各地で
俺ーーー田辺誠は目の前で起こっている状況に場違い感を覚えている。
俺はみんなが俺を作戦に入れられないと言っていたので独自で調査することにした。
そして、犯人である小町楓が委員長とともにこの校舎の中に入っていくのを俺は付けていた結果、目撃することに成功したのだ。
小町楓が犯人であることは『キャルチャー』が投稿していた『女子高校生の一日』という題名の動画と犯人候補の授業中の態度で分かった。
あの動画に映されていた授業風景は何の教科であるのかがわかるぐらい鮮明に撮られており、ぶれていなかった。
ここから、何らかの機械を用いてスマホを動かさず固定して動画を撮っていた可能性が高い。
人間の手で取った場合どうしても動画の画面全体が動いてしまう。だが、あれはそういったものがあまり見られなかった。
だが、固定する機械を堂々と用いていたらそれなりの大きさがあるだろうからばれるに決まっている。
しかし、誰もその機械に気が付く者はいなかった。ここで重要になってくるのは、あの授業風景が若干暗かったことだ。
つまり、撮影している場所が光の当たらない場所ということだ。けれども、教室の中なので蛍光灯がありどこか不自然に暗い場所はない。
ならば、考えられるのはどこか物の中から撮影していたということだ。そして、その機械を置けてスマホを固定することができるスペース……
それこそが小町楓が持っていたリュックだ。あのリュックの中なら機械が設置できる広さがある。
そして、黒板の方にチャックを少し開けて置きそこからスマホを黒板の方向にかざせば、撮れるというわけだ。
それに、カバンのチャックが多少空いていたところで周りの人間はわざわざ注意しないだろう。
授業中にリュックが振動で揺れるということもないため、しっかりと映像を撮る事ができたのだ。
授業前にごそごそとしていたのもその機械を設置するためだろう。
俺はこう考えて小町楓を追っていたのだが……結果はビンゴ。委員長をおそらく操り、学校の中に入っていくのを見た。
その後、しばらく学校の外から見て、中に入ろうとしたら、バリンという音がして窓ガラスが割れて、教室の中から矢井田が出てきた。
その後に矢井田が委員長と戦っているのを近くで戦っているのを見て分かった。
【聖術】の使えないものが出しゃばっても仕方がないんだと。
しかも、どうやら矢井田は負けたようだ。あれから、矢井田が学校から全く出てこない。
「くそ、いや逆に考えろ。矢井田が倒せなかった敵を俺が倒したらあいつらも認めてくれるんじゃないか?そうだ、そうだよ!」
俺は自分自身を鼓舞して金属棒を片手に学校の中に入っていく。学校の中はさっきまで戦闘が行われていたと思えないほど静かだ。
1階、2階と何も起こらなかったので、俺は敵がいるであろう3階に続く階段を上ろうとしたところ、後ろからポンと手が置かれる。
俺はバッと振り返る。そこには、敵に負けたはずの矢井田がいた。
「矢井田?お前、何でここに?操られたんじゃ……」
俺は困惑しつつも持っていた金属棒を強く握りしめる。そして、いつでも殴れる準備をする。
「いいや、相手が俺の意識を完全にもぎ取る前に倒れたんだ。操られているふりをしてすきを見て逃げて来たんだ」
「そ、そうなのか?」
俺はまだ、疑いながら矢井田を見る。すると、矢井田も自分が疑われているのがわかったのかはぁとため息をつく。
「何でも矢井田新が知っていることを質問してくれ。全部答えてやるから」
「じゃあ、お前の父さんの職業は?」
「警察官」
「お前が人生の中で最も恥ずかしかったことは?」
「それ、言わすのかよ。はぁ、中学生にもなってプールの中で尿をしているのがばれた時。でも、あれは直前にめっちゃ飲み物飲まされたからであって……」
ふむ、言い訳まで本人と同じだ。俺はここで持っていた金属棒を握る力を緩める。
「実際に、能力を使っているところを見せて」
「ああ、わかった。あまり派手なことはできないが」
そういって、廊下に自分の人差し指を置き「ふん」という掛け声とともに廊下にずぶりと自分の指を入れる。
「どうやら、本物のようだな」
俺はこの矢井田が本物であると信頼する。そして、金属棒に込めていた力をほとんど無くす。現状把握のために矢井田に聞く。
