発見
「え?あれ?ボールは??」
計測している人はボールがなくなったことに驚いている。幸いというべきか陰キャの俺の活躍を見ている人はあまりおらず、計測している人ぐらいのようだ。
俺は素早く切り替えて足りない頭をフル回転させ今の失敗を次にどうやってつなげるのかを考えすぐに実行する。
「すいません。じゃあ、一球目いきまーす」
俺はとぼけて一球目を構えるそぶりを見せる。それを記録係の人が阻止する。
「ちょ、ちょっとまって。さっき1球目を投げてなかった?」
「いいえ、構えて投げる練習はしていましたけど実際に投げてはいませんよ」
「いや、でも。確かに私は見たんだけどな……」
俺が強気に言っているからか徐々に自信がなくなっていくのがわかる。ここらへんで決めるか。
「でも、グラウンドのどこにもソフトボールがありませんよね?」
「うう、はい。おっしゃる通りです」
よし完全に勝ったな。あとは、このまま押し切るだけだ。俺は村田の笑い方をまねして、陽キャにっぽくその人に笑みを向けながら力強く言う。
「じゃあ、1球目投げますね?」
「はい、お願いします」
やはり、陽キャオーラをまとえばその人の反応も違うな。俺はできるだけ力を籠めず、指2本だけを使ってボールを持つ。
そのまま腕を前に出すが、実際にボールを投げるのは手首のみを使う。その結果、ボールは先ほどよりも大幅に距離が縮む。
「62メートル」
記録係がそういう。ふむ、こんなものか。ハンドボールではないのでこの結果だとやや運動ができる高校生といった評価になるだろう。
「じゃあ、2球目いきます」
俺は1球目と同じように今度は体を動かさず手だけを動かす。今度のボールはいびつな放物線を描きグラウンドに転がる。
「48メートル」
記録係が俺の結果を読み上げる。先ほどよりもやや短いが平均すれば大体50メートル。これぞ普通だろう。
俺はそのまま終えて50メートル走のところに行き、記録を測り握力を自分で測定して、すべて終えたのでベンチに腰掛けて休んでいる。そんな俺に同じく測り終えた委員長が近寄ってきて話してくる。
「もしかして、矢井田さんて運動が得意分野なんですか?」
「え、なんで?」
「いや、なんだか近くで見る限り結構運動ができるような記録だったので……」
ああ、そういえば委員長は俺が【龍】の力を持っている事とか知らないんだっけ。
事情をいろいろ知っている委員長になら話してもいいだろう。
「実は【龍】の力を持った影響なのか、俺の身体能力は桁違いに上がっているんだ」
「いや、ソフトボール投げ62メートルで桁違いの身体能力っていうのは些か誇張表現な気が……」
「あれはもちろん手加減しているよ!本当はあれの10倍ぐらいの記録は出せるんだけど、そんな記録を出したら不審に思われるからね」
俺は少し声を大きくして言う。幸い俺には【中二病】という設定がついているので、俺たちの会話が聞こえても誰も気にしない。
「ああ、そういうことですね」
委員長が俺の言ったことに理解を示すような反応を示す。ようやくわかってくれた……
「『本当はめっちゃ強いけど周りにばれたら面倒なので力隠してます』って言うパターンですか?最近の高校生男子はそういうパターンが多いですからね」
うん、そういえばこいつも俺のキャラが【中二病】だと思ったままなんだった!!
「はぁ。しょうがないな。俺が実際に見せてやるよ」
俺はそう言って、ちらっと周りを見渡す。今で大体半分ぐらいの人が記録を測定し終わった、といったところか。まだ、時間はあるな。
俺は自分で測り、一番周りに記録がばれにくい握力測定をすることにする。握力測定器の前まで行く。
「じゃあ、委員長見といてね。できれば声は抑えて」
さすがに大きな声で『握力が100㎏?すごぉ』なんて言ったらいやでも注目を集めてしまう。なので、そこの部分は念を押しておく。
「じゃあ、握るよ」
そう言って、俺は握力測定器の値を見ながら少しずつ力を込めて握りしめていく。
50,60,……どんどん値が上がっていく。委員長の顔もそれに比例してどんどん驚愕したものに変わっていく。
握力測定器の上限値は120㎏なので、限界まですぐに来る。そして、俺は委員長に視線を移す。
「ほら、これで俺の身体能力が桁違いだってことがわかったか?」
「マジすか」
委員長がいつもの敬語ではなくてため口になっている。俺としては親近感がわくのでこのままでもいいのだが、やはりいつもと違うせいか、違和感がある。
「なんだか、キャラが崩れているぞ」
そう、俺が指摘するとはっとして慌てて口調を直す。
「す、すいません。でも、これじゃあ、バケモンじゃんですよ」
……今度は敬語表現にしようとして日本語自体の使い方を間違っている。ひとまずは、それに突っ込みを入れる。
