていて、食事の準備をしてくれている。


「お、ちゃんと起きたのね。もしかしたら、起きられないかもって心配してたのよ」


「大丈夫だって」


「これ、ビーフシチューね」


そう言って、鍋からよそってくれたものを俺に差し出す。


俺はそれをテーブルの上に置き、食べ始める。父はまだ6時前だというのに、もう家を出るようだ。


「じゃあ、俺は行くわ。カギはかけといてな」


母に声をかけて、玄関のほうまで行くが何かを思い出したかのようにくるっと振り返り、俺の方を見る。


「新!」


「何、父さん?」


「向こうでも元気でな」


「ああ、うん。わかってるよ」


そう言って出かけて行った。普段あまりしゃべらない人だが、やはり、息子がいなくなるとなると、不安になったのだろうか。


それにしても……気が付かなかったが今日のご飯はどれも豪勢だ。


ビーフシチュー、アップルパイ、ベーコンエッグとサラダ、フルーツ。


特にビーフシチューなんかは煮込むのに時間がかかるはずなんだが……俺はちらっと母の方を見る。


母はいつも通りせわしなく食器を片付けている。何かを思い出したかのように、俺の方を向いて声をかけてくる。


「新、向こうについたら一か月でいいから連絡してね」


「分かってるって。RINEで手早く送れるからダイジョブだよ」


わが子が心配なのはわかるが、わざわざ言う必要はないと思う。今は、すぐに、連絡できるのだから。


食事をとって歯磨きをする。そして、昨日のうちに用意していた荷物を担ぐ。さすがに、重いな。


時計を見ると、もう6時過ぎだ。そろそろ行かなくては……


俺が玄関に行き、荷物をいったんおき靴を履いていると母に声を掛けられる。


「もう、行くの?早くない?」


「荷物が重いから行くまでに時間がかかるだろうから、もう出るよ」


「そう」


なんだか悲しそうな声だったが、表情は微笑んでいる。そして、かみしめるようにして言う。


「新」


「うん?」


俺はくるっと振り返り、母の方を見る。


「ありきたりだけど、言うわ。いってらっしゃい」


「いってきます!」


そう言って俺は自分の家の扉を開け、出ていく。


フーフーと言いながら学校まで行く。時間が早いこともあってか人はほとんどいない。


重い荷物を背負いながら学校に行くと、すでにおれ以外の全員がそろっている。学校の校門前には昨日よりも大きい黒い車が止まっている。


そして、丘の上から4人がおれを見つけて声をかけてくる。


「おい、遅いぞ」


「時間ぎりぎりだよ」


「急いでください」


「重いんだよっ」


俺は愚痴を言いながらも丘の上まで登り、学校の校門前までくる。


「じゃ全員揃ったし出発しよか」


辻井さんは俺が来た方向をちらりと見ながら言って、ドアが勝手に開き俺達は車の中に乗り込む。俺の大きい荷物は車の後ろに積ませてもらう。


「それでは出発させてもらいます」


昨日と同様運転手にいる斉藤さんが俺たちに声をかける。そのまま、車は出発する。


昨日のとは違い、窓は普通の透明のガラスだ。窓を開けて自分がいた地元を走り去りながら見る。


こうして、15年間いた地元を離れることになった。ここでいったん平和で普通で平凡な日常とは別れることになる。





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