すべての始まり
今日は月曜日。そして、高校の入学式初日だ。月曜日ということと今まで学校がなかったのに学校に行かなければなければならないということで、少し足取りは重い。
俺の名前は矢井田新。今年で高校一年生になる。高校は日本のどこにでもあるちょっとした進学校だ。こんな普通の自己紹介をされたら、逆に普通ではないのかもしれないと思うだろう。安心してくれ、本当に普通だ。しいて言うなら、国語が得意で一回学年でトップ10に入ったことがあるというぐらいだ。
今日は人生で一回だけの高校の(中学もだけど)入学式だ。そして俺はいま、学校に行こうと歩いている途中だ。
「矢井田~今回リリースされたゲームがちで面白かったよな?やっぱりゲームしか勝たん!」
隣から話しかけてきた奴は田辺誠。こいつは俺の友人だ。こいつとは中学の頃に高校受験をするにあたって同じ塾に通っていたこともあって仲がいい。気の合う友達の一人だ。
「田辺、お前俺がアニメが好きなの知っているだろ?ゲームなんかよりもアニメさ。アニメしか勝たん!」
そう、何を隠そう俺は大のアニメ好きだ。そのほかのことにはあまり夢中になれないがアニメにだけは夢中になれた。高校を受験する直前のときも毎日必ずどれかのアニメの1話は見るほどだ。もっとまじめにと思われるかもしれないが、高校に受かったのだから結界オーライだ。
「田辺も矢井田もそんなこと言ってて勉強の方は大丈夫なのか?一応俺たち義務教育終わって大学受験のこととかも真剣に考えなきゃいけないんだぞ?」
俺と田辺が話している途中に横からしゃべってきたのは村田門政。こいつと田辺が俺の一番の友達だ。こいつとも塾が一緒でもう2年ぐらいの付き合いになる。
背丈は俺よりもあって身長は180センチぐらいある。俺はまだ170ぐらいなのに……運動部に所属していたというだけあって筋肉もしっかりついており、もてる見た目をしている。
茶髪で髪の毛をセンターで分けており微笑みを浮かべたらまさに王子様だ。しかし、彼曰く今まで誰とも付き合ったことがないのだそうだ。一見チャラそうに見えるが、一番しっかりしている。英検や数検など様々な検定を受けて将来を見据えている。
そして、もちろん比較的真面目な陽キャ(ここは重要)である。なんでモブの俺がこんな勝ち組のやつと仲良くなれたのかは覚えていない。だがたまたま気が合ったから仲良くなったのだろう。
「わかってる、わかってる、でも3年先のことだろ?別に今から考えなきゃいけないことじゃないだろ?」
俺は村田に対してそう答える。まあ、高3になったらさすがにまじめにやるが、今は大丈夫だろう。そう思って答える。それに対して、村田ははぁ、とため息をついて話し始める。
「あのなぁ、高校受験とはわけが違うんだぞ?高校受験の時は直前に演習しまくっていたら何とかなっていたかもしれないけど大学受験は範囲も多い。直前でやっても到底間に合わないんだからな?それにお前は……」
これは確実に長くなるやつだ。大抵こいつがため息をついてから話し始めるとき、話はすごく長くなる。長年の付き合いでそこらへんの要領はわかっている。
そして、こういう時への対応も心得ている。すーと息を吸おうとすると……
「あ、ああああああああーーー、聞こえない聞こえない」
田辺が急に大きな声を上げる。俺がやろうとしていたことを先にやられてしまったようだ。そう、こういう時は聞こえないふりをするのが説教が短くて済む王道の方法なのだ。
「何あの人、急に大きな声を上げてやばい人かな?」
「ちょ、あの制服同じ高校の人じゃない?うわ最悪~」
「ホントだ。ああいう人とは同じクラスになりたくないね。」
「ちょ、もういこうよ」
どうやら田辺は周りの女子にひかれてしまったようだ。これで、高校でも女子から避けられることが確定しただろう。かわいそうに。ま、俺はやらなくてよかった~
「ちょ、一緒にいる人ももしかしてやばい人なんじゃない?」