「それはおバカキャラが自分を賢く見せるために「です」とか「ます」を後につけたりするのであって、本当に賢い奴はしないんだよ!!」
「さぁ、どうだろう。私が本当はおバカな可能性もあるよ」
「え?そうなのか?」
でもよくよく考えてみれば、実際にこいつがいい点数を取ったところを見たことがない。入学してから数日しかたっていないことを考えれば普通だが……
「で、委員長は賢いのか?」
「ひ・み・つ」
「そうかよ」
なんて話しているといつの間にか周りには誰も無くてみんなほとんど集まっており、まだ集まっていないのは俺と委員長だけだった。
周りからなんだか白い目で見られている。俺はそれを見て委員長に声をかける。
「やべ、早く集まらないと」
「そうですね」
そう言って、俺たちはみんなのところに行く。
みんなのところに行かなければ、という気持ちがあったので気が付かなかったのだ。こちらをとらえているスマホの存在に……
俺達は体育の授業を終えて、元の教室に戻り休み時間を過ごす。
俺は自分のスマホを取り出して、『HUTERE』というアプリを開く。
これはさまざまな動画が流れてくるまとめ動画サイトという役割を担っている。このサイトではジャンルを問わず様々な動画がある。
ジャンルを問わないということから、幅広い層に受け入れられている。その影響からか『HUTERE』の全世界利用者数は35億人という超大型サイトだ。
創業から30年という長い年月を経てここまで大きい企業に成長したのはほかに見ても例がないだろう。
取り敢えず『HUTERE』のどこのジャンルを見ているのかを言っておけば、大抵どういうタイプなのかがわかる。敢えて、『HUTERE』の欠点を一つ上げるとすればジャンルが豊富すぎるということか。その数は優に100を超え、細かく分ければ、1000ぐらいはある。
まぁ、とにかく俺はそれを見ることにする。ひとまず、流れてきたうちの気になった動画の一つを開く。
その動画のタイトルは『女子高校生の一日』というタイトルだ。タイトルはいたって普通だ。俺が気になったのはそこではない。
俺が気になったのはタイトルの背景がこの学校の教室に似ているからなのだ。だが、教室など学校によっては似ているものもあるだろうと思いつつ、動画を見る。
それは顔をモザイクで隠した女子高校生と思われる人物が起床し学校に行くまでの様子が丁寧にとられている。
その人物の家と思われる部分や学校、周りの風景などにはモザイクがかけられているので、特定することは容易ではない。
少し画面が暗くてわかりにくいが、板書の内容は社会だろうか?これまた、俺たちが受けた社会の授業とそっくりだ。そして、昼休憩になり友達と思われる人物が「モザイクなし」で映される。その中には村田の姿もある。
そして、授業の様子が再び開始され、今度は授業中に顔をうずめ寝ている人を撮影している状況が映し出され、『ガチでヤバイwww』という文字が表示される。
そして、授業が終わり帰り道にクレープ屋によってでかいクレープを頼みおいしそうに食べて動画は終了する。
動画の長さはおおよそ1分程度。ジャンルとしてはいわゆるショート動画というものに分類される。
そして、今の動画には懸念点がある。それはモザイクなしで映している村田たちに確認の許可を得たのかどうかということだ。
いわゆる肖像権を侵害しているか否かという点だ。もしも許可を取っていないのであれば、法律違反で厳しく罰されるだろう。
ひとまず俺はその動画に映ることを許可したのかどうかを村田にRINEで聞いてみる。
「お前、動画に出ているみたいだけど大丈夫?」
そう言って下にはその動画のURLを貼り付けておく。これで確認してくれたらはっきりするだろう。
もしも許可を取っていないのであれば、おそらくこれは故意にモザイクをかけずに村田を映しているだろう。
自分の家や高校などを特定されないように、モザイクをかけたりするほど慎重な人物が肖像権のことを知らないとは考えづらい。
それに、村田は顔がいい。並みのアイドルレベルはある。それを載しておけば、再生回数はたくさん稼げると判断したんだろう。
実際、コメント欄では「途中で映される男の子、かっこよすぎでは?」だったり、「これは、惚れますわ」など村田へのコメントが多数見られる。
となると、俺たちの学校で同じ学年であることは確定だろう。いくら村田のコミュニケーション能力が高いといえど他学年との交流まではまだ行っていない。
投稿者の名前は『キャルチャー』というらしい。他にも20,30本ぐらい動画を投稿しているようだ。いずれも、再生回数は3,4万回ほどだ。
だが、今回の「女子高校生の一日」は10万回もいっている。一番最近投稿されているにもかかわらずだ。
やはり、村田の影響なのだろうか?それとも、世の中の人間は『女子高校生』という単語に反応する人が多いということだろうか?
