戦闘
俺は家から出て、ひとまず村田に電話をかける。今日は月が出ており、街灯もあるのできちんと村田に電話できる。
プルルルル、プルルルル、プルルル、ガチャ。3コール目で村田が出る。
また、RINEで打ち間違いをされて重要な情報が正しく伝えられなかったら、困ると判断したからだ。
「はい、もしもし。矢井田、どうかした?こっちもこっちで忙しいんだけど」
「ああ、悪いな。なんで委員長と田辺がいなくなっていると分かったんだ?」
「委員長と田辺に何度もRINEをおくったんだけど、2,3時間たっても既読が無かった。だから、はぁ。不安になって形代を飛ばしたんだ」
「形代?あの田辺がいなくなったときに使ってた動く紙か?」
「そう。あれで、委員長と田辺の家を勝手にのぞかせてもらったんだけど、二人とも家に戻っていなかった」
「それで二人がいなくなったと判断したってことか……いったん合流するか?」
田辺はともかく委員長がさらわれたということは、まず間違いなく【魔術】を使う相手。
単独行動になるのは危険だと思い提案するが……
「いや、やめておこう。はぁ、はぁ。こっちもいろいろと取り込んでいてね。全滅のリスクを避けたい。このまま、別々で動こう」
村田の呼吸が先ほどから少し荒れている。現在進行形で何かとやりあっているみたいだな。なので、俺は村田の提案を承諾する。
「わかった。なら、委員長の方は俺に任せてくれ。少し心当たりがあるんだ」
「わかった。なら、こっちは田辺の方を探すとするよ。それじゃ、たまにでいいからRINEを見といてね」
そこまで言って俺は電話を切る。そして、すぐさま立古神社に向かう。
委員長が立古神社にいるとは村田も考えてはいないだろう。それに、もしも委員長がいなくてもあの大蛇なら委員長のことについて何か知っているかもしれない。
そう思い俺は暗闇の町を駆け抜けていく。もうかなり暗いので誰にも見つからないだろうと考えかなりの速度を出している。
念のためを思って、建物の上から上へと移動している。風が俺の周りをひゅんひゅんと切って、周りの景色が一歩進むごとに目まぐるしく変わっていく。
不思議だ。委員長と田辺が消えてもっと動揺すると思っていたのだが、思いのほか冷静だ。今、何をするべきなのかがちゃんとわかっているからだろうか?
それともすでに田辺がいなくなった経験があるからなれたのだろうか?もしくはこんな考え方になったのも【龍】の影響だろうか?
そんなことを考えているうちに目的地である立古神社に到着する。1回のジャンプで石段をすべて抜かして神社の前に着地する。
そして、そのまま扉を開けて靴を脱ぎ、ずかずかと部屋の中に入っていく。そして、前に大蛇がいた部屋の障子を開ける。
すると、そこには前の大蛇がいた。
「どうかなさいましたか?」
前回と同様丁寧な口調で俺に話しかけてくる。俺は冷静でそれでいながら手早く簡潔に今の状況を説明する。
「委員長がいなくなったみたいなんだ。もしも委員長の場所がわかるのであれば、すぐさま特定して俺に教えてほしい」
「えっ?桜が?なん……いえ、わかりました」
そう言って目をつぶり何やら集中している様子だ。気になっているだろうに事情を聞かずに俺の言ったことをすぐ行動に移してくれるのは助かる。俺は邪魔をしないようにそばで黙っておく。すると、少しして大蛇が目を開けて委員長の場所を俺に告げる。
「おそらく、桜が通っている学校にいると思います。ただ……」
歯切れが悪く大蛇は言葉を詰まらせる。
「なんだ?」
「桜が持っている私の要素をたどって桜の位置を私は割り出すんですが、どうにも反応がおかしくて……」
「反応がおかしい?」
「はい。正常な反応ではないんです。桜の身に何か異常事態が起こっていると考えられます。それがなにかはわかりませんが……」
村田が前に言っていた『今回の敵は【精神魔術】を使うかもしれない』と言っていたことが俺の脳内をよぎる。
