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日独ソ同盟艦隊出撃す

日独ソが同盟を結んだ世界の第二次世界大戦を描く架空戦記です。

 同志諸君!ソビエト人民諸君!


 我がソビエト社会主義共和国連邦が、テンノーと呼ばれる皇帝が君臨する大日本帝国、ナチズムを信望するドイツ第三帝国と軍事同盟を結んでいることに疑問を持っている同志もいるかもしれない。


「共産主義思想は日本とドイツの政治体制とは対立するのではないか?」


 そのような考えを持つ同志も多いだろう。


 だが、真の敵を見誤ってはならない。


 真の敵とは「アメリカ合衆国」である。


 労働者が国の主人である我がソ連とは違い、アメリカでは一部の資本家が富を独占し、労働者は低賃金と劣悪な労働環境で苦しんでいるのだ。


 アメリカの資本家たちは、その資金力によって政治家たちを操り、資本主義による世界征服を目的としている。


 それを阻止するためには、我がソ連単独では不可能である。


 そのため、アメリカと敵対していた日本とドイツと同盟したのだ。


 それが1939年のことだ。


 我がソ連が日独に石油や鉱物・穀物を供給し、お互いの技術を交換することとなった。


 さて、日独ソ同盟で最も大きな海軍を持つのは日本である。


 ソ連もドイツも陸軍国であり、海軍については日本から学ぶことは多い。


 日独ソ同盟海軍にとって象徴的な戦艦が、大和型戦艦である。


 基準排水量6万4千トン、46センチ砲9門搭載の世界最大の戦艦を日本からの技術供与により、我がソ連もドイツも同型艦を建造することになった。


 我がソ連では1番艦は「ソビエツキー・ソユーズ」と名づけられ、ドイツでは1番艦は「ヒンデンブルク」と名づけられた。


 それをアメリカは脅威だと判断した。


 アメリカは太平洋と大西洋の両方で大和型戦艦に対抗しなければならない。


 大和型戦艦に対抗できるのは、モンタナ級戦艦だけだが、パナマ運河は通行不能なため太平洋と大西洋の移動に時間がかかる。


 そこで、アメリカ政府・海軍はこう考えた。


「まだ大和型戦艦の数が揃わない内に先制奇襲攻撃で日独ソ同盟艦隊に大打撃を与えよう」


 アメリカの最初のターゲットとなったのが、日本であった。


 日本は我が同盟の海軍力の要であり、内陸にある我が国やドイツとは違い島国のため、海軍に壊滅的な打撃を受ければ比較的簡単に降伏すると考えたのだ。


 アメリカ政府が日本政府に突きつける講和の条件は「日本の同盟からの離脱、日本の軍備制限、日本市場のアメリカへの開放」になる予定であった。


 アメリカ海軍による日本への奇襲攻撃計画は極秘裏に進められた。


 アメリカ海軍空母機動部隊による日本の横須賀への奇襲により1942年12月8日に第二次世界大戦は開戦した。


 アメリカは日本にのみ宣戦布告し、ソ連とドイツには宣戦布告しなかった。


 アメリカ政府は日本だけを相手に戦争をするつもりで、比較的海軍力に劣るソ連・ドイツは短期間で日本を降伏させてしまえば、戦争に参戦できないだろうと考えたのだ。


 しかし、それは我が日独ソ同盟の紐帯を甘く見ていた。


 横須賀奇襲後、すぐにソ連とドイツはポーランドに宣戦布告し、ソ連とドイツは協力して、ポーランド全土を解放、それによりソ連とドイツの間の回廊を確保した。


 そして、フランスに宣戦布告、ソ独同盟軍はベルネクス三国を解放し、フランスに進攻、いわゆる「電撃戦」によりフランスを降伏させた。


 さて、同志諸君の中には「何故、ソ独同盟軍はポーランド・ベルネクス三国・フランスに進攻したのか?」と疑問を持つ者もいるだろう。


 もちろん、同盟国である日本を助けるためであるが、「極東にある日本を助けるために、何故、西欧に進攻するのか?」と疑問を持つ者もいるだろう。


 それは共産主義世界革命のための大戦略的な思考からである。


 西欧諸国を解放すれば、西欧で残された資本主義国、例えば、イギリスなどはアメリカに支援を求める。


 アメリカが欧州に力を向ければ、その分、日本に向けられる力が弱まることになるのだ。


 アメリカの新聞などでは「横須賀奇襲からソ独同盟軍がポーランドに進攻するまでの期間が短すぎる。元々、ソ独は西欧への進攻計画を極秘裏に準備していて、偶然にも横須賀奇襲と時期が合ったに違いない」と書き立てているが、もちろん、デマである。