「ああいう、奴らが将来犯罪起こしたりするんだよきっと」
「うわ、あの三人にはもう近寄らんとこ」
どうやら手遅れだったようだ。一緒にいた俺たちまで変態扱いされてしまった。かなり距離があるはずなのにこういうときだけ耳がよくなって周りの音を拾うのだ。
「え、でもあの背が高い子はかっこよくない?」「ホントだ」「あのことは仲良くしてお近づきになりたい」
前言撤回。「一緒にいた俺たち」ではなく「俺」だけになったようだ。所詮この世界は容姿が整っているやつが勝つのだ。俺のような普通の容姿をしている人間は持てない。
「ふっ、まぁ男子が女子トークのことをわからないように女子にはこの男子トークがわからないかな。だから、まあ別に悔しいわけでも何でもないな」
田辺はそういう。明らかに負け惜しみだろ……そんな突っ込みを心の底で入れながらポンポンと田辺の肩をたたいてこう言う。
「ドンマイ。まあ、高校生活始まったばかりだし挽回のチャンスはまだまだあるぞ」
俺は肩をたたいて田辺にやさしく声をかけてあげる。すると、田辺は……
「いやいや、お前、何を言っているんだよ。お前の方こそ女子に避けよとか言われてただろ?ドンマイ。」
俺が励ましてやったのに田辺はそれに対してそういう風にして答える。俺はそれに対して……
「いやいや、明らかにお前がメインで嫌がられていただろ?お前の方が終わってるんだよ。ドンマイ。」
「は?お~し、分かった。ぼこぼこにしてやんよ。今夜7時ラグナロクにこい。そこで瞬殺にしてやるよ」
「は?それゲームだろ?俺はゲーム無理なんで。そんなにやりたいならアニメ題名縛りでしりとりでもするか?今、ここで?」
俺はアニメは大好きだが、ゲームはからっきしだ。逆にこいつはゲームは大好きだがアニメはからっきしだ。つまり、ここでアニメの題名しりとりをしたら俺が100パー勝つ。
「ほほお、自分の得意なことでしか勝負ができないということか?この凡夫め、俺の方が数百倍優秀だな」
「凡夫で結構コケッコー。なら凡夫よりも数百倍は賢いと断言するお前なら、俺の得意分野でも付き合ってくれるよなぁ?」
「上等だ。かかってこい凡夫」
「じゃあ、【グランドC2C】
「はぁ?せこすぎるだろ。‘c’から始まるアニメなんてないんじゃないのか?」
「ププ残念でした。【cトリマックス】、【cause accidents】ほかにもいろいろあるんで~す」
「そんなマニアックなの知らんし」
「これでどっちが凡夫なのかが分かったかな?口だけ番町君」
「てめ……」
田辺がそう言いかけると、そこに村田が割って入る。
「はいはい、二人ともケンカしない。今ここでけんかしても仕方がないでしょ?それよりもとっとと学校行かないと遅刻しちゃうよ?」
そういわれて、俺たちは近くにあった時計を見る。時刻は8時20分であった。始業式が始まるのは8時30分であった。うんうん、なるほど。俺たちは少しの間フリーズする。
「やばいじゃん!なんでこんな時間になってるんだよ!」
田辺が真っ先に走り出す。俺もやばいと思いそれに続く。それを後ろから余裕の笑みで追いかけてくるのが村田。一番最後に走り始めたはずなのにもう俺たちに追いつき始めている。えげつないな。
やはり元運動部の意地でもあるのだろうか?そんなことを考えているうちに俺は抜かれてしまう。つまり、俺が最後尾ということだ。
「矢井田、早く来いよ」
顔に笑みを浮かべながら村田が汗を流しながら後ろにいる俺の方に顔を向けてそう言ってくる。
「い、いわ……れなくても……はぁ……はっ……くっ」
そう言い返すがやはり元文化部である俺がこいつらに追いつくのは…かなりきつい。諦めそうになって下を向きながら走っていると、キラッと金色に光っている丸いものが見えた。
「金か!」
俺はないはずの体力を振り絞り素早くそれをとる。それは思った通りお金みたいなものだ。だが、そこには【籠】と一文字書かれているだけだった。外国のお金だろうか?