「今、敵はどんな状態なんだ?」
「俺が逃げたことでものすごく怒っている。だけど、3階から降りて追ってきていないところを見るに、3階から離れられない理由でもあるんだろう」
「それだけ、分かれば十分だ」
俺がそう言って相手のところまで行こうとすると、俺の手をバシッと矢井田がつかむ。
「なんだよ?」
「お前の方こそ何でここに来たんだ?ここが危ない場所だってことぐらいすぐにわかるだろ?」
矢井田が真剣な目で俺の目をまっすぐ見る。これは本気で怒っているときの目だ。
俺もそれに覚悟を決めたまっすぐな目で見返す。
「ああ、わかるよ。けど……けど、無視されたくなかったんだ!」
「なに?」
「俺が戦力外として見られて、ほかのやつらだけでどんどん物事が進んでいって、俺だけが置いて行かれている、そんな感じなんだ」
「それは、お前のことを思って……」
矢井田がそう言いかけたのを俺の声が遮る。
「わかってるよ!でも、今は、今は……その優しさが痛いんだ」
「……」
「少し前まで、立場が同じだったのに、なのに、……今ではもう守らっれる側の弱い存在になっって、俺は、そんな俺が嫌だった……」
気が付けば、俺は涙を流しながらそう言っていた。そのせいか言葉がおぼつかなくなっている。
高校生にもなって人前で涙を泣かせることになるとは思っていなかった。
親友である矢井田はそんな俺の言葉を笑いもけなしもせず、真剣に黙って聞いていてくれた。
「それっで、俺はそんな弱くて、ま、守られる俺からお前らと対等な自分になりたかったんだ……」
最後の方になるに連れて声はどんどん小さくなっていく。俺は矢井田の服をつかみ俯きながらそう言う。そして俺の独白を聞き終えた矢井田は言う。
「……進もう。ここから先は自分の身は自分で守るんだ」
「うんっ」
俺達は3階に上がっていく。3階の一番手前にある教室からは小町楓とみられる人物が「くそ、くそ」と言っているのが聞こえる。
俺はもう少し近づき、空いているドアの隙間から教室の中での様子を確認する。
そばには先ほどの激戦の影響で倒れている委員長がいるのが見える。そして、小町楓はその委員長の体を蹴っている。
委員長の体は蹴られても全く反応しない。本当に生きているのか?と一瞬不安になるが目立った外傷は見られないから生きていて気絶しているだけだろう。
相手は疲れたのか寝転がっている委員長の体の上にその体をどとすと置く。そして、窓の方に視線をやっている。
どうやら、教室の扉側にいる俺の存在には気がついていないようだ。やるなら、俺の存在に気が付いていない今しかないだろう。
扉を少しずつ開け、なんとか人ひとり入れるぐらいの大きさを作り、俺はそこを通って教室の中に入る。
そのまま、相手の背後に近寄り、相手の脳天めがけてバットを振り上げて……
「はい、残念~」
そんな甲高い声がした瞬間に俺の体は動かなくなる。いや、正確には後ろから体をつかまれて、動けない状態になっている。
「どういうつもりだよ、矢井田?」
俺は顔を後ろに向けてつかんでいる本人である矢井田にそう尋ねる。矢井田の顔には先ほどまでの精機はなく死んだ魚のような眼をしている
「くすす、まだそいつが言ったことを信じているの?」
俺が顔を前に向けると、俺の存在に気が付いていなかったはずの小町楓がおれの方を見ている。
「どういうことだ、小町楓?」
「いや、だからさ。そいつはもう操られてんの。みて、わかんない?」
「おま、何言っている、だって、おかしいだろ?こんなに俺の話に乗ってくれて、それで偽物なわけないだろ!」
「残念そいつは私の操り人形です。理屈は超簡単。まず、こいつに私から逃げられたっていう偽の記憶を植え付けます。そのあとに、あんたのもとまでわざと行かせて、私の近くに来たところで偽の記憶を消して私の操り人形に逆戻り。簡単でしょ?」
「おま、お前、そんなことをして心は痛まないのか……」
「当たり前でしょ。それにしても、くふふ。情けないわね。あんたじゃ力不足ってわかんない?」
「……わかってる。けど、だけど……」
今にも消え入りそうな小さな声で田辺は言い訳をする子供のように言う。
「『対等になりたかったんだ』でしょ?ばっかじゃないの。対等?そんなわけないでしょ。あんたとこいつとじゃレベルが違う」