おそらくはそのどちらもだ。世の中の需要は『JK』になっていっているらしい。やれやれ、世の中みんな欲求不満なのか。
俺がそんなどうでもいいことを分析していると、先ほど村田に送ったRINEの返信が来る。
「こんなの知らないよ。勝手にとられている」
確定だ。この『キャルチャー』さんは再生回数のために肖像権を侵害したのだ。俺は今後の指針を村田に聞く。
「どうする?警察に相談でもするのか?」
今回はすぐに既読がつき、返信が来る。俺もそれに対して返信していく。
「いや、ことをあまり大事にしたくない。警察に言ったら手っ取り早いけどその人の人生を壊すことになるからね」
「じゃあ、どうするんだ?」
「俺たちで犯人を見つけ出して動画を削除してもらう。それで二度とこんなことをしなければそれでいい」
「わかった」
ここでやり取りを終える。明らかに動画の再生回数のために村田の顔を映しているにもかかわらず、それを許すのは何とも村田らしい。
となると今後の課題は動画を撮った犯人を見つけること、か。
今はこの動画から読み取れる情報はほかにないな。となると、新しく動画が投稿されるであろう明日までは特に動けそうにない。
俺は、はーとため息をつく。すると、隣に座っていた田辺が話しかけてくる。
「おいおい、なんだよため息なんかつきやがって。さっきから、困ったような表情したり考え事している素振りをこれ見よがしに見せつけやがって、何かあったのか?」
「ああ、まあな。厄介ごとを抱え込んでいるんだが、それを公にしたらいけないみたいなんだ」
「うわ、ひょっとして中二病か?やめとけお前、キャラならいいが、リアルでやっていたら引かれるぞ」
「は?中二病、どういうこと?」
「いや、どういうことも何も言葉通りの意味だよ」
「いやいや、中二病ってあれだろ『手に何かを封じているふり』をしたり『目がうずく』とか言ったりするやつだろ?」
「いやいや、違うぞ。それは一昔前に流行った中二病だ。今は、一言でいうとやれやれ系だ」
「や、やれやれ系?」
「そうだ。穏便に暮らしたいのに、なんだか別のもめごとに巻き込まれて、破天荒な日々を送ることになってやれやれって言う……みたいな感じだな」
ふむ、まさしく俺のようだ。まさか、キャラで設定したはずの中二病がリアルで自分もなってしまうとは、不覚だった。
「な、中二病だろ?」
「ああ、そうだな。そうだよ、お前の定義通りならおれは中二病だ」
俺はしぶしぶそう認める。まさか、俺自身が中二病になる日が来るとはな……とちょっとした物思いにふけっていると、田辺が話しかけてくる。
「そういえば、さっき厄介ごとに巻き込まれたみたいなこと言っていたけどあれは何なんだ?魔術関連のことなのか?」
「いや、まだ魔術関連と決まったわけじゃないんだけど……」
そう言って俺は今回のことについて話し始める。
「なるほどな、それで穏便に済ませるための解決策を考えていたということか」
「ああ、そうだ」
俺は田辺に先ほどの動画も見せた。そのうえで俺は田辺に聞く。
「これで、今現在何か解決できる手段はあるか?」
「ないな」
即答されてしまった。俺たちの中で一番頭がいいであろう田辺がこう言い切るのであれば、無いのだろう。
「さすがに情報量が少なすぎる。この動画を投稿している人が誰なのかもつかめていないんだろ?」
「ああ、同じ学年で同じ学校であることに間違いはないと思うんだけどな」
「さすがに、候補者が多すぎる。正確に絞り込むのは無理だな」
「だよな。結局行き詰まりか」
おれ達がそう言っていると、キーンコーンカーンコーンという音がして休み時間が終わりを迎える。
俺たちが真面目に授業を受けていると、ピコンという音がしてRINEが来る。どうやら、村田からのようだ。
授業中に会話をしていたら教師に目を付けられると考えて、RINEでの会話をすることにしたのだろう。
俺はその内容を確認する。
「今日の放課後、どこかで集まれないかな?今後の方針を決めたいんだけど」
「わかった。俺もそれに賛成だ」
そう言って俺は返信する。そして俺たちは放課後になり、みんなで集まったのだ。委員長や田辺ももちろん来ている。
「で、なんで私の家なんですか?」
委員長がそう尋ねてくる。急遽行くってことになってから、少し怒っている気がする。なぜだろう?
「仕方ないだろ。男子の家に女子を連れ込むわけにはいかないんだから」
俺は少し紳士ぽくいう。すると、委員長がそれに反論する。
「別に誰かの家じゃなくてもいいんですよ。どこかの図書館とかでも」
それを田辺が即答で否定する。
「それはダメだ。今回の件を村田は大きくしたくないと言っていた。公の場所でこれからの会話をしたら、大事になる可能性がある」
「それは、そうですね……」
「それに、あまり人がいなくてみんなが知っている場所ってなると、委員長の家ぐらいしかなかったんだよ」
「……わかりました。今回はいいですよ」
委員長はどんどん声が小さくなり、最終的には承諾してくれた。
「「「さっすが委員長!!」」」
俺たちが声をそろえてそう言うと、委員長は完全に俺たちを帰らせることをあきらめたようだ。
「じゃあ、犯人探しを始めようか」
そういって、村田は俺たちに一本の動画を見せてくる。