もう走る気力も体力も残されていない、ならせめてこれだけでも拾っといたほうがいいだろう。そう思い俺はポケットの中に硬貨を入れる。
そして俺はあきらめて歩き出す。少し先のところで田辺が歩いているのを見かける。
「田辺~お前も歩いてんのか?」
「はぁはぁ、お前、っとちがってこちとら走ってたんだよ」
「俺と大して距離変わんねぇだろ?」
「うるせえよ」
そんなことを話しながら足を進めていき、さっき拾った硬貨のことを自慢する。ポケットから取り出して
「これさっき拾った硬貨、どこか外国のお金だろうから、こっちじゃ使えないだろうけど」
「こんな外国のお金見たことないけどな、単位というか数字もないし」
「ふ~ん、そうなんだ」
結局この硬貨について分かったことは何もなかった、ってことか。まあ、そうだよな。俺たち別にコインオタクってわけでもないしな。
「ていうかさ、村田はどうしたんだよ、村田は?」
俺はもうどこにも姿がない村田について途中まで一緒にいたであろう田辺に聞いた。田辺は…
「あいつなら学校の方に走っていったよ。案外、あいつだけ学校に間に合ってたりしてな」
「いや、それ普通にありそうじゃね。だってあいつ元運動部だし」
俺は冗談で言ったつもりの田辺にそう返す。実際あいつとは一緒にいるからわかるが運動能力だけならガチで全国レベルだろう。本人はそこまで運動に意欲があるわけではなさそうだが……
「いや、でもう~ん、どうなんだろう」
「あいつ最高で50メートル走5.9だよ」
「まじ?」
俺は前にあいつに聞いたときに答えてもらった最高記録を田辺に言う。田辺は聞いたことがなかったようでそれに驚く。まあ、おれも初めて聞いた時には驚いた。
「確か世界記録5.6とかぐらいだろ?さすがにその記録は噓なんじゃね?」」
「まあ、さすがに多少は盛ってるよな?」
「うん、うんまあ、さすがに、……な?」
「うん、さすがに…」
お互い言いあっているうちに徐々にあいつののほほんとした顔が浮かんできてとったよ~という光景が目に浮かびかける。なんだか自信がなくなってきた。
なんて言いあっているうちに俺たちが入るべき高校が坂の上の方に見えてきた。霞川桜高校。これが俺たちが入学する高校の名前だ。
見た目は周りに桜の木があるので桜の花びらがあたりを飛び交っており、その中にどっしりと構えた高校があるという感じだ。前に来た時も思ったが、やはりここの高校はきれいだ。
「やっぱ、ここきれいだよな?」
おんなじことを思っていたのか田辺も俺に対してそう声をかけてくる。
「ああ、きれいだよ。ここからは俺たちもこのアニメにあるような高校に来るんだ」
「おまえ、二次元と三次元ぐらい区別しろよ」
「お前も同じようなもんだろ?」
「まあ、そうだわな」
俺たちがそんな風にじゃれあいながら学校に向かっていると校門の前に立っていたジャージを着ていたおじさんが俺たちに向かって怒号をあびせてくる。
「ごらぁぁ、お前らなにちんたらあるいてんのじゃぁぁ、走らんかい、あしをうごかせぇぇや始業式始まってんねんぞぉぉぉ」
俺たちはその掛け声に思わずびくっとながら軽く走り始める。それと同時にそいつに対しての愚痴を言い始める。
「なんだあいつ、体育教師かなんかか?めんどくさそうだな」
「ていうかジャージ出来ている体育教師って今時リアルにいるんだな。あいつ感性が古すぎる」
「それな。ああいうのがいると困る」
俺たちがこそこそしゃべっていたのが逆に相手の気に障ったらしくそいつはまた俺たちに暴言を浴びせてくる。
「お前ら一年か?これからの学校生活まともなもん遅らせへんぞ、ボケがぁぁぁ」
それを聞いてさすがに俺たちは高校の青春をつぶされてはかなわないと思い本気で走り始める。
「俺の青春がつぶされてはかなわん。じゃあ先に」
そういって田辺が俺よりも早く本気の走りを見せてくる。
「ちょ、待てよ」
すぐにそのあとを俺も追うべく踏み出した右足に力を籠める。そして、足を後ろにして体を前に持っていく。その瞬間……
飛んでいた。何を言っているんだ?と思われるかもしれないが本当にそうとしか言いようがない。田辺も体育の先生も門も飛び越えて俺は空にいる。ヒューと風が聞こえる上空にいる。訳が分からない。
下を見ると霞川桜高校がある。俺は今、霞川桜高校の敷地の真上にいるようだ。そう頭では理解するが非日常的過ぎて実感がわかない。次に下ではなく周りを見てみると、鳥たちがいるのが見える。そして、前を見るとキラキラと輝く太陽が見える。
「きれいだ」
俺は思わずそうつぶやいた。だが、その直後に足元に重力を感じ体がどんどん落ちていく。
「うわわわわ、これどうなったってどこか折れるやつだ~」
そう思った直後どしんと俺は地面に降りる。特に衝撃が走ったわけでもなかったので目を開けてみると俺は普通に着地していた。
「お、おまえそれどうなってんだよ。そんなゲームみたいなことがあるなんて」
田辺が俺の元に駆け寄ってきてそういう。俺はそれに対して困惑しながらも答える。
「俺にもよくわかんないけど、なんかアニメの主人公みたいな展開だよな」
そんな感じで俺たちは声のする体育館の方に向かって歩いていく。
「噓だろ……化け物かよ」
後に取り残された体育の先生は先ほどの威厳のかけらもなくなりそんな声を漏らしながらその場にいた。
良かったら、感想や高評価お願いします。皆様のおかげで承認欲求が満たされて非常に満足感を得られます。(自虐的な意味でも)