操り人形になっている矢井田を指さしながら田辺に現実を叩きつける。
「……うるさい」
「は?なんて?」
「うるさいといったんだ。俺は、お前らを倒すぐらい強くな……」
言いかけたところで、田辺は操られている矢井田に頬を殴られ思いっきり、空中でひゅんひゅん舞いながらぶっ飛ばされる。
そして、そんな様子の田辺を見ながら相手の小町楓ははーとため息をつく。
「実際にやってみたらわかるわよ。自分が対等なのかどうかが、ね」
ぶっ飛ばされて目がぐるぐると回り、頭がガンガンしながらも今の攻撃を田辺は冷静に分析する。
確かに俺が反応できないほど素早い攻撃ではある。だが、威力は見掛け倒しだ。全身が宙に浮いてとてつもない攻撃のように見えるが、実際にはあまり効いていない。
「おー、なら今すぐにでもかかってこいよ」
それを言った直後腹部にものすごい衝撃が走り、俺は自身の体が宙に浮くのを感じながら意識を失う。
ーーー時は少し過ぎ、町中ーーー
「くそ、多すぎるだろ」
夜の町中を一人の男子生徒が走っている。いや、一人ではなく、大勢の人がその少年を追いかけている。
その後ろから追いかけてきている住人たちの目は全員生気を失っており、とても正気の住人といえる状態ではないことが一目でわかる。
その男子生徒、村田門政はその整った顔を苦しそうにゆがめながら、悪態をつく。
「やっぱり今回の相手が【精神系統】の魔術を使うとみて間違いがなさそうだな。にしても、ここまで広範囲だとは想定外だ」
そして、ちらっと後ろを振り返る。後ろには見るだけでも100を超える人がいることがわかる。
先ほどから高校の方に行こうとすると、この操られている住人たちが目の前を防いで通さないようにしているのだ。
そのせいで、学校にいるであろう自分の親友たちを助けることができない。
「だが、これでこの元凶が学校にいることは確定したな。大方、俺が来て邪魔されるのを嫌がっているんだろう」
そういって、今集められた情報を整理しながら焦っている気持ちも同時に整理して、おちつける。
とはいえ、操られているだけで一般人。手荒なことをしてこの場で全員殺すなんて言う選択肢は論外。
「くそ、あれをつかうか?」
一瞬、村田の脳内で自分の【聖術】の秘術を使う選択肢が出るが、すぐにそれを打ち消す。
「いや、今はその時じゃない。だが、【聖術】を使おうにも対象が抽象的すぎる。かと言ってこいつら全員を個別に対応するわけにも……」
ぶつぶつとつぶやきながら追ってくる住人たちへの対処を考える。
「まいても、まいても、そこかしこに湧き上がるせいでまともに隠れる事ができる場所がない。逃げ回るのにも限界がある。くそ、現状維持か?」
そんな風に悩んでいると、すさまじい【魔力】の荒波が学校の方からするのを感じる。
「な、なんだ?」
あまりの【魔力】の大きさに驚き思わずそちらの方に目をやる。すると、ズドンという音がして土埃が学校の方で舞い上がる。
その後、瞬く間に学校全体を覆うようにして火の手が上がる。村田にはそれが普通の火ではないことがわかる。
「【魔術】で作られた火……」
瞬く間に大きくなり、その火は校舎の半分を覆うほどのサイズにまで一気に成長する。
それが校舎の中を所狭しと動いて、何かを追いかけているようだが、それが何なのかはここからではわからない。
だが、その炎の動きもしばらくしたらぴたりと止まり対象をとらえることに成功したようだ。
そして、そのままぐんぐんと上空に上がっていく。そしてある地点でぴたりと止まる。
「な、何をするつもりだ。あの火球?」
そして、夜だというのに、その火球はまるで太陽のようにどんどんと輝きながら、この街一帯を照らしている。
気が付けば自分を襲っていた住人たちがそのまばゆい太陽の方を見ながら「あ、あ」と言って手を伸ばしている。
ズゥウン
何の前触れもなく、そんな音がして花火のように火球は、たちまち色鮮やかに爆発する。
その火球が爆発した瞬間、住人たちは倒れる。それと同時に住人達が【精神魔術】から解除されたことがわかる。
「一体、何が起こっているっていうんだ」
村田はそう呟きながらも高校に行けば何かわかるだろうと思い、高校の方へはしっていく。