「ありがとう。それがわかっただけでも十分だ」
そう言って俺は学校に向かう。
村田はいろいろと立て込んでいて、田辺と委員長とは連絡がつかない。となると、消去法で俺が学校に向かうしかないだろう。
俺は学校で何かあった時のために、村田にRINEを送っておく。俺の身に何かあっても、どこで起きたのかわかるようにするためだ。
「委員長が学校にいるみたいだ。俺は学校に向かう」
そうおくる。そして、走りながら、相手と戦うときのことを考え始める。
委員長がもしも既に【精神魔術】を受けているのであれば、術者もその近くに潜伏しているはず。
真正面から行っても委員長を盾に使われる可能性が高い。となると、こっそり行き敵に気が付かれて【精神魔術】を使われる前に相手を屠るしかない。
俺が【精神魔術】に対抗できるのかどうかもわからない以上、かなり条件は厳しくなる。
だが、【精神魔術】の使い手ということはそこまで肉体派ではないはず。一撃で決められるだろう。要は、勝負は一瞬。
操られるのが先か俺が相手を倒すのが先か。
そんなことを考えているうちに学校がある丘の下のところまで来た。真正面から堂々と入っていったのでは敵にすぐ見つかるリスクが高い。
なので、俺は一気に丘の下からジャンプして丘の上にある学校の5階の屋上に音をほとんどたてず着地する。
これなら、夜で暗く目もよく見えないので、俺が学校の中に侵入したことなどわからないだろう。
そのまま、屋上の扉をこじ開けてそのまま4階に降りる。ここからはいつ敵と遭遇してもおかしくない。
気を引き締めないとな。
ゴン。なにか金属がぶつかったような鈍い音が下の階からする。嫌な予感がするが、進まないわけにはいかないだろう。
今は少しでも手掛かりが欲しい。俺は3階の階段を下りていき、警戒度をより一層高める。
ゴン。再び金属音がする。俺が3階に下りてきたこのタイミングで音が鳴る……明らかに誘われている。
となると、俺がこの校舎内のどのあたりにいるのかわかっているが、俺の能力を警戒しているのか?
今回の相手はかなりの慎重派のようだ。前回戦ったやつとは系統が全然違うな。俺はそう思いつつ音の鳴った教室へと向かう。
「ここだな」
俺は音のしたであろう教室の前に立ちぽつりとつぶやく。
ガラガラガラ。教室の扉を開ける。どうせ場所はばれているのだ。いまさら、音を立てたところで同じだろう。
教室の中には怪しげな人影がある。教室の隅っこでちじこまっている。体格からは性別はわからない。こいつが金属音を立てていたとみて間違いないだろう。
怪しさぷんぷんだが、この学校の制服を着ているので、こぶしを構えながら一応尋ねておく。
「おまえは誰だ?」
俺がそう尋ねると、俺の方に顔をくるっと向けてくる。男だろうか?線が細くて顔も中性的だ。その瞳には涙を浮かべている。
「僕の、僕の名前は……矢田甲介です」
そういった瞬間、俺は背後に来て俺を襲おうとしていた気配に気が付き、後ろの相手を思いっきり蹴る。ガキィン。金属のような手ごたえを感じる。そして、俺は矢田と名乗る相手から少し離れて距離を取る。
このまだ泣いている矢田という子と後ろから襲ってきた相手にちょうど挟まれた構図になる。俺は襲ってきた相手に尋ねる。
「どういうつもりだ、委員長?」
当然ながら、委員長の返事はない。どうやら、操られているようだ。
俺は委員長を警戒しつつも矢田の方をちらりと見る。矢田はまだ泣いており、何か言っている。
「ごめん、ごめんんさい。ぐじゅ、ぼ、僕のせいで、みんながぁぁ……」
何とも要領を得ないな。そう思っていると、委員長の方から嫌な気配が来るのがわかる。俺は素早く、横に飛び、その場を離れる。
俺が先ほどまでいた場所にはきれいな球錠に空間がえぐられている。少し反応が遅れていたら、と思うとぞっとする。
おそらく、委員長の【要素集合】か【空間操作】であそこの空間だけ削り取ったのだろう。