 さて、アメリカ海軍による横須賀奇襲により、日本は戦艦「長門」「陸奥」が沈没などの被害を受けたが、横須賀の軍港施設のほとんどは無傷であった。


 これはアメリカ海軍の空母艦上機が軍艦をターゲットにしており、軍港施設の破壊は任務に含まれていなかったからである。


 日本海軍の欺瞞情報により、アメリカ海軍は横須賀に戦艦「大和」「武蔵」が停泊していると信じていたが、実際にはどちらもおらず。


 アメリカ空母航空隊は、仕方なく「長門」「陸奥」を攻撃したのであった。


 日本海軍による反撃は短期間で行われた。


 日本海軍空母機動部隊によるハワイ空襲により、まずハワイの飛行場を破壊した。


 さらに出撃したアメリカ太平洋艦隊も空襲し、損害を与え、大和型戦艦「大和」「武蔵」を主力とする水上砲戦部隊で壊滅的打撃を与えた。


 大和型戦艦「大和」「武蔵」の支援砲撃の下、ウラジオストクから出撃していたソ連海軍歩兵部隊がハワイに上陸し、ハワイ諸島を解放した。


 初めての日ソ共同作戦は成功に終わった。


 そして欧州でも、資本主義連合の最後の牙城であるイギリスへの上陸作戦が始まろうとしていた。


 我がソ連の大和型戦艦「ソビエツキー・ソユーズ」とドイツの大和型戦艦「ヒンデンブルク」を主力とする独ソ同盟艦隊は、イギリス本国艦隊を撃滅し、ドイツ装甲師団・ソ連戦車師団によるイギリス上陸作戦を成功させた。


 そして、カナダに逃亡しようとしていたイギリス国王一家、イギリス首相を初めとする閣僚を捕らえた。


 イギリス首相は戦争犯罪人として戦後に裁判にかけられることになったが、イギリス国王はバッキンガム宮殿内部での生活は許された。


 我がソ連は革命時にロシア皇帝を処刑したが、イギリスの王室を滅ぼす気はない。


 日本人民が皇室の存続を望んでいるように、イギリス人民の判断に任せるべきだからである。


 アメリカ政府は「イギリス国王をバッキンガム宮殿に軟禁し、傀儡政権を設立した」と主張している。


 無論、それは誤りである。


 イギリス国王は安全のために外出を控えているだけであり、イギリスでは新たな内閣が設立された。


 新たな内閣の首相や閣僚らは全員がイギリス人で共産主義思想に共鳴した同志たちである。


 短期間でハワイ、イギリスを解放した日独ソ同盟艦隊に対して、アメリカ海軍は後手に回り、幾多の海戦に敗北した。


 第二次世界大戦終盤には、日独ソ連の大和型戦艦「大和」「ヒンデンブルク」「ソビエツキー・ソユーズ」が揃い踏みでニューヨークを艦砲射撃し、日独ソ同盟とアメリカが休戦条約を結ぶ切っ掛けとなった。


 休戦条約が結ばれたのが、1945年8月15日であり、2024年現在も日独ソ同盟とアメリカとの休戦状態は続いている。


 戦後、日独ソ同盟とアメリカはほとんど同時期に原子爆弾の開発に成功した。


 原子爆弾は一度も実戦で使用されたことはないが、実験により、その破壊力は確かめられており、相互確証破壊により「冷戦」が続いている。


 我がソ連は世界で初めて、人工衛星を打ち上げ、有人宇宙飛行し、有人月面着陸を成し遂げた。


 今は、月面基地の建設に着手している。


 共産主義は宇宙にも広がるのだ!