このまま狭い教室の中で戦っていては空間がどんどん削られて、逃げる場所がなくなる。俺は一気にジャンプして窓をバリンと外の広い空間に出る。
地面に着地するまでの間に態勢を整えて、ずざざざと音を立てながら地面に着地する。そして、すぐさま教室の方を見る。
委員長は降りてきておらず、教室の窓の部分に立ち上から地面にいる俺を見下ろしている。
「はっ!俺と同じ所まで降りてこずとも勝てるってか?なめんなよ!」
俺は呼吸を整えて大きな一歩で一気に距離を詰めて委員長まで近づこうとするが、俺の真正面から一気に嫌な気配が来るのがわかる。
「ちっ!」
すんでのところで回避する。俺の周りの地面はえぐられて穴がいくつも空いている。と、周りを確認するのもつかの間、一気に攻撃が来る気配がする。
俺は走ってその場から距離を取ろうとするが、俺のすぐ後ろの空間が俺を追いかけるようにしてどんどん削られる。そして俺の真上に影がかかる。上を見る余裕もなく勘に任せて右側に思いっきりジャンプすることで、右斜め上空にいき回避する。
そして、真上から何が降ってきたのかと思い少し余裕ができたので先ほどいた場所に目をやると、何本もの木々がある。
「【空間操作】であらかじめ収納していた木々をこっちに落としたってことか?そこまで能力使いこなしているのか」
委員長は能力をあまり使いこなしていないと言っていたから、操られても俺だけで対処できると思っていたが……
この状態の委員長を殺さずに制圧するのはなかなか厳しいぞ。だが、やるしかないだろう。
俺は上空から委員長のおっさんと戦った時と同様に上空からこぶしを委員長に向かって繰り出していく。あの時と同様こぶしは直接は当たらないがこぶしによって引き起こされた衝撃波は相手にまで伝わる。
だが、委員長は自分にあたりそうな衝撃波の空間だけ切ることで最低限の【魔力】の消費量で効率よく俺の攻撃に対処している。
土埃が舞い、視界が悪くっていく。一見俺の攻撃が無駄なように思えるかもしれないが、今のところ、俺の作戦は成功している。
委員長は、淡々とすべての攻撃を捌く。このまま、この攻防がしばらく続くかと思われたその時……
ドスっ!
後ろからとてつもない衝撃に襲われ、委員長は意識を失わざるを得なくなる。そして、委員長は全身の力が抜けていき、そのままずるずると倒れこむ。
「ふー。委員長、あんた油断しちまったな」
そう、委員長の後ろにいたのは矢井田である。矢井田はわざと委員長の周りを攻撃することで土ぼこりを舞い上がらせ、視界を悪くした。
そして、矢井田がいることを衝撃波が自身に伝わることによってでしか委員長が認知できないようにした。
衝撃波があることでまだ、矢井田はあの上空にいると思わせている間に、衝撃波よりも早く動き委員長の後ろに回り込んだというわけだ。
「俺が衝撃波よりも早く動けるのかどうかが不安だったんだが、成功したみたいだ。もう少し、視野を広げときな」
俺は気絶した委員長に向かってそう言う。思えば俺はこの時油断していたのかもしれない。前回の委員長のおっさんに勝って、今も委員長に勝ったことで少なからず慢心があった。
そして、この時今回の一番の波は越えただろうと愚かにもそう思ってしまった。そういった戦場での一瞬の隙を【魔獣】たちは見逃さなかった。
「タッチ」
「は?」
そんな場に似つかわしくない子供の声が俺の後ろからする。後ろを振り返ると、そこにはぶかぶかの制服を被った見慣れない子供が俺の体を触っているのが見えた。
さっきの矢田ってやつはどこに?と思い素早く先ほどまで矢田がいた場所を確認するがどこにもその姿はない。そして、その子供は言う。
「シャットダウン」
一気に距離を取り、反撃しようとするがその子供がそういった瞬間に俺の意識は文字通り失われる。
どさりと矢井田はその場所に倒れこむ。そして、後に残った子供はくふふ、ゲットと言いながら邪悪に笑う。