 日独ソ同盟のリーダーとして、我がソ連は今年も世界共産革命に邁進しなければならない!


 共産主義万歳!ソビエト社会主義共和国連邦万歳!




 ……以上が、今年の初めのソ連共産党書記長による演説の日本語訳である。


 我が日本帝国統合情報局による分析によると、演説の通り、日独ソ同盟のリーダーがソ連であるのは間違いない。


 しかし、ソ連は軍事的負担の大きさにより、経済的に疲弊している。


 我が日本とドイツが経済的にはソ連を支えているのが実状であり、日独がソ連の赤字国債を大量に購入している。


 冷戦初期の有名なアメリカの風刺漫画で、ソ連という巨人の左右に小柄な日本芸者とドイツ娘がいるモノがある。


 ソ連という巨人の武力に小さな日本とドイツが守られていることを風刺した漫画である。


 だが、今や、ソ連という巨人は高収入の日本芸者とドイツ娘に養ってもらっている状態である。


 ソ連が世界をリードしていると主張している宇宙開発についても、日独が製造している精密部品がなくてはならないものになっている。


 経済的・技術的には日独が東西から日独ソ同盟を支えているのだ。


 もちろん、ソ連共産党上層部はそのことを自覚している。


 しかし、長年、軍事に偏重した経済構造は変えるのが困難になっている。


 そのことを象徴するのが、ソ連の大和型戦艦「ソビエツキー・ソユーズ」である。


 戦艦「ソビエツキー・ソユーズ」は2024年現在も現役である。


 日本の「大和」「武蔵」、ドイツの「ヒンデンブルク」も1990年代に退役し、記念艦となっている。


 戦艦「ソビエツキー・ソユーズ」は唯一の現役の大和型戦艦となっている。


 ソ連海軍は「ソビエツキー・ソユーズ」を現役にしている理由について「巨大な船体がミサイル搭載艦に改装するのに適切だから」と説明している。


 表向きの説明は欺瞞である。


 確かに「ソビエツキー・ソユーズ」は第三砲塔を撤去し、そこにミサイル発射機を搭載した。


 しかし、「ソビエツキー・ソユーズ」は船体も機関も老朽化しており、一年のほとんど港から出ない。


 実態はソ連海軍に大型艦建造の予算が無いため、素人目には強そうに見える「ソビエツキー・ソユーズ」を現役に残しているのだ。


 我が日本海軍の新造艦、基準排水量4万トンのミサイル戦艦「信濃」は、大陸間弾道弾の迎撃も可能であり、それにくらべれば「ソビエツキー・ソユーズ」は床の間に置かれた骨董品に過ぎない。


 それが、今の日本とソ連の経済的・技術的格差を象徴している。


 もちろん、ソ連は同盟国であり、アメリカ合衆国に対抗するために欠かせない国である。


 もし、ソ連が崩壊すれば、アメリカが唯一の超大国として世界に君臨するか、あるいはソ連が崩壊したことにより世界は無秩序状態になるかもしれない。


 以上が、我が日本帝国統合情報局による分析であり、結論としては、今まで通り、日本はドイツと協力して経済的にソ連を支えて、アメリカとの「冷戦」を継続すべきである。


 あえて敵対するアメリカ的に言うならば「それがベストではないがベターである」と考えるからである。

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[一言] 日本のみを優先にしたけど 結局返り討ちになったということか 史実と違って、フランス侵攻はドイツは補給線を持てているだろうし 中東は、独ソで分割でしょうけど 東南アジアは、取り分で喧嘩になり…
[良い点] 御参加ありがとうございます。長々とソ連側のプロパガンダ臭満載の演説文のあとに、日本側の分析が来る構成が面白かったです。 [一言] 感想遅くなり、申し訳ありません。
[一言] ユーラシアとアフリカの両大陸は、枢軸圏内のはず 今思えば 中東からインドや東南アジアの縄張り争いも気になるところ マレーシアは50歩譲って日本か共産政権の英国だとして 蘭印でも、日独ソで揉め…
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